日本水産学会誌掲載報文要旨

大阪湾産イヌノシタ Cynoglossus robustus の年齢と成長

日下部敬之(大阪環農水総研)

 大阪湾産イヌノシタについて,耳石(扁平石)断面をメチルバイオレット B で染色して輪紋を計数し,年齢と成長を明らかにした。染色により出現した輪紋は満 1 歳から 1 年に 1 本,産卵期である 6〜7 月を中心に形成される年輪であると確認された。雌雄別に von Bertalanffy の成長式を求めると,雄(n=314):TLt=352.9(1−e−0.703(t+0.528)),雌(n=470):TLt=406.6(1−e−0.638(t+0.422))となり(TLt:年齢 t における全長 mm),成長に雌雄差が認められた。底びき網による漁獲開始を 4〜6 ヶ月遅らせることで漁獲金額が増加する可能性が示唆された。

日水誌,77(1), 1-7 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


天草下島周辺海域に生息するミナミハンドウイルカの行動に及ぼすイルカウォッチング船の影響

松田紀子(三重大生物資源),白木原美紀(東邦大理),
白木原国雄(東大大気海洋研)

 天草下島周辺海域に周年定住するミナミハンドウイルカ Tursiops aduncus を対象としてイルカウォッチング船が群れの行動に及ぼす影響を調べた。陸上定点から群れの行動観察を行い,群れの位置をセオドライトで計測した。個体が間隔を詰めて同調的な潜水浮上を繰り返す時,ウォッチング船が 1 隻でも存在すると,不在時に比べて潜水時間が長くなり,浮上中の速度が増加した。4, 5 隻以上存在した時,潜水地点から浮上地点までの距離が増加し,浮上時間が減少した。群れに接近可能な隻数制限の導入が必要である。

日水誌,77(1), 8-14 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


東シナ海におけるウルメイワシの年齢・成長と成熟特性

大下誠二(水研セ西海水研),
後藤常夫(水研セ日水研),
大塚 徹(熊本水海セ),
槐島光次郎(鹿児島水技セ)

 本研究は,東シナ海におけるウルメイワシの成長や成熟特性を求めたものである。月別の体長組成から年齢毎に正規分布を仮定して平均体長を求め,成長曲線を推定した。その成長式は BLm=244.8[1−exp {−0.10(m−0.55)}] で表された。ただし BL および m は被鱗体長とふ化後月数である。鱗による年齢査定と耳石による日齢査定からも本結果を裏付けた。生殖腺を組織学的に検討し,産卵期間は 12 月から 6 月であり,産卵期間中に複数回の産卵を行うことが明らかとなった。成長式と体長・成熟率の関係から推定して雌雄とも満 1 歳から産卵もしくは排精することがわかった。

日水誌,77(1), 15-22 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


瀬戸内海に漂流漂着するカキ養殖用パイプ類の実態

藤枝 繁(鹿大水)

 瀬戸内海で大量に使用されているカキ養殖用プラスチック製パイプ類の漂流漂着実態を明らかにすることを目的に,瀬戸内海全域を対象に海岸での回収調査および海面での目視調査を実施した。海岸における平均漂着密度は,採苗連に使用されるまめ管が最も高く 7.5 個/m2,続いて広島県の垂下連で収穫時に発生する損傷パイプ 4.5 個/m2,同垂下連で使用されるパイプ 2.9 個/m2 であった。まめ管,パイプおよび損傷パイプの発見率(漂着密度 0.1 個/m2 以上の調査海岸数の割合)は,広島県から西方の海域で高かったが,まめ管は東部海域にも広く漂着していた。

日水誌,77(1), 23-30 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


mtDNA 分析により評価した利根川流域におけるハクレン集団の遺伝的多様性

片町太輔,池田 実(東北大院農),
董  仕(天津師範大),谷口順彦(東北大院農)

 中国の長江から利根川流域に導入されたハクレン集団の遺伝的多様性を検討するため,成魚,流下卵,仔魚の計 56 個体を対象に mtDNA 調節領域(454 bp)のシーケンス分析を行った。その結果,26 種類のハプロタイプが検出され,ハプロタイプ多様度(h)は 0.920,塩基多様度(π)が 0.011 であった。これらの値と既報の長江中下流域の集団の値との間には大きな差異はなく,ハプロタイプの系統関係も近縁であった。これらの結果から,利根川集団が長江の中下流域を起源としており,導入後も大きな有効集団サイズによって再生産を繰り返していることが示唆された。

日水誌,77(1), 31-39 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


八代海におけるラフィド藻 Chattonella antiqua の増殖および栄養塩との関係

紫加田知幸(熊本県大環境共生),
櫻田清成(熊本水研セ),
城本祐助(熊本県大環境共生),
小山長久(熊本水研セ),
生地 暢(熊本県大環境共生),
吉田 誠(佐賀大有明海総研プロ),
大和田紘一(熊本県大環境共生)

 八代海において,Chattonella antiqua の増殖および栄養塩との関係について検討した。まず,本種を用いた現場海水のバイオアッセイ試験を行った。その結果,培地成分のうち,窒素,リンまたは鉄源を添加しなかった場合に増殖速度は低下し,海水試料に N 源を単独で添加した場合に向上した。また,2008 年の本種ブルームの発生直前には DIN および DIP 濃度の上昇が認められた。本研究より,八代海において C. antiqua の増殖は第一に窒素,次にリンおよび鉄源によって制限されていることが推定された。

日水誌,77(1), 40-52 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


イカ釣り操業時に船上灯光により形成される船底下陰影部のスルメイカの誘集・釣獲過程における役割

四方崇文,島 敏明(石川水総セ),
稲田博史(海洋大),三浦郁男(古野電気),
臺田 望(拓洋理研),
貞安一廣,渡部俊広(水研セ水工研)

