羽生和弘,栗山 功,井上美佐,土橋靖史(三重水研) |
三重県南部のマダイ養殖漁場において,養殖強度(魚の収容密度,日間給餌率,生簀面積,生簀移動)と環境特性(水深,平均流速)が底質(酸揮発性硫化物[AVS])に及ぼす影響を調査した。回帰分析で AVS に対する影響が確認された変数は,日間給餌率,生簀面積,生簀移動,水深および平均流速であった。特に平均流速は,有機物の堆積のしにくさと溶存酸素の供給のされやすさを反映し,AVS に対する影響が大きかった。底質改善の対策は,養殖強度と環境特性の両方を考慮して決定しなければならないことが明らかとなった。
山下秀幸(水研セ開発セ), 酒井 猛(水研セ西海水研), 片山知史(水研セ中央水研), 東海 正(海洋大) |
東シナ海のアカアマダイ漁業と資源状態は 1990 年代に大きく変わったことから,生物特性も変化している可能性があり,本種の成長と成熟を再検討した。産卵盛期は 9, 10 月,50% 成熟全長は雌雄それぞれ 253 mm, 302 mm であった。成長式は雌雄それぞれ l(t)=375(1−e−0.317(t+0.420)) と l(t)=520(1−e−0.194(t+0.761)) と推定された。これらの結果は概ね既往の研究と一致したが,東シナ海内でも海域によって成熟個体の出現などが異なった。今後,資源解析に基づく管理方策及び漁場利用の検討が必要である。
有路昌彦(近大農) |
マグロ類は我が国で消費される最も重要な魚種のひとつである。供給面において構造が変化しつつある一方,価格は低迷し,背景に需要側の変化があると考えられる。
秋谷は加齢効果を指摘した上で,魚離れが背景にあると定性的に分析しているが,定量分析ではない。本研究では加齢効果と所得効果に焦点を当て,消費選好をパネル分析で把握した。その結果世代によるマグロ類購入金額の違いは,加齢効果と所得効果によって明確に規定されていることが明らかになった。さらに家計の実所得の減少がマグロ類購入金額の減少の要因であった。
土居内 龍,安江尚孝,竹内照文,山内 信, 奥山芳生,諏訪 剛,向野幹生,小久保友義, 芳養晴雄(和歌山農水総技セ) |
炭素・窒素安定同位体比に基づき,紀伊水道産タチウオの炭素源を推定すると共に,その他の底生魚類 13 種との炭素源の比較を行った。植物プランクトンと底生微細藻類をエンドメンバーとした解析によると,タチウオは炭素源の 51.6% を植物プランクトンに依存することが示された。一方その他の底生魚類では 3.1〜43.0% を植物プランクトンに依存していた。タチウオは日周鉛直移動を行うことから表〜中層に出現する餌生物を利用しており,これが植物プランクトンから多くの炭素供給を受けている要因と推察された。
岩田仲弘,横山信吾,田中克彦(電中研), 川那公士(広大院生物圏科),難波憲二(電中研) |
粘土鉱物製品 A(主成分パイロフィライト),B(カオリナイトとパイロフィライト),C(セリサイト)を粉体のまま添加した海水中でヒラメ(全長 6 cm)を 96 時間飼育して鉱物種間の影響を比較した結果,96 時間半数致死濃度(96 h LC50)はそれぞれ 44, 5, 80 g/L と差が認められた。また,製品 A, C および D(主成分スメクタイト)を淡水懸濁液とした後,海水に添加して同様にヒラメへの曝露を行なった結果,96 h LC50 はそれぞれ 78, 179, 4 g/L と製品 A, C では海水直接添加条件より上昇したが,D では海水直接添加条件(前報 37 g/L)より低下した。
小山法希(マルハニチロ中央研), 松川雅仁(福井県大海洋生資), 島田昌彦(マルハニチロ中央研) |
バナメイエビを氷殺後無頭殻付の状態で 20℃ において 1〜7.5 時間処理すると筋肉中の IMP は最大で 50% まで増加した。次いで−20℃ と−40℃ で 14 ヶ月間貯蔵して解凍評価を行った結果,重量歩留まりや一般細菌数は冷凍前の 20℃ 処理の影響を受けず,冷凍温度や貯蔵期間に関係なく一定していた。また解凍後の黒変現象に 20℃ 処理が影響を与えないことも 2 種類の条件の解凍法から示された。よって,冷凍前の 20℃ 処理は IMP の蓄積により本エビのうま味を高め,これを冷凍貯蔵しても商業的なエビの品質に対しては悪影響を及ぼさないことが明らかとなった。
阿部周司,雨宮弘和(海洋大), 田中宗彦(国学院栃木短大), Kanokrat Limpisophon(海洋大), 半田明弘(キユーピー),大迫一史(海洋大) |
酢じめゲル調製における酢酸浸漬工程において,酢じめゲルの形成に与える卵白の影響について調べた。調製した坐りゲルは,酢酸溶液浸漬中にすり身中に含まれるプロテアーゼによって崩壊したが,卵白またはプロテアーゼインヒビター(PI)を添加して調製した坐りゲルは酢じめゲルを形成した。また,卵白と PI の両方を添加したものは,いずれか一方を添加したものよりも有意に高い破断応力を示した。これらのことから卵白の酢じめゲルの形成に及ぼす影響の一つとしてプロテアーゼインヒビターとしての効果が挙げられた。
坂野博之,内田和男(水研セ中央水研) |
塩分 12 psu の汽水環境で絶食および飽食条件と異なる水温(15, 20, 25℃)がアユふ化仔魚の成長,生残に与える影響を調べた。飽食条件ではアユ仔魚 1 個体あたり L 型ワムシ 500 個/日を給餌した。累積死亡率は,絶食条件では全ての水温区で 100% に達したが,飽食条件では 12 日目でも 8〜14% に留まり,水温間の差は認められなかった。成長量は 15℃ 区が 20℃ 区と 25℃ 区より低かった。これらより,アユ仔魚は汽水中で十分な餌があれば,水温 20〜25℃ でも正常に生残して成長することが明らかになった。
坂口健司(釧路水試),澤村正幸(函館水試) |
2010 年 6 月に北海道沖合の北西太平洋でヒメドスイカ Berryteuthis anonychus 3 個体が採集された。ヒメドスイカは主に北東太平洋亜寒帯海域に分布するテカギイカ科に属する小型のイカで,最近,北太平洋中央部にも分布が確認されている。本調査で本種がさらに北太平洋西端の日本近海まで分布することが初めて明らかとなった。本種が北西太平洋にまで分布を広げた理由は明らかでないが,一時的な現象か,継続的な現象になるのか,北西太平洋の生態系を考える上で注目される。
諸橋 保,青山恵介,浪越充司,木村康晴(農林水産消費安全技術センター神戸センター), 服部賢志(農林水産消費安全技術センター本部) |
原料原産地が日本産及び中国産の湯通し塩蔵わかめについて元素分析を行い,原料原産地判別法を開発した。2006〜2008 年産の湯通し塩蔵わかめ 150 点について ICP-MS を用いて 6 元素(Mn, Cu, Zn, Rb, Sr 及び Ba)を定量した。後進ステップワイズ法により選択した 2 元素(Mn 及び Ba)の濃度を用い,線型判別分析により判別関数を構築した。構築した判別関数による判別関数構築用試料の日本産の的中率は 99%,中国産の的中率は 96% であり,有効な判別関数が構築できた。