藤原邦浩,宮嶋俊明,山﨑 淳(京都海洋セ) |
丹後半島沖合において,ヤナギムシガレイの桁曳網による採集,水中ビデオカメラによる撮影を行い,本種の採集個体数と遊泳行動の昼夜における違いについて明らかにした。採集個体数は,ビデオカメラで写しだされた約 9 割の個体が海底の泥に体を潜めていた昼間に少なく,約 8 割の個体が遊泳していた夜間に多かった。この結果から,遊泳中の個体は入網しやすく,泥に潜っている個体は入網しにくいことが推察された。桁曳網調査による現存量推定において,昼間の採集結果と夜間の採集効率を用いると著しく過小評価することがわかった。
岡村明浩,山田祥朗,堀江則行,三河直美, 宇藤朋子,田中 悟(いらご研), 塚本勝巳(いらご研,東大海洋研) |
ウナギ卵の孵化と仔魚の生残,成長に及ぼす銀イオンの影響を調べた。硝酸銀の濃度 0.1 mg/L 以上で孵化率は低下したが,仔魚の生残率は 1 mg/L でも 24 時間は 0 mg/L の対照区と変わらなかった。抗菌作用は 1 mg/L 以上で認められた。最大 1 mg/L の硝酸銀を水に 1 日 4 回添加し仔魚を飼育すると,飼育槽壁面の生菌数は銀添加区で有意に低かった。しかし,飼育水中の生菌数は銀添加区も対照区も差がなかった。長期飼育では,60 日齢まで添加区の生残率は対照区より有意に高く,銀添加の効果が認められた。
熊沢泰生(ニチモウ),胡 夫祥(海洋大), 不破 茂(鹿大水),永松公明(水大校), 木下弘実(ニチモウ),東海 正(海洋大) |
オッターボードなどの拡網装置を用いたトロール漁具に対して,修正田内則に基づく拡網装置模型の面積比を用いた模型実験を行った。全長 27.44 m の中層トロール網を用いた洋上実験と 1/10 模型を用いた模型実験を実施した。オッターボード模型には,面積比 1/60 の模型Iと田内則に基づく 1/100 の模型IIの二種類を用いた。オッターボード間隔と網口高さの両方とも模型IIでは実物換算値と実測値の間に差が認められたが,模型Iではほとんど差がなかった。また,修正田内則の速度比を利用することにより,精度よく実物網の抵抗を予測できることも確かめられた。
上野岳彦(海洋大院),田中友樹,丸山 隆(海洋大) |
イワナ,ヤマメ成魚が両種稚魚の行動反応に与える影響を検証するために,小支流において行動観察実験を行った。3 カ所の実験区域に稚魚および成魚を放流し,3 つの実験設定(稚魚単独,ヤマメ成魚混生,イワナ成魚混生)において稚魚の定位点,行動圏面積,および摂餌頻度を記録した。稚魚単独時には,稚魚の定位点および行動圏は全域に分布していた。しかし,成魚混生時には稚魚の定位点は岸辺近くの浅い緩流部へと移動し,また行動圏面積と摂餌頻度は減少した。小支流では,成魚は稚魚の生息場所や摂餌頻度を変化させると考えられた。
原口浩一,山本民次(広大院生物圏科), 片山貴之(海洋建設(株)),松田 治(広大院生物圏科) |
人工魚礁に形成された食物連鎖網を通した有機物の無機化と高次捕食者への炭素フローを見積もった。魚礁にトラップされる懸濁態有機物量は,高水温期には下方に輸送される沈降有機物量に比べて,10-71 倍に大きい。これらの有機物は,マクロベントスの呼吸によって 16-61% が無機化され,魚類をはじめとした高次捕食者によって 27-72% が除去され,7-16% が海底に沈降することがわかった。低水温期には,高次生物の捕食速度が低下するため,魚礁を通した有機物除去速度は高水温期の 20-70% に低下した。
土居内 龍,吉本 洋(和歌山農水総技セ) |
