日本水産学会誌掲載報文要旨

WTO における漁業補助金交渉(総説)

八木信行(東大院農)

 2001 年に開始された WTO ドーハ・ラウンド交渉では,漁業補助金に関する規律を改善するための交渉が進んでいる。ここでは,過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる補助金を禁止する点では広範な合意が見られるものの,追加的な禁止補助金の範囲などについて未だ合意は見られていない。補助金による資源の過剰漁獲も回避すべきという環境的な要素も議論の対象となっている。本稿は,この現状及び今後の課題などをレビューするものである。

日水誌,74(5), 776-783 (2008)

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放線菌が産生するプロテアーゼによるエチゼンクラゲの分解への適用

土井宏育(微生物化学研究会),岡 達三(鹿大農獣),
野々村禎昭(微生物化学研究会)

 千葉県習志野市谷津干潟から分離したプロテアーゼ(E77)産生微生物 99-GP-2D-5 株の分類学的位置,E77 の諸性質およびエチゼンクラゲの酵素分解について検討を行った。16S rDNA の全塩基配列に基づいた分子系統解析および培養菌体アミノ酸分析の結果から,本株を Streptomyces 属の放線菌と同定した。本株培養液から調製した E77 の至適温度と pH は,それぞれ 70℃ と pH 8 だった。E77 はエチゼンクラゲを酵素安定的条件下(50℃,pH 8)において 60 分以内で完全に分解できた。

日水誌,74(5), 784-795 (2008)

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カタクチイワシシラスの資源重量から試算したサワラ人工種苗放流による 0 歳魚加入資源の上積み量

小畑泰弘(水研セ玉野セ),山崎英樹(水研セ瀬水研),
竹森弘征(香川県水産課),岩本明雄(水研セ屋島セ),
浜崎活幸,北田修一(海洋大)

 瀬戸内海東部海域で実施したサワラ人工種苗放流による加入資源への上積み量を推定した。種苗放流は,2002 年には平均全長 38 mm 及び 114 mm で 133,929 尾が,2003 年には同 36 mm 及び 96 mm で 171,193 尾が ALC による全数耳石標識により行われた。1987〜2001 年の 11 月における天然 0 歳魚の平均体重と 0 歳魚 1 尾当りの餌料生物量(カタクチイワシ)の関係,及び放流魚の混獲率を用いて人工種苗の資源への上積み量を,2002 年が 30 トン,2003 年が 116 トンと推定した。

日水誌,74(5), 796-801 (2008)

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中西部熱帯太平洋におけるカツオの産卵頻度とバッチ産卵数の推定

芦田拡士(東海大院生物),
田邉智唯(水研セ遠洋水研),
鈴木伸洋,福井 篤,田中 彰(東海大院生物)

 中西部熱帯太平洋におけるカツオの産卵頻度とバッチ産卵数(1 回当りの産卵数)を推定した。6〜9 時,9〜12 時,12〜15 時採集群の産卵頻度は 0.49, 0.56, 0.5, 15〜18 時,18〜21 時採集群では,それぞれ 0.26, 0.14 と推定された。最終成熟段階(胚胞移動期以降の卵母細胞を有する)の 23 個体にて,最大卵母細胞径群の卵数(0.5 mm 以上の卵母細胞数)から推定した平均バッチ産卵数は 61.5 万粒で,尾叉長,卵巣抜き体重と正の相関が認められた。平均相対バッチ産卵数は 147.8 粒/g と推定された。

日水誌,74(5), 802-808 (2008)

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広島湾におけるマガキ種苗に及ぼす魚類の捕食の影響

斉藤英俊,中西夕佳里(広大院生物圏科),
重田利拓(水研セ瀬水研),
海野徹也,河合幸一郎,今林博道(広大院生物圏科)