 夜間のイカ釣り操業では船上灯光により船底下に陰影部が形成される。この陰影部の機能を知るため,操業時にスルメイカが集群した段階で船底下に垂下した水中灯を点灯・消灯して陰影部を消失・出現させ,この時のイカの行動を魚群探知機とソナーで観察した。水中灯を点灯すると水中灯より上に分布していたイカが船底下から逃避して釣獲尾数は減少した。水中灯を消灯すると水中灯より下に分散していたイカが陰影部に集群して釣獲尾数は増加した。この結果は,陰影部にはイカを船底下に誘導して釣獲に結び付ける機能があることを示している。

日水誌,77(1), 53-60 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


飼育下におけるハモの巣穴形成行動と底質粒径の関係

上田幸男,岡﨑孝博(徳島農水総技セ)

 徳島県沿岸で漁獲された体重 191〜757 g のハモ 31 個体を供試魚とした。平均粒径 1.79, 1.02, 0.480 mm の砂,0.162 mm の泥砂,0.073 mm の砂泥を深さ 25 cm に敷設した 200 L の流水水槽に各々収容し,巣穴形成行動と底質粒径の関係を調べた。砂では巣穴の形成がみられなかったが,砂泥と泥砂の一部では複数の巣穴が観察された。ハモは頭部から潜泥し,前後移動により深さ 6.8〜15.7 cm の U 字管状の巣穴を形成した。巣穴の形成には泥分が必要であり,ハモは泥域を好んで生息すると考えられる。

日水誌,77(1), 61-67 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


低塩分海水養生によるキズ・シミの無い真珠の生産率向上効果

渥美貴史(三重水研),
石川 卓,井上誠章,石橋 亮(三重大院生資),
青木秀夫,西川久代,神谷直明(三重水研),
古丸 明(三重大院生資)

 低塩分海水養生による真珠の無キズ珠率向上効果を明らかにするため,挿核手術直後のアコヤガイを水槽(塩分 25 psu または 33 psu に調整)あるいは海上で 14 日間養生後,海上で養殖した場合の無キズ珠率を比較した。その結果,無キズ珠率は 25 psu の水槽で最も高く,次いで 33 psu の水槽,海上の順となった。水槽内での低塩分養生(25 psu)と海上養生による無キズ珠率を業者 10 名による実証実験で比較した結果でも,低塩分養生の無キズ珠率は有意に高く,低塩分海水養生は真珠の品質向上に有効と判断された。

日水誌,77(1), 68-74 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


1H-NMR メタボローム解析を用いた絶食下コイ Cyprinus carpio L. の血漿中代謝物変動評価

國師恵美子(鹿大院連合農),
宇野誠一,小山次朗(鹿大水)

 14 日間絶食したコイの血漿中代謝物質変動を,1H-NMR メタボローム解析により調べた。絶食 14 日目コイの血漿中ではロイシンなどの代謝物が対照群と比較して有意に減少した。また,グルコース濃度が低下したままであったことから,コイ体内中では糖新生が起こるまでには至っていないと考えられた。一方,3-ヒドロキシ酪酸,アセト酢酸のようなケトン体が増加していたことから,絶食により脂肪酸分解が起こっていたことが示唆された。

日水誌,77(1), 75-83 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


干物のカラフトシシャモとシシャモの簡易識別法

小西雅樹,武内啓明(近大院農),
久保喜計(近大農),細谷和海(近大院農)

 カラフトシシャモ Mallotus villosus は,シシャモ Spirinchus lanceolatus の代用魚として市場に出回っているが,両種の違いは消費者間では十分に知られていない。そこで本研究では,従来から識別点とされてきた形質を再査するとともに,新たに骨格系の情報を加え,簡易識別法を提案した。特に,吻長,胸鰭長,尾柄高,鱗の面積および配列,主鰓蓋骨の形状において,2 種間に差異が認められ,識別形質として有効である。

日水誌,77(1), 84-88 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


塩漬条件が凍結解凍したマアジ肉の離水に及ぼす影響

一崎絵理香,桑原浩一,岡本 昭,
岡﨑惠美子(長崎水試)

 即殺直後のマアジを用いて,塩漬条件が塩漬魚肉を凍結解凍した際に生じる離水に及ぼす影響を検討した。浸漬液の NaCl 濃度が 0.5 M 以上で離水率の増加は認められず,少なくとも魚肉中の NaCl 濃度が 0.25 mol/kg 以上になると,離水率は水分に影響されず一定の低い値を示した。筋肉ホモジネートにおいて,筋原線維タンパク質(Mf)の溶解と保水力の上昇とが認められた NaCl 濃度は,0.2〜0.4 M 付近と一致していた。以上より,NaCl による Mf の溶解作用が魚肉の保水力を向上させ,離水を抑制していることが示唆された。

日水誌,77(1), 89-93 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


ヒトデ成型骨片への魚類飼育排水処理施設由来細菌の付着性(短報)

吉田夏子,石田一晃,笠井久会,吉水 守(北大院水)

 水産廃棄物であるヒトデの有効利用を目的に,魚類飼育排水処理施設由来細菌のヒトデ成型骨片への付着性を検討した。5 回洗浄を行った後でも,ヒトデ成型骨片の生菌数は 108 CFU/g 程度であった。また,ヒトデ成型骨片と市販ろ材への細菌の付着量を比較したところ,どのろ材も洗浄後の生菌数は 107 CFU/g 程度であった。以上の結果から,ヒトデ成型骨片は市販ろ材と同様に細菌付着用のろ材として使用できることが明らかとなった。

日水誌,77(1), 94-96 (2011)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]