日本水産学会誌掲載報文要旨

まぐろ延縄漁業における混獲回避技術(総説)

清田雅史,横田耕介(水研セ遠洋水研)

 まぐろ延縄漁業におけるサメ,海鳥,海亀等の混獲回避技術を作用機構に基づき分類・解説する。延縄漁業において非漁獲対象生物が混獲され死亡に至る過程は共通しており,通常は 1)漁業と混獲生物の時空間的分布が重複する;2)混獲生物が釣餌もしくは漁獲物の存在を知覚し接近する;3)漁具と接触する;4)釣針に掛かるか漁具に絡まる;5)死亡する,という段階を経る。種々の回避技術は,この一連の過程を遮断することによって混獲生物と漁具の干渉を回避し,死亡を抑制するものであり,複数の方法の併用によって効果が高まる。

日水誌,76(3), 348-361 (2010)

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北海道東部太平洋域におけるトドハダカ Diaphus theta の音響生物量推定

安間洋樹,宮下和士(北大フィールド科セ),
大島達樹(水研セ開発セ),
本田 聡(水研セ中央水研),青木一郎(東大院農)

 北海道東部太平洋海域において,2000 年冬期に計量魚群探知機により得られた音響データを用い,トドハダカ Diaphus theta の昼夜のエコーグラム観察とバイオマスの推定を行った。日中,トドハダカによる魚群反応は,水深 300 m 以上の陸棚縁辺付近で出現し,深度 250 m 以深で明瞭な帯状を呈していた。一方夜間においては,魚群は鉛直的に分散し,50 m 以浅の表層域まで達していた。調査海域(2,083 km2)における平均密度は 17.3 g/m2,総バイオマスは約 3.6 万トンと推定された。

日水誌,76(3), 362-369 (2010)

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河川放流した養殖アマゴ成熟親魚の産卵床立地条件と卵の発眼率

德原哲也,岸 大弼,原  徹,熊崎 博(岐阜河環研)

成熟したアマゴ親魚を河川に放流し,自発産卵させることによる増殖手法(親魚放流)の可能性を検討した。放流個体は産卵行動を行い,形成された産卵床の立地条件(河床形態,水深,流速,礫サイズ組成)は既往の野生個体のものとほぼ同様であり,放流個体が正常に産卵できることが示唆された。また,発眼率は平均 90.6% と良好であった。親魚放流は,発眼卵放流で問題になっている卵埋設場所選定の際の人的過誤を回避することができるため有用であると考えられた。

日水誌,76(3), 370-374 (2010)

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紅藻スサビノリの光合成色素と葉緑体微細構造における栄養欠乏応答

植木知佳(北大院水),村上明男(神大内海域セ),
加藤敏朗(新日鐵先端研),嵯峨直恆(北大院水),
本村泰三(北大フィールド科セ)

 スサビノリの「色落ち」の実態を解明するため,顕微分光分析と電子顕微鏡観察を行った。窒素,リン,鉄を除いた培地で色落ちさせた藻体について光合成色素量と葉緑体微細構造の変化を解析した。光合成色素(クロロフィルとフィコビリン)の減少は,欠乏させた栄養素ごとに異なるパターンを示した。色素含量の低下に伴い,葉緑体の縮小と液胞の膨潤が確認された。チラコイド膜やフィコビリソームなどの葉緑体微細構造の変化も見出された。これらの知見に基づき,栄養飢餓がスサビノリの細胞構造と光合成系に与える影響について考察する。

日水誌,76(3), 375-382 (2010)

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知床半島ルシャ川におけるカラフトマス Oncorhynchus gorbuscha の産卵遡上動態評価

横山雄哉,越野陽介(北大院水),
宮本幸太(水研セさけますセ),
工藤秀明(北大院水),北田修一(海洋大),
帰山雅秀(北大院水)

 サケ属魚類は,海洋起源物質を輸送することにより陸域生態系へ影響を及ぼすが,その影響の定量評価には正確な遡上数の把握が基本となる。本報では,知床半島ルシャ川におけるカラフトマスの詳細な産卵遡上動態を,目視カウントを基本に AUC 法により評価した。その結果,遡上数はほぼ妥当な推定結果となったが,産卵床数は遡上数および産卵可能面積に比し著しく少なかった。

日水誌,76(3), 383-391 (2010)

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マサバへしこの製造過程における呈味成分の生成に及ぼす熟成温度と食塩含量の影響

小坂康之,木下由佳,大泉 徹,
赤羽義章(福井県大海洋生物資源)

 マサバへしこの製造過程における生菌数(VC)の変化と乳酸(LA),遊離アミノ酸(FAA)および酸可溶性ペプチド(ASP)の生成に及ぼす温度と食塩含量の影響を検討した。温度の上昇は,熟成中の VC の変化にほとんど影響を及ぼさず,LA をわずかに増加させたが,FAA と ASP を温度依存的に大きく増加させた。一方,食塩含量の減少により,VC と LA は大幅に増加したが,FAA と ASP の増加度合いは小さかった。これらのことから,FAA と ASP は,微生物の増殖に依存する LA とは異なる機序で生成することが示唆された。

日水誌,76(3), 392-398 (2010)

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