日本水産学会誌掲載報文要旨

知多湾における堆積物中の有機物の起源

三戸勇吾(愛媛大院農),山田佳裕(香川大農),山本敏哉(豊田矢作川研),中島沙知(愛媛大院農),白金晶子(豊田矢作川研),堤 裕昭(熊本県大環境),多田邦尚(香川大農)

 知多湾における堆積物中の有機物量と有機物の起源を明らかにするために TOC 含有量,δ13C を測定した。知多湾の西域から中央域では,堆積物中の TOC 含有量は海洋で生産された有機物によって高くなっていることが明らかとなった。一方,矢作川河口域では,堆積物中の TOC 含有量や δ13C が地点間で大きく異なっており,堆積物中の化学環境の傾斜が大きいことが明らかとなった。特に,河口域の中央から西側では矢作川から供給される細かい粒子や有機物が多く堆積しており,底質環境に大きな影響を与えていると考えられた。

日水誌,73(1), 1-7 (2007)

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京都府沖合におけるカレイ漁に使用する駆け廻し式底曳網の選別網によるズワイガニの混獲防除

宮嶋俊明(京都海洋セ),岩尾敦志(京都府水産課),柳下直己(近大農),山崎 淳(京都海洋セ)

 京都府沖合海域において,駆け廻し式底曳網に仕切網と選別網(目合 600 mm)を取り付け,ズワイガニを網外に排出し,カレイ類を漁獲するための漁具の開発を行った。漁獲物とズワイガニの分離は選別網で行い,効率的な分離を行うためには,底網から選別網までの高さを維持することが重要であった。本漁具を用いた試験操業では,ズワイガニの 74〜98% を網外に排出し,アカガレイの 67〜88%,ヒレグロの 57〜70% を漁獲することができた。本網は甲幅 100 mm 以下のズワイガニの分離に対して有効であった。

日水誌,73(1), 8-17 (2007)

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伊勢湾におけるシャコ Oratosquilla oratoria の個体群動態

成田光好,Monthon Ganmanee,関口秀夫(三重大院生資)

 伊勢湾のシャコの個体数,生物量の季節・年変動および個体数の時空間分布,浮遊幼生と稚シャコの出現時期を調べた。個体数と生物量は,夏季の貧酸素水塊によって減少し,秋季から翌年の春季にかけて再び増加した。浮遊幼生は主に夏季から秋季に出現し,稚シャコには早期発生群と晩期発生群が認められた。多くの年で早期発生群に由来するコホートが秋季に平均体長約 50 mm で加入した。早期発生群の加入がない年には,翌年のシャコの個体数が少ないことから,伊勢湾のシャコ個体群の形成には,早期発生群の加入の成否が大きく影響すると考えられる。

日水誌,73(1), 18-31 (2007)

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大分県猪串湾における有毒渦鞭毛藻 Gymnodinium catenatum の出現と海水懸濁物中の麻痺性貝毒量およびヒオウギガイ Chlamys nobilis の毒化予察

宮村和良(大分水試),松山幸彦(水研セ瀬水研),呉 碩津(九大院農)

 Gymnodinium catenatum によるヒオウギガイの毒化を高精度に予測するために,2002 年 12 月〜03 年 4 月の期間に G. catenatum 細胞密度,海水懸濁物中の毒量,G. catenatum 細胞あたりの毒量,ヒオウギガイ中腸腺毒力を測定した。調査期間中,G. catenatum の出現によりヒオウギガイ中腸腺毒力は 675 MU g−1 に達した。ヒオウギガイの高毒化は G. catenatum 細胞密度,海水懸濁物中の毒量のみならず G. catenatum 細胞あたりの毒量の増加が関係していることが示唆され,これらを考慮することにより,正確なヒオウギガイの毒化予測が可能であった。

日水誌,73(1), 32-42 (2007)

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資源計画のためのシミュレーションモデル:瀬戸内海東部海域のサワラを例として

小畑泰弘(水研セ玉野セ),滝本鮎子(海洋大),岩本明雄(水研セ屋島セ),北田修一(海洋大)

