日本水産学会誌掲載報文要旨

加速度データロガーによる飼育下キタオットセイの遊泳・捕食行動記録の検証

岩田高志(総合研究大学院大学),
三谷曜子(極地研・JSPS),
米崎史郎(水研セ遠洋水研),
香山 薫(伊豆三津シーパラダイス),
高橋晃周(極地研・総合研究大学院大)

 本研究では,動物の行動を加速度記録から再現できるかどうか評価することを目的に,飼育下のキタオットセイに加速度データロガーを装着して得られた記録と,ビデオ記録による動物の動きを照合した。この結果,加速度記録から前ヒレの打ち下ろし(ストローク)の 93% を抽出することができ,餌追跡や捕食時には遊泳速度の上昇や,大きな体軸角度の変化,高いストローク頻度が記録できた。これらの知見を野生のアシカ類から得られた行動データに応用することで,遊泳コストの見積もり,餌追跡や捕食の回数を計測することができると考えられる。

日水誌,75(6), 989-994 (2009)

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カンパチ仔魚の生残,成長,摂餌および鰾の開腔に及ぼす光周期と水温の影響

平田喜郎,浜崎活幸,今井彰彦(海洋大),
照屋和久,岩崎隆志,浜田和久,
虫明敬一(水研セ養殖研)

 光周期と水温がカンパチ仔魚の生残,成長,摂餌および鰾の開腔に及ぼす影響を調べた。仔魚を明期(L):暗期(D)の時間が 0L: 24D, 12L: 12D, 18L: 6D, 24L: 0D の条件で,また水温が 22,24,26,28℃ の条件で,500 L 水槽を用いて 8〜14 日齢まで飼育した。その結果,仔魚は暗黒下では摂餌・成長せず,8 日齢で全滅した。日長(12〜24 時間明期)と水温は仔魚の摂餌と開腔率に影響しなかったが,生残と成長は 18 時間明期で,生残は 22℃ で最良であった。

日水誌,75(6), 995-1003 (2009)

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ズワイガニ幼生の生残と脱皮・成長に及ぼす n-3 高度不飽和脂肪酸の影響

小金隆之(水研セ小浜セ),團 重樹(水研セ玉野セ),
浜崎活幸(海洋大)

 n-3 高度不飽和脂肪酸(n-3HUFA)含量と DHA/EPA 比が異なる L 型ワムシをゾエア幼生に給餌し,メガロパには無強化のアルテミアを給餌して第 1 齢稚ガニまで飼育した。n-3HUFA 強化ワムシを給餌した場合,稚ガニまでの生残率と成長は改善されるとともに,メガロパから稚ガニへの脱皮異常率は低くなった。ワムシの脂肪酸含量および組成と生残率の関係から,ゾエア幼生に給餌するワムシ中の適正な n-3HUFA 含量は 2.3 g/100 g(乾燥重量基準),その含量での適正な DHA/EPA 比は 1.5 程度であると判断された。

日水誌,75(6), 1004-1010 (2009)

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深層水中における各種生分解性繊維の分解と分解微生物の単離

関口峻允,戎井 章(海洋大),
野村幸司(富山水試),
渡部俊広(水研セ水工研),
榎 牧子,兼廣春之(海洋大)

 脂肪族ポリエステル系繊維と天然繊維について,鳥取県沖深度 2000 m の海底及び富山湾深層水(深度 321 m)中で浸漬試験を行い,これらの繊維の深海中における生分解性について評価した。約 1 年間浸漬した結果,すべての繊維で強度低下が確認され,繊維の表面には微生物による分解痕が多数確認された。これらの結果から,深海でも繊維が分解されることが確認された。さらに,深層水中から Pseudomonas 属に属する 2 株の PCL 分解微生物を単離した。単離した PCL 分解微生物は低温下でも増殖し,PCL 分解活性を示した。

日水誌,75(6), 1011-1018 (2009)

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日本海佐渡島羽茂地先の人工魚礁における超音波バイオテレメトリーを用いたマアジの行動様式

伊藤 靖,三浦 浩(漁村研),
中村憲司,吉田 司(シャトー海洋調査)

 マアジの行動様式を把握するため日本海佐渡島羽茂地先の水深 45 m に設置された人工魚礁において,超音波バイオテレメトリー(V9P-1H, VEMCO 社製)を全長 30 cm のマアジへ外部装着し,追跡を行った。追跡は 2008 年 6〜7 月の間に 1 尾ずつ 7 回行った。マアジは日中には人工魚礁や天然礁の天端から高さ 10 m 程度に留まり,夜間は水深 5〜10 m の表層を遊泳しながら礁から離脱し,早朝,礁に移動し,日中,礁に蝟集するといった明確な日周行動を示した。

日水誌,75(6), 1019-1026 (2009)

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伊勢湾東部沿岸サガラメ群落における年間純生産量と炭素・窒素の年間吸収量

蒲原 聡,服部克也,原田靖子(愛知水試漁生研),
和久光靖(愛知水試),芝 修一(シャトー海洋調査),
倉島 彰,前川行幸(三重大),鈴木輝明(愛知水試)

 海藻はその生態特性から,二酸化炭素の吸収による地球温暖化防止や窒素の吸収による富栄養化防止などの機能があるとされている。そこで,伊勢湾東部沿岸において,2007 年 6 月から 2008 年 6 月まで,サガラメ群落の純生産量,炭素および窒素の吸収量を調べた。サガラメ側葉の年間新生数から乾燥重量ベースの年間純生産量を,側葉の炭素および窒素の含有率から炭素および窒素ベースの年間吸収量を求めた。サガラメの年間純生産量は,5.23 d.w.kg m−2y−1 であった。また,炭素,窒素の年間吸収量はそれぞれ 1.13 kgC m−2y−1 および 0.09 kgN m−2y−1 であった。

