日本水産学会誌掲載報文要旨

東シナ海産クロエソ Saurida umeyoshii の成熟と産卵

酒井 猛(水研セ西海水研),
米田道夫(水研セ中央水研),
時村宗春(水研セ西海水研),
堀川博史(水研セ中央水研),松山倫也(九大院農)

 1998 年 4 月〜2000 年 4 月に東シナ海で得られたクロエソ Saurida umeyoshii について,性成熟,生殖年周期,バッチ産卵数を推定した。最小成熟尾叉長は雄 180 mm,雌 228 mm であった。胚胞移動期もしくは成熟期の卵を持つ雌は 4〜12 月に出現し,特に 6〜9 月に高頻度で出現した。時間帯別の卵母細胞の発達段階と排卵後濾胞の出現状況から,排卵は夕方から夜にかけて起こり,また産卵盛期には連日産卵されることが示唆された。バッチ産卵数(BF 粒)と尾叉長(FL)の関係は以下の式で示された。
  BF=(1.70×10−8)FL4.88 (278≤FL≤421)

日水誌,76(1), 1-9 (2010)

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周防灘の中津地先におけるナルトビエイの DeLury 法による来遊尾数と漁具能率の推定

福田祐一(大分水試),銭谷 弘(水研セ瀬水研)

 2007 年,2008 年に周防灘の中津地先に来遊したナルトビエイの来遊尾数(N0)と刺し網の漁具能率(q)を DeLury 法により推定した。両年とも性比の時系列変化から雄主体の群れが来遊した後,雌主体の群れが来遊するパターンが示唆されたことから,前後期に分けて N0, q を推定した。N0, q の値は各々 2007 年前期は 8,338 尾,0.0133 日−1−1,後期は 5,616 尾,0.0169 日−1−1,2008 年前期は 2,585 尾,0.0163 日−1−1,後期は 7,901 尾,0.0055 日−1−1 であった。

日水誌,76(1), 10-19 (2010)

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北海道産カラフトマスの形態変異

下田和孝,神力義仁,春日井潔,星野 昇(道孵化場)

 2005 年および 2006 年に北海道の 9 河川に遡上したカラフトマスの形数形質について,河川間変異と回帰年間変異を解析した。クラスター分析と判別分析の結果からは,河川間よりも回帰年間で計数形質の変異が大きいことが示された。形質毎にみると,背鰭条数,臀鰭条数および脊椎骨数については回帰年間の変異が大きい一方,胸鰭条数と鰓耙数については河川間変異のみが検出された。主成分分析によって,2006 年回帰群は 2005 年回帰群よりも背鰭条数,臀鰭条数および脊椎骨数が多いという特徴を有することが明らかになった。

日水誌,76(1), 20-25 (2010)

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水産エコラベル製品に対する消費者の潜在的需要の推定

大石卓史,大南絢一,田村典江(アミタ持続可能経済研),
八木信行(東大院農)

 本稿では,水産エコラベル製品に対するわが国の消費者の潜在的需要を明らかにする。東京都内ならびに大阪府内の一般住民を対象とした郵送アンケート調査から得られたデータを用いてコンジョイント分析を行ったところ,国内産ラベルや水産エコラベルつきの水産物ほど選択確率が高くなるといった結果が得られた。また,「エコラベル」に対する限界支払意思額は,「国内産」に対する限界支払意思額に次いで高い値を示した。これらの結果から,水産エコラベル製品を支持する消費者がわが国にも一定程度存在することが示唆される。

日水誌,76(1), 26-33 (2010)

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八代海における植物プランクトンの増殖に与える水温,塩分および光強度の影響

紫加田知幸(熊本県大環境共生),
櫻田清成(熊本水研セ),
城本祐助,生地 暢(熊本県大環境共生),
吉田 誠(佐賀大有明海プロジェクト),
大和田紘一(熊本県大環境共生)

