日本水産学会誌掲載報文要旨

日本,韓国,中国産シジミ類の mtDNA16S rDNA 塩基配列分析による判別

古丸 明,堀 寿子,柳瀬泰宏,尾之内健次,
加藤 武,石橋 亮,河村功一(三重大院生資),
小林正裕(水研セ西海区水研),西田 睦(東大海洋研)

シジミ属(Corbicula)の種判別を目的とし,日本,中国,朝鮮半島産 4 種(C. japonica, C. fluminea, C. largillierti, C. leana)と不明種 (C. sp.) mtDNA16S rDNA の配列(437 bp)を比較した。ヤマトシジミ C. japonica と淡水産シジミ類間の塩基置換率は平均 5.98%(5.26-6.41%)で判別は容易であった。日本産と朝鮮半島産ヤマトシジミ間の置換率は低かった(0-1.14%)が,ハプロタイプ頻度の相違から産地判別は可能であった。

日水誌,76(4), 621-629 (2010)

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エチゼンクラゲ Nemopilema nomurai の硬さの部位別および時期別変化について

岩谷芳自,家接直人,前田英章(福井水試),
井口直樹,広瀬美由紀(水研セ日水研),
松下吉樹(長大水)

 エチゼンクラゲ Nemopilema nomurai(以後,大型クラゲと記す)の裁断駆除に必要な力を明らかにするために,2007 年 11 月から翌年 1 月に福井県美浜町に入網した大型クラゲ計 40 個体を船の甲板に引き揚げ,傘径および果実硬度計を用いて,傘頂,傘縁および傘頂と傘縁の中間(以後,傘中と記す)の硬さを測定した。傘径と硬さには相関がなく,上傘および下傘の傘縁で差が認められなかった。時期にかかわらず傘中の硬さが,他の部位より有意に低かった。また,12 月以降の傘縁の硬さは,約 50 N/cm2 から約 80 N/cm2 に有意に高くなることが分かった。

日水誌,76(4), 630-636 (2010)

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アリザリン・コンプレクソンを用いたニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の耳石への多重標識装着条件と放流サイズの推定方法

藤原公一(滋賀水試,海洋大),臼杵崇広(滋賀水試),
根本守仁(滋賀水試),北田修一(海洋大)

 ニゴロブナの種苗放流技術開発に必要な耳石への ALC 標識を検討した。発眼期の卵とふ化 5 日目以降の魚に 4 日以上の間隔で標識すると,その回数に応じて明確に識別できる多重標識が付き,その組合せで多種類の標識が可能であった。5 重標識は放流魚の成長と生残に影響を与えなかった。放流時に最終標識し,再捕魚のその標識サイズを測定すれば,放流群毎の標準体長 SL mm と耳石長 OL mm の一次回帰式または SL=33.9 OL+521 OL/D+21.2/D−2.69(D:放流時の日齢)から,精度良く放流時の体長が推定できた。

日水誌,76(4), 637-645 (2010)

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北海道標津町地域 HACCP の取組みによる地域経済への波及効果の評価

石井 馨(水産庁防災漁村課),
横山 純(北海道開発局函館開発建設部),
熊谷純郎(北海道標津町),
古屋温美,吉水 守(北大院水)

 本研究の目的は,標津町の地域 HACCP による地域への経済波及効果を定量的に評価するものである。研究手法として,関係者へのヒアリングによる地域 HACCP 導入の効果の把握,定量的効果を把握する対象としては標津産サケの価格差,およびエコツーリズムの売上変化額の推定とし,経済波及効果の算定と評価を行う。地域への HACCP 導入の経済波及効果 130 百万円,GDP 増加 55 百万円となったが,その増加率は,標津産サケの価格差よりもエコツーリズム振興によるものが大きかった。

日水誌,76(4), 646-651 (2010)

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北海道千歳川に遡上するサクラマス産卵親魚の由来と移動様式

今井 智,大本謙一,高橋昌也,宮本幸太,
小野郁夫,大熊一正(水研セさけますセ)

 人工ふ化放流が実施されている北海道千歳川において産卵するサクラマス親魚の由来と移動様式を調査した。耳石温度標識および鰭切除標識の確認の結果,上流部において自然産卵をおこなった親魚はすべて野生魚であった。一方,捕獲施設において採捕された親魚は野生魚と放流魚の双方が確認された。潜水目視観察の結果,野生魚は,7 月から 8 月中に遡上限界であるダム直下の淵に集まり,産卵期が近づくとダム下流域の産卵場へ移動するものと推定された。また,産卵期は 10 月上旬から 11 月上旬にかけての期間であると推定された。

日水誌,76(4), 652-657 (2010)

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サイドスキャンソナーを用いた中層トロールのサンマに対する採集効率の推定

納谷美也子,上野康弘(水研セ東北水研),
毛利隆志(函館市),大島和浩(水研セ遠洋水研),
渡部俊広,藤田 薫(水研セ水工研),
伊藤喜代志,岩崎和治,松尾康也
(環境シミュレーション研),
伊藤 寛,清水勇一(岩手水技セ)

