日本水産学会誌掲載報文要旨

釣りによるブルーギル個体群の抑制

米倉竜次,苅谷哲治,藤井亮吏,熊崎 博,斉藤 薫,熊崎隆夫,桑田知宣,原  徹,徳原哲也,景山哲史(岐阜県河川環境研)

 岐阜県の椛の湖に定着した外来魚ブルーギルの生息個体数が,釣りによる駆除により抑制されるかを検討した。調査期間中,総計 15966 個体を駆除した。標識再捕法による個体数推定の結果,ブルーギルの生息数は 24231 個体から 10092 個体まで減少した。また,体サイズ分布の変化から,繁殖に寄与するであろう大型個体が減少することや新規加入が抑制されていることが示唆された。これらの結果から,釣りによる駆除はブルーギルの個体群を抑制するうえで有効であると考えられた。

日水誌,73(5), 839-843 (2007)

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染色体操作により得られたニジマス 2 系統の耐病性ならびに再生産形質に見られた差異

望月万美子(静岡水試富士養鱒場,北大院水),阿久津哲也(静岡水試富士養鱒場),鴻上 繁,岡本信明(海洋大),吉水 守(北大院水)

 静岡水試富士養鱒場で継代選抜中の IHN 耐病系統から得られた 2 系統の第一卵割阻止型クローンを用いて形質の評価を行ったところ,耐病性および再生産形質は異なる特徴を有していた。すなわち,RT92H10 は IHN に対する抵抗性が高いもののビブリオ病に対する抵抗性が低く,RT92H04 はその反対であった。再生産形質について RT92H04 では成長は遅いが 2 年で成熟し,RT92H10 は成長は比較的早いものの成熟までに 3 年を要した。以上の結果から,これら 2 系統は育種素材や免疫学的実験魚としての利用が期待された。

日水誌,73(5), 844-850 (2007)

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和歌山県田辺湾滝内及び内ノ浦の潮間帯に生育するコアマモ Zostera japonica の年間純生産量と C, N, P の年間蓄積量

上出貴士(和歌山農水技セ増養研)

 田辺湾滝内及び内ノ浦の潮間帯に生育するコアマモの栄養株中の C, N, P 含量の季節変動及び年間純生産量と C, N, P の年間蓄積量を明らかにした。年間純生産量は 351.8〜392.9 g・m−2・year−1 と試算され,C, N, P の年間蓄積量はそれぞれ 108.2〜134.8, 7.11〜7.36, 0.99〜1.18 g・m−2・year−1 であった。また,地上部の最大生産速度は 2.68 g・m−2・day−1,地上部の C, N, P の最大蓄積速度は 756.9, 66.2, 8.02 mg・m−2・day−1 と試算された。また,1〜5 月に地上部で N, P 含量の増加,根茎で C 含量の低下がみられ,地上部の生産速度や C, N, P の蓄積速度が上昇した。

日水誌,73(5), 851-858 (2007)

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アイゴ科魚類 2 種の耳石微細構造ならびに耳石元素組成の着底に伴う変化

山田秀秋,渋野拓郎(水研セ西海水研)

 八重山諸島周辺において集魚灯を用いて採集したゴマアイゴの耳石微細構造を観察した結果,着底時に特徴的な日輪(着底マーク)が形成されることが判った。同様の着底マークはアイゴにも認められた。耳石微細構造を調べた結果,両種の日輪間隔は,着底マーク直後に急激に狭くなった。一方,耳石ストロンチウム-カルシウム比は,種類や年級群に係わらず,着底の 4-5 日前から上昇しはじめた。ゴマアイゴとアイゴで共通した着底直前からの耳石ストロンチウム-カルシウム比の上昇は,両種の成育場環境が大きく異なることからみて,内因性の変化が原因として考えられた。

日水誌,73(5), 859-866 (2007)

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コルチゾルおよび RU486 の投与がヒラメの無眼側着色に及ぼす影響

亀山貴一,角田 出(石巻専修大理工)

 コルチゾルと RU486 の腹腔内(100 mg/kg 体重の割合で隔週 2 回)または経口(100 mg/kg 体重/日で 6 週間)投与が,全長 80〜200 mm のヒラメの黒化に及ぼす影響を調べた。黒化率は,対照区に比べ,コルチゾル区で低く,RU486 区で高い傾向にあった。両区の血中コルチゾル濃度は有意に上昇した。本結果は,着色型黒化の発現に HPI 系の活性化(ACTH や αMSH の分泌亢進)が関与することを示唆する。

日水誌,73(5), 867-871 (2007)

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SSP-PCR 分析によるクリガニ科 3 種の種判別

柳本 卓(水研セ北水研)

 クリガニ科 3 種(ケガニ,トゲクリガニ,クリガニ)の筋肉から抽出した粗 DNA を用い PCR 法にて増幅したミトコンドリア DNA の COI 領域と核 DNA の ITS 領域の塩基配列を決定した。塩基配列から種特異的なプライマーを設計して,それぞれの領域で増幅した断片の長さの違いで 3 種を識別する方法を確立した。この手法は幼生段階での種判別及び交雑個体の識別とその親種の組み合わせの判定に応用可能である。

日水誌,73(5), 872-879 (2007)

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京都府沿岸域の環境特性の異なる生育地でのホンダワラ科海藻の年間純生産量とその比較

