日本水産学会誌掲載報文要旨

仙台湾周辺におけるイカナゴ Ammodytes personatus 当歳魚のターゲットストレングス測定とモデル計算による比較

松倉隆一(水研セ日水研),
澤田浩一,安部幸樹(水研セ水工研),
南 憲吏(北大院水),永島 宏(宮城内水試),
米崎史郎(水研セ国際水研),村瀬弘人(日鯨研),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 標準体長(SL) 3.1〜7.7 cm のイカナゴ当歳魚について,周波数 120 kHz におけるターゲットストレングス(TS)を姿勢角±30°の範囲で測定した。音響理論散乱モデルで推定した理論 TS と比較すると,姿勢角 0°付近で最大値 −68.8〜−60.8 dB(実測)及び −68.7〜−61.5 dB(理論)を示した。実測値と理論値の差は −1.6〜0.9 dB と小さく,特に±10°のメインローブの範囲でよく一致した。採集海域の条件で推定した最大 TS と SL の関係は TS=43.1 log SL−96.1 となった。

日水誌,79(4), 638-648 (2012)

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名取川における安定同位体比を用いたヤマトシジミ Corbicula japonica の炭素源と窒素源の推定

片山亜優,伊藤絹子,佐々木浩一,片山知史(東北大院農)

 宮城県名取川におけるヤマトシジミの炭素源と窒素源を,δ13C・δ15N,ヤマトシジミ及び微細藻類と陸上植物,堆積有機物の全窒素量と有機炭素量の比から推定した。ヤマトシジミの δ13C は河口側と上流側で差が認められ,上流側で有意に低く,陸上植物由来有機物の寄与が高いと推定された。一方,δ15N は生息場所による差は認められず,全定点で底生微細藻類の寄与が高いと考えられた。同水域に生息するヤマトシジミは,底生微細藻類がいずれの生息場所でも主要な窒素源であり,上流側では炭素源と窒素源が異なると推定された。

日水誌,79(4), 649-656 (2012)

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人工ふ化放流河川におけるサケの成熟年齢・サイズの野生魚―放流魚間比較

長谷川 功,森田健太郎,岡本康孝,
大熊一正(水研セ北水研)

 これまでサケ資源のほとんどは放流魚だと考えられていたが,最新の研究によって野生魚もある程度含まれていることが示された。次に野生魚と放流魚の差異を明らかにすることは両者の適正管理につながる。そこで,本研究では,放流魚のすべてに耳石温度標識が施されている北海道の 3 河川で成熟時の年齢と体サイズを野生魚と放流魚間で比較した。その結果,野生魚の方が放流魚よりも高齢で大型である河川,年齢と体サイズともに違いがみられない河川,若齢時は野生魚の方が大型であるが高齢になると大小関係が逆転する河川があった。

日水誌,79(4), 657-665 (2012)

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甲幅組成から推定した富山湾におけるベニズワイ雌の成長と成熟サイズ

前田経雄,内山 勇(富山水研)

 2006 年から 2011 年に富山湾中央部の水深 1060〜1270 m においてベニズワイ雌を採集し,得られた多峰形の甲幅頻度分布から,未成体で 9,成体で 2 つの正規分布に分解することにより,齢期別の甲幅を推定した。未成体では第 3 齢から第 11 齢の甲幅平均値が 6.3, 9.0, 12.8, 18.0, 24.4, 33.2, 43.2, 56.1, 66.1 mm,成体では第 11 齢および第 12 齢の値が 68.5,81.5 mm と推定された。大部分の雌は第 10 齢で成熟脱皮を行い,第 11 齢の成体へ成長するものと考えられた。

日水誌,79(4), 666-672 (2012)

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イセエビ Panulirus japonicus の受精卵およびふ化幼生の DHA 含量に及ぼす水温の影響

徳田雅治(水研セ増養殖研),
明田勝章,阿部文彦,松田浩一(三重水研)

 イセエビ Panulirus japonicus 受精卵および幼生の DHA 含量に及ぼす水温の影響を調べた。受精卵に含まれた DHA はふ化に至る過程で水温 22℃ 区ではその 43% が,水温 15℃ 区では 81% が消費された。ふ化に要した日数は 22℃ 区では 36〜40 日,15℃ 区では 50〜54 日と差が生じ,卵 1 粒当たりの DHA の日間消費量は 22℃ 区では 2.10 ng,15℃ 区では 3.25 ng であった。親エビの飼育水温は卵の DHA 消費に影響し,低水温では消費量が増加するためふ化幼生の DHA 含量は低下した。

