日本水産学会誌掲載報文要旨

ランダムフォレストを用いたサンマ来遊量の予測

馬場真哉,松石 隆(北大院水)

 本研究では,ランダムフォレストを用いたサンマ来遊量予測モデルを作成し,その予測精度をモンテカルロリサンプリングにより評価した。応答変数はサンマ来遊資源量指数を 3 カテゴリに分けたものである。説明変数は 1972-2011 年の海洋環境など 22 項目 186 種類を使用した。変数選択の結果,4 種の変数のみが説明変数として選ばれ,説明変数の圧縮が可能となった。予測の的中率はおよそ 62% となり,現状の予測精度をやや上回った。

日水誌,81(1), 2-9 (2015)

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垣網前面に水中灯を装着した定置網周辺の魚群行動

舛田大作,前田将宏,甲斐修也,笹本義晴,柳野陽一(長崎水試),
古川恵一(西日本ニチモウ),松下吉樹(長大院水環)

 長崎県平戸市生月の大型定置網の垣網に消費電力 55 W の水中灯を取り付け,夜間に水中灯を点灯し,魚群の出現位置をスキャンニングソナーにより把握した。また,水中灯の周辺で点灯前から点灯中,点灯後にかけてマアジの標識放流を行い,定置網での標識魚の再捕率を調べた。スキャンニングソナーの観察から,水中灯点灯時には水中灯周辺での魚群出現が多くなり,消灯後には水中灯周辺の魚群が定置網の身網へ移動することを確認した。また,水中灯の点灯時に放流したマアジの定置網での再捕率は消灯時の放流に比べて高くなった。

日水誌,81(1), 10-16 (2015)

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伊庭内湖周辺におけるホンモロコ釣り遊漁による釣獲尾数の推定

亀甲武志(滋賀水試),北門利英(海洋大),
石崎大介,氏家宗二,澤田宣雄(滋賀水試),
三枝 仁,酒井明久,鈴木隆夫,西森克浩,二宮浩司(滋賀水産課),
甲斐嘉晃(京大フィールド研セ)

 2012 年と 2013 年の 3 月から 5 月にかけて琵琶湖の内湖の一つである伊庭内湖周辺においてホンモロコ釣りの遊漁による釣獲尾数の推定を試みた。調査日を 1 次抽出単位,遊漁者を 2 次抽出単位とする 2 段抽出法により釣獲尾数を推定した。ホンモロコ釣りの遊漁による釣獲尾数は 2012 年は,272,275(変動係数=14%)尾,2013 年においては 85,489(変動係数=13%)尾と推定された。琵琶湖のホンモロコ資源を評価し管理する上で,ホンモロコ釣りの遊漁による釣獲量の把握は重要であることが明らかになった。

日水誌,81(1), 17-26 (2015)

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宗谷海峡におけるミズダコの季節的移動

佐野 稔(稚内水試),坂東忠男(宗谷漁協)

 宗谷海峡において,樽流し漁船の位置情報,漁獲量,漁獲物測定結果から 2006-2008 年のミズダコの季節的移動を明らかにした。未成熟のミズダコの分布域は夏季に水深 40-60 m の深所,秋から春にかけて水深 10-30 m の浅所に認められた。成熟個体の分布域も未成熟と同様な季節的変化を示したが,産卵直前の雌は 6-7 月に未成熟個体の分布域よりも深い海域へ移動した。夏季にミズダコは岸近くの水温 18℃ 以上の海域を避けて,深所へ移動していると思われた。

日水誌,81(1), 27-42 (2015)

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1990-2000 年代の東シナ海・黄海におけるカニ類の種組成と,ワタリガニ科カニ類の分布密度の年変動

山本圭介(水研セ瀬水研,広大院生物圏科),
長澤和也(広大院生物圏科)

 1991-2007 年と 1991-1996 年の冬季に,それぞれ東シナ海と黄海で着底トロール調査を行い,カニ類の種組成とワタリガニ科の分布密度の年変動を調べた。カニ類は東シナ海で 34 種,黄海で 11 種が出現した。ワタリガニ科の出現種数は両海域ともに経年的に減少し,分布密度は黄海で著しく低下したが,東シナ海では減少しなかった。東シナ海ではヒラツメガニがワタリガニ科の密度の 76-98% を占めて優占し,その原因は高い漁獲圧による捕食者の減少に加え,本種が漁獲圧の低い沖合にも生息するためと考えられた。

日水誌,81(1), 43-51 (2015)

