日本水産学会誌掲載報文要旨

東シナ海,日本海および瀬戸内海産トラフグの成長と Age-length key

上田幸男(徳島農水総技セ),
佐野二郎,内田秀和(福岡水海技セ),
天野千絵(山口水研セ),松村靖治(長崎水試),
片山貴士(水研セ屋島セ)

 漁獲された全長 261〜632 mm のトラフグ天然魚と人工種苗放流魚 1,071 個体について,脊椎骨椎体の輪紋観察から雌雄別に年齢と成長を調べた。椎体縁辺部の透明帯の出現割合の経月変化から本種は 5〜6 月に年輪が形成されると推定した。これらの標本の年齢は 0〜9 歳で,3 歳以降では雌の方が,人工種苗よりも天然魚の成長が速かった。1 歳魚以上で各年齢間の全長に重なりがみられ,全長組成のみの解析から正確に年齢組成を推定することは困難である。そこで年齢組成を推定するための Age-length key を提案する。

日水誌,76(5), 803-811 (2010)

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茨城県久慈川における流下アユ仔魚の鉛直分布

荒山和則,須能紀之,山崎幸夫(茨城内水試)

 夜間の流下アユ仔魚の鉛直分布を経月および経時的に明らかにした。調査は久慈川下流域の水深約 3 m 地点で 2006 年と 2007 年に行った。アユ仔魚は,2006 年は 10 月下旬から 11 月上旬,2007 年は 10 月下旬から 12 月上旬を中心に採集された。仔魚の主な分布層は,10 月下旬は全層,11 月上旬以降は中層と底層であった。仔魚の体長と卵黄量および流速は層間で違わなかった。水温は経月で低下した。流下アユ仔魚の鉛直分布は常に同じ様式ではなく,低下していく水温にともなって変化すると考えられた。

日水誌,76(5), 812-823 (2010)

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沖合底曳網におけるアカムツとマアナゴに対するコッドエンド選択性に及ぼす角目網ウインドーの効果

濵邊優祐(海洋大),
原田誠一郎,山下秀幸(水研セ開発セ),
東海 正(海洋大)

 日本海西部海域の沖合底曳網で,現在の菱目網(目合内径 33 mm)コッドエンドと,その前半部の両脇部か天井部あるいは両方に角目網(目合内径 72 あるいは 81 mm)を装着した選別式コッドエンド,菱目網(目合内径 79 mm)コッドエンドを用いて,カバーネット操業実験を行った。標本抽出率を考慮した SELECT 解析によりアカムツとマアナゴに対する選択性曲線を推定した。選択性曲線における曳網間の変動は大きいが,平均的な選択性曲線を比較すると,アカムツは天井部から,またマアナゴは両脇部から抜け出やすい傾向がある。

日水誌,76(5), 824-840 (2010)

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太田川河口域周辺におけるスズキ仔稚魚の出現と食性

岩本有司,森田拓真,小路 淳(広大生物圏)

 先行研究が行われている有明海筑後川河口域とは環境条件が異なる広島湾北部および太田川水系 2 河川下流域においてスズキ仔稚魚の出現と食性を調査した。仔稚魚の分布密度は砂浜海岸に比べて河川内浅所において有意に高かった。仔稚魚の消化管内容物は枝角類とカイアシ類が中心であり,それらの種組成は各河川および定点の餌料生物環境に対応して変化した。Sinocalanus sinensis(汽水性カイアシ類)が主要餌料生物となる筑後川下流域だけではなく,太田川下流域もスズキ仔稚魚の主要な生息場であることが明らかとなった。

日水誌,76(5), 841-848 (2010)

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広島県東部海域における溶存態無機窒素動態とノリの色落ちへの影響

川口 修,高辻英之(広島水海技セ)

 2004 年 4 月〜2008 年 3 月に,広島県東部海域で溶存態無機窒素(DIN)の動態調査を行い,1〜3 月に慢性的に起こるノリの色落ちの原因について考察した。この海域では 12 月頃より西部から東部にかけて次第に高塩分化し,一方で東部に形成される河川水由来の低塩分水塊が西部まで達しなくなることがわかった。このような海況の変化と区画漁場内での DIN およびノリ色調の分布から,本海域のノリの色落ちは,河川水流入の減少と西から東への水塊の移動によって,河川由来の DIN がノリ漁場へ到達しにくくなることにより起こると考えられた。

日水誌,76(5), 849-854 (2010)

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ラジオテレメトリー手法によるシシャモの産卵遡上行動の解析

新居久也(道栽培公社),牧口祐也(北大院環境),
藤井 真(道栽培公社),
上田 宏(北大院環境,北大フィールド科セ)

 シシャモの産卵遡上の知見を蓄積するために,超小型の電波発信機の体内装着が魚体に及ぼす影響を水槽実験により検証した。さらに,装着魚(鵡川産の雄 14 個体)の河川内行動を受信機により追跡した。装着魚と非装着魚の間に,泳力,産卵行動,生理学的ストレス指標値に差はなかった。河川内では,平均遡上速度が 3.8〜17.8 cm/sec であり,流心部を避けて遡上した。定位箇所は,流速が遅く(60 cm/sec 以下),倒木等のカバーが存在した。小型の遡河回遊魚であるシシャモの遡上行動が初めて連続的に解析された。

