日本水産学会誌掲載報文要旨

九州西岸の砂浜海岸におけるホシガレイ着底仔稚魚の出現と食性

乃一哲久(千葉中央博),Subiyanto(ディポネゴロ大農),平田郁夫(熊本水研セ)

 1991 年の 3〜6 月の間に,九州西岸の 4 カ所の砂浜海岸において,45 個体のホシガレイ着底仔稚魚を採集した。本種仔稚魚は,九州西岸でも北部に位置する閉鎖的な海岸からのみ採集された。月毎の採集個体数と平均体長および標準偏差は,3 月が 25 個体 16.1±3.8 mm SL, 4 月が 11 個体 34.4±6.0 mm SL, 5 月が 6 個体 49.2±13.3 mm SL, 6 月が 3 個体 91.0±19.9 mm SL であった。仔稚魚の胃内容物として出現した生物には,カイアシ類,クマ類,端脚類,アミ類,十脚類があり,それらは,魚体の成長に伴い,より大きなものへと変化した。

日水誌,72(3), 366-373 (2006)

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東北海域におけるキチジの資源量と再生産成功率の経年変化

服部 努,成松庸二,伊藤正木,上田祐司,北川大二(水研セ東北水研八戸)

 1996〜2004 年の東北海域において,着底トロール調査を行い,面積密度法を用いてキチジの資源量の経年変化を調べた。卵巣の組織観察により成熟体長を調べ,再生産成功率を求めた。1999〜2004 年に資源量は増加し,2001〜2004 年の加入尾数は 1996〜2000 年の 3 倍以上になっていた。再生産成功率は,1997〜1998 年級の 4.5〜5.4 尾/kg に比べて 1999-2002 年級では 18.2〜23.6 尾/kg と高く,豊度の高い年級が連続して出現したことが資源量増加の主要因と考えられた。

日水誌,72(3), 374-381 (2006)

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東京湾におけるシャコ幼生の発生に伴う分布の変化

大富 潤(鹿大水),風呂田利夫(東邦大理),川添大徳(鹿大水)

東京湾におけるシャコ幼生の発生に伴う分布域の変化を調べた。湾内広範囲に 15 の定点を設置し,周年にわたって採集を行った結果,全ての幼生期(11 期)のシャコ幼生を採集することができた。前浮遊期の Stages I〜II の幼生は主産卵場である湾南部にのみ出現したが,Stage III 以降の浮遊期には発生に伴って分布域が湾奥方向に拡大することがわかった。特に湾奥部底層で貧酸素水塊の発生頻度が高かったものの,最終期の幼生が湾内のほぼ全域に出現したことから,本種は湾奥部を含む湾内広範囲に着底すると考えられた。

日水誌,72(3), 382-389 (2006)

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シシャモ Spirinchus lanceolatus の遡上河川における産卵場所と物理環境条件の関係

新居久也(北大院水,道栽培公社),村上一夫,米田隆夫(道栽培公社),上田 宏(北大院水,北大フィールド科セ)

 資源の減少が著しいシシャモ Spirinchus lanceolatus の遡上河川における産卵場所と水深,底層流速,底質の物理環境条件の関係を解析した。調査は 1982 年から 2003 年にかけて北海道太平洋側においてシシャモが遡上する 8 河川で実施した。その結果,各河川の産卵域が明らかとなり,産着卵密度の高い地点の物理環境条件には,底層流速が 0.6 m/sec 未満という共通点が認められたものの,水深と底質は各河川で異なっていた。これらの知見は,今後の産卵域保全のための基礎資料として有効である。

日水誌,72(3), 390-400 (2006)

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市販イカ内臓ミールのクロソイ稚魚用飼料としての有効性

佐藤敦一,藤岡 崇(道栽漁総セ),信太茂春(釧路水試)

 市販イカ内臓ミール(SLP)で,魚粉を 0, 10, 20, 30% 置換した試験飼料および市販飼料をクロソイ稚魚に 8 週間給餌し,成長,飼料転換効率,総摂餌量,肝臓中の重金属蓄積量を調査し,SLP の飼料としての有効性を調べた。
 その結果,SLP で 30% 置換しても成長差がなく,SLP 置換区は,総摂餌量が増した。一方,肝臓中のカドミウムおよび銅の蓄積状況から,20% 以上の置換割合では,稚魚の重金属に対する代謝能力を超えている可能性が考えられた。
 以上のことから,魚粉の 10% を SLP で置換できると推察された。

日水誌,72(3), 401-407 (2006)

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懸濁物質が魚類の生理・生態に及ぼす影響―スメクタイトに対するヒラメの生存実験

馬場義彦(電中研),川那公士(広大院生物圏科),半田岳志(水大校),岩田仲弘,難波憲二(電中研)

