日本水産学会誌掲載報文要旨

北海道および本州産マナマコの体サイズ推定のための回帰式

山名裕介,五嶋聖治(北大院水),
浜野龍夫(徳島大),
遊佐貴志,古川佳道,吉田奈未(北大院水)

 北海道の青色型マナマコについて,体長 L と体幅 B から推定麻酔体長 Le (mm) を求める回帰関係を調べ,瀬戸内海[Le=2.32+2.02・(LB)1/2]と比較した。その結果,明らかな差が認められたことから次の回帰式を提案した:北海道オホーツク海[Le=2.26・(LB)1/2];日本海[Le=2.17・(LB)1/2];噴火湾[Le=2.21・(LB)1/2];津軽海峡[Le=2.27・(LB)1/2];青森県陸奥湾[Le=5.82+2.02・(LB)1/2]。また,マナマコの形態が北海道と本州で異なることを考慮し,次の共通式を提案した:北海道[Le=2.21・(LB)1/2];本州[Le=5.30+2.01・(LB)1/2]。

日水誌,77(6), 989-998 (2011)

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漁業情報を用いた北海道北部沿岸域におけるマナマコの資源量推定

佐野 稔,前田圭司(稚内水試),
高柳志朗(中央水試),和田雅昭(はこだて未来大),
畑中勝守(東農大),本前伸一(稚内水指),
菊池 肇(留南水指),宮下和士(北大フィールド科セ)

 なまこけた網漁業の漁業情報を用いてマナマコ資源量を推定するために,2008 年 6 月〜9 月に北海道北部沿岸域の 4 地区で,DeLury 法,面積密度法により資源量を推定した。2 地区の CPUE は漁期開始後に急激に減少せず,DeLury 法はモデル適用条件を満たさなかった。一方,面積密度法では,全地区で漁場全面から直接得た大量のマナマコ分布密度データから資源量が算出されたため,抽出誤差が小さかった。したがって,マナマコ資源管理には,資源量推定精度と空間情報を活用できる点で面積密度法を推奨する。

日水誌,77(6), 999-1007 (2011)

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響灘蓋井島のガラモ場に出現したアイゴ成魚の餌利用―大型褐藻類の採餌との関連―

野田幹雄,大原啓史,浦川賢二,
村瀬 昇,山元憲一(水大校)

 多種混生のガラモ場に出現したアイゴ成魚を昼間水中銃で採集し,胃と腸の内容物の分析と餌としての大型褐藻類の評価をした。胃内容物の重量組成では大型褐藻類が夏に 45% と秋に 74% を占め,ホンダワラ類数種の選択的採餌が示唆された。動物も胃で夏に 18% と秋に 14% を占め,固着動物が優占し,腸内容物の分析では浮遊性動物も重要であった。また,固着動物及び小型甲殻類の各々と大型褐藻類の摂取量の間に相関はなかった。本種は動物性餌料を重要な栄養源としながらも,大型褐藻類自体の採餌のために藻場を利用すると考えられた。

日水誌,77(6), 1008-1019 (2011)

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外来性巻貝サキグロタマツメタの松川浦における移入および分布

冨山 毅(福島水試相馬),鈴木孝男(東北大院生命),
佐藤利幸,加藤 靖(福島水試相馬),
亀岩翔太,杉林慶明,大越健嗣(石巻専修大理工)

 福島県松川浦において,サキグロタマツメタの分布や駆除実態を調査した。その結果,本種が他の水域からのアサリ移植種苗に混入していることを確認した。分布の初記録は 2002 年 5 月にみられ,その後 2004 年にかけて松川浦全域へ拡大した。2004 年から 2010 年にかけてサキグロタマツメタの分布密度は大きく低下しておらず,アサリ食害軽減のためには駆除努力を強化する必要があると考えられた。

日水誌,77(6), 1020-1026 (2011)

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春季と秋季の諫早湾における透明細胞外重合物質粒子(transparent exopolymer particles)の消長

深尾剛志(水研セ西海水研),
北原 茂,狩野奈々,山砥稔文(長崎水試),
木元克則,小谷祐一(水研セ西海水研)

2007 年春季および 2008 年春季と秋季の諫早湾における,透明細胞外重合物質粒子(transparent exopolymer particles: TEP)の消長と,それに及ぼす要因について調査を行った。TEP 濃度と水温,塩分,クロロフィル a 濃度には相関がみられた。また,植物プランクトン群集中における珪藻の存在比は,細胞数密度で平均 94% であり,TEP 濃度と相関があった。これらの結果は,春季と秋季の諫早湾における TEP 現存量は珪藻による産生が大きく寄与していることを示す。

