日本水産学会誌掲載報文要旨

フナ米の食味評価と稲田養魚への一般意識

井口恵一朗,鶴田哲也(水研セ中央水研),
高橋大輔,佐藤 哲(長野大)

 稲田養魚に対する一般意識を知るために,炊飯米の味覚官能試験を実施した。無農薬の実験田にフナ放養区と対照区を設けてコメを栽培した。アミロース,デンプン,タンパク質含有率について,フナ米と対照米の品質に大差はなかった。84 名の被験者を動員して,慣行栽培米を基準に,両試験米の食味を比較した。コメの出自を伏せた試験結果に差異は検出されず,出自を開示するとフナ米が高い評価を得た。食の安全と環境の保全に敏感な消費者は,コメとフナの双方の生産に資する稲田養魚に対して,良好なイメージを抱いていることが推測された。

日水誌,75(1), 1-5 (2009)

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エチゼンクラゲを分離排出する沖合底びき網(2 そうびき)漁具の開発

沖野 晃,村山達朗(島根水技セ),
井上喜洋(鹿大海洋研セ)

 エチゼンクラゲによる底びき網漁業被害の軽減を目的に,曳網中にエチゼンクラゲを分離排出する漁具の開発を試みた。開発した漁具は,エチゼンクラゲと漁獲物を分離し,エチゼンクラゲを排出させるための仕切網が網の身網中央部分に設置してある。エチゼンクラゲはこの仕切網に沿って転がり排出口から排出され,漁獲物は網目を抜けてコッドエンドへ到達することを想定した。模型実験では,入網させた模型クラゲはスムーズに排出され,操業試験では入網したエチゼンクラゲの約 40〜70% を排出し,漁獲物の 60% 以上を保持出来た。

日水誌,75(1), 6-18 (2009)

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鹿児島湾における海底堆積ごみの分布と実態

藤枝 繁,大富 潤,東 政能,幅野明正(鹿大水)

 鹿児島湾における海底堆積ごみの実態を明らかにすることを目的に,2003 年 5 月から 2005 年 10 月までの間,簡易型トロールネットを使用して同湾内 8 定点にて総曳網回数 118 回,総曳網面積 8.6×10−1 km2 の採集調査を行った。54,388 個,76.9 kg の海底堆積物を採集し,そのうち人工物である海底堆積ごみの割合は個数 3.7%,重量 43.4% であり,平均採集密度は 2,517 個/km2, 30.3 kg/km2 であった。海底堆積ごみは湾全域から採集され,特に湾奥部,湾中央部で密度が高く,フィルム状プラスチックが最多で全体の 49.0% を占めた。その分布は陸上植物の葉の分布と正の相関が認められた。

日水誌,75(1), 19-27 (2009)

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マガレイ仔魚の DHA 要求

佐藤敦一(道栽水試,海洋大),竹内俊郎(海洋大)

 マガレイ仔魚の生残<09-25>成長等を指標として DHA(ドコサヘキサエン酸)要求量を調べた。試験はワムシ給餌期(1〜15 日齢)とアルテミア給餌期(20〜47 日齢)に行い,餌料中の DHA 強化量を 4 段階(0〜1000 μL)に設定した。その結果,ワムシおよびアルテミア給餌期の DHA 要求量は,乾燥重量当たりそれぞれ約 0.6% および 1.4〜2.8% と推察されたことから,マガレイ仔魚の DHA 要求は,ワムシ給餌期よりアルテミア給餌期に高くなることが示唆された。また,餌料中の DHA は,本種の発達を速めるが,3.3% のワムシを給餌すると過剰発達し,大量死亡することも示唆された。

日水誌,75(1), 28-37 (2009)

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ツノナシオキアミ Euphausia pacifica の密度比,音速比の変化とターゲットストレングス推定に与える影響

松倉隆一(北大院環),
向井 徹,安藤靖浩,飯田浩二(北大院水)

 ツノナシオキアミの体内と海水の密度比,音速比によるターゲットストレングスへの影響と脂質含有量の関係を調べた。密度比は夏季で大きくワックスエステル含有量と負の相関があり,音速比は春季で大きく脂質含有量と正の相関があった。DWBA モデルで TL 15 mm の個体の TS(平均遊泳姿勢 30.4±19.9°)を推定すると,38 kHz で−105.9〜−105.2 dB, 120 kHz で−91.3〜−90.5 dB, 200 kHz で−86.3〜−85.4 dB となった。春季と夏季では両比の変化は相殺し TS の変化は小さかった。

日水誌,75(1), 38-44 (2009)

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三宅島の火山灰を利用したテングサ海藻礁の開発とその効果の検証

滝尾健二,安藤和人,杉野 隆,
駒澤一朗(東京島しょ農水総セ大島),
中村千穂,荒川久幸(海洋大)

 三宅島で採集した火山灰やスコリアを用いた,材料組成や圧縮強度の異なる 6 種類の火山灰ブロック(L30×W30×H5 cm)と同型のコンクリートブロックを製作し,伊豆大島差木地漁港内に設置して海藻着生状況を比較した。火山灰ブロック上面の紅藻類被度はコンクリートブロックよりも有意に低く,材料組成や圧縮強度による有意差は無かった。また,テングサはブロックの稜角や側面に着生した。次に,円柱形の火山灰ブロック(Φ5×H10 cm),および同形のコンクリートブロックを製作,同漁港内に設置してテングサの着生状況を比較した。その結果,テングサがブロック側面に着生し,着生量はコンクリートブロックより僅かに少なかった。

日水誌,75(1), 45-53 (2009)

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カンパチ仔魚の成長にともなう体密度と水槽内鉛直分布の変化

