日本水産学会誌掲載報文要旨

VPA によって推定された岩手県沿岸に生息するヒラメ Paralichthys olivaceus の資源変動と加入特性

後藤友明(岩手水技セ)

 岩手県沿岸に分布するヒラメ資源について,VPA を用いて 1990 年から 2004 年までの資源量を推定した。天然魚の資源量は 65〜252 トンで変動し,2002 年以降減少傾向を呈した。放流魚の資源量は 8〜63 トンで変動し,種苗放流の事業化開始以降低水準で推移していた。放流魚の資源添加効率は放流数の増加に伴い低下する傾向が認められ,放流魚の生残に放流数が関連している可能性が示唆された。天然魚の加入量は再生産成功率に依存して変動し,浮遊期にあたる 7 月の沿岸域おける水温条件の影響を強く受けると推察された。

日水誌,72(5), 839-849 (2006)

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VPA で求めた北海道北部産マガレイの資源尾数推定値の評価

下田和孝(稚内水試),室岡瑞恵(網走水試),
板谷和彦(道中央水試),星野 昇(道孵化場)

 VPA の後退法,1 歳 CPUE を用いた前進法および ADAPT VPA でマガレイの資源尾数を算出し,レトロスペクティブパターンを調べた。最近年時点で推定した資源尾数は,8 年分の漁獲データから求めた値と比べ,後退法で−54〜+109%,前進法で−41〜+59%,ADAPT VPA で−53〜+54% の誤差を示した。年齢別では,1 歳は前進法が,3〜6 歳は後退法と ADAPT VPA の誤差が小さかった。2, 7 歳の手法差は小さかった。1〜2 歳を前進法で,3〜7 歳を後退法で求めたところ,誤差は−26〜+5% に縮小した。

日水誌,72(5), 850-859 (2006)

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伊勢湾におけるハタタテヌメリ Repomucenus valenciennei の個体群動態

成田光好,Monthon Ganmanee,
関口秀夫(三重大院生資)

 約 10 年間のメガベントス調査試料に基づいて,伊勢湾の優占種であるハタタテヌメリの個体数,生物量の季節・年変動および個体数の時空間分布,稚魚の底生個体群への加入時期を調べた。多くの個体が貧酸素水塊を回避,あるいはそれによって死亡することにより,個体数と生物量は夏季に減少し,秋季から翌年の春季には,回避群の復帰と秋季から冬季に湾奥から湾中央部の水域に着底した新規加入群によって再び増加した。

日水誌,72(5), 860-872 (2006)

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ヒラメ天然魚を用いた配合飼料給餌による親魚養成と採卵

本藤 靖(水研セ五島),村上直人(水研セ宮津),
虫明敬一(水研セ五島),津崎龍雄(水研セ宮津)

 ヒラメ天然魚を用いて市販の配合飼料(試験区)および冷凍マアジ(対照区)をそれぞれ給餌して親魚養成を行い,水温と光条件を制御して 2002 年と 2003 年に誘発産卵試験を行った。また,得られたふ化仔魚を用いて初期 10 日間の飼育試験を行った。両年とも試験区においても産卵が認められたが,産卵成績は対照区の方が良好な結果を示した。しかし,得られた仔魚の活力や仔魚の生残・成長には,試験区と対照区の間で差はなかった。これらの結果から,天然魚を用いた配合飼料給餌による親魚養成が可能であることが判明した。

日水誌,72(5), 873-879 (2006)

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ムツゴロウ若齢個体の冬期生息環境と低温耐性

竹垣 毅(長大院生産),
藤井剛洋,石松 惇(長大海セ)

 ムツゴロウ若齢魚の小型個体が冬期に選択的に死亡する減耗現象に与える低温度の影響を,越冬環境調査と急性の低温耐性実験から検討した。越冬中の若齢個体(主に 0, 1 歳魚)が発見された泥干潟の深さは,佐賀県六角川で 5.0〜55.0 cm,熊本県唐人川で 4.5〜39.0 cm で,いずれも体サイズと関連は無く,小型個体だけが致死温度まで低下する干潟表層部で越冬するわけではなかった。低温耐性実験(3°C, 5°C, 7°C)では,低温度条件ほど早期に死亡したが,全ての温度条件で死亡率にサイズ差は無かった。従って,死亡率のサイズ差は,越冬深度および急性の低温耐性では説明できないと考えられた。

日水誌,72(5), 880-885 (2006)

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トラフグ人工種苗の食害:メソコスムでの放流実験による検討

清水大輔,崎山一孝, 高橋庸一(水研セ百島)

 トラフグ人工種苗の食害による減耗実態を解明するため,塩田跡地を改良した素堀池(5,300 m2)で 2 回の模擬放流試験を行った。捕食魚のタイリクスズキ(全長 30 cm)30 尾を収容した試験区と収容しない対照区を設定し,平均体長約 30 mm の人工種苗 300 尾ずつを放流し,被食状況を調べたところ,捕食魚ありの試験区で生残率が著しく低下し,放流直後の食害が減耗要因として重要であることがわかった。また,放流時のサイズの差や尾鰭欠損の有無が,放流初期の成長と生残に及ぼす影響は認められなかった。