日水誌,77(6), 1027-1033 (2011)

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広島湾における天然クロダイの筋肉成分の季節変化

藤田辰徳,海野徹也,斉藤英俊,小櫃剛人(広大院生物圏科),
徳田雅治(水研セ増養殖研),
奥 宏海(水研セ中央水研日光),
吉松隆夫(三重大院生物資源),
石丸恵利子(地球環境研),陀安一郎(京大生態研)

 広島湾のクロダイについて筋肉成分の季節変化を調べた。脂質含量は秋季に上昇したが,年平均で 0.34% と低く,最低値は 3 月の 0.2%,最高は 10 月の 0.6% であった。旨みや甘味に関与する遊離アミノ酸は本種が美味な秋季から春先まで一時的な増加傾向を示したことから,呈味に影響を及ぼしていると考えられた。雑食性であるクロダイの安定同位体比の平均値は,δ13C で−15.9‰,δ15N で 16.6‰ だった。δ15N,タウリン,高度不飽和脂肪酸が季節変化を示したことから,本種の食生態が季節によって変化している可能性が示唆された。

日水誌,77(6), 1034-1042 (2011)

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カキ養殖の実施形態別有機物負荷特性の評価

川口 修,平田 靖,若野 真(広島総研水海技セ),
山本民次(広大院生物圏科),
陸田秀実(広大院工学研究院)

 江田島湾を対象に,カキ養殖モデルを構築し,カキ筏から負荷される有機物量を「ヨクセイ」,「イキス」および「ノコシ」と呼ばれる養殖実施形態別に見積もった。これにより,カキ養殖によって海底に負荷される有機物総量は年間 13.5 kg P eta−1 d−1 であり,筏台数の多い「ヨクセイ」によるものが大きいことが明らかとなった。一方,筏単位では,「ノコシ」の負荷量が「ヨクセイ」の 1.5 倍と大きかった。また,「ノコシ」は負荷量/生産量比が最も大きいことから,環境に対する負荷が大きい養殖実施形態であると結論された。

日水誌,77(6), 1043-1050 (2011)

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琵琶湖におけるニゴロブナ Carassius auratus grandoculis 放流種苗の成長および分布域の拡大と沖合への種苗放流技術の検討

藤原公一(滋賀水試,海洋大),
臼杵崇広,根本守仁(滋賀水試),
松尾雅也,竹岡昇一郎,田中 満,
中新井 隆(琵琶湖栽培漁業センター),
北田修一(海洋大)

 琵琶湖ではニゴロブナの発育や初期成長に必要なヨシ帯が衰退している。そこで,ヨシ帯に依存しない本種の放流技術を検討するため,耳石に ALC 標識を付けた本種稚魚を 6,7 月にヨシ帯に放流して追跡調査した。その結果 8〜10 月の琵琶湖の水温が高い年ほど本種の成長は良好であった。本種は冬季に向かい水温が次第に低下すると水温躍層に沿って分布を広げ,同躍層上下の温度差が約 3.5℃ を下回ると琵琶湖の深部湖底へ分布を拡大した。この時期に体重約 20 g(体長約 85 mm)の当歳魚を沖合へ放流すると高い生残が期待された。

日水誌,77(6), 1051-1064 (2011)

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伊勢湾における有毒渦鞭毛藻 Dinophysis 属の発生とムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis の毒化との関係

畑 直亜(三重水研),鈴木敏之(水研セ東北水研),
辻 将治,中西麻希(三重水研)

 伊勢湾の Dinophysis 属とムラサキイガイの下痢性および脂溶性貝毒を LC/MS 分析によって調べた。優占種の D. acuminata は OA, DTX1, PTX2 および PTX2SA を,D. caudata は PTX2 と PTX2SA を含有し,D. rotundata は毒成分をほとんど含有していないと推定された。ムラサキイガイは PTX2 を毒性が無い PTX2SA に変換していると推察された。以上のことから,ムラサキイガイにおける毒性の蓄積は D. acuminata の OA と DTX1 に起因するものと考えられた。

日水誌,77(6), 1065-1075 (2011)

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海藻炭による六価クロム汚染水の浄化

寺井章人(京大院農),豊原容子(華頂短大),
佐藤敦政(アース株式会社),豊原治彦(京大院農)

