日本水産学会誌掲載報文要旨

光周期がクエ仔魚の生残,成長および摂餌に及ぼす影響

照屋和久(水研セ養殖研),
與世田兼三(水研セ西海水研),
藤井あや,黒川優子,川合真一郎(神戸女学院大),
岡 雅一(水研セ本部),西岡豊弘(水研セ養殖研),
中野昌次(水研セ屋島セ),
森 広一郎,菅谷琢磨(水研セ養殖研),
浜崎活幸(海洋大)

 150 kL 水槽を用いて自然日周条件下でクエ仔魚を 10 日間飼育し,摂餌とトリプシン活性を調べた。さらに,500 L 水槽を用いて明期(L)と暗期(D)の時間が 24L:0D,12L:12D,6L:6D:6L:6D および 0L:24D の 4 試験区を設けて仔魚を 11 日齢まで飼育し,生残,成長,摂餌を調べた。クエ仔魚は昼間摂餌し,トリプシン活性は午後 7 時にピークを示した。0L:24D 区の仔魚は成長することなく全滅した。24L:0D 区では夜間の摂餌も観察されたが,摂餌数は少なかった。成長と生残は 12L:12D 区が最も良く,24L:0D 区と 6L:6D:6L:6D 区は同程度であった。

日水誌,74(6), 1009-1016 (2008)

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マガキ成貝飼育海水への採苗器の浸漬条件が幼生付着率に及ぼす影響

平田 靖(広島水海技セ,広大院生物圏科),
田村義信(広島水海技セ),
長澤和也(広大院生物圏科)

 マガキ幼生の付着率を高めるため採苗器を前もって成貝飼育海水に浸漬する方法において,浸漬時の水温,海水あたりの成貝数,浸漬時間および成貝への給餌の影響を,ホタテガイ殻小片への付着期幼生の付着率によって調べた。付着率は,浸漬時の水温,海水あたりの成貝数および浸漬時間の増加にしたがって増加する傾向を示したが,給餌の影響は認められなかった。採苗器を浸漬する海水中のアンモニア態窒素濃度と浸漬時間の積値が,20 mg/L・hour 程度であれば最大の付着率を得られると考えられた。

日水誌,74(6), 1017-1023 (2008)

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病変ノリ糸状体から分離した Pseudomonas 様細菌

山野井英夫(岡山水試),
高見純一(岡山県水産振興協会)

 ホタテ貝殻を用いて培養していたノリ糸状体に,赤褐色の小斑点を初期症状とする疾病が発生した。罹病部分からフリー糸状体のみならず葉状体に対しても強い病原性を示す細菌を得た。同菌は,グラム陰性の偏性好気性桿菌(約 0.4×2 μm)で,単極鞭毛を有し,活発に運動した。12〜37℃ の温度範囲,NaCl 2〜8% の範囲で増殖した。海水存在下で特に良好に増殖し,ゼラチン,デンプンを分解したが,グルコースなどの糖から酸を産生しなかった。これらの結果から,同菌は Pseudomonas 属もしくはその近縁種で今回の病変の原因菌と判断された。

日水誌,74(6), 1024-1029 (2008)

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北海道で使用されている 3 種のエビ籠の海底での安定性

金 成勲,平石智徳,山本勝太郎(北大院水),
李 珠熙(釜慶大,韓国)

 選択的な漁獲が可能なエビ籠の最適設計のため,北海道でエビを獲るために使用されている半球形の砂原エビ籠と臼尻エビ籠,円錐台形の湧別エビ籠の 3 種類の形状の籠について安定性を調べた。各籠の安定性を評価するために回流水槽を使用して抗力を計測し,海底面を再現した簡易水槽を製作し岩盤と砂地に対する静止摩擦力を計測した。その結果,抗力は臼尻エビ籠が最も小さく,静止摩擦力は湧別エビ籠が最も大きくなった。また,円錐台形の湧別エビ籠は海底で転倒しやすく,半球形の砂原エビ籠,臼尻エビ籠の安定性が良いことが分かった。

日水誌,74(6), 1030-1036 (2008)

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広島湾と周防灘の底質の比較―とくに季節変動と各項目間の関係について

山本民次*,橋本俊也,松田 治,郷 秋雄,
中口和光,原口浩一(広大院生物圏科)

 広島湾と周防灘の底質の特徴について,それぞれ 5 年間の採泥調査の結果を用いて比較した。含水率(WC)および有機物の指標となる強熱減量(IL)は,周年にわたり周防灘よりも広島湾の方が有意に高かった。また,酸揮発性硫化物量(AVS)も冬と春に広島湾の方が有意に高かった。WC と IL が両海域とも季節変動がほとんど見られなかったのに対し,両海域とも AVS は秋に最高値,酸化還元電位(ORP)は夏から秋に低下することが明らかであった。これら両海域の底質の違いについて,社会的背景,両海域の利用形態および海洋学的構造の違いによって考察した。

日水誌,74(6), 1037-1042 (2008)

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燧灘および備後灘におけるベントスによる底質環境評価

辻野 睦(水研セ瀬水研)

 燧灘・備後灘においてマクロベントスとメイオベントスの量的,質的変化と底質環境の関係を検討した。東部燧灘では高い有機物濃度を示し,一部の海域では夏季における貧酸素化が認められた。多毛類では底質への適応能力の高い Sigambra tentaclata が燧灘全域に多く出現した。メイオベントスの有機汚染指標である nematode/copepod 値は 1 定点を除いて 100 以下を示し,低めに推移した。顕著な有機汚染の特徴は認められないことから,20 年前に比べて底質環境は改善傾向にあると考えられた。

