日本水産学会誌掲載報文要旨

絶滅のおそれのある日本産淡水魚の生態的特性の解明

棗田孝晴(千葉科学大危機管理),
鶴田哲也,井口恵一朗(水研セ中央水研)

 本研究は,環境省レッドリスト(2007)に記載された絶滅のおそれのある汽水・淡水魚類 226 種と非該当種 132 種を対象とし,生息場所,体サイズ,食性などの 20 変数に着目して,国内広域分布種から絶滅危惧種へと移行した魚種の生態的特性の抽出を試みた。国内広域分布種 109 種のうち 41 種(37.6%)が絶滅のおそれのある種としてリストアップされていた。ロジスティック回帰分析の結果,人間活動における各魚種への干渉や馴染みの程度を示す,人間との距離が,普通種から絶滅危惧種への移行予測に有効であることが示された。

日水誌,76(2), 169-184 (2010)

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エゾアワビの化学感覚と摂食行動

内田浩太郎,川村軍蔵,加世堂照男,尾上敏幸,
Miguel Vazquez Archdale(鹿大水)

 エゾアワビの吻と触角の化学受容器を光学顕微鏡と走査電子顕微鏡で観察した。吻には化学受容器と思われる“味蕾様”の器官が高密度に認められた。頭部触角,上足触角および外套触角のいずれにも先端に繊毛をもつ乳頭突起で覆われていて,これらの触角にマコンブ片を接触させた時のみエゾアワビは補食反応を示した。水槽実験で供試個体はマコンブの匂いによって索餌行動が解発されたが匂源に誘引されなかった。これらより,エゾアワビは触角と吻による味覚と嗅検器による嗅覚をもつが,嗅検器は匂源検出器でないと結論された。

日水誌,76(2), 185-191 (2010)

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1986〜1991 年における東シナ海および黄海の底棲性魚類組成

山本圭介(水研セ瀬水研),
時村宗春(水研セ日水研),
塚本洋一(水研セ西海水研),
銭谷 弘(水研セ瀬水研)

 東シナ海および黄海の沖合域の底棲性魚類組成の季節変化を明らかにするため,1986〜1991 年の間に 5 回の着底トロール調査を行った。5 回の調査の総出現種数は 26 目 121 科 334 種であり,最優占種はカタクチイワシであった。底層水温は秋季に高く,春夏季と冬季に低く,底層塩分は春夏期と冬季に高く,秋季に低かった。出現種数,種多様度,調査点別出現種数と調査点別生物量の中央値は秋季(10〜12 月)に最高値を示した。調査点別出現種数の水平分布はすべての季節で東シナ海南部で多く,北に向かって減少した。

日水誌,76(2), 192-203 (2010)

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ホタテガイ中腸腺を含む加工残渣からの亜臨界水処理によるカドミウム分離

梅木千真(共生資源研,東北大院環境科学),
吉井盛詞,齋藤真敏,今間典子,徳田昌則(共生資源研)

 ホタテガイ中腸腺(ウロ)に含まれるカドミウム(Cd)の分離除去方法として,亜臨界水処理法の確立を図った。ウロを含む試料を亜臨界水処理し,液相と固相に分離した試料について,それぞれ ICP 測定を行い Cd 濃度を定量した。

 150℃ 以上の処理を行なうと,液相中の Cd 濃度は,4 倍希釈試料において 1 mass ppm 以下に低下し,Cd は固相へ濃縮した。本現象は処理温度及び試料の pH に強く依存し,pH 4.5 が最適であった。処理温度の上昇に従って Cd が濃縮した固相重量は減じ,200℃ 処理を行なった場合には,原料湿重量に対して 20 mass% 以下となった。

日水誌,76(2), 204-209 (2010)

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バナメイエビ Litopenaeus vannamei に対する気泡幕の忌避効果に関する基礎的研究(短報)

松田圭史(国際農研セ),
野原節雄,野村武史(アイ・エム・ティー),
マーシー・ワイルダー(国際農研セ)

 600 L 水槽に網地と気泡幕を設置して,バナメイエビに対する忌避効果を調べた。気泡管 1 穴当たりの空気流量を 0, 0.6, 0.96, 1.14 L/min と変化させた。網に 1 分以上取り付く行動を Stay, 1 分以下を Touch として 5 分間の積算個体数を測定した。気泡幕無しでは Stay が観察されたが,有りの場合いずれの流量でも 7 日間に渡り Stay が観察されなかった。Touch の 7 日間の平均積算尾数はそれぞれの流量において 7.9, 2.5, 1.6, 0.5 尾/日となった。

日水誌,76(2), 210-212 (2010)

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琵琶湖流入河川におけるビワマスの産卵床分布(短報)

尾田昌紀(鳥取県公園自然課)

 琵琶湖の固有亜種であるビワマスは水産重要種であるため古くから種苗放流が行われているが,自然産卵の実態については明らかではない。ビワマスの産卵実態を把握するために,2008 年の産卵盛期に姉川を始めとする 10 河川において産卵床の分布調査を実施した。産卵床は姉川で最も多く確認され,次いで安曇川,芹川,石田川の順に多かった。いずれの河川においても,産卵親魚の遡上範囲は河川横断工作物や瀬切れによる遡上障害のため河川の中下流域に限られていた。

日水誌,76(2), 213-215 (2010)

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