 広島湾のカキ筏周辺におけるマガキ種苗に対する魚類の捕食の影響を明らかにするために,野外調査をおこなった。クロダイおよびコモンフグの胃内容物中から,マガキは周年出現していたが,夏季にはムラサキイガイの割合が増加した。カキ筏の付着生物と魚類胃内容物中の餌生物の相対重量の順位相関をみると,両魚種とも夏季には有意な正の相関があった。目合いの異なるケージを用いた実験から判定すると,夏季〜秋季にはクロダイ,冬季にはコモンフグによるマガキに対する捕食の影響が大きいことが示唆された。

日水誌,74(5), 809-815 (2008)

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山口県東部の馬島沿岸におけるカシパン類とアマモの種間関係

松田春菜,浜野龍夫,村瀬 昇(水大校)

 山口県馬島沿岸でのアマモとカシパン類の種間関係を明らかにするため,春期に分布調査を実施した。ハスノハカシパンはアマモが低密度の区画で 30 個体/m2 と高い密度で生息し,アマモが 200 株/m2 の区画では 4 個体/m2 であった。春〜夏に水槽内同居実験を実施したところ,ハスノハカシパンとスカシカシパンはアマモを移植していない場所に多く出現した。また,アマモへの接触は認められたが,倒して枯死させることはなく,草体は順調に生育した。以上のことから,両種とアマモの分布域をめぐる種間関係は中立であると考えられた。

日水誌,74(5), 816-826 (2008)

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佐渡島真野湾のアマモ場で採集されたオニオコゼ稚魚の食性と成長に伴う変化

首藤宏幸(水研セ養殖研),梶原直人(水研セ日水研)

 8〜9 月に佐渡島真野湾のアマモ場に出現した全長 5 cm 未満のオニオコゼ稚魚は,1 歳魚で 10 cm,2 歳魚で約 15 cm に成長した。本種は着底直後から強い魚食性を示し,その種組成には成長に伴う変化が見られた。着底稚魚を含む当歳魚はハゼ類,特にニクハゼを主食としたのに対し,12 cm を超える頃から異体類(放流ヒラメ種苗,マコガレイ)やアミメハギ,ネズッポ類の摂食割合が増加し始め,18 cm を超えるとこれらハゼ類以外の魚種が主食となった。この食性変化は,オニオコゼが成長と共に,より大型の魚類を選択した結果であると考えられた。

日水誌,74(5), 827-831 (2008)

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和歌山県沿岸の養殖漁場における春季の海底堆積物の化学的特性と優占するマクロベントス種との関係

上出貴士(和歌山県日高振興局)

 和歌山県沿岸の養殖漁場における春季の海底堆積物の化学的特性とマクロベントス群集を既存の夏季のデータと比較することで環境評価の更なる適正化を試みた。その結果,Scoletoma longifolia, Capitella sp., Theora lubrica の 3 種の優占的出現状況は,夏季のマクロベントス群集に基づいたクラスター解析によって示された TOC の基準値 6.2, 10.3, 16.4 mg g−1 とほぼ一致し,これらの 3 種による養殖漁場環境の評価が可能であると考えられた。特に,海底堆積物の夏季の AVS と併せて春季の海底堆積物の TOC と S. longifolia の生物量を組み合わせた漁場環境評価が有効であると考えられた。

日水誌,74(5), 832-840 (2008)

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矢作川河口周辺海域(三河湾西部)におけるアユ仔稚魚の分布と底質との関係

山本敏哉(矢作研),三戸勇吾(愛媛大院連農),
山田佳裕(香川大農),野崎健太郎(椙山女大人),
吉鶴靖則,中田良政,新見克也(天然アユ調査会)

 矢作川河口周辺の海域において,アユ仔稚魚の分布を調べるために集魚灯による採集を行った。採集は 2002 年の 11 月から翌年 2 月および 2003 年の 11 月から翌年の 3 月にかけて,河口より沖合 4 km までの海域で月に 1 回実施した。その結果,アユ仔稚魚は海岸より 1 km 沖合までで主に採集され,2 月下旬から 3 月上旬を除き河口の東側の地点で多く採集された。12 月の調査結果にもとづき地点ごとのアユ仔稚魚の採集数と底質の有機物量との間の関係を調べたところ,有機物量が多いほどアユ仔稚魚は減少する傾向がみられた。