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スジアラ種苗生産で見られた成長差の発現時期と遺伝的影響

武部孝行(水研セ西海水研),
宇治 督,尾崎照遵,奥澤公一(水研セ増養殖研),
山田秀秋,小林真人,浅見公雄,佐藤 琢,照屋和久(水研セ西海水研),
阪倉良孝(長大院水環)

 自然産卵で得られたスジアラ受精卵を用いて飼育を行い,その種苗の耳石日輪紋を観察し,成長過程と成長差の発現時期を調査した。また,マイクロサテライトマーカーで親子判別を行い,成長差発現への遺伝的影響について検討した。50 日齢に採集した稚魚を全長によって 3 グループに分け,耳石径から全長を逆算推定した結果,成長差は餌料系列の転換時期に発現することが明らかになり,仔魚から稚魚に変態が完了することによって助長された。また,3 グループ間での家系の出現頻度に差は検出されず,遺伝的影響は小さいことが示唆された。

日水誌,81(1), 52-61 (2015)

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セタシジミの初期餌料と利用可能な餌料サイズ

幡野真隆,石崎大介,久米弘人(滋賀水試),
崎山一孝(水研セ瀬水研)

 セタシジミの初期育成方法を検討するため,3 種の微細藻類(Chlorella homosphaera:培養クロレラ,C. vulgaris:市販クロレラ,Skeletonema potamos)を用いて D 型仔貝の成長,生残ならびに胃内容粒子の組成を調べた。生残率は培養クロレラで高く,成長は培養クロレラと市販クロレラで高かった。胃内容粒子のサイズ組成から,セタシジミは孵化直後には最も小さい培養クロレラしか利用できないが,成長に従い 3 μm 以上の大きい粒子も取り込めることが明らかになった。

日水誌,81(1), 62-67 (2015)

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大阪湾,2013 年の底層環境―主成分分析による水域区分と既往調査との比較―

横山 寿(京大フィールド研セ),
佐野雅基(大阪環農水総研)

 大阪湾の場所的,経年的な底層環境の変化を把握するために,2013 年 8 月に湾全域の 31 地点より 0-1 cm 層の堆積物を採取,底質(粒度組成,TOC, TN, δ13C, δ15N, AVS)と底層水の DO を分析し,次の結果を得た。底質 9 項目に基づく主成分分析により大阪湾を 5 水域に区分した;湾奥部沿岸を除く湾の大部分の堆積有機物は海起源有機物が 80%以上を占めた;既往調査との比較により,TOC, TN, AVS の高濃度域は過去 40 年間と同様であったが,紀淡海峡北部水域において堆積物の細粒化を認めた。

日水誌,81(1), 68-80 (2015)

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有機物分解能に優れた高機能土壌バイオリアクターの開発

劉  文,西垣内祐太,荒木誉之,李 学広,渡邉哲弘(京大院農),
Wituspong Salikupt,汐見浩二(FIC-LACTO 株式会社),
豊原治彦(京大院農)

 高機能な養殖場底泥の開発を目的として,各種土壌及び市販濾過材などについて,タイ伝統食品ガピ由来の酵素の吸着能について調べた。その結果,非晶質アルミニウムを高濃度に含む土壌が高い吸着能を示すこと,酸化アルミニウムが強い吸着能を示すことが明らかとなった。以上のことから,タイの伝統発酵食品であるガピ由来の酵素と,非晶質アルミニウムを多く含む土壌,あるいは酸化アルミニウムを担体として用いることで,有機物分解能に優れた土壌バイオリアクターの開発の可能性が示唆された。

日水誌,81(1), 81-89 (2015)

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競争吸着法によるイカ内臓のカドミウム除去工程のモデル化

関 秀司,丸山 英男(北大院水),
川辺 雅生(環境創研)

 競争吸着法によるイカ内臓溶解物のカドミウム除去工程のモデル化を行った。キレート樹脂とイカ内臓へのカドミウムの吸・脱着挙動はイオン交換反応式によく従った。しかし,競争吸着法によるイカ内臓のカドミウム除去工程においては,イカ内臓に含まれる 2 価金属イオンの影響を受けてキレート樹脂のカドミウム結合定数が著しく低下した。その影響をイカ内臓の固形分濃度の関数として補正することにより,競争吸着工程においてイカ内臓のカドミウム含有量と含水率に応じたキレート樹脂の最適添加量の決定が可能なモデルを導いた。

日水誌,81(1), 90-96 (2015)

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魚醤油発酵時のヒスタミン蓄積に関わる原因菌の同定および乳酸菌発酵スターター接種によるヒスタミン蓄積抑制効果について

