日本水産学会誌掲載報文要旨

懸濁物質が魚類の生理・生態に及ぼす影響―ヒラメの呼吸に及ぼすスメクタイトの影響

川那公士(広大院生物圏科),半田岳志(水大校),
馬場義彦,岩田仲弘(電中研),
植松一眞(広大院生物圏科),難波憲二(電中研)

 粘土鉱物であるスメクタイトの海水中の懸濁濃度を 1 時間毎に断続的に上昇させて,ヒラメの鰓酸素利用率(UO2)および酸素消費量(VO2)の変化を調べた。スメクタイト濃度は,0.0, 1.0, 2.1, 4.5, 9.5, 20.0 g L−1(実験T)と 0.0, 31.6, 56.2 g L−1(実験II)の 2 系列とした。実験Tの濃度範囲では UO2,VO2 のいずれにもスメクタイトの影響は認められなかった。一方,実験IIでは UO2 と VO2 は,ともに何も添加していない海水の時よりも有意に減少した。この結果は,スメクタイトが二次鰓弁間を閉塞し,有効ガス交換表面積が減少したためと考えられる。

日水誌,74(3), 375-379 (2008)

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大きさと形の異なるシオミズツボワムシ 3 株に対するホシガレイ,ブリ,ヨシノゴチ仔魚の摂餌選択性

赤澤敦司(長大院生産),阪倉良孝(長大水),
萩原篤志(長大院生産)

 L 型ワムシ 2 株と S 型ワムシ 1 株を用い,ホシガレイ,ブリ,ヨシノゴチ仔魚の成長に伴う摂餌選択性の変化を魚種間で比較した。L, S 型ワムシは被甲と後頭棘の形状が異なるものの,被甲サイズが等しいときには,3 魚種ともに L 型と S 型ワムシを区別せずに同じ割合で摂餌した。開口直後では,3 魚種とも小型のワムシを選択したが,ホシガレイ,ヨシノゴチ仔魚では 10 日令以降,ブリ仔魚は 16 日令以降に大型のワムシを専食した。各魚種の口径が等しいとき,ヨシノゴチ仔魚は他の 2 魚種よりも大型のワムシに対して強い選択性を示した。

日水誌,74(3), 380-388 (2008)

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宮古湾で産卵を終えたニシンの回遊生態と翌年の産卵回帰

大河内裕之(水研セ本部),山根幸伸(宮古漁協),
有瀧真人(水研セ宮古栽セ)

 岩手県宮古湾で産卵直後のニシン成魚を採捕し,2 年間で合計 500 尾を標識放流した。放流後 3 年 2 ヶ月間で合計 114 尾の標識魚が再捕され,再捕率は 22.8% であった。これらの再捕経過から,宮古湾で産卵を終えたニシンは速やかに産卵場を離れて北上回遊し,夏季には宮古湾の 300 km 北方の北海道噴火湾海域に生息すると考えられた。放流翌年の産卵期には合計 32 尾が成熟して宮古湾内で再捕され,これらは噴火湾から南下した産卵回帰個体と判断された。本州沿岸で産卵するニシンは,標識魚と同様の回遊生態を持つと考えられた。

日水誌,74(3), 389-394 (2008)

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鹿児島湾における暖海性タラバエビ科の 1 種 Plesionika semilaevis の分布と個体群構造

中畑勝見(鹿大院水),大富 潤,永井のぞみ(鹿大水)

 鹿児島湾における暖海性タラバエビ科の 1 種 Plesionika semilaevis の分布と個体群構造を調べるため,湾内広範囲に設定した 8 つの定点において,2003 年 5 月から 2007 年 1 月に簡易型トロールネットを用いて試験底曳網調査を行った。本種は採集個体数と重量のどちらにおいても最優占種であった。周年にわたって湾中央の最深部付近に位置する 2 定点(水深 180 m と 220 m)に集中的に分布したが,両定点の間では性比や体サイズ組成に違いが見られた。抱卵個体の出現状況より,本種は湾内の分布域一帯で繁殖を行うと推察された。