 六価クロムは強い毒性をもつことからその水質汚染が問題となっており,簡便な除去方法の開発が急務となっている。本研究では海藻を原料として作製した炭に注目し,その六価クロム除去能を調べた。36 種類の海藻について検討した結果,コンブ目チガイソ科の海藻を原料とした炭に強い六価クロムの除去効果が確認された。チガイソ科のワカメを原料とした炭を用いて調べた結果,六価クロムの除去効果はフコイダンによることが示唆された。ワカメ炭は各種市販セメント廃液中に含まれる六価クロム除去に有効であることが確認された。

日水誌,77(6), 1076-1082 (2011)

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釣獲されたサワラの船上における致死方法の検討

岡本 満(島根県水産技術センター),
齋藤寛之(島根県松江水産事務所)

 釣獲したサワラの船上における適正な処理方法を検討した。4 種の異なる致死条件(延髄刺殺,脱血,温度ショック,苦悶死)のうち,延髄刺殺区のサワラの背肉が最も破断強度が高く,身割れが小さかった。また,苦悶死区のサワラの肉が最も身割れが大きい傾向が認められた。致死条件によって K 値,乳酸量の差異は認められなかった。以上の結果から,延髄刺殺を行うことで筋肉破断強度の低下を遅延させるとともに身割れを防止できることが示唆された。

日水誌,77(6), 1083-1088 (2011)

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カツオ血合肉の貯蔵中における揮発性成分の変化

平塚聖一,青島秀治,小泉鏡子(静岡水技研),
加藤 登(東海大海洋)

 カツオ魚肉の貯蔵中における揮発性成分(VOC)の挙動を SPME-GC/MS 法により分析した。カツオ魚肉の VOC は普通肉よりも血合肉で多く,主成分はヘキサナールであった。5℃ および 25℃ で貯蔵中に,カツオ魚肉中の VOC は増加し,アルデヒド類の増加率は普通肉よりも血合肉で高かった。カツオ魚肉より調製したタンパク質と魚油を混合して緩衝液中で反応させたところ,血合肉タンパク質と魚油とを反応させた区でヘキサナールの生成率が高かったことから,カツオ血合肉の VOC の生成は両者の複合作用によるものと推察された。

日水誌,77(6), 1089-1094 (2011)

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河川におけるサケとサクラマスの稚魚の定位点選択(短報)

長谷川 功,大熊一正,大貫 努(水研セ北水研)

 サケとサクラマスの稚魚の河川内での定位点について,北海道千歳市を流れる千歳川の二次流路で定量的評価を行った。潜水観察による結果,サケは,水深 5〜30 cm,流速 0〜10 cm/s,サクラマスは水深 5〜35 cm,流速 0〜15 cm/s の環境を選択的に利用していた。また,両種の定位環境は大きく重複していたため,両種間に競争や捕食などの何らかの種間関係が生じていることも考えられた。

日水誌,77(6), 1095-1097 (2011)

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ミトコンドリア DNA 分析による信越地方産イワナの遺伝的集団構造(短報)

樋口正仁,兵藤則行,佐藤雍彦,
野上泰宏(新潟内水試),河野成実(長野水試)

 信越地方の大川,三面川,信濃川,関川の日本海に流入する 4 水系 8 つの在来イワナ集団を対象にミトコンドリア DNA シトクロム b 領域 557 bp の塩基配列分析を行い,遺伝的特徴を把握した。107 個体を分析した結果,9 種類のハプロタイプが観察された。三面川水系では,これまで報告がなかった 2 つのハプロタイプが検出され,これらは琵琶湖周辺域で認められるハプロタイプと遺伝的に極めて近縁であった。また,信濃川水系では,同一水系内であってもハプロタイプ組成が大きく異なる集団が存在することが明らかになった。

日水誌,77(6), 1098-1100 (2011)

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γ-オリザノールの添加がアスタキサンチン含有飼料によるブリ切り身の変色抑制作用に及ぼす影響(短報)

長阪玲子,風間貴充(海洋大),
潮 秀樹(東大院農),
坂本浩志,坂本憲一(坂本飼料(株))

 γ-オリザノールのアスタキサンチン含有飼料によるブリの肉変色抑制作用に及ぼす影響について検討を加えた。2 ヵ月間アスタキサンチンあるいはアスタキサンチンと γ-オリザノールを投与し,水揚げ後,切り身を 4℃ で 48 時間貯蔵して血合筋の色調の変化を解析した。その結果,γ-オリザノールとアスタキサンチンの同時投与で,魚肉変色抑制効果が最も高いことが明らかとなった。

日水誌,77(6), 1101-1103 (2011)

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