木村メイコ,舊谷亜由美,福井洋平(水研セ中央水研),
柴田由起(ブレッシングフェバー株式会社),
根井大介(食総研),矢野 豊(水研セ北水研),
里見正隆(水研セ中央水研)

 バイオジェニックアミンの生成がみられたイワシ魚醤油もろみからヒスタミン生成菌として Tetragenococcus halophilus を分離した。本菌はヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を有し,本菌を人為的に接種したイワシ魚醤油もろみ中においてヒスタミンを生成した。魚醤油もろみ中でのヒスタミン蓄積を抑制するため,乳酸菌発酵スターターの接種量を検討した結果,発酵開始時にもろみ中に存在するヒスタミン生成菌数の 1,000 倍以上のスターター菌数を接種することでヒスタミン蓄積を抑制できることが明らかとなった。

日水誌,81(1), 97-106 (2015)

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岡山県ノリ漁場における栄養塩濃度とノリの色調および乾海苔単価との関係

村山史康,清水泰子,高木秀蔵(岡山水研)

 海水中の栄養塩濃度と乾海苔単価との関係を調べるため,岡山県ノリ漁場の栄養塩濃度を分析するとともに,色彩色差計を用いて生ノリおよび乾海苔の色調(L*値と a*値)を測定し,栄養塩濃度,ノリの色調および乾海苔単価の関係を調べた。その結果,本海域におけるノリの色落ちの原因は DIN であり,濃度が 3 μM 以下になると生ノリの色調が急激に低下することが明らかになった。また,DIN 濃度と生ノリの L*値と a*値,生ノリの L*値および a*値と乾海苔の L*値,乾海苔の L*値と乾海苔単価に有意な相関が見られた。

日水誌,81(1), 107-114 (2015)

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からすみの製造工程におけるボラ卵の脂質性状の変化

伊藤大輔,高橋希元,岡﨑惠美子(海洋大),
Asada Jiarpinijnun(チュラーロンコーン大,タイ),
齋藤洋昭(石川県立大),大迫一史(海洋大)

 からすみの製造工程における未処理,塩漬後および乾燥後のボラ Mugil cephalus 卵の脂質性状の変化について検討した。からすみ調製過程において,ワックスエステルの組成比と,それを構成する脂肪アルコール組成および脂肪酸組成,およびホスファチジルコリンの組成比と構成脂肪酸組成に有意な変化は見られなかった。一方で,トリアシルグリセロールは乾燥工程で若干減少したが,脂肪酸組成に有意な変化は見られなかった。以上より,ボラ卵の脂質性状は他の水産乾製品に比較して,非常に変化しにくいことが示唆された。

日水誌,81(1), 115-123 (2015)

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冷凍前の鮮度がゴマサバ冷凍品のドリップと氷結晶生成に及ぼす影響について

橋本加奈子,川島時英,吉野暢之(千葉水総研セ),
白井隆明(海洋大),瀧口明秀(千葉水総研セ)

 ゴマサバにおいて,冷凍前の鮮度が氷結晶の生成に及ぼす影響を調べた。漁獲後の冷蔵時間が異なるものを−20℃ で冷凍すると,冷蔵時間の短いものは氷結晶が小さく筋繊維内に多く生成されたが,冷蔵時間の長いものは氷結晶が大きく結合組織部分に生成された。漁獲後の冷蔵時間が長いものは,ドリップ量が多く,ドリップ中の遊離アミノ酸量が多くなる傾向にあった。以上の結果から,ゴマサバでは冷凍前の鮮度低下に伴いタンパク質などが分解を受け,結合組織が変化し,氷結晶の生成に影響を及ぼすことが推測された。

日水誌,81(1), 124-129 (2015)

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東京湾におけるクロアナゴとダイナンアナゴの食性(短報)

秋山清二,本村大地,下村友季子,内田圭一(海洋大),
黒木洋明(水研セ増養殖研),片山知史(東北大院農)

 横浜・横須賀港周辺と館山湾で採集されたクロアナゴ 125 個体(TL417-913 mm)とダイナンアナゴ 368 個体(TL276-1338 mm)の胃内容物を調査した。両種は背鰭起部と胸鰭後端の相対的な位置関係により明確に判別できた。クロアナゴからは魚類 115 個体(86.5%),甲殻類 13 個体(9.8%),軟体類 4 個体(3.0%),ダイナンアナゴからは魚類 102 個体(47.7%),甲殻類 83 個体(38.8%),軟体類 21 個体(9.8%)が出現した。これらのなかには,東京湾の有用種が多数含まれていた。

日水誌,81(1), 130-132 (2015)

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