照屋和久(水研セ養殖研),浜崎活幸(海洋大),
橋本 博(水研セ志布志セ),
片山俊之,平田喜郎,鶴岡廣哉,林 知宏(海洋大),
虫明敬一(水研セ養殖研)

 飼育したカンパチ仔魚の初期減耗要因の一つに想定されている沈降死現象を理解する一助として,仔魚を 10 日齢まで飼育し体密度を測定した。また,通気量が 0.1〜2.0 L/分の 500 L 水槽で,仔魚の鉛直分布,生残,成長,摂餌,鰾の開腔状況を調べた。仔魚は負の浮力を示し,0.1〜1.0 L/分の水槽では 3 日齢以降の仔魚は昼間は上層に夜間は底に分布した。過度の通気(2.0 L/分)は仔魚を分散させたが,摂餌数は減少し,生残,成長および開腔率は大幅に低下した。物理的影響の少ない仔魚の沈降防止手法の開発が必要である。

日水誌,75(1), 54-63 (2009)

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ブリ(当歳魚)の成長と脂質代謝における色落ちノリ添加飼料の効果

深田陽久,田所大二,古谷尚大,好井覚大,
森岡克司,益本俊郎(高知大農)

 近年,日本各地で色落ちノリが発生し問題となっている。そこで色落ちノリの有効利用の方法として,ブリ用配合飼料へ添加(0, 2,および 4 %)し,成長と脂質代謝に及ぼす効果を検討した。その結果,成長では色落ちノリ添加 4 % 区が,対照区よりやや劣っていた。脂質代謝酵素の活性では,色落ちノリ添加 2 % 区で脂肪酸分解系酵素活性が上昇し,色落ちノリ添加 4 % 区では脂肪酸合成系酵素活性が上昇した。以上のことから,色落ちノリの添加によってブリの代謝酵素活性が影響を受け,その影響は添加量によって異なることが確認された。

日水誌,75(1), 64-69 (2009)

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福岡県大島産アカモク Sargassum horneri の成熟と湯通し加工品の品質との関係

篠原直哉,後川龍男,深川敦平,秋本恒基
(福岡県水産海洋技術センター研究部),
上田京子,木村太郎,黒田理恵子,赤尾哲之
(福岡県工業技術センター生物食品研究所)

 福岡県で未利用であったアカモクについて成熟状況と加工品の品質との関係について報告する。福岡県大島地先で 2005 年 12 月から 2006 年 4 月の間に採取した原藻を時期別に加工し,出来た加工品の色調,粘性,フコイダン含量を成熟段階で比較した。その結果,粘性及びフコイダン含量は成熟と共に増加し,色調は未成熟のアカモクを用いた加工品では鮮やかな緑色をしているが,成熟に伴い緑色から褐色へと変化することが明らかになった。よって,成熟直前の藻体が加工原料として有用であることが示唆された。

日水誌,75(1), 70-76 (2009)

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無機元素分析によるコンブの原料原産地判別

服部賢志,塚田政範(農水消費安全技セ神戸セ),
法邑雄司(農水消費安全技セ本部)

 日本産及び中国産の素干コンブの無機元素の分析を行い,産地判別法を開発した。国産及び中国産計 250 点の素干コンブについて ICP-MS を用いて 12 元素を定量した。後進ステップワイズ法により選択した 2 元素(Mn 及び Ba)の濃度を用い,線型判別分析により品種毎に 4 つの判別関数を構築した。構築した判別関数による判別関数構築用試料の判別は 97.5〜100% であった。構築した判別関数の妥当性確認をクロスバリデーション法により行ったところ判別が 97.5〜100% となり今回構築した判別関数の有効性が確認できた。

日水誌,75(1), 77-82 (2009)

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自動イカ釣機の釣具ライン巻き上げ速度がアカイカの擬餌針捕捉行動に及ぼす影響(短報)

黒坂浩平,山下秀幸,越智洋介,小河道生
(水研セ開発調査セ),赤松友成(水研セ水工研),
稲田博史(海洋大),渡部俊広(水研セ本部)

 アカイカの釣り落とし,すなわち擬餌針からの脱落を低減するために,巻き上げ過程における擬餌針の動きとアカイカの針掛かり状態との関係を調べた。

 自動イカ釣機の釣具ラインのワイヤーとナイロン道糸との連結部に加速度ロガーを取り付けて擬餌針の運動を計測した。その結果,アカイカ 5 個体が擬餌針に掛かる直前の平均巻き上げ速度は 2.7 m/s, 2.5 m/s, 1.6 m/s, 1.5 m/s, 1.4 m/s であった。この速度が 1.5 m/s 前後では触腕以外の腕で擬餌針を捕捉し,2.5 m/s 程度の巻き上げ速度では触腕だけで捕捉する傾向が認められた。

日水誌,75(1), 83-85 (2009)

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サケ由来コラーゲンペプチドとエラスチンペプチドのヒト皮膚正常繊維芽細胞(SF-TY)におけるヒアルロン酸産生促進および細胞増殖への相乗効果(短報)

本村亜矢子,秋田涼子,多田元比古,髙橋義宣,
江成宏之(ニチロ中研)

 サケ皮由来コラーゲンペプチド(CP)およびサケ心臓由来エラスチンペプチド(EP)のヒト皮膚正常繊維芽細胞に対する効果を検証した。細胞培養時においてサケ皮由来 CP を添加した場合,試料無添加の場合と比較してヒアルロン酸の産生が促進され,その効果はサメ皮およびスズキ鱗由来の CP よりも高い傾向にあった。また,EP は低濃度でヒアルロン酸の産生を促進することが示された。さらに,ヒト繊維芽細胞の増殖活性評価では,CP に対し EP を 0.1% の配合比で添加したところ,増殖率が有意に向上し,相乗的な効果を確認した。

日水誌,75(1), 86-88 (2009)

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