日水誌,76(5), 855-869 (2010)

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クロミンククジラにおけるクジラヒゲの成長,特に外縁先端部に出現する欠刻について

銭谷亮子,加藤秀弘(海洋大)

 南極海鯨類捕獲調査(JARPA)と商業捕鯨の南極海第W区で採集された 1,654 個体のクロミンククジラのヒゲ板を用い,ヒゲ板の成長と外縁先端部に出現する V 字形の欠刻について検討した。ヒゲ板長は体長の増加に伴い伸長し,雄は体長 8.0 m 以上で 261.8 mm に,雌は体長 8.5 m 以上で 278.3 mm に達した。欠刻は胎児のヒゲ板には認められなかったが,出生後の体長 5.4 m 以下のヒゲ板全てに認められたことから,欠刻は出生時に形成された可能性が高く,摩耗により体長 6.4 m 付近で完全に消失すると考えられた。

日水誌,76(5), 870-876 (2010)

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ブルーム盛期における麻痺性貝毒原因プランクトン Alexandrium tamarense の日周鉛直移動,環境要因および細胞毒量の変化

山本圭吾(大阪環農水総研),
松山幸彦(水研セ西海水研),
大美博昭,有山啓之(大阪環農水総研)

 Alexandrium tamarense 赤潮が確認された 2007 年春期に堺出島漁港で昼夜観測を行い,日周鉛直移動と環境,細胞毒量の変化を調査した。日中,遊泳細胞は表層に集中分布したが,日没後分散し,底層で密度が増加した。夜明け後は再び表層で増加しており,日周鉛直移動が確認された。細胞の毒組成に変化はなかったが,細胞毒量は日没以降夜明けまで増加傾向であった。このことから毒は夜間に蓄積すると推察され,高毒細胞が鉛直移動することで深所に分布するアカガイ等で貝毒のリスクが高くなることが示唆された。

日水誌,76(5), 877-885 (2010)

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大阪港湾域におけるに底泥からの汚濁発生源除去効果からみた航路浚渫の評価

西尾孝之,新矢将尚(大阪市立環境科研)

 河川末端に位置する地点の底泥中窒素,リン,有機物含有量は大阪港内外地点よりも 2〜3 倍高かった。間隙水中の窒素,リン,有機物濃度も,河川末端の底泥が 9〜20 倍高く,拡散フラックス推定値もアンモニウムイオンおよびリン酸イオン共に約 2〜10 倍高かった。微生物活性の低下する冬期においてもこれらの潜在的拡散フラックスは高かった。河口域の底泥は浮泥状態で撹乱により巻き上がりやすいために間隙水中の栄養塩類が拡散し易く,浚渫することにより底泥からの溶出による閉鎖的な港内停滞水域への汚濁負荷を低減する効果が高いことが明かとなった。

日水誌,76(5), 886-893 (2010)

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ニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の飼育仔稚魚の発育と成長

藤原公一(滋賀水試)

 琵琶湖においてニゴロブナの放流事業を実施するうえで効果的な種苗サイズを検討する基礎資料を得るため,飼育した本種仔稚魚の発育と成長を調べた。その結果,標準体長が概ね 16 mm まで成長して稚魚期に達すると,鰭条や鱗,骨格がほぼ完成するとともに,骨格筋および消化,呼吸,循環,感覚,造血,排泄を司る各器官の急速な発達が観察され,天然環境下で生き残る機能の著しい向上がうかがえた。したがって,このステージ(標準体長約 16 mm)は,効果的な放流サイズを検討するうえでの基準の一つになると考えられた。

日水誌,76(5), 894-904 (2010)

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海底に長期間浸漬した刺網の漁獲機能の経時変化

秋山清二(海洋大)

 海底に残置された逸失刺網の漁獲継続期間について検討するため,千葉県館山湾の海底に刺網を 2000 日間浸漬し,浸漬時間と羅網個体数の関係を調べた。刺網にはイセエビ 15 個体,イセエビ以外の甲殻類 25 個体,腹足類 8 個体,魚類 5 個体,その他 2 個体の合計 55 個体が羅網した。羅網個体数は実験開始直後に急増し,浸漬 11 日目に最大となった後,減少した。羅網個体数の減少過程は指数関数で表され,漁獲継続期間は 182 日と推定された。漁獲継続期間はイセエビや魚類では短く,イセエビ以外の甲殻類や腹足類ではより長期に及んだ。

日水誌,76(5), 905-912 (2010)

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群れ形成の習性を利用したブルーギル Lepomis macrochirus の有効な捕獲方法の検討

藤本泰文(伊豆沼財団),
高橋清孝(シナイモツゴ郷の会),
進東健太郎(伊豆沼財団),山家秀信(東農大),
佐藤 繁(北里大海洋)