日水誌,72(5), 886-893 (2006)

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東京湾内湾域におけるマアナゴ Conger myriaster とヌタウナギ Eptatretus burgeri の分布について

原田真美,東海 正,内田圭一(海洋大),
清水詢道(神奈川水技セ)

 東京湾内湾域におけるマアナゴとのヌタウナギ分布を検討するために,あなご筒漁船の漁獲操業日誌(1994〜2002 年)から漁区別 CPUE(漁獲量 kg/筒 1 本)の月別分布図を作成した。マアナゴは,春季に来遊,着底した後,呼称めそあなご(全長 35 cm 未満のマアナゴ)として内湾域の千葉県寄りの漁場で 8 月頃から混獲され始め,全長 35 cm に達したものが 11 月頃から銘柄あなごとして水揚げされ,内湾域全域に分布を広げる。ヌタウナギは,主に内湾域南西部の中ノ瀬周辺の水深 30 m 以深に分布した。これらの分布や季節変化に影響する要因についても考察した。

日水誌,72(5), 894-904 (2006)

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ミトコンドリア DNA の塩基配列分析によるヤリイカの遺伝的集団構造

伊藤欣吾(青森水総研セ),
柳本 卓(水研セ北水研),岩田容子(北大院水),
宗原弘幸(北大フィールド科セ),
桜井泰憲(北大院水)

 ヤリイカ Loligo bleekeri の遺伝的集団構造を明らかにするため,日本周辺に存在するとされる 4 つの地方集団を代表する 6 ヵ所から採集した 545 個体のミトコンドリア DNA 非コード領域(mtDNA NC4)の塩基配列分析を行った。NC4 領域 506-528 bp の塩基配列を観察したところ,55 の部位で変異が確認され,48 種類のハプロタイプが出現した。平均ハプロタイプ多様度(0.670)と平均塩基多様度(0.003)から,ヤリイカの遺伝的多様性の低さが示された。ハプロタイプ頻度と FST には,標本間で有意差はなく,日本周辺のヤリイカに種内分化は認められなかった。

日水誌,72(5), 905-910 (2006)

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スケトウダラ肉貯蔵中のトリメチルアミン-N-オキシドの分解機構と酸素ガスによる分解抑制

木村メイコ,竹内規夫,埜澤尚範(北大院水),
水口 亨,木村郁夫(日水中研),関 伸夫(北大院水)

 スケトウダラ肉貯蔵中のトリメチルアミンオキシド(TMAO)の分解抑制に及ぼす酸素ガスの影響を調べた。5°C 貯蔵の場合,分解物のジメチルアミン(DMA)の生成は窒素ガス,空気および真空貯蔵に比較して酸素ガス中で顕著に抑制された。−5 および−10°C で凍結貯蔵した場合も酸素ガスで抑制された。−20°C 貯蔵では酸素ガスの肉中への浸透が十分であれば効果があった。TMAO の分解機構は DMA 生成の至適 pH の類似性から,アスポリンによる TMAOase 作用に似ていたが,in vitro の無機反応とは異なっていた。

日水誌,72(5), 911-917 (2006)

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養殖イサキの死後変化に及ぼす刺殺条件と保存温度の影響

岡本 昭(長崎水試),
濱田友貴,三浦勝貴(長大院生産),
野中 健,桑原浩一,大迫一史(長崎水試),
三嶋敏雄,橘 勝康(長大院生産)

 養殖イサキの死後変化に及ぼす致死条件(延髄刺殺,苦悶死,温度ショック,脊髄破壊)と保存温度(氷蔵,5, 10, 15, 20°C)の影響を検討した。致死条件実験では ATP 量,IMP 量,K 値,硬直指数の経時変化は脊髄破壊が最も遅かった。夏期(飼育水温 25°C)と冬期(15°C)のイサキを用いた保存温度実験における死後変化は冬期群が夏期群に比較して遅く,10°C 保存で K 値,硬直指数の上昇が最も遅延した。養殖イサキの死後変化の遅延は飼育水温に関らず,保存 24 時間以内で脊髄破壊後 10°C 保存が最適であった。

日水誌,72(5), 918-923 (2006)

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岩手県閉伊川における遡河回遊型ワカサギの回遊履歴(短報)

佐々木 剛(宮古水産高校),猿渡敏郎(東大海洋研),
渡邊精一(海洋大)

 遡河回遊型ワカサギの回遊履歴を解明するため,耳石核から縁辺部まで Sr, Ca の X 線強度の線分析を行い,Sr:Ca 比を求めた。耳石の形成時期と Sr:Ca 比の変化から,淡水域と海水域を交互に回遊することが示唆された。すなわち,ふ化直後から 5〜7 月まで淡水域から海水域へ移動する「海水移動期」,5〜8 月まで淡水域に移動する「淡水移動期」,7〜9 月から産卵遡上時まで「海水移動期」となる。2 年魚は,海水域から淡水域へ移動する「淡水移動期」,その後海水域へ移動する「海水移動期」となる。

日水誌,72(5), 924-926 (2006)

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