日本水産学会誌掲載報分要旨

管理目標の数値化による最適な ABC 算定規則の探索

市野川桃子,岡村 寛(水研セ中央水研),
黒田啓行,由上龍嗣(水研セ西海水研),
田中寛繁(水研セ北水研),
柴田泰宙(水研セ東北水研),
大下誠二(水研セ国際水研)
 絶対資源量が推定されていない我が国漁業資源の ABC 算定には,前年の漁獲量や資源水準,動向を利用した経験式(2 系ルール)が用いられている。本研究は,2 系ルールで使われる調整係数の最適な組み合わせを網羅的なシミュレーションから検討した。まず,資源の健全性と漁獲量の大きさを定量化する指標を用い,両者のトレードオフ関係を可視化した。さらに,両者を考慮した管理目標を定義し,目標の達成度を最大化する最適な調整係数の組み合わせが,モデルや使用する漁獲データの範囲によってどのように異なるかを検討した。
日水誌,81(2), 206-218 (2015)

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日向灘におけるマダイ Pagrus major の生活史特性と肥満度の経年変化

長野昌子(宮崎水試),片山知史(東北大院農)
 近年,日向灘のマダイ漁獲量は天然魚・放流魚共に減少している。そこで,資源変動と,生活史や再生産特性に関する変化との関係を明らかにするため,2012-2014 年にマダイの魚体と成熟の状況を調べ,過去のデータと比較した。その結果,1998 年以降の肥満度は,1989 年以前と比較して低かった。また,産卵期の早期化と成熟サイズの大型化が確認された。肥満度と水温に負の相関が見られたことから,高水温化による代謝量の増大や食物環境の悪化が,肥満度低下や成熟サイズ大型化を引き起こしたと考えられた。
日水誌,81(2), 219-226 (2015)

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生体内微量元素を用いた青森県沿岸マダラの回遊推定

工藤誠也(岩手連大),大宮慧子(弘前大農生),
三浦太智(青森水総研),渡邉 泉(東農工大農),
東 信行(弘前大農生)
 陸奥湾口は日本有数のマダラ Gadus macrocephalus の産卵場であるが,その産卵群の由来が未解明であった。本研究では,青森県沿岸 3 海域(日本海,太平洋,陸奥湾)のマダラを用いて,29 種の微量元素を測定した。日本海産と太平洋産では,筋肉中の水銀濃度が異なっており,その濃度によって両者を判別する回帰モデルを構築できた。そのモデルでは,陸奥湾口におけるマダラの産卵群の大部分が太平洋から来遊したものと推定された。
日水誌,81(2), 227-233 (2015)

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クエおよびマハタ仔稚魚の摂餌日周性と日間摂餌量の推定

岩崎隆志(水研セ西海水研),
井手健太郎(水研セ増養殖研),
照屋和久,岡 雅一(水研セ西海水研),
浜崎活幸(海洋大)
 クエとマハタ種苗生産における適正給餌量を把握する一環として,仔稚魚のワムシの摂餌日周性とワムシとアルテミアの摂餌量を調べた。両種の摂餌は明期に見られ,クエでは不明瞭ながら摂餌のピークが 20 日齢までは夕刻に,以降は朝・夕に見られた。マハタでは照明点灯と共に摂餌数は増加し,朝方に摂餌のピークを迎えると,以降は消灯までほぼ一定であった。両種の摂餌量は成長に伴い増加し,ワムシとアルテミアの日間摂餌率はそれぞれ,クエでは 52-120% と 41-148%,マハタでは 16-194% と 39-136% と推定された。
日水誌,81(2), 234-242 (2015)

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東日本大震災後の釜石湾における海域環境変化

山本光夫(東大海洋アライアンス),
加藤孝義(東大院工),多部田茂(東大院新領域),
北澤大輔,藤野正俊(東大生研),
小豆川勝見,松尾基之(東大院総合文化),
田中 潔,道田 豊(東大大気海洋研)
 東日本大震災後の沿岸環境変化の評価を目的とし,岩手県釜石湾において,海水中の栄養塩と重金属濃度,底質の放射性物質含有量に着目した海域環境調査を行った。栄養塩は冬期に高く夏期に低い傾向がみられ,震災前と必ずしも一致しなかった。これは湾口防波堤破壊による湾内環境変化の影響と考えられる。一方で重金属は津波の影響と予想される濃度変化はみられなかった。放射性物質も最大で 60 Bq/kg 以下と他の海域に比べ特に高い値ではない上に現在は減少傾向にあり,安全性の面で海域環境は震災前に戻りつつあることが示唆された。
日水誌,81(2), 243-255 (2015)

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東日本大震災後の宮城県気仙沼湾における Alexandrium 属の栄養細胞とシストの分布パターンおよび二枚貝類の毒化

