日本水産学会誌掲載報文要旨

70 kHz スプリットビームエコーサウンダーによるクロソイ,ウスメバルおよびウマズラハギのターゲットストレングス測定

李 在(釜慶大海洋生産システム工)

 本研究では,韓国の西海岸および南海岸で主に沿岸複合漁業により漁獲されたクロソイ,ウスメバルおよびウマズラハギの活魚を対象として,70 kHz のスプリットビームエコーサウンダーを用いて透明アクリル製の海水水槽でデジタルビデオレコーディングシステムを用いて遊泳状態を観察しながら,各魚種別,体長別のターゲットストレングスを測定した。さらに,このターゲットストレングス情報を用いて魚種別のターゲットストレングスの体長依存性について分析した結果,クロソイ,ウスメバルおよびウマズラハギの体長依存係数 b20 は各々−71.3 dB, −72.0 dB, −66.9 dB であった。

日水誌,72(4), 644-650 (2006)

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京都府沖合海域で採集されたアカガレイの年齢と成長

柳下直己,山崎 淳(京都海洋セ),田中栄次(海洋大)

 京都府沖合海域においてアカガレイの雄 14 個体,雌 120 個体の標識放流実験における再捕結果,および小型の雄 175 個体,雌 186 個体の耳石輪紋数から推定した年齢―体長データを用いて,本種の年齢(年)と体長(mm)の関係を明らかにした。von Bertalanffy の成長曲線は雄:Lx=267.4[1−exp {−0.185(x+0.284)}];雌:Lx=381.9[1−exp {−0.130(x+0.136)}]で,各満年齢時における体長は雌の方が大きかった。50% 成熟年齢は雄が 5 歳,雌が 9 歳であった。

日水誌,72(4), 651-658 (2006)

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岩手県におけるサケを漁獲対象とした大型定置網の蓄積性能

秋山清二,貝原智志(海洋大)

 岩手県におけるサケを漁獲対象とした大型定置網の蓄積性能について検討するため,県内 77 漁場の日別漁獲資料(1994〜1998 年)をもとに定置網の蓄積指数(休漁翌日の平均漁獲尾数/休漁前日の平均漁獲尾数)を求めた。休漁翌日の平均漁獲尾数は休漁前日の平均漁獲尾数よりも有意に多く,蓄積指数は平均 1.85 となった。定置網の網型や箱網容積と蓄積指数の間に相関はみられず,箱網容積と漁獲尾数の間に相関が認められた。岩手県の大型定置網は充分に余裕のある箱網容積を確保し,蓄積性能に優れていることがわかった。

日水誌,72(4), 659-664 (2006)

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長良川における稚アユ遡上量の予測に関する検討

嶋田啓一,後藤浩一(長良川河口堰管理所),山本一生(いであ),和田吉弘(中部学院短大)

 長良川河口堰の建設を契機として実施されているアユの遡上・降下調査によって得た稚魚遡上量及び仔魚降下量に関する観測データとアユの生態学的特徴および遡上量に及ぼす物理的要因の関係をそれぞれの変動との照合や重回帰分析等の統計的手法を用いて考察し,稚魚遡上量を予測する手法を検討した。その結果,産卵期から仔魚の降下時期の河川流量及び稚魚の海域生活期の水温が長良川における海産稚魚の遡上量変動に影響を与えていることが示唆され,これらの環境要因のみによって遡上量が予測できる可能性が高いことを示した。

日水誌,72(4), 665-672 (2006)

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若狭湾沖に生息するズワイガニの産卵数

今  攸(越前がにミュージアム),安達辰典(福井水試)

 若狭湾沖に生息する最終未成体齢と若い成体(最終脱皮後<4 年)のズワイガニが持つ卵巣卵数は,共に甲幅と正の相関にあり,前者の卵数は後者の 62.8% と少なかった。これは卵巣発達時における体サイズの違いが原因しているとみられる。初産ガニと若い経産ガニ(1.5〜<4 年)が持つ腹肢付着卵数も,共に甲幅と正の相関にあったが,前者の付着卵が未成体の卵巣に,後者の付着卵が若い成体の卵巣に由来していることから,前者は後者の 66.3% であった。高齢の経産ガニ(>4 年)が持つ両卵数は,甲幅との間に有意な関係が認められないうえ少なかった。

日水誌,72(4), 673-680 (2006)

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木曽三川感潮域における二枚貝浮遊幼生の着底場所および着底時期

南部亮元(三重大生資),水野知巳(三重科技セ水),川上貴史,久保田薫,関口秀夫(三重大生資)

 2001 年から 2004 年に,木曽三川感潮域において,二枚貝類(ヤマトシジミ,アサリ,シオフキ,ホトトギスガイ)の浮遊幼生と着底稚貝の密度変動について調査した。木曽三川では,それぞれの種が密度の著しい季節・年変動を示し,浮遊幼生はホトトギスガイが著しく多く,着底稚貝はヤマトシジミが多くなっていた。また,4 種の二枚貝類の時空間分布をもとに,浮遊幼生の着底場所が種によって異なることが示された。ヤマトシジミは主に調査域上流に着底していたが,他の 3 種は主に海側から調査域下流に着底していた。

日水誌,72(4), 681-694 (2006)

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トロール網のグランドロープに対するズワイガニ類の行動

藤田 薫,渡部俊広(水研セ水工研),北川大二(水研セ東北水研八戸)

 調査用トロール網によるズワイガニ類の資源量の推定精度を向上するために,水中ビデオカメラを用いてグランドロープ(GR)に対するズワイガニ類の行動を観察した。2000 年と 2001 年の 6 月に宮城県沖から茨城県沖において行った合計 10 回の調査の映像記録から 466 個体のズワイガニ類の行動を解析した結果,94% が静止したまま GR に遭遇した。ズワイガニ類はペンネントや手綱によって網口へ駆集されることはないと推測した。入網しなかった個体は GR の下方から抜けた。ズワイガニ類の漁獲は GR に大きく影響される。

