日本水産学会誌掲載報文要旨

中立ブイを装着した浮延縄漁具の 3 次元形状に及ぼす海中流れの影響

志賀未知瑠,塩出大輔,宮本佳則,
内田圭一,胡 夫祥,東海 正(海洋大)

 流れによる浮延縄漁具の 3 次元形状変化を,海亀混獲回避と漁獲効率向上を目的とする中立ブイを装着した場合について調べた。超音波 3 次元水中測位システムと水深計,GPS ブイを用いて漁具各部の 3 次元位置を計測すると同時に,海中の流れを ADCP で計測した。漁具全体の移動方向は流れの抵抗を大きく受ける幹縄の敷設水深の流向と一致した。枝縄のふかれ方向はその敷設水深の流向と一致した。流れが漁具の設置方向に平行な場合,幹縄の弛みは下流側に寄せられた。特に上層と下層で流れの向きが異なる場合,幹縄の形状変化は 3 次元的であった。

日水誌,75(2), 179-190 (2009)

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ニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の初期成長の場としての水田の有効性

金尾滋史(多賀町博,滋賀県大院環境),
大塚泰介,前畑政善(琵琶湖博),
鈴木規慈(三重大院生資),沢田裕一(滋賀県大環境)

 琵琶湖近傍の水田内にニゴロブナ仔魚を放流し,その後,水田内で育った仔魚,稚魚,未成魚を定期的に採集して初期成長をモデル式で解析した。その結果,水田内における日成長量(全長,体重)は,飼育下や琵琶湖植生帯におけるそれらよりも早い傾向が認められた。また,水田内での生残率は個体数密度が低い場合に高い傾向を示した。しかし,全長は 11〜24 日齢で,体重は 15〜44 日齢で日成長量が増加から減少に転じた。このことから,水田はニゴロブナのごく初期,すなわち 40 日齢程度までの成長の場として,優れた場所であると考えられる。

日水誌,75(2), 191-197 (2009)

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渓流におけるイワナ発眼卵放流由来群の生残,成長,密度および現存量

中村智幸(水研セ中央水研),土居隆秀(栃木水試)

 2005, 06 年の 1 月に,利根川水系鬼怒川支流キリズシ沢の魚類未生息域にイワナの発眼卵を放流し,ふ化率及び当歳魚の 8〜11 月の生残率,成長,密度,現存量を調査した。各年のふ化率は 93.2, 99.0%,発眼卵以降 11 月までの生残率は 5.6, 3.6%,11 月の標準体長と体重の平均値は 57.4 mm と 3.8 g, 60.3 mm と 3.8 g, 11 月の 1 m2 当たりの密度と現存量は 0.67 尾と 2.6 g, 0.48 尾と 1.8 g であった。両年ともに 1 月から 11 月にかけて,卵・個体数は指数的に減少した。

日水誌,75(2), 198-203 (2009)

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北海道周辺海域におけるスルメイカの日齢と発生時期

坂口健司(釧路水試),佐藤 充(道中央水試),
三橋正基(釧路水試),木所英昭(水研セ日水研)

 2001 年および 2002 年の 5〜11 月に北海道周辺海域で採集した 1,421 個体のスルメイカの日齢を平衡石の日周輪解析により推定し,発生時期について検討した。北海道周辺海域には 11〜12 月発生群と 2〜5 月発生群の 2 つの発生群がみられた。11〜12 月発生群は 5〜9 月に道西日本海と道南海域に来遊し,2〜5 月発生群は 8〜10 月に道東太平洋と道南海域に,10〜11 月に道西日本海と道東オホーツク海に来遊したと推定された。8〜9 月の道南海域では両発生群が混在していた。

日水誌,75(2), 204-212 (2009)

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四国産タチウオ Trichiurus japonicus とテンジクタチ T. sp.2 の形態形質比較による簡易判別法

栁川晋一(高知水試),渡邊精一(海洋大)

 四国産のタチウオとテンジクタチの形態形質比較による簡易な判別方法を検討した。肛門前長(PL(mm))と全長(TL(mm))/肛門前長比の線形判別関数 z=0.133 PL+59.6 TL/PL-207(z>0:タチウオ,z<0:テンジクタチ)による 2 種の判別方法は,既往の分類法に対し,判別精度は 98.0% であった。肥満度はテンジクタチがタチウオより高く,肥満度の範囲の差と線形判別関数を組み合わせると,判別精度は 99.6% となった。従って,この判別方法は,2 種の分類が明確になる以前の研究で,魚体測定データのみが残されているタチウオのデータ判別に適用可能であると考えられる。

日水誌,75(2), 213-218 (2009)

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生物の遭遇率向上による混獲防除装置(SURF-BRD)の種・サイズ分離の改良

梶川和武(水大校),
東海 正,胡 夫祥(海洋大)

 SURF-BRD は,角目脚長 40 mm のフロントパネル FP と菱目目合 27.5 mm のリヤパネル RP 及び 2 つの逃避口で構成され,FP と RP の遭遇率と網目選択性により種やサイズを分離する。網の構造の一部と BRD の取り付け方法の改良により,BRD 高さを従来の約 0.4 m から約 1.7 m に上昇させることができた。操業実験を実施して,BRD 高さの上昇はマエソ属やガンゾウビラメの FP への遭遇率を向上させ,より多くの個体に対してサイズ選択が機能することを明らかにした。また,小型カニ類もより多くの個体が FP に遭遇し,通過して網外へ排出され,小型エビ類の多くが FP を回避して漁獲された。

日水誌,75(2), 219-229 (2009)

