日本水産学会誌掲載報文要旨

瀬戸内海東部海域におけるサワラの種苗放流効果

山崎英樹(水研セ屋島セ),竹森弘征(香川水試),岩本明雄,奥村重信,藤本 宏,山本義久(水研セ屋島セ),小畑泰弘(水研セ玉野セ),草加耕司(岡山水試),北田修一(海洋大)

 サワラの放流効果を推定するため,ALC 耳石標識を施した全長 40 mm の種苗と中間育成をした全長 100 mm の種苗を 2002, 2003 年に播磨灘と備讃瀬戸に放流した。瀬戸内海東部海域の主要市場での調査の結果,混獲率は約 4〜42%,放流魚による水揚げ量は約 8.3〜21.6 トンに達し,種苗放流がサワラ漁業に果たす貢献度合いが高いことがわかった。また,1 歳魚までの回収率は 0.89〜15.75%,経済効率は 0.14〜1.60 と推定され,100 mm 放流群では 1 歳魚までで経済効率が 1 を上回ることが明らかになった。

日水誌,73(2), 210-219 (2007)

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伊勢湾底びき網漁業に用いられるオッターボードの性能評価と新型オッターボードの提案

山崎慎太郎,松下吉樹,川島敏彦(水研セ水工研),冨山 実(愛知水試),熊沢泰生,平山 完(ニチモウ)

 小型底びき網漁船における曳網能力の制限下で離着底兼用トロール網を用いるため,現用オッターボードの性能評価を行い,その性能を基準に離着底が可能で,かつ揚抗比のより高いオッターボードを設計・試作して現用オッターボードとの性能比較を行った。模型実験において,操業に用いる迎角における新型オッターボードの抗力係数は現用オッターボードよりも小さく,揚抗比は現用の 1.41 倍となった。また,曳網実験における新型オッターボードの離底時の間隔は,現用の着底時に比べ 1.1〜1.2 倍となった。

日水誌,73(2), 220-225 (2007)

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ズワイガニ種苗生産における飼育水の攪拌と薬浴による生残率の向上

小金隆之(水研セ小浜セ),浜崎活幸(海洋大),團 重樹(水研セ西海水研石垣)

 ズワイガニ幼生の浮遊性にかかわる走光性と走地性を調べるとともに,飼育幼生の生残率,浮遊率および水槽底に沈下した幼生の死亡率に及ぼす飼育水の攪拌とニフルスチレン酸ナトリウムによる薬浴の影響を調べた。その結果,第 1 齢ゾエアは正の走光性と負の走地性を示し,浮遊性が強かったが,第 2 齢ゾエア以降は光に対してほとんど反応せず,試験容器の底に沈下する個体が多かった。飼育水の攪拌とニフルスチレン酸ナトリウム浴は,幼生の浮遊性の確保と生残率の向上に効果を示し,特に薬浴による生残率の向上効果が大きかった。

日水誌,73(2), 226-232 (2007)

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瀬戸内海備讃瀬戸のサッパの年齢と成長・成熟

小田直樹(備南測量設計)

 サッパの年齢と成長,成熟を鱗の輪紋の読み取りと生殖腺の観察,計量により推定した。試料には商業漁獲物および釣りと定置網の漁獲物を用いた。輪紋は年 1 回,9 月から 10 月に形成された。雌雄ともに少なくとも体長 9.5 cm で成熟し,産卵期は 6〜9 月で,8 月が盛期と推定された。個体の年齢別体長に最尤法を適用し,雌雄別に季節変化を考慮した von Bertalanffy の式が他の成長モデルよりも適合した。統計学的に雄よりも雌の成長が速かった。試料中 50% が成熟に達する体長は雌雄それぞれ 10.32 cm と 10.11 cm であった。

日水誌,73(2), 233-243 (2007)

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鹿児島県志布志湾における褐藻ヨレモクモドキとシロコモクの季節消長

島袋寛盛,樋口福久(鹿大海洋研セ),寺田竜太(鹿大水),野呂忠秀(鹿大海洋研セ)

 鹿児島県志布志湾におけるヨレモクモドキとシロコモク季節消長について,2003 年 3 月から 2004 年 1 月にかけて調査した。両種とも水深 1〜1.5 m の範囲に優占種として生育していた。両種とも 4 月に藻体サイズが最大となり,ヨレモクモドキは主枝長 244.0 cm,主枝 1 本あたりの湿重量 665.2 g,シロコモクは 194.6 cm,395.5 g に達した。その後,両種の枝部は枯死流出し,9 月には付着器上から新たな主枝が伸長した。

日水誌,73(2), 244-249 (2007)

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有明海におけるトラフグ Takifugu rubripes 人工種苗の漁獲サイズにおよぼす放流条件,資源量指数および水温の影響

松村靖治(長崎水試)

 有明海において 1991〜1995 および 2000〜2002 年に放流した 23 群のトラフグ標識魚の 11 月 1 日の推定全長を目的変数とし,放流時期,放流サイズ,放流場所,種苗性,資源量指数および水温(7〜8 月と 9〜10 月)を説明変数として重回帰分析を行った。解析の結果,漁獲サイズの変動には放流サイズ,放流時期,放流場所,資源量指数および水温が影響していることが判明した。偏回帰係数から,諫早湾および湾奥において大きいサイズで早期に放流することにより,より大型の漁獲加入魚が得られることが判った。