石川哲郎,日下啓作,押野明夫(気仙沼水試),
西谷 豪(東北大院農),神山孝史(水研セ東北水研)
 2013 年,気仙沼湾で 24 年ぶりにホタテガイから規制値を超える麻痺性貝毒が検出された。Alexandrium tamarense は,4-5 月に湾奥部で増殖した後,湾内に拡散した。一方,A. catenella は 9 月上旬に湾央部で増殖した。両種のシストは,湾奥部で高い密度で確認された。1980-2013 年に気仙沼湾で行われたシスト調査の結果を解析したところ,震災後にシストが著しく増加したことが分かった。A. tamarense により,ホタテガイを含む 4 種の二枚貝の毒量が規制値を大きく超えた。
日水誌,81(2), 256-266 (2015)

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緑藻 クロレラ Chlorella pyrenoidosa より得られたペプチドヘテロ多糖体の補体 C3 と腹腔マクロファージに及ぼす影響

伊藤浩子(三重大院生資・菌類薬理研究所),
柿沼 誠(三重大院生資),
藤島雅基,荒川ゆかり((株)サン・クロレラ),
中田福佳(パワフル健康食品(株)),
伊藤 均(菌類薬理研究所)
 クロレラからペプチドヘテロ多糖体(FA-1a)を単離し,補体第 3 成分(C3)と腹腔マクロファージへの影響を調べた。ヒト血清を用いた交叉免疫電気泳動において,活性化が認められ,第 3 のピークが出現した。マウスに FA-1a を経口投与すると,C3 から変換した C3b はマクロファージと結合し,C3 陽性細胞も顕著に増加することが免疫蛍光抗体法で観察された。また,活性化マクロファージは,ラテックスビーズの貪食能を著しく上昇させた。本研究は FA-1a が C3 とマクロファージを活性化することを初めて認めたものである。
日水誌,81(2), 267-273 (2015)

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レジャー白書からみた日本における遊漁の推移

中村智幸(水研セ増養殖研)
 レジャー白書の「釣り」に関するデータをもとに,日本における遊漁の推移を分析した。1998 年前後以降,参加率,参加人口,参加希望率は経年的に減少していた。しかし,参加順位,潜在需要は減少しておらず,レジャーの中で低くなかった。年間活動回数は減少していたが,1 回当たり費用は減少しておらず,2010 年前後の年間総支出額は約 5,000 億円であった。このように,遊漁は国民にとって重要なレジャーのひとつである。今後は魚種別や釣り方の似通った魚種群別に分析を行い,具体的な振興策を検討する必要がある。
日水誌,81(2), 274-282 (2015)

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ワカメの消費者購買要因分析:オークション実験を用いて

若松宏樹,宮田 勉(水研セ中央水研)
 三陸産ワカメ産業の震災からの復興のため,消費者の購買要因と購買層を特定する定量的な評価を行い,ワカメの価格プレミアムと各消費者属性の関係性を調べた。調査には実験オークションを採用し,分析結果は,三陸の塩蔵ワカメにのみ,品質の評価と価格の間に正の相関が見出された。一方,同じ三陸産でも乾燥ワカメ,そして塩蔵でも中国産では品質と価格が結びついていなかった。また,三陸産ワカメは高所得者に好まれることも判明し,高所得層を対象とした商品の差別化などがマーケティング戦略として有効と考えられる結果となった。
日水誌,81(2), 283-289 (2015)

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マイワシに対する調査用流し網の網目選択性について(短報)

佐藤愛美,東海 正(海洋大),
川端 淳(水研セ中央水研)
 複数の目合を組み合せた調査用流し網による資源調査の結果からマイワシに対する網目選択性を求めた。マイワシが多獲された目合 33,37,44,48 mm では大きな目合ほど大きな個体が獲られる網目選択の効果が認められ,その目合別体長組成から選択性曲線を推定した。選択性曲線の最適体長に該当するマイワシは鰓蓋後縁よりやや前の胴周長が網目内周長と一致することから,「鰓かかり」や「刺し」による漁獲と推察された。より大きな目合で漁獲されるマイワシは「鰓かかり」や「刺し」ではなく「絡み」で漁獲されたことが示唆された。
日水誌,81(2), 290-292 (2015)

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閉鎖性内湾の児島湾における水位変動に伴う間欠的な貧酸素(短報)

高木秀蔵,石黒貴裕,弘奥正憲(岡山水研),
加村 聡,片山貴之(海洋建設)
 閉鎖性内湾の児島湾において,水位変動に伴う貧酸素の動態を調べた。夏季の湾奥の海底直上と海底上 1 m の DO は 1.6±0.9 mg L−1 と 2.7±0.8 mg L−1 となり,両者には有意差が見られた(p<0.01)。海底直上の DO は下げ潮時に低下し,干潮時頃に極小値を示した。その後,上げ潮時には DO は上昇し,満潮時頃には極大値を示した。同湾では水位の変動に伴って間欠的に貧酸素化し,DO は 6 時間の間に 3 mg L−1 変化した。現行の散発的な採水調査では貧酸素を正確に把握できない可能性が示唆された。
日水誌,81(2), 293-295 (2015)

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