日水誌,74(6), 1043-1051 (2008)

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マイクロサテライト DNA マーカーによる釣獲されたアユの由来判別と種苗放流効果の評価

久保田仁志,手塚 清,福冨則夫(栃木水試)

 那珂川で釣獲されたアユについて放流種苗の混獲率を明らかにするため,マイクロサテライト DNA マーカーを用いた帰属性解析による由来判別を行った。遺伝子頻度や遺伝的多様性は,天然遡上アユと放流種苗で大きく異なり,それらを参照集団とした釣獲アユの由来判別が可能であった。釣獲されたアユ 326 個体のうち,88.4% が天然遡上アユ,11.6% が放流種苗と判別された。放流種苗の混獲率や由来別の PSD 値は漁場によって異なっていた。これらの結果から,効果的な種苗放流の方法は同一河川内でも漁場毎に異なると考えられた。

日水誌,74(6), 1052-1059 (2008)

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ミトコンドリア DNA と形態から見た九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布の現状

三宅琢也(三重大院生資),
中島 淳,鬼倉徳雄(九大院農),
古丸 明,河村功一(三重大院生資)

 九州産ニッポンバラタナゴ(RoK)の保護に向けた知見を収集するため,遺伝子と形態分析により RoK の分布の把握を試みた。RoK の mtDNA は 46 集団中 41 集団で見られたが,13 集団においてはタイリクバラタナゴ(RoO)の mtDNA も確認された。RoK は九州中北部に広く分布していたものの RoO による遺伝子浸透は多所的に生じていた。平均側線有孔鱗数と RoO の mtDNA の頻度の間には正の相関が認められた。RoK の識別において側線有孔鱗数は,腹鰭前縁部の白色帯よりも優れた形質であると言える。

日水誌,74(6), 1060-1067 (2008)

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バナメイエビ筋肉中の ATP 関連化合物の変化と味覚への影響

小山法希,松川雅仁,島田昌彦,佐藤良一(マルハ中研)

 冷凍バナメイエビを解凍後に 0℃〜55℃ の温度で貯蔵し,筋肉中の ATP 関連化合物の変化を調べた。10℃ 未満あるいは 55℃ の貯蔵では,AMP が減少し IMP と(HxR+Hx)がほぼ同じ割合で生成した。20℃〜40℃ の貯蔵では,IMP が(HxR+Hx)より割合的に多く生成し,IMP は最高で 70% にも達した。
 生のバナメイエビを氷殺後に 7℃ と 22℃ で貯蔵した場合,IMP の生成は 7℃ よりも 22℃ の方が多く,22℃ で貯蔵したエビのうま味は有意に強くなった。遊離アミノ酸はいずれの貯蔵温度でも変化しなかった。

日水誌,74(6), 1068-1074 (2008)

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アンセリン含有サケエキスの高脂肪食飼育ラットに対する脂肪蓄積抑制効果

高橋義宣,河原﨑正貴,星野躍介,
本村亜矢子,江成宏之(ニチロ中研)

 アンセリンを 20% 含有することを特徴とするサケエキス(SEAns)の抗肥満効果を検証した。6 週齢雌性 SD ラットに高脂肪食を与え SEAns を 2 週間経口投与した結果,体重増加抑制と,肝臓組織の脂肪滴,血中脂質,脂肪重量の減少が認められた。これらの効果はアンセリンの関与も考えられたが,SEAns に含まれる他の成分が作用した可能性が示唆された。また SEAns はラット内臓脂肪細胞に対し用量依存的に脂肪蓄積抑制効果が認められた。急性経口毒性や遺伝毒性も認められず,SEAns は抗肥満食品素材として期待できる。

日水誌,74(5), 1075-1081 (2008)

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海洋性発光細菌 Shewanella sp. の VBNC 状態への誘導および大腸菌とのプロトプラスト融合(短報)

張 恩実,今田千秋,小林武志,
濱田(佐藤)奈保子(海洋大),
鎌田正純(山野美容芸術短大)

 薬剤耐性のある海洋性発光細菌 Shewanella sp. を VBNC 状態へ誘導するための諸条件について検討するとともに,本菌を薬剤耐性のない大腸菌とプロトプラスト融合した。本菌の VBNC 状態への誘導条件は,NaCl 濃度 1 %,pH 7.8 が最適であり,培養 63 日後に VBNC 状態となった。カタラーゼの添加で一部培養可能な状態に復帰した。VBNC 状態の本菌を大腸菌とプロトプラスト融合した結果,薬剤耐性が異なる融合株が得られ,VBNC 状態の菌でもプロトプラスト融合に活用できることが示唆された。

日水誌,74(5), 1082-1084 (2008)

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ヒト糞便由来 Lactococcus garvieae と魚類由来菌株との比較研究(短報)

内山成人,上野友美,只野健太郎(大塚製薬),
古川三記子,西木一生,野本竜平(宮崎大農),
長宗秀明(徳島大工院),
中井敏博(広大院生物圏科),吉田照豊(宮崎大農)

 ヒト糞便から分離した Lactococcus garvieaeを魚類株と比較した。ヒト糞便および魚類由来株の染色体 DNA を SmaI で消化後,バイアス正弦電場電気泳動(BSFGE)を行い,遺伝型別を行った。バクテリオファージに対する感受性も魚類株と比較した。カンパチに対する病原性は糞便由来の 2 株を,それぞれ腹腔内に注射した。その結果,ヒト糞便株の BSFGE 像は魚類株と一致せず,両者で遺伝子型が異なっていた。また,供試したバクテリオファージに対する感受性は認められず,カンパチも死亡しなかった。

日水誌,74(5), 1085-1087 (2008)

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