八谷光介,西垣友和,道家章生,井谷匡志,和田洋藏(京都海洋セ)

 京都府沿岸の舞鶴(内湾),網野(外海),養老(中間)で優占するホンダワラ科海藻の年間純生産量を層別刈り取り法により調べた。年間純生産量(乾重)は,舞鶴のアキヨレモクとヨレモクでは 3.9, 4.0 kg/m2,網野のジョロモク,ヨレモク,フシスジモクでは 0.8, 0.7, 1.1 kg/m2 と推定された。養老ではジョロモク,ヨレモク,ヤツマタモク,ノコギリモク,マメタワラに対して 1.2, 1.5, 2.4, 2.1, 1.4 kg/m2 と前報で報告されている。各地点の年間純生産量と環境特性との関係について議論した。

日水誌,73(5), 880-890 (2007)

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日本海西部で漁獲されたニギスの体成分の季節変動

原田和弘(兵庫農水技総セ),海野徹也(広大院生物圏科),大谷徹也(兵庫農水技総セ)

 日本海西部で漁獲されたニギスの体成分の季節変動を調査した。肥満度や腹腔内脂肪,魚体の脂質含量は 5 月に顕著な上昇が確認され,これは本種の加工品(焼きす)の好原料とされる時期と一致していた。魚体脂質や腹腔内脂肪と主餌料であるツノナシオキアミの脂肪酸組成を分析した結果,筋肉脂肪酸組成とツノナシオキアミには組成の類似性が認められたが,腹腔内脂肪との関連性を結論づけるには至らなかった。

日水誌,73(5), 891-896 (2007)

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秋田県沿岸海域で漁獲されたハタハタ Arctoscopus japonicus の肉および生殖巣中の脂質成分の季節的変動

塚本研一,戸枝一喜(秋田総食研),船木 勉(秋田水振セ),和田芙美子,松本祥子(聖霊短大),松永隆司(秋田県大生物資源)

 秋田県沿岸海域で漁獲されたハタハタ Arctoscopus japonicus の肉および生殖巣中脂質成分の季節的変動について調べた。肉中粗脂肪含量は 9 月に最高値,12 月に低い値を示したが,脂肪酸組成の有意な差はなかった。卵巣の重量と粗脂肪量は成熟とともに増加したが,脂肪酸組成の変動はなかった。これらの変動は摂餌と性成熟に関連すると考えられた。食品として 9 月は肉中粗脂肪含量が多く肉が美味であり,12 月は卵巣重量が多く卵巣が美味であると考えられた。加工方法としてハタハタ肉は塩干品やすり身への加工,卵巣は魚卵加工が期待される。

日水誌,73(5), 897-904 (2007)

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2 軸型エクストルーダーを用いたスケトウダラすり身の組織化

北川雅彦,飯田訓之(釧路水試),佐伯宏樹(北大院水)

 2 軸型エクストルーダーによって,未加熱のスケトウダラすり身(WPS)から安定的に組織化物を製造する条件を検討した。その結果,WPS と濃縮大豆タンパクを 70:30 で混合し,水分含量を 60% に調整した原料配合を用いると,装置バレル最終部における加熱温度を 170°C,スクリュー回転数を 50 rpm とした運転条件下で,顕著な褐変を生じることなく押出し方向に沿った繊維構造を持つ組織化物が得られた。この結果は,適切な加工条件を設定すれば,生鮮魚肉もエクストルージョン・クッキングの原料となることを示している。

日水誌,73(5), 905-915 (2007)

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中西部太平洋熱帯域のカツオ卵巣に観察された微胞子虫様寄生体(短報)

芦田拡士(東海大院海洋),田邉智唯(水研セ遠洋水研),間野伸宏,廣瀬一美(日大生物資源),鈴木伸洋(東海大院海洋)

 カツオ卵巣内の漿膜から卵巣腔側に至る結合組織間に Uvitex2B 染色で蛍光発色するほぼ円形の微胞子虫様寄生体の集塊が食細胞に貪食された状態で認められた。寄生体は胞子様構造の大きさが平均 1.22 μm のほぼ球形を呈し,微胞子虫類の一種と考えられた。529 個体中 518 個体に寄生がみられ,調査した 20 ヶ月間における採集月別の寄生率は 88〜100% となり,寄生率に月別の規則性はみられなかった。

日水誌,73(5), 916-918 (2007)

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音響カメラによるエチゼンクラゲの観察(短報)

本多直人,渡部俊広(水研セ水工研)

 1.8 MHz と 1.1 MHz の超音波により照度や透明度に関係なく水中映像を撮影することができる音響カメラを用いて,エチゼンクラゲが観察可能かどうかを調べた。1.8 MHz で撮影された映像では,約 12 m の距離までエチゼンクラゲを形状で判別でき,映像からエチゼンクラゲの傘径計測も可能であった。約 10 m 以内であれば,傘を拍動する様子や,付随して遊泳するイボダイも観察でき,約 5 m 以内であれば触手も観察できた。1.1 MHz で撮影された映像では,大きさや浮遊の状態から約 25 m の距離までエチゼンクラゲを個々に識別できた。本研究により,音響カメラを用いることでエチゼンクラゲの行動観察や傘径計測,分布調査などが可能であることが示された。

日水誌,73(5), 919-921 (2007)

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