日本水産学会誌掲載報文要旨

マハタおよびクエ仔稚魚の成長にともなう体密度の変化

平田喜郎,浜崎活幸(海洋大),
照屋和久(水研セ志布志セ),
虫明敬一(水研セ養殖研)

 マハタとクエの種苗生産で仔稚魚が沈降しやすい時期を把握するため,仔稚魚の体密度を調べた。両種ともふ化から鰭棘の伸長開始までは中性に近い浮力を示したが,棘伸長後に体密度は増大し,全長 11 mm 頃に 1.060〜1.070 g/cm3 に達して以降変化しなかった。マハタでは鰾は開腔しなかったが,クエでは全長 19 mm 頃から開腔率が高くなり,体密度は 1.024〜1.035 g/cm3 に低下した。鰭棘の伸長開始期には棘による抗力がまだ小さいことから,仔魚は体密度が増大し始めるこの時期に沈降しやすいものと考えられた。

日水誌,75(4), 652-660 (2009)

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マイワシ太平洋系群の資源評価に用いられる VPA の信頼性の検討

平松一彦(東大海洋研)

 マイワシ太平洋系群の資源評価に用いられている VPA の信頼性を,プロファイル尤度を用いた推定値の区間推定,および VPA で用いている選択率の仮定の影響を見ることにより評価・検討した。資源量推定値の信頼区間は広く,2005 年の資源量の 95% 信頼区間は 3〜55 万トンとなった。また VPA では最近年の選択率は近年 3 年間の平均的な値と仮定しているが,実際には選択率は変動しており推定値に大きな誤差が生じることが示された。資源量推定値の信頼性の向上には,資源量指数の精度の向上と選択率の仮定を用いない推定方法の開発が必要である。

日水誌,75(4), 661-665 (2009)

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魚類(ハマチ)養殖場における残餌の沈降と拡散

山田達夫(香川水試),橋本俊也(広大院生物圏科),
末永慶寛(香川大工),
一見和彦(香川大瀬戸内研セ庵治),
多田邦尚(香川大農)

 香川県引田ハマチ養殖場をモデル海域として,モイストペレット(MP),ドライペレット(DP)の餌の沈降速度を室内実験より求め,残餌等の沈降拡散範囲について数値モデルを用いて検討した。DP の残餌はほぼ生簀の直下に沈降し,環境への負荷は生簀の限られた範囲であった。これに対して,MP では残餌の 90% 以上が生簀周辺の領域に排斥され,環境への負荷は周辺の生簀を含めた広い範囲に及びことが考えられた。使用される餌が MP, DP で残餌の行方が全く異なることから,漁場環境への負荷を削減するためには,漁場にあった給餌方法を検討する必要がある。

日水誌,75(4), 666-673 (2009)

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底質の主成分分析による有明海奥部海域の区分

横山 寿,石樋由香(水研セ養殖研)

 有明海における二枚貝資源の減少に及ぼす環境要因を検討するために,有明海中央部〜奥部の 48 地点で 2007 年夏に表層堆積物とその直上水を採取した。堆積物の Mdφ, QDφ, TOC, TN, C:N 比,δ13C, δ15N および AVS に基づく主成分分析により本調査域を 4 区分した。奥部西側と諫早湾〜奥部中央の水域では堆積物の細粒化,硫化物の発生,堆積有機物への植物プランクトンの寄与と有機物量の増加および直上水の貧酸素化を確認し,植物プランクトン由来の有機物負荷が環境悪化の一因になっている可能性を指摘した。

日水誌,75(4), 674-683 (2009)

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筋細胞内エオシン陽性成分の存在状態指標(ASPC)による原料カツオのかつお節原料適性評価の可能性

吉岡立仁,神田友恵,荻野目望(にんべん),
内田直行(日大生物資源)

 漁獲場所及び方法,輸送方法が異なる 4 群 16 個体のカツオ生肉及びそれらから製造したかつおかれぶし ASPC の相関性を調べた。その結果,両者は正の相関性(相関係数 0.78)を示し,生肉 ASPC が 1.2 以上のほとんどの原料魚(90% 超)から高品質かつお節(ASPC≧1.5)が製造でき,生肉 ASPC が高品質かつお節の原料適性指標になり得ると推測された。また,漁獲から凍結までの取扱い方法は,原料適性及びかつお節品質に有意な影響を与えないこと,筋細胞内エオシン陽性凝集塊はカツオ肉の冷凍履歴の判別指標になることが示唆された。

