日本水産学会誌掲載報文要旨

成長および流水トレーニングに伴うニゴロブナ Carassius auratus grandoculis 仔稚魚の遊泳速度の変化

藤原公一(滋賀水試,海洋大),臼杵崇広(滋賀水試),
北田修一(海洋大)

 琵琶湖でニゴロブナの放流事業を実施するうえで効果的な種苗放流技術を検討する基礎資料を得るため,本種仔稚魚の成長や流水トレーニングに伴う遊泳速度の変化を調べた。その結果,標準体長(SL)約 16 mm までは突進速度が増加した。稚魚(SL 16 mm≦)になると巡航速度が急速に増加し,遊泳能力が著しく向上した。これらから,SL 16 mm が重要な放流基準の一つになると考えられた。また,流水トレーニングにより突進速度は増加したが,オオクチバスのいる池や琵琶湖へ放流した後の生残率は止水飼育した種苗と差がなかった。

日水誌,76(6), 1025-1034 (2010)

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マルソウダ加工の際に廃棄される煮熟水のブリ幼魚用飼料への添加効果

深田陽久(高知大農,JST-CREST),
河相光太朗,田所大二,森岡克司,益本俊郎(高知大農)

 大部分が廃棄されているマルソウダ煮熟水の有効利用として,飼料へのマルソウダ煮熟水添加がブリ幼魚の成長へ与える影響を評価した。試験飼料として魚粉を主タンパク質源とした FM 飼料と FM 飼料中の魚粉の 30% を大豆油粕(SBM)で代替した SBM 飼料,それらにマルソウダ煮熟水(Broth)を加えた飼料を調整して 6 週間給与した。試験終了時の成長成績は,FM+Broth 区>FM 区>SBM+Broth 区>SBM 区の順であった。以上のことから,飼料へのマルソウダ煮熟水の添加は,ブリ幼魚において成長を改善すると考えられた。

日水誌,76(6), 1035-1042 (2010)

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TAC 対象種の資源評価に用いられる VPA の信頼性の検討

中山洋輔,平松一彦(東大大気海洋研)

 TAC 対象種のうち 9 系群の資源評価に用いられている VPA の信頼性を,Fisher 情報行列およびプロファイル尤度を用いた推定値の区間推定により評価・検討した。9 系群のうちマイワシ 2 系群の 2007 年の資源量推定値の信頼区間は非常に広く,信頼性が低いことが示された。他にもマサバ太平洋系群やゴマサバ太平洋系群および東シナ海系群の信頼区間も広く,資源管理にあたって資源評価の不確実性を無視できないと考えられる。比較的計算の容易なプロファイル尤度を用いて,ルーチン的に資源量推定の信頼性を評価することが望まれる。

日水誌,76(6), 1043-1047 (2010)

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渓流魚の資源増殖に対する輪番禁漁の効果

久保田仁志,酒井忠幸,土居隆秀(栃木水試)

 渓流魚の資源増殖に対する輪番禁漁の効果を評価するため,輪番禁漁が導入された 2 カ所の河川区間において渓流魚の個体数変化を調査した。GLMM によって禁漁と個体数の関係を評価した結果,一方の区間においては 2 年間および 3 年間の禁漁でイワナとヤマメの遊漁対象サイズの個体数増加が認められたが,他の区間における 2 年間の禁漁ではイワナの個体数増加は認められなかった。全長 150 mm 以下のサイズでは,両区間,両種ともに禁漁の効果は認められなかった。輪番禁漁は河川や魚のサイズによって効果が異なることが明らかになった。

日水誌,76(6), 1048-1055 (2010)

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飼育条件下におけるタイマイの繁殖生態

小林真人(水研セ西海水研,長大院生産),
奥澤公一(水研セ養殖研),征矢野清(長大海セ),
與世田兼三(水研セ瀬水研)