日水誌,74(3), 395-401 (2008)

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和歌山県沿岸の養殖漁場における環境指標としての酸揮発性硫化物含量の有効性とその基準値の設定の試み

上出貴士(和歌山農水総技セ)

 夏季の海底堆積物の酸揮発性硫化物(AVS)含量は有機物負荷を適切に反映し,有機物負荷の履歴を反映した指標として知られるマクロベントスとも関係がみられ,養殖漁場の環境指標として有効であると考えられた。また,全有機態炭素(TOC)含量及び AVS とマクロベントスの生物量の関係から AVS 値 0.22 mg g−1 以下を「健全な漁場」,0.22〜0.43 mg g−1 を「富栄養化が進行しつつある漁場」,0.43〜0.71 mg g−1 を「要注意漁場」,0.71 mg g−1 以上を「危機的漁場」として位置付けが可能であった。

日水誌,74(3), 402-411 (2008)

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mtDNA の PCR-RFLP 法によって推測されたクサカリツボダイの集団構造

柳本 卓(水研セ遠洋水研),北村 徹(日本 NUS),
小林敬典(水研セ中央水研)

 クサカリツボダイは中部北太平洋に散在する海山に広く分布し,底曳き網で漁獲されているが,系群構造については明らかになっていない。そこで,PCR-RFLP 分析により mtDNA の地理的変異を検討した。D-Loop 領域を PCR 法にて増幅し,16 種類の制限酵素で RFLP 分析を行った。8 種類の酵素で切断片長多型が得られたが,切断型頻度に地理的な違いは見られなかった。切断型から求めたハプロタイプの出現頻度も,地理的な違いは見られず,クサカリツボダイは太平洋全体で大きな一つの集団を構成していると考えられた。

日水誌,74(3), 412-420 (2008)

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熊野灘南部定置網漁場における漁獲の多様性と投棄に関する事例研究

山根 猛(近大農)

 定置網の漁獲の多様性と投棄について,水揚げ量・種の多様性そして投棄量・種の関係から検討した。資料には熊野灘南部太地湾(33°36′N, 135°58′E)で操業する定置網(大型,小型計 2 ヶ統)の 2001 年度漁期の操業に 15 回同行して収集した日別・種別投棄量,当該漁期の日別・種別水揚げ統計と 1998 年度調査結果を合わせて用いた。投棄量は水揚げ量の増加につれて減少する傾向を示した。

日水誌,74(3), 421-428 (2008)

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人工中層海底による養殖場沈降有機物の分解促進(短報)

原口浩一(三重県産業支援セ),
山本民次(広大院生物圏科),片山貴之(海洋建設),
山形陽一(三重科技セ水),松田 治(広大院生物圏科)

 海面養殖にともなう海底への有機物負荷量を削減するために,生物生息基盤(人工中層海底)を設置し,沈降有機物を酸素供給が十分な中層で捕捉して分解を促進することを試みた。試験期間中,ベントスは人工中層海底上で増加したのに対して,貧酸素化した自然海底では激減した。人工中層海底上での有機物分解速度は 1.9〜9.0 g C m−2 day−1 と見積もられ,これは養殖負荷の 2.4 倍に相当した。

日水誌,74(3), 429-431 (2008)

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北海道千歳川支流紋別川で起きた在来種アメマス単独生息域への外来種ブラウントラウトの侵入(短報)

長谷川功(水研セ中央水研),
前川光司(北大フィールド科セ)

 北海道千歳川支流の紋別川には,本流と支流にそれぞれ堰堤があり,その下流側では,在来種アメマスから外来種ブラウントラウトへの置換が報告されている。一方,堰堤上流側では,ブラウントラウトは確認されていなかった。しかし,2004 年秋から 2005 年春の間に本流の堰堤が決壊し,堰堤上流側へのブラウントラウトの侵入が確認された。今後,堰堤上流側のアメマス個体群へのブラウントラウトの影響が懸念される。

日水誌,74(3), 432-434 (2008)

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