 ブルーギルが群れを形成する習性を本種の駆除手法に利用することを目的とし,同種個体の囮としての誘引効果を伊豆沼と化女沼で検証した。対照群として空の篭と囮のブルーギルを収容した篭を湖岸に設置し,捕獲個体数を比較した。本種の生息密度が低い伊豆沼では,囮を収容した篭で高い捕獲個体数を示した。2 ヶ月間の駆除活動に囮を用いた結果,総捕獲数が 1.86 倍に高まり,この手法の有用性が確かめられた。一方,本種が高密度に生息する化女沼では誘引効果が確認されず,誘引効果が生じる条件に生息密度が関与する可能性が示唆された。

日水誌,76(5), 913-919 (2010)

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三重県加茂川におけるウグイの降海時期と降海時の体長

石崎大介,淀 太我,吉岡 基(三重大院生資)

 三重県加茂川において,ウグイの降海時期を産卵場である淡水域と下流の汽水域での出現状況の周年変動を定期的に比較することにより把握した。繁殖時に数日のみ出現する産卵親魚以外に採捕された個体は当歳魚と 1 歳魚のみであり,両者は共に春から夏に汽水域に出現し,同時期に淡水域での 1 分あたりの採捕個体数が減少した。このことから,本河川のウグイは主に当歳と 1 歳の春から夏に降海すると考えられた。また,汽水域に出現し,耳石微量元素分析により降海直後と判断された個体の体長から,降海時の体長は 12〜106 mm と考えられた。

日水誌,76(5), 920-925 (2010)

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ミトコンドリア DNA のチトクローム b 塩基配列および形態から見た日本に分布するマシジミ,タイワンシジミの類縁関係

山田充哉,石橋 亮,河村功一,
古丸 明(三重大院生資)

 日本に分布するマシジミとタイワンシジミの類縁関係を明らかにするため,形態,両種の倍数性,mtDNA の配列情報を分析した。殻色によりマシジミ,タイワンシジミ黄色型及び緑色型に識別したところ,何れにおいても 2 倍体と 3 倍体が確認された。mtDNA のチトクローム b 塩基配列に基づく系統樹では 2 クレードが確認されたが,形態,倍数性の何れとも対応しなかった。また,両種に共通するハプロタイプが認められた。従って,両種は遺伝的に識別不可能であり,別種として扱うかどうかについては再検討が必要と考えられる。

日水誌,76(5), 926-932 (2010)

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培養実験における養殖用飼料と魚糞の好気及び嫌気条件下での分解速度

坂見知子(東北水研),
阿保勝之,高志利宣(水研セ養殖研)

 養殖用飼料とそれを与えたマダイの糞について海水中での分解実験を行い,易分解性,難分解性成分の分解速度定数(k1, k2)と含有率を求めた。飼料の k1 は好気,嫌気条件下でそれぞれ 0.28, 0.16 day−1, k2 は 0.008, 0.005 day−1 となった。糞では好気条件下の k1 を除き飼料と同程度の値であった。また易分解性成分の含有率が,飼料では好気,嫌気条件下でそれぞれ 88, 80% であったのに対し,糞は 67, 39% と小さく海底への影響がより長く続くことが示唆された。

日水誌,76(5), 933-937 (2010)

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遊泳時のクルマエビの心拍数変化と最大持続速度

金 扶映,有元貴文(海洋大)

 小型回流水槽を用いて,クルマエビの遊泳耐久時間と心拍数変化を測定し,2 時間以上遊泳を持続できる速度として 23.9 cm/s の値を得た。遊泳前 10 分間の心電図測定で求めた平常時心拍数は個体による変化が大きく,毎分 90〜100 回をピークとする多くの例に対して,それよりもはるかに低いものと,100 回以上となる 3 つのグループに分類できた。流れに向かって遊泳を開始すると同時に心拍数は増大するが,遊泳速度との関連は確認できなかった。また,最大持続速度を超える遊泳時に心拍増加率の分散の大きくなる傾向が認められた。

日水誌,76(5), 938-945 (2010)

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低温蓄養がホタテガイ生鮮貝柱の硬化抑制に与える影響

武田忠明,秋野雅樹(網走水試),
今村琢磨(道中央水試),埜澤尚範(北大院水)

 生鮮ホタテガイ貝柱の硬化遅延技術の開発を企図し,蓄養によるホタテガイ個体のエネルギー回復が脱殻後の生鮮貝柱保存中の硬化発生に与える影響を調べるとともに,エネルギー回復に必要な効果的蓄養条件を検討した。その結果,ホタテガイ貝柱の硬化遅延には ATP 量ではなく,蓄養中のアルギニンリン酸量の増加が密接に関係していること,また,漁獲およびその後の干出により失われたアルギニンリン酸を回復させるには,漁獲直後のホタテガイを低水温かつ十分に酸素を供給し,20 時間程度蓄養する必要があることが分かった。

日水誌,76(5), 946-952 (2010)

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