日本水産学会誌掲載報分要旨

イカ釣り操業船下におけるスルメイカの分布密度と CPUE の関係

四方崇文,持平純一(石川水総セ),
高尾芳三,貞安一廣,渡部俊広(水研セ水工研)

 イカ釣り操業時に船底下のスルメイカの分布密度を計量魚探で測定し,釣機 1 台 1 時間当たりの漁獲尾数(CPUE)との関係を調べた。分布密度の上昇とともに CPUE は上昇し,CPUE が極めて高くなると CPUE の上昇は頭打ちになった。分布密度は大きく上昇するものの CPUE はあまり上昇しない操業もあった。以上より,イカが集群した段階で漁灯を減点灯しても CPUE はあまり低下しないと予想された。実際の減点灯時には分布密度は上昇し,CPUE も上昇することが多く,減点灯は省エネ操業法として有効であることが分かった。

日水誌,81(4), 659-666 (2015)

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琵琶湖におけるアユ資源の冬季減耗と環境要因

酒井明久,臼杵崇広,片岡佳孝(滋賀水試)

 琵琶湖においてアユ資源の冬季減耗の特徴を把握するため 1999 年,2002-2010 年の 10 年間を対象に,2 月から 4 月までのえり漁におけるアユの CPUE,サイズ,肥満度と水温やプランクトン量との関係を分析した。2 月と 4 月の CPUE の間には,2006 年を除くと正の相関関係が認められたが,2006 年は減耗が著しくこの関係から大きく外れた。2006 年冬は年間最低水温が 10 年間で最も低く,プランクトン量も低水準でアユの肥満度も低かった。水温の低下と栄養状態の悪化が主な減耗要因と考えられた。

日水誌,81(4), 667-673 (2015)

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日本海西部海域でのトラフグに対する底はえ縄と浮はえ縄の漁獲の特徴

片山貴士(水研セ瀬水研)

 日本海西部海域でのトラフグはえ縄漁業の漁獲特性の把握を目的に本研究を実施した。操業試験で得た操業データと漁獲物標本を用いて,漁具,漁場及び漁獲した月が,CPUE(尾/100 針)と漁獲物の性比に及ぼす影響を,それぞれ重回帰分析及びロジスティック回帰分析で解析した。その結果,CPUE への効果を推定したモデルでは,漁具,漁場,月及び漁具と月の交互作用を入れたモデルが,漁獲物の性比への効果を推定したモデルでは,漁具,漁場,月及び漁具と漁場並びに漁場と月の交互作用を入れたモデルが,それぞれ最適となった。

日水誌,81(4), 674-680 (2015)

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瀬戸内海の千軒湾地先における炭素・窒素安定同位体比からみたマコガレイ稚魚の食物と食物源の推定

伊藤 靖(漁村総研),
吉田 司,張間千鶴(シャトー海洋調査)

 瀬戸内海の千軒湾地先でマコガレイ稚魚の生息場となる点在型藻場と浅場の砂泥域において炭素と窒素安定同位体比から本種稚魚の食物と食物源を推定した。全長 15 mm では両エリアともハルパクチクス類を食物とし,海底の表層に堆積した有機物を食物源としていた。全長 30 mm 以上になると点在型藻場では底生動物,付着動物,葉上動物を食物とし,海域の懸濁態有機物を食物源としていた。砂泥域では底生動物を食物とし,海域の懸濁態有機物を食物源としていた。

日水誌,81(4), 681-687 (2015)

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東京湾におけるクロアナゴとダイナンアナゴの成長様式と性比

片山知史(東北大院農),
秋山清二,下村友季子(海洋大),
黒木洋明(水研セ増養殖研)

 東京湾において漁獲したクロアナゴ 189 個体とダイナンアナゴ 448 個体について,耳石横断切片法によって年齢を査定した結果,クロアナゴの年齢は 1+から 6+の範囲であり,2+から 4+までの年齢群が優占していた。ダイナンアナゴは,0+から 11+の範囲であり,特に 5+から 8+の個体が主体を成していた。ダイナンアナゴは,6+以上の全長 1000 mm を超える個体も多く,マアナゴと比べても大きく成長する魚種であると考えられた。両種の雄の割合は,2-6% であり,性比が雌に著しく偏っていた。

日水誌,81(4), 688-693 (2015)

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ホタテガイ Mizuhopecten yessoensis の活力回復に必要な閉殻筋アルギニンリン酸含量の閾値推定

