日本水産学会誌掲載報文要旨

遠洋まぐろ延縄漁業におけるメバチの販売価格に及ぼす潜在要因の影響:一般化線形混合モデルによる検討

横田耕介,上原崇敬,澤田克彦,
伊加 聖(水研セ開発セ),
今村伸太朗,木宮 隆,鈴木道子,平岡芳信,
金庭正樹(水研セ中央水研),
大島達樹,伏島一平(水研セ開発セ)

 遠洋まぐろ延縄で漁獲されたメバチの産地市場における販売価格に及ぼす潜在要因(魚艙保冷温度・保冷期間,生物・製品情報)の影響を検討した。魚艙保冷温度を一般的な−50℃ 以下と−40〜−45℃ の 2 つの温度帯に設定した延縄船で漁獲されたメバチの漁獲時の情報及び販売結果等を用いて,モデル解析を行った。魚艙保冷温度の違いと保冷期間による販売価格への影響は認められず,市場は,異なる保冷温度のメバチを同等に評価したといえる。一方,脂の乗り具合,漁獲時の生死,製品重量,雌雄と販売価格の関連がモデルで示された。

日水誌,77(4), 593-599 (2011)

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ハモの巣穴出入行動における日周および季節変化

岡﨑孝博,上田幸男(徳島農水総技セ),
浜野龍夫(徳島大院)

 塩化ビニール製パイプの人工巣穴を敷設した 3 水槽で体重 89〜217 g のハモ 8 個体ずつを流水下で飼育し,巣穴に対する出入行動の日周および季節変化を調べた。2009 年 8, 10, 12 月,2010 年 2, 4, 6 月の計 6 日,1 時間ごとに 24 時間,巣穴外および遊泳個体数を目視により計数した。ハモは照度が 0 lx となる日没から早朝に巣穴から出て遊泳し,昼間には巣穴内で沈静した。水温の上昇とともに巣穴外および遊泳個体数が増加し,水温の低下とともに減少した。これらの出入行動は漁獲の日周および季節変化と一致する。

日水誌,77(4), 600-605 (2011)

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東京湾内湾における人工および天然干潟の二枚貝相とその生態系サービス

青木 茂,柳内 健,水野佑亮,岡本 研,
日野明徳(東大院農)

 人工干潟の生態系サービスを評価するため,東京湾内湾の 6 カ所の人工干潟と 5 カ所の天然干潟の二枚貝相と比較した。また,二枚貝相を決定する環境撹乱要因を特定するため,干潟にケージを設置し,アサリの生残実験を行った。二枚貝相は,天然か人工かではなく,その干潟が湾内で位置する場所によって決まり,アサリが優占した湾口に近い干潟ではおもな生態系サービスとして潮干狩りが挙げられた。一方で,湾奥の二枚貝相は貧弱で,塩分や貧酸素が環境要因として効いていた。

日水誌,77(4), 606-615 (2011)

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宗谷海峡におけるミズダコの成熟状態の季節変化

佐野 稔(稚内水試),坂東忠男(宗谷漁協),
三原行雄(中央水試)

 2003 年 10 月から 2004 年 12 月に,宗谷海峡で漁獲されたミズダコの成熟状態の季節変化を明らかにした。雌では,既交接個体の体重に対する生殖器官重量が秋から翌年春にかけて顕著に増大し,その結果,体重と生殖器官重量との関係が異なる 2 群が認められた。同様に,雄でも精莢を所持していた個体の生殖器官重量が秋から翌年春に顕著に増大して,2 群が認められた。宗谷海峡のミズダコ産卵期を初夏とすれば,生殖器官の肉眼的観察項目に加えて,体重と生殖器官重量の関係に基づいて産卵年および交接年を区分することが可能である。

日水誌,77(4), 616-624 (2011)

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シロクラベラ人工種苗の被食回避における捕食者学習効果

河端雄毅(京大院情報),
山田秀秋,佐藤 琢,小林真人,平井慈恵,
照屋和久(水研セ西海水研),
荒井修亮(京大院情報)