日水誌,73(2), 250-255 (2007)

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エゾボラ Neptunea polycostata の繁殖生態,特に成熟サイズ,生殖周期と性比について

藤永克昭(道都大),尾山康隆(北大院水)

 2000 年 4 月から 2001 年 4 月にかけて,北海道のえりもにおいてエゾボラの繁殖を,成熟サイズ,生殖周期や性比の点から検討した。エゾボラの成熟サイズは,雄は殻高 120〜130 mm,雌は殻高 150〜160 mm であると判断された。エゾボラの主な交尾時期は,2 月から 5 月にかけてであると考えられた。一方,エゾボラの産卵は,3 月から 8 月にかけて行われると推測された。エゾボラの性比は季節によって変化した。エゾボラの殻高組成は雌雄によって相違し,その原因として雌雄の成長の差以外に,雄と雌の死亡率の相違による可能性も考えられた。

日水誌,73(2), 253-262 (2007)

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日本海西部海域における標識再捕データによるアカガレイの死亡係数の推定

山崎 淳(京都海洋セ),柳下直己(近大農)

 アカガレイの死亡係数を推定するために,1994,1995,1996 年および 1997 年 4 月に京都府沖合海域で合計 2,928 個体の標識放流を行った。放流後 1 年ごとの再捕データを用いて最尤法により全減少係数(Zt)を推定した。年当りの Ztは 1994,1996 年放流群が 0.596,1995 年および 1997 年放流群が 0.455,0.835 と推定された。放流直後の生残率,標識魚の発見報告率の仮定値を与えて,年当り漁獲係数(Ft)および自然死亡係数(Xt)はそれぞれ 0.159〜0.393 および 0.236〜0.449 と推定された。Xt の中で逸散が大きな割合をもつと考えられた。

日水誌,73(2), 263-269 (2007)

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鹿児島湾におけるマダイの種苗放流効果

宍道弘敏(出水農林水),北田修一(海洋大)

 鹿児島湾におけるマダイ放流効果調査データに基づき,'89〜'04 年放流群の回収状況を推定評価した。また,放流年群別に推定した回収率に基づき,その年変動要因を検討した。その結果,'89〜'04 年の放流魚混獲率(鼻孔隔皮欠損魚数/全調査尾数)は 8.0〜73.5% であった。'89〜'95 年放流群の累積回収率は 2.6〜12.2%,経済効率(回収金額/放流直接経費)は 1.4〜10.4 と推定された。放流魚の回収率と混獲率は近年低下してきており,その要因として,関連予算削減に伴う放流サイズの小型化,海面生簀における中間育成の中止等の影響が考えられた。

日水誌,73(2), 270-277 (2007)

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ミトコンドリア SNP 標識で追跡した放流琵琶湖産アユの行方

岩田祐士,武島弘彦(東大海洋研),田子泰彦(富山水試),渡辺勝敏(東大海洋研),井口恵一朗(水研セ中央水研),西田 睦(東大海洋研)

 琵琶湖産(湖産)および両側回遊性(海産)アユ間で出現頻度の異なるミトコンドリア DNA 調節領域上の一塩基多型(SNP)を,特異的に識別する手法を開発した。富山県庄川とその河口域で 1996 年放流期から周年採集されたアユに本手法を適用し,検出されたハプロタイプ頻度に基づいて,標本群に占める湖産アユの混合率を推定した。繁殖の初期には湖産アユに由来する流下仔魚が確認されたが,海中生活期の標本からは湖産アユの遺伝的痕跡は消失した。繁殖はするが資源の再生産には貢献しない湖産アユの種苗特性が明らかにされた。

日水誌,73(2), 278-283 (2007)

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ワムシ栄養強化中に起こる複相単性生殖卵への n-3 系高度不飽和脂肪酸の蓄積(短報)

小磯雅彦(水研セ能登島セ),團 重樹(水研セ西海水研),島 康洋(水研セ能登島セ),日野明徳(東大院農)

 栄養強化中のシオミズツボワムシ個体群における n-3 系高度不飽和脂肪酸(n-3HUFA)の挙動を知るため,市販の n-3HUFA 含有クロレラで 4 日間培養したワムシ個体群と卵の脂肪酸組成および含有量を調べた。その結果,ワムシ個体群と卵は,脂肪酸組成はほぼ同じ傾向となり,n-3HUFA 総量は 3.25%(乾重量)と 3.71%(同)と同程度であった。このことから,ワムシに取り込まれた n-3HUFA は,その一部が卵にも蓄積されることが示唆された。

日水誌,73(2), 284-286 (2007)

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炭酸ガス発泡剤のヒラメ稚魚に対する麻酔効果(短報)

渡辺研一(水研セ養殖研)

 新たなヒラメ稚魚用麻酔剤としての炭酸ガス発泡剤の有効性を検討した。炭酸塩として 4 種類,有機酸として 10 種類,固形化剤として 4 種類を用いて作製した発泡剤を種々の濃度に溶解した。ヒラメ稚魚を収容し,麻酔状態となるまでの時間を測定した。麻酔に要する時間や食品としての安全性から判断した結果,重曹,食品添加物用コハク酸,食品添加物用グリセリンが有効と考えられた。この発泡剤と FA100 の麻酔効果を比較したところ,麻酔からの覚醒時間は発泡剤の方が短かった。

日水誌,73(2), 287-289 (2007)

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