日本水産学会誌掲載報文要旨

大阪湾の人工護岸域に形成された海藻群落の維持に及ぼすウニ類の影響―ウニ類の密度操作による海藻群落の変化―

米田佳弘(関空調査会),藤田種美(関西空港),中原紘之(京大院農),豊原哲彦,金子健司(日海生研)

 大阪湾南東部の人工護岸域の藻場で 3 年間ウニ類の密度を操作し,海藻群落への影響を調べた。結果,ウニ類の密度に関わらず,一部に裸地を生じつつも群落は維持された。ウニ類の高密度区では,優占していた多年生紅藻が除去され,他区より裸地が広く形成された後,ワカメとカジメ属が多く出現し,台風によって流出するまでカジメ属が優占した。本調査結果は,本海域のような富栄養条件では,貧栄養海域と異なり,高密度のウニ類が磯焼けを起こすことはなく,一年生・多年生の海藻が混在する群落の発達と維持に有利に働くことを示している。

日水誌,73(6), 1031-1041 (2007)

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水中ビデオカメラを装着した表中層トロール網によるエチゼンクラゲの鉛直分布調査

本多直人,渡部俊広(水研セ水工研)

 近年,日本海沿岸域を中心にエチゼンクラゲ Nemophilema nomurai が大量に出現して漁業に甚大な被害を与えている。被害を軽減する対策技術の開発のためには,エチゼンクラゲの行動や分布特性の把握が大切である。コッドエンドを開放した表中層トロール網に水中ビデオカメラを装着して網内を通過するクラゲを観察する方法により,エチゼンクラゲを採集せずに鉛直分布を調べた。能登半島西方約 100 km 沖合で,ほとんどのエチゼンクラゲは,日中には深層より高水温で低塩分であった深度約 40 m より上層に分布していた。

日水誌,73(6), 1042-1048 (2007)

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アコヤガイ精子の大量凍結保存方法の検討

青木秀夫(三重科技セ水),古丸 明,成田光好(三重大院生資),磯和 潔(三重栽漁セ),林 政博(三重科技セ水),川元貴由,津田悠也,太田博巳(近大院農)

 事業規模での精子大量凍結法を開発するため,容量の異なるストロー(0.25, 1, 2 mL)を用いて凍結したアコヤガイ精子による受精率を比較したところ,有意差は認められなかった。さらに 10 mL の希釈精子を板状に凍結したところ,解凍後の運動率はストロー法と同等であった。運動率が低い精子を凍結・解凍し,通常の 5 分間の媒精時間で人工授精を行うと,受精率は低かったが,媒精時間を延長することにより受精率は上昇し,未凍結の精子と同等となった。本結果から,本種精子を大量凍結保存できる可能性が示された。

日水誌,73(6), 1049-1056 (2007)

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紀伊半島西岸域における稚アユの成長

吉本 洋,藤井久之(和歌山農水総技セ),中西 一(和歌山県水産振興課)

 紀伊半島西岸域で採捕された稚アユの耳石により,ふ化時期・初期成長を求め,それらと海水温・プランクトン量との関係について検討した。ふ化時期は 11 月中・下旬が中心で,11 月にふ化した稚アユは,12 月の海水温が低く 1 月のプランクトン量が多いほど成長速度が大きくなった。北部海域は南部海域と比較し,ふ化時期が早く,冬期にプランクトン量が多いため成長速度も大きかった。また,稚アユの漁獲尾数(CPUE)が多い年の初期成長は良好であった。以上のことから,稚アユの資源豊度には,プランクトン量,水温,初期成長が関係していることが示唆された。

日水誌,73(6), 1057-1064 (2007)

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田辺湾中央部漁場における魚類養殖の有機物負荷が海底堆積物の化学的特性及びマクロベントス群集へ及ぼす影響範囲

上出貴士(和歌山農水総技セ)

 魚類養殖による有機物負荷が海底堆積物の化学的特性及びマクロベントス群集に及ぼす影響範囲を検討した。AVS, TOC, TN 及びマクロベントスでは,養殖筏からの距離による差が明瞭でなかったものの,TP は養殖筏から離れるに従って減少した。非魚類養殖漁場における既知の TOC 及び TP 濃度と本調査結果を比較したところ,魚類養殖による有機物負荷の海底堆積物への影響範囲は 100〜200 m 程度と考えられた。この値は従来の値より大きく,その理由として TP の主成分が難分解性の Ca-P であることが考えられた。

日水誌,73(6), 1065-1073 (2007)

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東シナ海産アカアマダイ体長組成の海域差

山下秀幸(水研セ開発)

 東シナ海の延縄漁業の主対象種であるアカアマダイの合理的利用に資するため,小型魚保護の観点から,海域,季節単位で延縄船漁獲物の体長組成を比較し,性ならびに漁獲海域,漁獲年および季節を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。AIC によるモデル選択の結果,全ての説明変数は体長組成に影響を及ぼしており,海域による効果が最も大きかった。陸棚北東部域と陸棚西側域において,小型魚が卓越して分布する傾向が見られた。小型魚卓越海域の禁漁等による管理方策を検討することが可能なことが示唆された。