日水誌,74(5), 841-848 (2008)

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福島県沖合海域におけるアカガレイ雌の成熟と産卵期

山田 学,山廼邉昭文,佐藤美智男,
吉田哲也,河合 孝(福島水試)

 福島県沖合海域で 2004 年から 2006 年に採取された 7,341 個体を用いて,アカガレイの雌の成熟全長,年齢および産卵期を調べた。生殖腺の肉眼観察および耳石年齢査定により,成熟全長,年齢を推定した。50% 成熟全長は 29.9 cm,成熟年齢は 5 歳で 36%,6 歳で 67%,8 歳以上でほとんどの個体が成熟することが推定され,福島県沖合海域においては,日本海西部および噴火湾と比べ成熟全長が小さく,その年齢も低いことが示唆された。産卵期は,2 月上旬から 4 月下旬(盛期は 2 月上旬から 3 月下旬)と推定された。

日水誌,74(5), 849-855 (2008)

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アオリイカ外套筋の白濁に及ぼす保存温度の影響

岡本 昭(長崎水試),
本田栄子,井上理香子,横田桂子(長大院生産),
桑原浩一,村田昌一(長崎水試),
濱田友貴,新井博文,橘 勝康(長大院生産)

 アオリイカ死後の鮮度変化と外套筋の白濁について検討した。試料を即殺後,外套筋を氷蔵,5,10,15℃ の各温度で保存し,ATP 関連化合物,グリコーゲン,pH および L*値を経時的に測定した。ATP 量の減少は氷蔵≒5℃>15℃>10℃ の順であった。グリコーゲン含量は氷蔵より 10℃ の方が緩やかに減少した。pH は明瞭な変化が見られなかった。外套筋が明らかに白濁した L*値 50 を越える保存時間は 10℃ が 12 時間で最も遅く ATP 量の減少と同傾向であった。

日水誌,74(5), 856-860 (2008)

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ミトコンドリア DNA 分析に基づく関東地方産イワナの遺伝的集団構造(短報)

山本祥一郎,中村智幸(水研セ中央水研),
久保田仁志,土居隆秀(栃木水試),
北野 聡(長野県環境保全研),
長谷川功(水研セ中央水研)

 関東地方を流れる久慈川,那珂川,利根川,荒川の 4 水系 28 集団の在来イワナ集団について,ミトコンドリア DNA サイトクローム b 領域 557 bp の部分塩基配列解析を施し,水系間および水系内集団間の遺伝的関係について調べた。計 525 個体を解析した結果,6 タイプのハプロタイプが認められた。これらハプロタイプは,那珂川,久慈川,利根川水系湯西川支流・鬼怒川支流など関東北部に分布するタイプと,利根川水系大芦川支流,荒川水系など関東南部に分布するタイプの 2 つに区分された。

日水誌,74(5), 861-863 (2008)

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琵琶湖南湖における超音波テレメトリーを用いたニゴロブナ成魚の行動測定(短報)

米山和良(北大院水),光永 靖(近大農),
松田征也(滋賀琵琶博),平石智徳(北大院水),
國宗義雄,山根 猛(近大農)

 周年にわたる生息場所の時間的な変化を知るために,琵琶湖南湖で捕獲されたニゴロブナ 2 個体の行動を超音波テレメトリーで測定した。湖岸域に設置した放流地点近傍の受信機において 2 個体ともに夏期の受信数は減少し,冬期の受信数は増大した。夏期には北湖への移動を確認したが,冬期から春期にかけての行動範囲は数 km から十数 km であると伺える。個体の行動に日周移動が確認された。ニゴロブナの行動モニタリングに超音波テレメトリーは有効であることが示された。

日水誌,74(5), 864-866 (2008)

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