 種苗放流および漁獲規制の資源量および漁獲量に及ぼす効果を予測するため,加入量変動を考慮した漁獲方程式に基づく単純な個体数動態モデルを構築した。本モデルを瀬戸内海東部海域のサワラの資源回復計画に適用し,目標達成の可能性をシミュレーションにより予測した結果,現行の管理すなわち 5 万尾の種苗放流および秋漁の禁漁を行った場合の目標達成確率は 99.3%,これらを行わない場合の達成確率は 63.4% と予測された。また,水産庁が提案している ABC 管理に基づく漁獲方策に適用し,2030 年までの効果を予測した。

日水誌,73(1), 43-50 (2007)

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マダイの滑走細菌症に対する浸漬ワクチンの効果

加藤文仁,石丸克也,村田 修,熊井英水(近大水研)

 滑走細菌症の原因菌 Tenacibaculum maritimum のホルマリン不活化菌体(以下 FKC)を用いて,マダイにおける浸漬ワクチンの効果を検討した。20 μg/mL の FKC 懸濁海水に 30 分間浸漬した供試魚に対して 3 日後,1 週間後,2 週間後に実験的感染を行ったところ,有効率はそれぞれ 4.0%,56.0%,76.0% であった。また追加免疫効果の検討では,1 回接種区で 59.3%,2 回接種区で 74.1% の有効率が得られた。以上の結果から,滑走細菌症に対する浸漬ワクチンの有効性が示され た。

日水誌,73(1), 51-54 (2007)

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異なるサイズで放流したサワラ人工種苗の資源添加効率の比較

小畑泰弘(水研セ玉野セ),山崎英樹(水研セ屋島セ),竹森弘征(香川水試),岩本明雄,奥村重信,藤本 宏,山本義久(水研セ屋島セ),北田修一(海洋大)

 サワラの人工種苗を効率的に資源へ添加するための放流サイズを,種苗生産の直後に放流した全長約 40 mm 種苗と種苗生産後に飼育を行った全長約 100 mm 種苗について,漁獲加入までの生残から評価した。2002 年と 2003 年に標識放流および再捕調査を行った結果,両放流群の放流から漁獲加入までの生残率の比はそれぞれ 4.10,3.13 となり,100 mm 放流群の方が高かった。放流にかかった種苗経費と資源添加尾数の関係から両放流群を比較した結果,両年とも 100 mm 放流群の方が優れていた。

日水誌,73(1), 55-61 (2007)

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魚類養殖漁場における海底堆積物の化学的特性とリンの存在形態

上出貴士(和歌山農水総技セ増養研)

 和歌山県沿岸の魚類養殖漁場における海底堆積物の化学的特性を,非魚類養殖漁場のものと比較・検討した。化学的酸素要求量,全有機態炭素量,全窒素量及び C/N では魚類養殖漁場と非魚類養殖漁場との間に明確な差はみられなかった。一方,全リン量は魚類養殖漁場で高く,それに伴い C/P 及び N/P が低い傾向を示した。特に養殖漁場ではカルシウム結合型リン含量が極めて高い傾向(1 mg g−1 以上)を示した。従って,堆積物中の全リン量及び組成は,魚類養殖による有機物負荷の影響範囲を知る有効な指標となると考えられた。

日水誌,73(1), 62-68 (2007)

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マグネシウムイオンの鎮静作用を利用したヤリイカとスルメイカの活輸送,とくに輸送後の冷凍および冷蔵試料との品質の比較

舩津保浩(酪農大食科),川崎賢一(近大農),臼井一茂,仲手川 恒(神奈川県環境農政部),清水俊治(諏訪東理大電子),阿部宏喜(東大院農)

 ヤリイカとスルメイカを 20 mM MgSO4 海水(Mg-SW)に入れ,水温を約 7°C まで下げて鎮静作用を誘導した。ガスバリア性の高い袋に Mg-SW 0.6 L とヤリイカ,Mg-SW 1.0 L とスルメイカをそれぞれ入れ,酸素封入後,5°C で 27 時間トラック輸送した。比較として,液体窒素で凍結後,−20°C で輸送した試料と即殺後 5°C で輸送した試料を調製した。スルメイカの麻酔試料は冷蔵試料との官能的な違いはみられなかったが,ヤリイカの麻酔試料は冷凍や冷蔵試料に比べ,透明感や歯ごたえが良かった。

日水誌,73(1), 69-77 (2007)

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