日水誌,79(4), 673-682 (2012)

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タツノオトシゴ Hippocampus kelloggi エタノール抽出物のラット好塩基球細胞株 RBL-2H3 細胞における脱顆粒抑制効果

伊藤智広,阪田雄大,吉田ゆに華(近大農),
岩山昌弘,村瀬博宣(シーシーアイ株式会社),
安藤正史,塚正泰之(近大農)

 35% エタノールを用いて抽出したオオミウマエキス(SHEtEx.35)は,抗原刺激によるラット好塩基球 RBL-2H3 細胞の脱顆粒反応を 25 μg/mL 処理まで濃度依存的に抑制した。次に,SHEtEx.35 処理による抗原刺激後の脱顆粒シグナルを確認したところ,Lyn/Syk/PLCγ 経路における PLCγ1 の活性化を有意に抑制した。SHEtEx.35 は,脱顆粒反応に必要な細胞内 Ca2+ 濃度の上昇を抑制したが,細胞内への Ca2+ 流入を調節する活性酸素種の産生を抑制しなかった。

日水誌,79(4), 683-693 (2012)

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スケトウダラ冷凍すり身から調製した生分解性フィルムの性状に及ぼす NaCl および各種有機酸塩添加の影響

鈴木 遼,牧 広樹,
Akasith Pornphatdetaudom(海洋大),
古川麻美(味の素),岡﨑惠美子,大迫一史(海洋大)

 フィルム形成懸濁液中への NaCl および各種有機酸塩(クエン酸 Na,酢酸 Na,安息香酸 Na および酒石酸 Na)の添加がフィルム諸性状に与える影響について検討した。塩類で魚肉タンパク質を可溶化することにより,フィルムの表面に塩が析出した NaCl および酒石酸 Na 添加のものを除き,引っ張り強度,引っ張り伸び率および水蒸気透過性に優れ,透き通ったフィルムを得られることが明らかになった。また,比較した塩類のうち,クエン酸 Na 添加のものが最も引っ張り強度が高く透明性に優れていた。

日水誌,79(4), 694-702 (2012)

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競争吸着法によるイカ内臓のカドミウム除去システムの開発

関 秀司,丸山英男(北大院水),
川辺雅生,中出信比人(環境創研)

 競争吸着法を利用したイカ加工残さ(イカゴロ)のカドミウム除去システムにおける加熱溶解工程と溶解物濾過工程の設計と最適操作条件の決定に不可欠な,溶解槽の総括伝熱係数,濾材抵抗係数,イカゴロ溶解物中の固形分の濾過比抵抗などのパラメータを決定した。加熱溶解工程における昇温過程は Newton の伝熱速度式に従い,本研究で決定した総括伝熱係数を用いてラボスケールからパイロットスケールへの約 1000 倍のスケールアップが可能であった。また,イカゴロ溶解物の濾過特性は Ruth の濾過速度式によく従った。

日水誌,79(4), 703-710 (2012)

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我が国の水産物消費の減少要因に関する定量分析―LA/AIDS による家計消費分析―

有路昌彦(近大農)

 近年我が国ではいわゆる「魚食離れ」が進んでおり,日本の水産物市場の規模を維持するために,様々な政策が施されている。しかし「魚食離れ」の原因が特定されているとは言い難い状況である。そこで効果的な対策を行うために本研究ではこの我が国で発生する「魚食離れ」を定量的に分析し原因の特定を図ることにした。家計調査年報のデータを用いた需要体系分析を行った結果,水産物家計消費量の減少は,所得の減少によって,消費が相対的に支出弾力性の低いより下級財の豚肉や鶏肉にシフトした結果であるということができる。

日水誌,79(4), 711-717 (2012)

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北海道千歳川におけるサケの自然再生産効率(短報)

森田健太郎,平間美信,宮内康行,高橋 悟,
大貫 努,大熊一正(水研セ北水研)

 北海道千歳川のウライ(上りやな)上流域において,2011 年度中に自然産卵するサケの親魚数を推定するとともに,自然産卵由来の野生サケ稚魚数を推定し,サケの自然再生産効率を推定した。約 3,700〜4,400 尾のサケ親魚が自然産卵し,約 121 万尾の野生サケ稚魚が自然産卵によって発生したと推定された。自然産卵に基づくサケ雌親魚 1 尾あたりの稚魚生産数は約 550 尾,卵から稚魚までの生存率は約 20% と推定された。サケの自然再生産は,生物多様性の保全のみならず,ある程度の増殖効果も期待されると考えられた。

日水誌,79(4), 718-720 (2012)

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