 サンマ資源量の推定精度の向上のためには,調査漁具である中層トロールの採集効率の推定精度を高めることが重要である。2005 および 2006 年 10 月に岩手県沖のサンマ漁場において,サイドスキャンソナーを用いた音響調査と中層トロール網(ニチモウ NST-99 型)による漁獲試験を同時に実施した。サイドスキャンソナーの画像解析から推定した単位面積当たりのサンマの分布尾数とトロール網による掃海面積当りのサンマ採集尾数の比較結果から,採集効率を 0.179(現行は 0.144)と推定した。

日水誌,76(4), 658-669 (2010)

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琵琶湖産アユにおける河川への遡上開始日と遡上尾数の予測

酒井明久(滋賀水試)

 琵琶湖に流入する安曇川におけるアユの遡上開始日および遡上尾数の変動と遡上期直前のアユの資源尾数と平均体長,プランクトン量,湖水温および遡上期降水量との関係を調べた。重回帰分析により,遡上開始日の変動には資源尾数,平均体長,プランクトン量および湖水温が,遡上尾数の変動には資源尾数,平均体長,プランクトン量および降水量がそれぞれ影響していることが判明した。説明変数から遡上期降水量を除いても有意な重回帰式が導かれ,これらの関係式からアユの河川への遡上開始日と遡上尾数を予測できると考えられた。

日水誌,76(4), 670-677 (2010)

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ユズ果汁添加飼料を給与したブリにおける血合筋の褐変抑制と筋肉中からのユズ香気成分の検出

深田陽久,橋口智美,柏木丈拡,妹尾歩美,
高桑史明,森岡克司,沢村正義,益本俊郎(高知大農)

 養殖ブリの高付加価値化を目的として下記の試験を行った。試験 1 ではユズ果汁をブリ飼料に添加することによって血合筋の褐変を抑制できるか検討した。飼料 1 kg にユズ果汁を段階的に添加し,ブリ幼魚に 40 日間給与した。ユズ果汁の添加によって,成長を損なう事無く,血合筋の褐変が抑制されていた。試験 2 としてユズ果汁を添加した飼料を 30 日間与えたブリの筋肉中からユズ香気成分の検出と同定を行い,香りの成分が果汁を添加した飼料より移行し,蓄積されたことを明らかにした。

日水誌,76(4), 678-685 (2010)

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イワシクジラ骨格筋ミオグロビンの生化学的および熱力学的性状

落合芳博(東大院農),
渡辺良明,内田直行(日大生物資源),
小澤秀夫,渡部終五(東大院農)

 イワシクジラ骨格筋から,硫安分画とカラムクロマトグラフィーによりミオグロビン(Mb)を精製し,諸性状を調べた。25℃, pH 7.0 における自動酸化速度は 0.04 h−1 であった。pH 7.0 における円二色性の温度依存性から本 Mb の折りたたみにおける見かけの自由エネルギーは−12.6 kJ/mol,転移温度は 64.1℃ と算定された。示差走査熱量分析により 81.8℃ で大きな構造変化が起こることが示唆された。本 Mb の構造特性について相同性モデリングによる検討も併せて行った。

日水誌,76(4), 686-694 (2010)

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クロマグロで発生したヤケ肉における肉質の変化および水溶性タンパク質の変性

落合芳博(東大院農)

 ヤケ肉は変色(白化)や保水性の低下などを伴う異常肉で,マグロ類等で天然,養殖を問わず,夏季に発生が集中する。ヤケ肉の発生機構を明らかにするために,天然および養殖クロマグロの正常個体とヤケが発生した個体につき,普通筋および血合筋における肉質(メト化率,色調など)の相違および水溶性タンパク質成分の変化を調べた。その結果,ヤケ肉では成分の重合や分解が生じ,クレアチンキナーゼなど複数成分の消失が認められた。溶解度や熱分析の結果から,ミオグロビンの変性度合は小さく,変色には大きく関与しないと考えられた。

日水誌,76(4), 695-704 (2010)

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リアルタイム PCR を用いた実験感染アユにおける Flavobacterium psychrophilum の排菌量の推定(短報)

大原健一,景山哲史,桑田知宣(岐阜県河川環境研),
海野徹也,古澤修一(広大生物圏科)

 アユの冷水病菌の排菌量についてリアルタイム PCR(R-PCR)を用いて推定した。2.1×104 CFU/fish の冷水病菌を接種したアユを個体別に飼育した。試験開始の翌日から小型水槽に取り上げ,10 分間静置した後,そこから 50 mL の水を採取した。採取した水から DNA を抽出し,R-PCR を行った。4 日後以降はすべての個体から排菌が確認され,11 日後にすべての個体が死亡した。推定された排菌量は死亡の 2〜4 日前から徐々に増加した。また,死亡日以前よりも死亡後に有意に増加し,死亡後は高い水準で維持された。

日水誌,76(4), 705-707 (2010)

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