 捕食者学習がシロクラベラ人工種苗の被食回避に及ぼす影響を調べた。まず,本種人工種苗に,同じ水槽内で同種他個体がカンモンハタ(捕食者)に捕食される現場を経験させた。続いて,経験個体と未経験個体を捕食者に曝し,捕食者用シェルター周辺(危険エリア)へ侵入した時間並びに被食までの時間を測定したところ,ともに経験個体で有意に長かった。一方,捕食者がいない水槽では,危険エリアへの侵入時間に両者で有意差はなかった。以上から,捕食者学習が本種人工種苗の捕食者への接近を回避させ,被食を軽減させることが示唆された。

日水誌,77(4), 625-629 (2011)

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マダイ稚魚期における体色透明化個体出現への遺伝的要因の関与

澤山英太郎(まる阿水産),
高木基裕(愛媛大南水研セ)

 マダイ種苗生産群において出現した体色透明化個体について黒色素胞,黄色素胞および赤色素胞数を正常個体と比較した。40 日齢において透明化個体は全ての色素胞が正常個体よりも有意に少なかった。100 日齢において透明化個体は黄色素胞と赤色素胞が有意に少なかった。マイクロサテライト DNA マーカーを用いて正常個体と透明化個体の親子鑑定を行ったところ,正常個体では 6 個体のメス親魚と 8 個体のオス親魚が関与していたが,透明化個体では 1 個体のメス親魚と 5 個体のオス親魚が関与し,透明化個体は特定の親魚から発生していた。

日水誌,77(4), 630-638 (2011)

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AFLP 解析によるクロマグロ,Thunnus orientalis 雄特徴的 DNA 断片の探索

阿川泰夫,小宮貴文,本領智記,倉田道雄,岡田貴彦,
村田 修,熊井英水,澤田好史(近大水研大島実験場)

 太平洋クロマグロ雌雄に特徴的な DNA 断片を検出する目的で AFLP 解析を行った。雌雄 4 個体ずつ計 8 個体よりゲノム DNA を調整し,64 プライマーセットで 2 次増幅した結果 1038 のバンドを検出し,内 183 が個体間で多型を示した。二次増幅を EcoRI+AGG と MseI+CAT プライマーで行った際に雄 32 個体中 29 個体,雌 32 個体中 3 個体において確認される 437 bp の断片を同定した。この断片を定量した結果,雄に於いて検出され易く,また断片の量も検出される雌より有意に(P<0.01)多かった。

日水誌,77(4), 639-646 (2011)

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過栄養海域である洞海湾における栄養度の低下とそれに伴う赤潮発生状況の変化

山田真知子(福女大人環),
上田直子(北九市大国環工),
濱田建一郎(北九市大国環工,北大学院水)

 北九州市洞海湾で 1980〜2007 年までの 28 年間に毎月 1 回,水質・赤潮調査を行った。TN と TP は有意に減少したが,赤潮が高水温期に発生するパターンに変化は生じていなかった。また,栄養度の低下に伴い優占種の珪藻 Skeletonema spp. の赤潮形成頻度と細胞密度は減少し,一方,珪藻小型種の Thalassiosira spp., Chaetoceros spp., Cyclotella spp. およびラフィド藻 Heterosigma akashiwo などの出現が増加し赤潮構成種が多様化してきた。

日水誌,77(4), 647-655 (2011)

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石川県能登産市販褐藻類の多糖類の組成および機能性

寺沢なお子(金沢大人間科学系),
吉田理絵(金沢大教育),
鴨志田佳夫(ワールドエコロジー(株))