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広島湾マガキ Crassostrea gigas の成長および排糞に対する養殖密度の影響

山本民次,前田 一,松田 治,
橋本俊也(広大院生物圏科)

 カキの生理を表す数値モデルを構築し,これにカキ養殖筏内外の海水交換を与え,養殖密度がカキの成長と排糞に与える影響を検討した。カキ 1 個体の生長量は養殖密度が低い方が良いが,筏 1 台あたりのカキ生産総量は 850 連 Raft−1 が最も良かった。排糞量は 1 個体あたりでは養殖密度が低い方が多かったが,筏 1 台あたりでは 950 連 Raft−1 が最大となった。今回の結果からは,底質の有機汚濁について特に考慮せず,高いカキ生産量を得るのであれば,広島湾の環境条件では 850 連 Raft−1 が最適であると結論された。

日水誌,75(2), 230-236 (2009)

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海水浸漬ウニ生殖腺の鮮度に与える酸素の影響

木下康宣(道工技セ,北大院水),
吉岡武也,宮崎俊一(道工技セ),
加藤早苗(旭川医大),今野久仁彦(北大院水)

 塩水ウニ生殖腺の貯蔵中における ATP 関連化合物の変化を追跡した。時間経過に伴い,全ヌクレオチド量に対する ATP の割合は低下し,商業的鮮度指標である海水の濁りが増加した。このことから,塩水ウニの鮮度は全ヌクレオチド量に対する ATP の割合で評価できると判断した。これを指標に酸素共存下での塩水ウニの鮮度変化を追跡したところ,酸素量が多いほど生殖腺の ATP 含量が高く保持され,外観的に海水の濁り発生が抑制された。この間微生物の増殖は認められなかった。酸素を供給した貯蔵は塩水ウニの鮮度保持に有効と結論した。

日水誌,75(2), 237-243 (2009)

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かつお節の品質指標であるエオシン陽性成分の組織化学的性質

吉岡立仁,荻野目望(にんべん),
佐々木晋一,吉田真和,内田直行(日大生物資源)

 筋細胞内のエオシン陽性成分(EPC)は,かつお節の品質指標になる。本研究ではその組織化学的性質を検討した。EPC はアクチン,ミオシン,LDH,ミオグロビン抗体陽性であり,一本釣原料節では主に筋細胞内に,まき網原料節(KPS)では筋細胞間隙に検出された。ラミニン抗体染色により筋内膜の崩壊が前者に比べ後者で多数観察された。これらの結果は,EPC の主要成分は筋形質及び筋原繊維タンパク質の一部であり,KPS での細胞内 EPC の減少は,筋内膜の崩壊による両タンパク質の細胞外への流出によることを示唆するものであった。

日水誌,75(2), 244-249 (2009)

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加熱ゲルの物性値とそのタンパク質濃度依存性から見た各種の等級のスケトウダラ冷凍すり身の加熱ゲル形成能

北上誠一,村上由里子(すり身協会),
安永廣作(水研セ中央水研),阿部洋一(カネテツ),
加藤 登(東海大海洋),新井健一(すり身協会)

 等級の異なる 10 種のスケトウダラ冷凍すり身に加水して調製した加熱ゲルの破断強度(BS),破断凹み,及びゲル剛性(Gs)とタンパク質(P)濃度の関係を解析した。そして,① BS と Gs は P 濃度に伴って指数関数的に増大,②加水しない加熱ゲルの BS と Gs の最大値はすり身の等級が上位の方が高く,③ BS vs Gs を図示すると,10 種のすり身から得た加熱ゲルの両値の間に強い正の相関があった。これらの結果は,その BS と Gs のレベルと P 濃度依存性から見積る加熱ゲル形成能が,冷凍すり身の品質要因の一として有用であることを示す。

日水誌,75(2), 250-257 (2009)

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リアルタイム PCR を用いたアユ冷水病魚における Flavobacterium psychrophilum の定量性の検討(短報)

大原健一,景山哲史,桑田知宣(岐阜河環研),
海野徹也,古澤修一(広大生物圏科),
吉浦康寿(水研セ養殖研)

 冷水病菌の PPIC 遺伝子をターゲットとし,アユの β-actin 遺伝子を内在性コントロール遺伝子に,リアルタイム PCR(R-PCR)による,冷水病発症アユ体内における冷水病菌の検出法の特異性と定量性について検討した。10 冷水病菌株および 9 同属近縁菌株について R-PCR を行った結果,冷水病菌のみから目的の増幅産物が得られた。培養法で 104 CFU/g 以上の生菌数が得られた発病アユの脾臓について R-PCR を行った結果,35 検体のうち,33 検体で増幅産物が得られた。33 検体の相対量と,培養法で得られた生菌数の回帰式は y=1.054x+20.93, R2 値は 0.916 となり,有意な相関が認められた。

日水誌,75(2), 258-260 (2009)

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海藻由来成分のインスリン様作用(短報)

友寄博子(熊本県大環境),
浅川牧夫(通宝海苔)

 糖尿病の予防と治療には,インスリンの過剰分泌抑制や感受性の改善が必要である。そこで本研究では,トサカノリ,スサビノリ,クロメのインスリン様作用を比較した。その結果,スサビノリ抽出物が最も強い抑制作用を示し,中でも分子量 1000 以下の画分が強い作用を示した。次に,ラットにグルコース負荷試験を行ったところ,この画分を尾静脈投与した場合と経口投与した場合の両方で,コントロール群に比較して血糖値が有意に低い結果を示した。従って,本研究で得られた成分は経口投与可能な抗糖尿病成分として有効であると考える。

日水誌,75(2), 261-263 (2009)

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