紀伊半島南西岸産イサキについて,生殖腺の組織学的観察に基づき,成熟年齢,産卵期,産卵頻度の検討を行った。その結果,雌は 1 歳では全く成熟せず,2 歳から全個体が成熟し,雄は 1 歳から全個体が成熟するものと考えられた。産卵期は 5〜8 月で,盛期は 6 月と考えられた。また 3 歳以上の雌の場合,組織学的観察と GSI 値の比較から,4〜5 月に急速に卵黄蓄積が進行し,6 月に活発に産卵が繰り返されるという産卵形態が推察された。産卵頻度は 5〜8 月の各月において,それぞれ 0.17, 0.51, 0.26, 0.19 と推定された。
小磯雅彦(水研セ能登島セ),吉川雅代(長大院生産), 桑田 博(水研セ日水研),萩原篤志(長大院生産) |
ワムシの親世代の餌料の質が次世代以降の生活史特性に与える影響を調べるため,餌料条件を変えて,5 世代にわたり個体別に培養した。パン酵母のみの給餌では,第 1,第 2 世代でふ化後 24 時間での生残率が低下し,ワムシの発達時間や産卵間隔も遅延して第 3 世代で全滅した。ナンノクロロプシスのみの給餌に比べると,第 1 世代にパン酵母を,第 2 世代でナンノクロロプシスを給餌した場合,第 2 世代の生残率が 20% 以上低下し,発達時間や産卵間隔が 1.1〜1.2 倍長くなった。餌料の質は,次世代に強く影響することが明らかになった。
山本民次,笹田尚平,原口浩一(広大院生物圏科) |
カキ養殖にともなう沈降有機物の海底への負荷を低減するため,それらを中層で捕捉・分解する装置「人工中層海底」を設置した。設置後 4 ヶ月は海底堆積物の有機物量が減少した。物質収支計算を行ったところ,沈降有機物の 6〜8% が人工海底上に物理的に保持され,5〜10% がバクテリアによって分解され,その結果,直下の海底は本来の海底に比べて 6〜9% の有機負荷が軽減されたと見積もられた。しかし,4 ヶ月以降は,沈降物量が増加した。その理由として,冬季の水温低下によるバクテリアの有機物分解活性の低下,付着藻類や懸濁物食者の増加,が考えられた。
服部賢志(消費安技セ本部), 木村康晴(消費安技セ神戸), 高嶋康晴,法邑雄司(消費安技セ本部) |
日本および中国で養殖されたニホンウナギ加工品(蒲焼)の肉間骨の無機元素の定量分析を行い,産地判別を試みた。国産および中国産計 250 点の試料について ICP-MS を用いて 5 元素(Mn, Fe, Zn, Sr および Ba)を定量した。後進ステップワイズ法により選択した元素の定量値を用い,線型判別分析により産地毎に 5 つの判別関数を構築した。これらの判別関数による判別精度は 85〜94% であった。また,これらの判別関数の妥当性確認を行ったところ判別精度が 85〜93% となり,今回構築した判別関数の有効性が確認できた。
杉田治男,駒田朋之,吉原喜好(日大生物資源) |
静岡県下田市沖の海底 200 m 付近から回収したナイロンテグス表面に形成されたバイオフィルムの微生物群集を 16S rDNA 塩基配列に基づくクローンライブラリー法で調べた。2002 年 11 月および 12 月の試料には 5.2×103〜5.7×103 cells/mm2 の密度で細菌が付着しており,それらは少なくとも 8〜10 綱に属する 29〜37 種の細菌から構成されることが判明した。また 16% のクローンは海底に生息する tube worm や二枚貝に共生する細菌と近縁種の塩基配列を示した。
四方崇文(石川水総セ) |
スルメイカの性成熟に伴う外套筋の酸性プロテアーゼ活性,外套膜の厚み等の変化を調べた。雌雄とも成熟に伴って,酸性プロテアーゼ活性は上昇し,活性の高い個体ほど外套膜は萎縮して薄く,外套筋のタンパク質含量も少ない傾向にあり,タンパク質分解が外套膜の萎縮の要因であると考えられた。成熟に伴う変化を雌雄で比較した場合,外套膜の萎縮は雌で顕著であり,肝臓の萎縮は雄で顕著であった。従って,成熟時には外套膜と肝臓が生殖器官の材料やエネルギー源として利用されるが,両器官の利用バランスは雌雄で異なると考えられた。