日本水産学会誌掲載報文要旨

卵巣の組織学的観察による中西部熱帯太平洋におけるカツオの成熟と産卵生態の推定

芦田拡士(東海大院海洋),
田邉智唯(水研セ遠洋水研),
鈴木伸洋(東海大院海洋)

 中西部熱帯太平洋における本種の卵巣組織観察から,成熟と産卵生態を推定した。半数成熟体長は 47.9 cm で,核移動期をもつ個体は 15-21 時に採集されたものに限られた。同一の生殖腺指数(GI)階級において成熟段階の異なる個体が存在することから,GI は卵巣成熟度を正確に反映できないと推察した。成熟個体の卵巣は常に周辺仁期が約 80% 以上を占めており,卵黄球期以降の卵母細胞は 5〜10% であった。周年に亘り大半の成熟個体が産卵段階,産卵移行段階であり,産卵停止段階の出現が少なく,周年産卵を行うと推察した。

日水誌,73(3), 437-442 (2007)

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大阪湾の人工護岸上に形成された海藻群落の維持と高密度に生息するウニ類の摂食活動

金子健司,豊原哲彦(日海生研),
藤田種美(関西空港),米田佳弘(関空調査会),
中原紘之(京大院農)

 大阪湾南部の石積み護岸上に形成された藻場において,3 年間にわたり,海藻の現存量とウニ類の分布と食性を調べた。水深 2 m において,小型多年生のスギノリ科の紅藻が周年繁茂し,大型一年生のホンダワラ属やワカメ等の褐藻が冬季に繁茂した。バフンウニとムラサキウニの密度は水深 2 m 以浅で高く,それらの消化管内容物は藻場の構成種に類似していた。護岸上の藻場は高密度のウニ類による強い摂食圧にさらされているが,栄養塩が豊富で海藻の生産力が大きいため,多様な生活型を持つ海藻群落が安定して維持されていると推測された。

日水誌,73(3), 443-453 (2007)

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鹿児島県薩摩半島南部における褐藻フタエモク Sargassum duplicatum (Fucales, Phaeophyceae) の季節的消長

島袋寛盛(鹿大海洋研セ),
寺田竜太,外林 純,Gregory N. Nishihara(鹿大水),
野呂忠秀(鹿大海洋研セ)

 2002 年 1 月から 2003 年 5 月にかけて,鹿児島県頴娃町番所鼻において褐藻類ホンダワラ属フタエモクの季節的消長を観察した。本種は平均海水面から上部 60 cm の潮間帯に生育していた。2002 年 3 月から 5 月の春期に著しく生長した。6 月に生殖器床を形成するとともに,藻長<09-25>湿重量ともに最大となった。成熟後全ての個体は枯死し,10 月に群落は消失した。翌 2003 年は前年同様に 1 月に群落が出現したが,3 月には藻体の欠損や白化などによる生育阻害が見られた。これらは魚類による食害や他の環境要因が原因と考えられた。

日水誌,73(3), 454-460 (2007)

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トラフグ人工種苗の減耗要因の検討;天然魚と人工種苗の比較

清水大輔,崎山一孝(水研セ瀬水研),
阪倉良孝,高谷智裕(長大水),
高橋庸一(水研セ瀬水研)

 天然海を模した素掘池(5,300 m2)に捕食魚(タイリクスズキ)の存在する環境を設定し,人工種苗と天然種苗の放流試験を行った。その結果,人工種苗(生残率 56%)は天然種苗(同 86%)より食害されやすかった。水槽実験(水深 33.5 cm)による遊泳水深の比較では,放流直後の人工種苗は天然種苗に比べて表層を遊泳しやすく,素掘池での種苗の行動と一致した。また,フグ毒(TTX)の保有状況は,天然種苗は全て TTX を含有し,人工種苗は全く含有していなかった。種苗間の行動の相違が食害の差となった可能性が考えられる。

日水誌,73(3), 461-469 (2007)

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通電加熱前処理によるサケ塩干品の品質改良

松原 久(青森食研セ),
田中淳也(青森県鰺ヶ沢水産事務所),
成田清一(下北ブランド研セ),関 伸夫(北大院水)