武田忠明(道中央水試),櫻井 泉(東海大生物),
前川公彦(サロマ湖養殖組合),埜澤尚範(北大院水)

 著者らは,これまでにホタテガイに環境ストレスを負荷させたときのへい死に至る活力低下は,閉殻筋のアルギニンリン酸量により予測可能なことを示した。本研究では,養殖の現場で活用可能なアルギニンリン酸量の評価基準を設定するため,ストレス負荷によりアルギニンリン酸量が減少した貝を正常な飼育環境に戻して,回復とへい死の境界となる残存値の推定を試みた。その結果,アルギニンリン酸量が概ね 5 μmol/g 以下に減少すると,飼育環境をストレス負荷前の条件に戻しても,貝の活力は回復せず,へい死に至る可能性が示唆された。

日水誌,81(4), 694-700 (2015)

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カワハギに対する補助餌料としてのエチゼンクラゲ給餌効果

宮島(多賀)悠子,益田玲爾(京大フィールド研セ),
栗原紋子(海洋大),山下 洋(京大フィールド研セ),
竹内俊郎(海洋大)

 エチゼンクラゲの給餌がカワハギへ与える影響を明らかにするため,30 日間の給餌実験と体成分分析を行った。カワハギは 1 日当たり体重の 4.1-5.6 倍のエチゼンクラゲを摂餌することで,生残できることが明らかになった。エチゼンクラゲには n-6 系高度不飽和脂肪酸(特にアラキドン酸),および遊離アミノ酸(特にタウリン)が豊富に含まれ,エチゼンクラゲの給餌によって魚体中のこれらの成分の含量が有意に向上した。以上の結果から,大量発生したクラゲへの対処法として,魚類の補助餌料としての有効利用が図られる。

日水誌,81(4), 701-714 (2015)

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ウナギ仔魚はマリンスノーの起源物質を摂取する

友田 努,黒木洋明,岡内正典,鴨志田正晃,
今泉 均,神保忠雄,野村和晴,古板博文,
田中秀樹(水研セ増養殖研)

 マリンスノーの供給源となる可能性のある餌料生物を培養し,それらの産生物質を含んだ培養水について,ふ化後 5-28 日齢ウナギ仔魚に対する給与効果を観察した。微細藻類 4 種を用いた事例では,10-28 日齢仔魚が藻体とともに増殖過程で産出される透明細胞外重合体粒子(TEP)を摂取することを確認した。一方,尾虫類を用いた事例においても,9 日齢仔魚が発生段階初期の幼生と放棄ハウスを摂取することを確認した。これにより,飼育条件下の人工仔魚が天然仔魚と同様にマリンスノーの起源物質を摂取することを追認できた。

日水誌,81(4), 715-721 (2015)

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シロウオ Leucopsarion petersii の産卵場造成効果の検証(短報)

竹垣 毅(長大院水環),永瀬翔一(長大水),
井手勇旗(長大院水環),
佐々木学人,天谷貴史(長大水),
金谷洋佑(長大院水環),寺田龍介(長大水)

 シロウオ Leucopsarion petersii の繁殖可能な流域を拡大するために,底質を改善する河床造成実験を行い,その効果を検討した。本種の遡上期前に粘土底質が広がる流域に 8 つの実験区を設けて,河床表面の粘土を含む細粒底質を砂礫と入れ替えた。繁殖盛期に実験区とそれと隣り合うコントロール区の繁殖利用状況を調査したところ,実験区で卵塊数が有意に多く,河床造成により本種の繁殖利用が促されることが示された。

日水誌,81(4), 722-724 (2015)

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Dry marking によるサケ発眼卵への耳石標識の検討(短報)

飯田真也(水研セ日水研),宮内康行(水研セ北水研),
小倉康弘(水研セ日水研),江田幸玄(水研セ北水研),
片山知史(東北大院農)

 Dry marking はサケ属魚類の卵を定期的に空気中へ露出し,耳石に識別可能なマークを施す省コストな標識であるが,ロシアでしか実用されていない。本研究では,我が国における Dry marking の能否を検証した。相対湿度(RH)が平均 95.2% で推移した水槽では鮮明な標識を施すことに成功したが,標識作業中の RH が平均 98.4%,作業の後半にほぼ飽和状態に達した水槽では,その精度が著しく低かった。鮮明な標識を施すには,卵を露出した水槽内の平均 RH を概ね 95% 以下に留める必要性が示唆された。

日水誌,81(4), 725-727 (2015)

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