 水中の懸濁物質が魚類に及ぼす影響を評価するための懸濁維持装置を作製し,粘土鉱物であるスメクタイトを,10, 18, 32, 56, 100 g/L(実験I),6, 10, 18, 32, 56 g/L(実験II)の濃度で懸濁させてヒラメを 96 時間飼育した。実験I,IIともに添加したスメクタイトの 80% 以上が,懸濁状態に維持されていた。ヒラメに対するスメクタイトの 96 時間 LC50 は,実験I,IIでそれぞれ 37.2,36.5 g/L と算出された。組織観察の結果からヒラメの死亡原因は,スメクタイトによる鰓の閉塞と考えられた。

日水誌,72(3), 408-413 (2006)

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カタクチイワシシラスに対する船曳網コッドエンドの目合別サイズ選択性

斎浦耕二(徳島農水総セ),森 啓介(徳島県水産課),東海 正(海洋大)

 260 経モジ網は,カタクチイワシシラスを漁獲する船曳網のコッドエンド部に使用するには網目が小さすぎるため,目合を拡大する必要がある。各々 260, 240, 220, 200 経のモジ網コッドエンドを持つ船曳網 4 ケ統にポケット網を装着し,直線上と直角に変針する 2 つのコースで曳網を実施し,サイズ選択性を求めた。変針した場合の方が抜けやすく,目合が小さいほどその傾向が強い。シラス漁場を形成するカタクチイワシの全長は 15 mm 以上であることから,l50 値が 18〜20 mm であった 220 経まで目合拡大が可能であろう。

日水誌,72(3), 414-423 (2006)

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ウグイによるブルーギル卵の捕食効果についての実験的解析

片野 修,坂野博之(中央水研),Boris Velkov(海洋大)

 産卵床を備えた 7 つの実験池にブルーギルの雄 1 尾と雌 2 尾をそれぞれ収容したところ,合計で 12 回の産卵があり,砂利の上方から数えた卵数は 2,060 から 3,850 の範囲にあった。上方から数えた卵数を 3,000 に調節し,そのうち 6 例では 10 尾のウグイを放流し,残りの 5 例ではウグイを放流しなかった。ウグイを放流した池で産卵後 4 日目に出現した仔魚は平均して 28.5 尾であり,ウグイを放流しなかった池の 888.0 尾に比べて有意に少なかった。ウグイを湖沼に放流することはブルーギルを抑制するうえで有効である可能性が示された。

日水誌,72(3), 424-429 (2006)

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夏季の北海道太平洋沖陸棚斜面域におけるキチジの分布様式と栄養状態

大村敏昭(北大院水),濱津友紀(水研セ北水研),山内務巨,高橋豊美(北大院水)

 夏季の北海道太平洋沖陸棚斜面のキチジ小型魚は主にヨコエビ類が高密度で生息する襟裳岬東沖水深 550〜750 m に,中型魚は調査海域の中ではフタトゲエビジャコの密度が高い浅い水深帯に集中していた。大型魚は調査海域に広く分散しており,この行動は餌をめぐる種内・種間関係を軽減させ,餌を効率よく獲得する戦略であることが示唆された。深い水深帯ほど肥満度 K と肝臓重量指数 HSI が低かったのは,主要餌種の栄養価の違いに起因すると考えられた。中型魚の K と HSI が低かったのは,体長増加の急な時期であるためと推察された。

日水誌,72(3), 430-439 (2006)

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日本海西部沖合底びき網漁獲物における急速冷却の鮮度保持効果

原田和弘(兵庫農水技総セ)

 日本海西部の沖合底びき網漁業で漁獲される魚類の鮮度保持を目的に,船上における漁獲物冷却方法を検討した。高水温漁期(9〜10 月)に船上で漁獲直後の腹腔内温度を測定した結果,表層海水温近くまで上昇していた。木箱(20 kg 入)に予備冷却なしで魚を詰め,氷蔵した場合,木箱内全体の漁獲物の冷却には 10 時間以上を要した。また,魚体の急速冷却には水冷が最も有効であった。本試験から,沖合底びき網漁獲物の魚種,大きさ,腹腔内温度別に,冷却海水を用いた予備冷却条件および鮮度保持における漁獲直後の冷却の有効性が明らかにされた。

日水誌,72(3), 440-446 (2006)

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移入種ブラウントラウトが淡水産甲殻類に及ぼす影響:絶滅危惧種ニホンザリガニへの捕食(短報)

中田和義(北大院水),中岡利泰(えりも町郷土資料館),五嶋聖治(北大院水)

 移入種ブラウントラウトの捕食による在来生物に対する影響を調べるため,北海道日高支庁の豊似湖でブラウントラウト 3 尾を捕獲し,胃内容物を観察した。その結果,3 尾中 2 尾の胃内容物から,水産庁と環境省からそれぞれ危急種と絶滅危惧II類に指定されているニホンザリガニが発見された。1 尾あたりのブラウントラウトの胃内容物からは,1〜4 個体のニホンザリガニが確認され,ブラウントラウトがニホンザリガニの個体群に及ぼす影響は強いと考えられた。潜在的な定着域においては,他の淡水産甲殻類に対する捕食の影響が危惧される。

日水誌,72(3), 447-449 (2006)

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