 飼育条件下でのタイマイの繁殖生態を明らかにするため,2006 年から 2009 年にかけて交尾と産卵行動,産卵数,産卵回数,ふ化率を調査した。ビデオカメラで交尾や産卵行動を観察した結果,交尾時間は 50〜150 分,交尾から初回産卵までの日数は 29.6±3.4 日であった。産卵は雌 4 頭が合計 16 回行い,産卵数と産卵回数は,135.9±25.2 個と 3.5±0.7 回であり,既報の野生タイマイの事例と比較して大差はなかった。ふ化率は野生個体よりも低かったが,ふ化仔ガメの直甲長と体重は野生個体とほぼ一致した。

日水誌,76(6), 1056-1065 (2010)

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マダイミオシンの加熱ゲル形成に及ぼすグルコン酸塩の影響

大井淳史(三重大院生資),
田村陽次郎(鈴鹿高専物理),
岡垣 壮(三重大院生資)

 マダイミオシンの加熱ゲル形成に及ぼすグルコン酸塩の影響について検討した。グルコン酸塩存在下でミオシンを加熱すると,ゲルの網目構造の分散は緻密で均一となり,その破断強度は増加した。ミオシンの部分比容と断熱圧縮率は,グルコン酸塩存在下でミオシンの水和量が著しく増加することを示していた。また,グルコン酸塩の添加によってゲルの融解温度が特異的に高められることも明らかになった。以上のことから,グルコン酸塩はミオシン分子周辺の水和構造を変えることによってゲルの疎水結合を強めると示唆された。

日水誌,76(6), 1066-1072 (2010)

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サンマ肉のトリメチルアミン生成に及ぼす凍結貯蔵の影響

木村メイコ,平岡芳信,木宮 隆,
今村伸太朗,鈴木道子(水研セ中央水研),
岡﨑惠美子(水研セ),木村郁夫(鹿大水)

 北西太平洋の公海で漁獲されたサンマのトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)とその分解物で魚臭成分であるトリメチルアミン(TMA)およびジメチルアミン(DMA)の冷凍貯蔵中の生成について調べた。TMAO は肥満度が大きいものが多い傾向にあり,普通肉より血合肉に多かった。TMA 量は−40℃ 貯蔵では 1 年後もほとんど増大しなかった。−20℃ でも普通肉では 6 ヶ月後もほとんど増大しなかったが,血合肉で大幅な増大があり,魚臭の一因となる可能性が推測された。凍結貯蔵中の DMA の生成は TMA より少なかった。

日水誌,76(6), 1073-1079 (2010)

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プランクトンネットによるオキアミ採集における人工照明の効果(短報)

藤森康澄(北大院水),向井 徹(北大院水),
山本 潤(北大フィールド科セ)

 オキアミ採集におけるライトの効果を確認するとともに,その有無が採集個体のサイズ組成に与える影響を調べた。採集には口径 80 cm(NGG32)のリングネットを使用した。ペンネント上部にネット上方に光を照射するようにライトを取りつけ,ライト無し,点灯,閃光(点滅)の 3 条件について夜間に鉛直曳網を行った。ライトをつけた場合では点灯,閃光に関わらず,ライト無しの場合よりも密度は 4〜6 倍に増加した。また,採集個体の体長組成はライトの有無で大きく異なり,点灯,閃光に関わらず大型個体の採集量は著しく増加した。

日水誌,76(6), 1080-1082 (2010)

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発酵中の魚醤油もろみの品質に及ぼす蒲鉾製造ロスの影響(短報)

小善圭一(富山食研),高野隆司(梅かま),
里見正隆(水研セ中央水研),
高橋 努,舩津保浩(酪農大)

 蒲鉾製造ロス,ニギス魚肉およびその混合物を主原料とし,麹と乳酸菌を混合後,常温で発酵させて魚醤油を製造した。その結果,ロス単独と混合物を主原料としたもろみの発酵中の pH,全窒素分,Brix,遊離アミノ酸量,ヒスタミン(Hm)生成菌数および Hm 量の変動が,魚肉単独のもろみのそれらとは異なることが明らかとなった。また,それらは主原料であるロスの成分特性に起因していると考えられ,水産発酵食品の安全性に関わる Hm 生成にも影響を及ぼしている可能性が示唆された。

日水誌,76(6), 1083-1085 (2010)

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