日水誌,72(4), 695-701 (2006)

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初回摂餌の遅れがキジハタ仔魚の摂餌,成長,および生残に及ぼす影響

與世田兼三(水研セ西海水研石垣),照屋和久,菅谷琢磨(水研セ養殖研上浦),関谷幸生(水研セ北水研厚岸)

 初回摂餌の遅れが本種仔魚の摂餌,成長および生残に及ぼす影響を調べた。摂餌開始時にワムシを与える区を 1 区とし,1 区から 6 時間(2 区),12 時間(3 区),18 時間(4 区)後に与える区と無給餌の 5 区を設定した。摂餌数と生残率は初回の摂餌時間が遅れるに従い,低くなる傾向があった。摂餌開始 69 時間後の平均全長は 1 区が 2〜4 区に比べて有意に大きく(p<0.05 or 0.01),無給餌の 5 区は摂餌開始 12 時間後から試験終了まで負の成長を示した。以上の結果,本種仔魚は摂餌開始 6 時間以内に摂餌に成功しないと摂餌,成長および生残に悪影響が生じることが示唆された。

日水誌,72(4), 702-709 (2006)

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放流メバルの識別標識としてのミトコンドリア DNA 塩基配列およびマイクロサテライト DNA 多型の有効性

村上倫哉,相田 聡(広島水技セ),吉岡孝治,吉田晴美,Enrique Blanco Gonzalez,西堀正英,海野徹也(広大院生物圏科)

 アリザリンコンプレキソン(ALC)標識を施したメバル人工種苗 81,000 個体を放流し,一年後,放流海域で捕獲した 81 個体について mtDNA 調節領域の塩基配列とマイクロサテライト DNA 多型を解析した。捕獲魚のうち 4 個体が雌親魚と同じ mtDNA 配列を持っており,マイクロサテライト DNA 1 座でも雌親魚と対立遺伝子を共有していた。さらにこれら 4 個体には全て ALC 標識が見られた。以上のことから本種の mtDNA とマイクロサテライト DNA は放流魚の遺伝標識として有効であると考えられた。

日水誌,72(4), 710-716 (2006)

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アイゴの海藻摂食に及ぼす振動流の影響

川俣 茂(水研セ水工研),長谷川雅俊(静岡水試伊豆)

 アイゴの海藻摂食に及ぼす振動流の影響を回流水槽で調べた。尾叉長 27 cm のアイゴは食欲の増加に伴い,より強い振動流の中でアラメ・カジメをより多く摂食したが,食欲旺盛な時期でもその摂食は流速振幅 1.1 m/s で半減し,1.5 m/s 程で停止した。この摂食限界はより大型の個体でもあまり増加しないことが体長の異なる個体の遊泳速度から示唆された。これらの結果を本州中部太平洋沿岸で予測される波動流速に当てはめてみると,アイゴの海藻摂食が活発化すると,波動流によって制限される可能性は極めて低いことが示唆された。

日水誌,72(4), 717-724 (2006) 

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増殖ステージが異なるワムシを摂餌したヒラメ仔魚の発育と形態異常の出現

友田 努,小磯雅彦(水研セ能登島),陳 昭能,竹内俊郎(海洋大)

 植え継ぎ培養におけるワムシの餌料価値を評価するため,異なる増殖ステージのワムシを栄養強化してヒラメ仔魚に与えた。その結果,ふ化後 18〜30 日齢の仔魚において,対数増殖後期のワムシを与えた群は増殖停滞期のものよりも成長と発育が優れた。さらに,これらの供試魚を全長約 40 mm まで継続飼育したところ,対数増殖後期の群は体色発現または骨格形成の異常率が最も低くなった。以上のことから,ヒラメ種苗生産において栄養強化に用いるワムシの増殖ステージが形態異常の出現に大きく影響することが明らかになった。

日水誌,72(4), 725-733 (2006)

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小型底びき網漁船で使用する離着底兼用トロール網の開発

松下吉樹(水研セ水工研),熊沢泰生(ニチモウ),冨山 実(愛知水試),稲田博史,武内要人(海洋大),藤田 薫,山崎慎太郎(水研セ水工研)

 伊勢湾内の小型漁船でも曳網可能で,海底付近に生息する生物の漁獲を減少させる代わりに中層に分布する生物の漁獲を期待する,トロール漁具を開発した。この漁具は曳索の長さを調整することでグランドロープは着底したままでオッターボードの離着底を実現し,漁具が海底に接触する面積を従来の漁具よりも小さくすることができる。この漁具の曳網中の形状を計測したところ,従来のものと比べて,漁具が掃過する海底の面積は小さくなったが,漁具の濾水容積は最大値で 1.9 倍と推定された。

日水誌,72(4), 734-742 (2006)

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海洋細菌と大腸菌の細胞融合および得られた融合株の性状(短報)

張 恩実,今田千秋(海洋大),鎌田正純(山野美容芸術短大),小林武志,濱田(佐藤)奈保子(海洋大)

 発光性海洋細菌と大腸菌間におけるプロトプラスト融合の諸条件を検討するとともに,得られた融合株について諸性状を調べた。最適化した条件下で融合を行った結果,155 株の融合候補株が得られたが,数回にわたる継代培養の結果,安定した性質を有する株は 13 株であった。これらの株は,親株と異なる NaCl 耐性や抗生物質耐性能を示した。本方法は,難培養微生物などの未利用遺伝子資源の収集とその有効な活用法の一つとして有用なことが示唆された。

日水誌,72(4), 743-745 (2006)

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