石川県能登半島で食用にされる褐藻 3 種,Chorda asiatica, Ecklonia stolonifera, Sargassum horneri の多糖類について調べた。その結果,これらの試料のウロン酸,硫酸の含有量はいずれも低い傾向にあり,また水溶液中への粘物質抽出量にも違いがあることが分かった。またこれらの試料はグルタミン酸量も少なかった。機能性については,DPPH ラジカル消去活性が各試料の総フェノール量と高い相関関係があったのに対し,SOD 様活性および ACE 阻害活性にはフェノール類以外の成分が関与している可能性が示唆された。

日水誌,77(4), 656-664 (2011)

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サンマ肉貯蔵中の酸素ガスによるトリメチルアミン-N-オキシドの分解抑制

佐藤 渡,志子田立平,埜澤尚範(北大院水)

 サンマの高鮮度維持を企図し,魚の生臭みや品質低下の原因となるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)分解物の生成抑制方法を検討した。その結果,サンマを漁獲後ただちに海水氷に浸漬貯蔵すると分解物の生成が低く,さらにサンマ肉を酸素ガス下,5℃ で貯蔵すると,窒素ガス下に比べ保蔵中のトリメチルアミンおよびジメチルアミンの生成を抑制することができた。また,事前に 1 日酸素ガス処理をしてから冷凍貯蔵した場合も,血合筋で分解物の生成が低く,酸素ガスによる TMAO 分解物生成抑制効果が示された。

日水誌,77(4), 665-673 (2011)

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マサバを原料とするへしこ及びなれずしの製造過程における脂質酸化の進行と抗酸化活性の変化

春野(今津)涼子,赤羽義章,
大泉 徹(福井県大海洋生資)

 マサバを原料とするへしことなれずしの製造過程における脂質酸化の進行を検討した。20% 加塩したマサバ魚肉を 4 ヶ月間自然環境温度で貯蔵すると,脂質酸化が大きく進行したが,塩漬けマサバを 6 ヶ月間糠漬けしたへしこでは魚肉と米糠中の脂質はほとんど酸化しなかった。一方,4 ヶ月間米飯漬けしたなれずしの魚肉中の脂質酸化の進行は,5% 加塩したマサバ魚肉のそれと同程度だった。へしこ及びなれずしの製造過程における脂質酸化の進行には,魚肉,米糠及び米飯中に含まれる各種抗酸化成分が影響を及ぼすことが示唆された。

日水誌,77(4), 674-681 (2011)

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バナメイエビの視物質組成と最大吸収波長及び若齢期と亜成体期の視物質量について(短報)

松田圭史(国際農研セ),
長谷川英一(水研セさけますセ),
マーシー・ワイルダー(国際農研セ)

 バナメイエビ若齢体と亜成体の光受容能が異なる理由として,複数種の視物質の存在が考えられるため視物質組成を調べた。その結果,視物質は最大吸収波長が 500 nm 近傍にあるロドプシン 1 種類のみであった。また,一眼当たりの平均視物質量は両者で有意差はないが約 1.6 倍差となり,成長に伴い増加することが示唆された。

日水誌,77(4), 682-684 (2011)

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日本海若狭湾西部において見出された底生渦鞭毛藻 Gambierdiscus 属(短報)

畑山裕城(京大院農),石川 輝(三重大院生資),
夏池真史(京大院農),武市有未(三重大院生資),
鰺坂哲朗,澤山茂樹(京大院農),
今井一郎(北大院水)

 シガテラの主要毒素は,底生性渦鞭毛藻 Gambierdiscus 属が生成すると考えられている。シガテラが散発する本州太平洋岸においては,有毒種 Gambierdiscus toxicus の出現が 1980 年代から確認されている。一方,日本海沿岸ではシガテラの発生報告がなく,Gambierdiscus 属の生息も報告されていない。本研究では 2009 年 9 月に若狭湾西部の 6 定点で調査を行い,Gambierdiscus 属が日本海沿岸においても生息していることを見出した。今後は日本海産 Gambierdiscus 属の詳細な分類や広域的な分布を含め,その毒性や高次捕食魚類の毒化状況など包括的な研究の必要性が示唆される。

日水誌,77(4), 685-687 (2011)

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