日水誌,73(6), 1074-1080 (2007)

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ケガニ幼生の生残,発育および摂餌に及ぼす水温の影響

神保忠雄(水研セ南伊豆セ),浜崎活幸(海洋大),芦立昌一(水研セ玉野セ)

 ケガニ幼生の適正飼育水温を明らかにする目的で,ふ化幼生を 2 L ビーカーに収容し,水温 6〜21°C(3°C 間隔)で飼育した。生残率は 6〜15°C で高値を示し,21°C では第 3 齢から第 4 齢にかけて,18°C ではメガロパへの変態期から第 1 齢稚ガニにかけて大量に減耗した。各齢期までの所要日数は 15°C まで水温の上昇にともない減少し,第 1 齢稚ガニまでの所要日数の変動係数は 15°C 以上で大きかった。また,頭胸甲長は水温が低いほど大きく,摂餌数は 9〜15°C で多かった。以上のことから,適正飼育水温は 9〜12°C と結論付けた。

日水誌,73(6), 1081-1089 (2007)

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瀬戸内海燧灘東部におけるサヨリ Hyporhamphus sajori の体長とカタクチイワシ加入量から予測されるサヨリの CPUE

山本昌幸(香水試)

 瀬戸内海のサヨリの体長およびカタクチイワシ加入量とサヨリ CPUE の関係を調べた。1, 2 才の平均体長は,雌雄別に体長組成を最小二乗法によって 2 つの正規分布に分解して,推定した。1 才の体長は,雄と雌でそれぞれ 185.6〜217.9 mm と 194.2〜228.4 mm で,漁獲物は主に 1 才魚であった。CPUE は 65〜261 kg/日・統で変動した。1 才の体長と CPUE には負の相関関係,カタクチイワシ加入量と CPUE には正の相関関係があった。重回帰分析によって,1 才の雌の体長とカタクチイワシ加入量から,CPUE を予測するあてはまりの良い回帰式を得た。

日水誌,73(6), 1090-1095 (2007)

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魚体運動により生じる求心性側線神経の活動

渡邉賢二,安樂和彦(鹿大水)

 供試魚にコイを用い,体幹部側線のダイポール刺激に対する振動数応答特性および,魚体運動にともなう自己刺激に対する側線神経の活動変化を明らかにした。体幹部側線を支配する後側線神経は 10〜300 Hz の振動刺激に対して応答したが,概ね 200 Hz 以下の振動数に対して高感度を示した。魚体運動は側線刺激となり,左右いずれへの体幹部の屈曲ともに両側の側線を刺激した。運動時の側線神経活動は運動の速度と加速度に比例して大きくなった。

日水誌,73(6), 1096-1102 (2007)

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館山湾の大型定置網における漁獲物の投棄実態

秋山清二(海洋大)

 定置網漁業における漁獲物の投棄実態を明らかにするため,2005 年 1 月〜2006 年 12 月に千葉県館山湾の大型定置網で乗船調査を行った。調査の結果,CPUE(1 操業あたり漁獲量)は 1463.2 kg, DPUE(1 操業あたり投棄量)は 123.3 kg となり,投棄率(DPUE/CPUE)は 0.084 となった。主な投棄魚種はカタクチイワシ,ギマ,シマガツオ,シイラ,ネンブツダイであった。漁獲量の増加にともない投棄量も増加する傾向がみられ,両者間には正の相関が認められた(r=0.84, p<0.05)。

日水誌,73(6), 1103-1108 (2007)

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ホタテガイ Mizuhopecten yessoensis 稚貝のトリグリセライド含有量と乾出ストレス耐性との関係(短報)

宮園 章(函館水試)

 ホタテガイ稚貝のトリグリセライド(TG)含有量と乾出ストレス耐性の関係を明らかにするために,乾出ストレスを与えた稚貝の 24 時間半数致死時間を調べた。TG 含有量が少ない稚貝は乾出ストレス耐性が向上するという関係が得られた。このことは,短期飢餓飼育により作業耐忍性の向上が期待されるとともに,籠の入れ替え作業の適・不適を TG 含有量によって判断できる可能性を示す。

日水誌,73(6), 1109-1111 (2007)

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延縄で漁獲されたマグロ類の脱鉤力(短報)

酒井久治,呉  松,塩出大輔,内田圭一,宮本佳則,峰 雄二,小池義夫(海洋大)

 まぐろ延縄漁船に搭載される魚引寄せ機の最適な張力設定値を把握するため,2005 年 2 月と 12 月のまぐろ延縄操業で釣獲されたマグロの脱鉤力(枝縄を牽引し,釣針が外れるときの張力)を測定した。針掛かり部はあご部と口内の 2 箇所であり,いずれも,口内の針掛かりのときの脱鉤力はあご部に比べて 25% から 50% 低下した。また,得られた脱鉤力 T [N]とその積算度数 F[%]との関係は F=0.142 T-52.7,誤差 6.8% が得られ,釣落しを防止するには魚引寄せ機に対して張力 370 N を設定する必要があることを明らかにした。

日水誌,73(6), 1112-1114 (2007)

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