日水誌,75(6), 1027-1035 (2009)

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マガキ成貝飼育海水へ浸漬した採苗器への幼生付着率に及ぼす幼生サイズおよび餌条件の影響

平田 靖(広島総研水海技セ,広大院生物圏科),
田村義信(広島総研水海技セ),
長澤和也(広大院生物圏科)

 採苗器をマガキ成貝飼育海水で予め浸漬処理すると,マガキ幼生の付着率が高まることが知られている。本研究では,幼生のサイズあるいは餌条件が付着率に及ぼす影響を調べた。採苗器の浸漬処理の結果,平均殻高 295 μm の幼生では付着率に有意な増加は認められなかったが,平均殻高 344 μm の幼生では有意に増加した。また,24 時間の付着実験中の幼生に与える珪藻の細胞密度が 0〜10×104 cells/mL の範囲では,密度の違いによる付着率の有意差は認められなかった。

日水誌,75(6), 1036-1041 (2009)

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日本海南西海域における中層トロールと面積密度法を用いたマアジ当歳魚の現存量推定手法の開発

志村 健(鳥取水試),大下誠二(西水研),
寺門弘悦(島根水技セ),田 永軍(日水研)

 マアジは日本周辺の沿岸域に広く分布する産業重要種である。マアジ対馬暖流系群の資源量は VPA 法で推定されているが,この手法では当歳魚の資源量が推定されるのは加入から数年後であるため,当歳魚の資源評価の精度が低いという欠点がある。そこで,漁期前に中層トロールで当歳魚を採集して,面積密度法によって現存量指標値を推定する方法を開発した。マアジの分布は水塊配置によって東西や南北方向に偏った。面積密度法によって水温分布を考慮し 4 海域に区分することで,正確な現存量指標値を推定することができた。

日水誌,75(6), 1042-1050 (2009)

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マクサ栄養体の付着に適した基質

土屋実穂(海洋大),
滝尾健二,安藤和人,川辺勝俊,駒澤一朗(都島しょ総セ),
荒川久幸(海洋大)

 三宅島の荒廃したテングサ群落の再生を目的として,マクサ栄養体の付着に適した基質を検討した。(1)モルタル,フェンス,ボルト,混紡化学繊維で表面を覆ったボルトを海中に設置したところ,混紡化学繊維で覆ったボルトは,多くのマクサ栄養体を短期間で付着させ,設置一年後でもマクサが優占して着生していた。(2)マクサ栄養体の付着密度は,混紡化学繊維の基質で最も高かった。流水中における栄養体の残存率は,混紡化学繊維の基質で最も高かった。(3)混紡化学繊維へのマクサの付着は,化学繊維紐から突出する単繊維によって生起している。

日水誌,75(6), 1051-1060 (2009)

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褐藻エゾノネジモクのジガラクトシルジアシルグリセロール分子種

本田真己,鹿島晃洋,高橋是太郎,板橋 豊(北大院水)

 エゾノネジモクに存在するジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)の分子種を明らかにするために,DGDG からジアシルグリセロールを調製し,これをジニトロフェニルウレタン誘導体に変換して HPLC と MS で分析した。キラル HPLC では sn-1,2-ジアシル型であることが明らかになり,逆相 HPLC では 16 種の分子種が明瞭に分離された。逆相 HPLC/MS で得られた[RCOO] イオンを用いて各分子種が同定された。主要分子種は 20:5n-3/18:4n-3 と 20:5n-3/18:3n-3 であった。

日水誌,75(6), 1061-1069 (2009)

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12℃ または 15℃ で飼育したマガレイの形態異常に及ぼす餌料中ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸の影響(短報)

佐藤敦一(道栽水試,海洋大),
高谷義幸(道栽水試),竹内俊郎(海洋大)

 マガレイ仔魚を 12℃ または 15℃ で飼育し,形態異常に及ぼす餌料中のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の影響を調べた。実験は,D〜E ステージの仔魚に EPA または DHA エチルエステルで強化したアルテミアを給餌した後,変態完了まで市販強化剤で強化したアルテミアを全実験区に給餌した。その結果,12℃ では 15℃ と同様に,DHA の形態異常防除効果が EPA よりも高かった。また,マガレイの形態異常防除では,12℃ よりも 15℃ で飼育し,なおかつ DHA 要求性に適った給餌を行うことが効率的であると考えられた。

日水誌,75(6), 1070-1072 (2009)

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シロクラベラ Choerodon shoenleinii 人工種苗の基質選択性(短報)

名波 敦,浅見公雄,千村昌之(水研セ西海水研)

 シロクラベラ人工種苗の基質選択性を室内実験によって調べた。リュウキュウアマモの基盤(海草基盤)と枝状ミドリイシ類の基盤(サンゴ基盤)を設置し,人工種苗を 3 つのサイズクラスに分けた(10 mm TL<20 mm,20 mm≤TL<30 mm,30 mm≤TL<40 mm)。供試魚のサイズクラスの増加に伴い,海草基盤への寄り付きの度合は減少し,サンゴ基盤への寄り付きの度合は増加した。これらの寄り付きの度合はサイズクラス間で有意な差があった。以上の結果,本種の基質選択性はサイズによって変化すると考えられた。

日水誌,75(6), 1073-1075 (2009)

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