日水誌,75(4), 684-688 (2009)

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ガンガゼ Diadema setosum 生殖腺の呈味特性

金子浩大(海洋大),白井隆明(海洋大),
田中宗彦(海洋大),亀井正志(長崎鶴洋高),
松本 仁(長崎鶴洋高),大迫一史(海洋大)

 ガンガゼの有効利用法開発の一端として,他のウニと食品としての適性の比較を行った。遊離アミノ酸組成は大きく異なり,ガンガゼの遊離甘味アミノ酸の組成比は他のウニより非常に低く,また,遊離苦味アミノ酸の組成比は高い値を示した。また,ウニの遊離アミノ酸組成に基づき調製した合成エキスを用いた官能検査の結果から,ガンガゼの呈味は甘味が弱く,苦味が強いことが明らかになった。ガンガゼが不味いと言われる原因の一つに,甘味アミノ酸の組成比が低く,苦味アミノ酸の組成比が高いことが原因であることが示唆された。

日水誌,75(4), 689-694 (2009)

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酢じめかまぼこ製造における卵白添加と坐りの影響について

阿部周司(海洋大),翁武銀(集美大生物工程学院),
田中宗彦,Kanokrat Limpisophon,大迫一史(海洋大)

 塩擂り肉を酢酸に浸漬させてゲル化させる酢じめかまぼこの製造原理に関連し,卵白添加と坐りが酢じめゲルの形成に与える影響を調べた。卵白を添加して坐り工程を経た肉糊は酢酸溶液浸漬後に強固なゲルを形成したが,卵白添加か坐りのいずれか一方が欠けると,ゲル中のミオシン重鎖(MHC)およびその多量体が分解し,ゲルは形成されなかった。これらの結果から,卵白添加と坐りが酢酸浸漬工程中のゲル中の MHC およびその多量体の分解を抑制したと考えられ,卵白添加と坐りが酢じめゲルの形成には必須であることが明らかになった。

日水誌,75(4), 695-700 (2009)

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エチゼンクラゲの遊泳速力計測(短報)

本多直人(水研セ水工研),松下吉樹(長大水)

 海中を潜行するエチゼンクラゲをスキューバ潜水により追跡し,深度変化を計測することで,遊泳速力を求めた。傘径 0.6〜1.6 m の 14 個体の遊泳速力は,最小 0.07 ms−1,最大 0.17 ms−1 であった。傘径を B とすると,遊泳速力=0.1 B s−1,一拍動あたりの推進距離=0.25 B の関係が求められた。傘径 1〜1.5 m の大型個体でも遊泳速力は約 0.1〜0.15 ms−1 となるため,対馬暖流の流軸上や強い潮流の中では,流向と逆方向への移動はできないと推測される。また,エチゼンクラゲの遊泳速力は,ほとんどの場合に漁獲対象とする魚類の遊泳速力より小さいと推測される。

日水誌,75(4), 701-703 (2009)

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京都府沖合におけるアカガレイ Hippoglossoides dubius 雌の成熟体長の小型化(短報)

藤原邦浩(京都海セ),廣瀨太郎(日水研),
宮嶋俊明,山﨑 淳(京都海セ)

 アカガレイ日本海系群資源は,1990 年代前半まで激減したが,2000 年ごろから本格的に増加し,2008 年現在,水準は中位にまで回復している。近年,本種では小さい成熟個体の存在が指摘されていたため,2008 年春季,京都府沖合の漁獲物を用いて体長と成熟率の関係を調べた。本種の 50% 成熟体長は,雌で 246 mm,雄で 169 mm であり,雌のみ過去の知見よりも小型化していた。一般には,成熟体長の小型化は資源が激減する中でみられる現象だが,本種は資源が増加傾向にあっても小型化した稀な例である。

日水誌,75(4), 704-706 (2009)

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