 ブナザケ塩干品の品質改良のために通電加熱処理を製造工程に組み込み,その効果を検討した。45℃,5 分間の条件での通電加熱で,塩干品の硬さと凝集性が未加熱品に比較して低下し,脆弱化した。さらに,筋肉の筋節間が剥離した。その通電加熱条件でサケ肉の塩溶性タンパク質は不溶化したが,水溶性タンパク質の溶解度は高かった。製造過程を通じて筋肉タンパク質組成がほとんど変化しなかったことから,物性変化に対する自己消化の影響は小さかった。実用化を想定し,不定形のサケ肉片を導電液(0.5% NaCl)中に浸漬して通電加熱する方法を示した。

日水誌,73(3), 470-477 (2007)

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和歌山県田辺湾滝内及び内ノ浦の潮間帯に生育するコアマモ Zostera japonica の季節的消長

上出貴士(和歌山農水技セ増養研)

 和歌山県田辺湾に生育するコアマモの 2 群落の季節的消長を明らかにした。現存量は滝内,内ノ浦でそれぞれ 26.8〜218.5 g/m2,51.8〜386.3 g/m2 で変動し,初夏(6〜7 月)に最も多くなった。現存量のうち根茎が最も大きな割合を占め,最大で全体の 94% に達した。これらから本種の季節的消長を成熟期(繁茂期前期),繁茂期後期,繁茂期末期,衰退期,衰退期末期,生長期前期,生長期後期の 7 期に区分した。花枝が形成される成熟期は 5〜8 月及び 10 月であり,現存量は繁茂期後期に最大,衰退期末期に最小となった。

日水誌,73(3), 478-486 (2007)

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東北地方太平洋岸沖におけるズワイガニの甲幅組成解析により推定された成長

上田祐司,伊藤正木,服部 努,成松庸二,
藤原邦浩(水研セ東北水研八戸),
吉田哲也(福島水試),北川大二(水研セ北水研)

 東北地方太平洋岸沖(東北海域)におけるズワイガニの成長を,甲幅組成解析等により調べた。2001〜2005 年の雄の甲幅組成は平均甲幅 27〜93 mm の 6 齢期群に,雌では 30〜77 mm の 5 齢期群にそれぞれ変換され,成長速度は雌雄でほぼ同様であった。最終脱皮割合は,雄で甲幅 110 mm,雌では甲幅 76 mm でほぼ 100% に達していた。雄の齢期別甲幅は日本海における知見とほぼ同様であったが,最終脱皮割合は全ての甲幅で東北海域のほうが高かった。東北海域に大型の雄ガニが少ないことが知られているが,その要因の一つとして日本海との最終脱皮サイズの違いが考えられた。

日水誌,73(3), 487-494 (2007)

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小型底びき網のグランドロープの太さによる漁獲選択性の相違

藤田 薫,松下吉樹,本多直人,
山崎慎太郎(水研セ水工研),
小林正三(千葉県銚子水産事務所)

 現用の小型底びき網のグランドロープをコントロールとして,直径が約 2 倍のグランドロープを持つ小型底びき網のサイズ選択性を,拡張した SELECT モデルにより評価した。ガンゾウビラメとマトウダイは小型個体ほど,アカシタビラメとクロウシノシタは大型個体ほど選択率が低くなった。ホウボウは全長と選択率の関係に明確な傾向は見られず,漁獲個体数も変わらなかった。種やサイズによって選択性に相違があったことから,グランドロープの太さを選択漁獲に利用できる可能性がある。

日水誌,73(3), 495-504 (2007)

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植え継ぎ培養法と粗放連続培養法で生産したシオミズツボワムシの栄養強化における餌料価値(短報)

友田 努,小磯雅彦,島 康洋(水研セ能登島セ)

 植え継ぎ培養における対数増殖期のワムシ(バッチワムシ)と粗放連続培養における定常状態のワムシ(粗放連培ワムシ)を用いて,栄養強化試験を行った。その結果,粗放連培ワムシの増殖特性は栄養強化前後ともバッチワムシとほぼ同等レベルであった。さらに,強化後の n-3 系高度不飽和脂肪酸(n-3 HUFA)含量はバッチワムシよりも有意に高くなった。以上のことから,粗放連続培養により生産されるワムシの餌料価値は現状の種苗生産において有効と考えられる植え継ぎ培養の対数増殖期のワムシよりも優れていることが示唆された。

日水誌,73(3), 505-507 (2007)

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