 室内において,八代海における主要な植物プランクトンの異なる水温,塩分および光強度条件下における増殖特性を調べ,現場において各種の動態とそれらの環境条件との関係を調査した。水温および塩分に対する増殖応答特性は種によって異なっていたが,増殖のために要求する光強度はいずれの種でも大差なく,ほとんどの供試生物の増殖速度は 80 μmol m−2 s−1 で飽和した。現場における季節的な種変遷パターンは水温および塩分の変化と,短期的な動態は水中光の強度の変化と同調していた。

日水誌,76(1), 34-45 (2010)

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アカアマダイに対する鯛縄針とムツ針の選択性曲線の比較

山下秀幸,越智洋介(水研セ開発セ),
塩出大輔,東海 正(海洋大)

 東シナ海のアカアマダイ延縄漁業では形状の異なる鯛縄針とムツ針が用いられる。釣針の形状によって選択性が異なる可能性があり,選択性による小型魚保護のためには各釣針の選択性を評価しておく必要がある。本研究では,4 種類の大きさの鯛縄針とムツ針を用いた比較操業実験から,アカアマダイの上顎長を釣針幅で標準化した選択性曲線マスターカーブのパラメータを SELECT 法で決定した。AIC によるモデル選択の結果,鯛縄針の釣針幅とムツ針の短針幅を用いることで二つの釣針の選択性曲線を一つのマスターカーブで表せた。

日水誌,76(1), 46-53 (2010)

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冬季の三陸沖陸棚斜面におけるイシイルカの餌選択性

岡本亮介(海洋大),大泉 宏(東海大海洋),
内川和久(水研セ水工研),
伊藤正木(水研セ東北水研),
岩﨑俊秀(水研セ遠洋水研),加藤秀弘(海洋大)

 冬季の三陸沖陸棚斜面域におけるイシイルカの胃内容物組成とトロール調査で得られた漁獲物組成の比較を行った。胃内容物分析の結果,餌生物の大半が中層性マイクロネクトンであり,日中にも摂餌を行うことが示唆された。日中の着底トロール調査において,重量組成で優占したタラ科魚類は,イシイルカの胃内容物から出現せず,イシイルカの主要餌生物が日周鉛直移動種のトドハダカやホタルイカであったことから,日中には底層に分布するエネルギー含有量の高いトドハダカやホタルイカを,選択的に摂餌することが示唆された。

日水誌,76(1), 54-61 (2010)

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漁港で利用される海水の細菌学的調査

横山 純(水産庁,北大院水),
笠井久会,森 里美(北大院水),
林 浩志(漁港漁場漁村技研),
吉水 守(北大院水)

 漁獲から加工場に至る水産物の衛生管理・品質向上を図るうえで,漁港で利用されている海水の実態の把握が重要であり,港内海水の水質,一般生菌数および食中毒菌の生菌数を調査した。調査した羅臼・標津・由比・博多の各漁港の港内海水の水質項目のうち,SS と COD 値は総じて水産用水基準値を上回る結果となった。漁港内海水から大腸菌群・大腸菌が検出され,由比・博多では Vibrio parahaemolyticus が分離された。市場の殺菌海水あるいは海洋深層水からは大腸菌は分離されず,洗浄による除菌効果も認められた。

日水誌,76(1), 62-67 (2010)

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特定外来生物チャネルキャットフィッシュに捕食される魚類(短報)

荒山和則(茨城内水試)

 漁獲物中のキャットフィッシュでみられるワカサギ等の飽食現象を解釈することと,本種に捕食される魚類の特徴を明確にするために飼育実験を行った。実験には体長 24.5〜31.0 cm のキャットフィッシュを 3 個体用いた。被食魚には底生生物としてテナガエビとヌマチチブ,遊泳魚としてタイリクバラタナゴを供した。実験の結果,捕食されやすいのはテナガエビやヌマチチブのような底生生物であると考えられた。ワカサギ等の飽食現象は,漁網に入網したそれらをキャットフィッシュが漁網内で飽食したための可能性が高いと考えられた。

日水誌,76(1), 68-70 (2010)

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