日本水産学会誌掲載報文要旨

マハタ仔魚のワムシサイズに対する摂餌選択性

田中由香里(長大院生産),阪倉良孝(長大水),中田 久(長崎水試),萩原篤志(長大院生産),安元 進(長崎水試)

 マハタ仔魚にサイズの異なるワムシ(被甲長 90〜241 μm)を給餌し,仔魚の成長に伴うワムシサイズに対する摂餌選択性の変化を調べた。マハタ仔魚は,摂餌開始(開口直後:体長 2.0 mm)から体長 3.0 mm 未満では被甲長 101〜160 μm のワムシを摂餌し,体長 3.0〜4.0 mm では 121〜180 μm のワムシを,体長 4.0 mm 以上の仔魚は被甲長 161 μm 以上のワムシを選択的に摂餌することが分かった。これより,本種の仔魚飼育では,開口から体長 3.0 mm までは被甲長 160 μm 以下の小型ワムシ,それ以降は大型ワムシの給餌が適していると判断された。

日水誌,71(6), 911-916 (2005)

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養殖ノリに被害を与える壺状菌 Olpidiopsis sp.(卵菌綱,クロミスタ界)の PCR による早期検出

横尾一成(佐賀有明水振セ),関本訓士(甲南大理工),川村嘉応(佐賀有明水振セ),本多大輔(甲南大理工)

 ノリ養殖漁場において毎年発生し,被害を及ぼす壺状菌病の原因菌 Olpidiopsis sp. の漁場海水からの検出を PCR により試みた。プライマーは,本菌の 18S rRNA 遺伝子の配列から 420 bp, 256 bp を基に設計した。採取した海水の塩分を 35 psu に調整し,60 分間静置した後,上層部分の海水を PCR に用いた。壺状菌遊走子は,養殖ノリの検鏡検査の 33 日前,室内での感染試験検査の 14 日前に PCR 検査によって検出された。以上の結果から,本手法は,壺状菌早期検出手法として非常に有効であると考えられた。

日水誌,71(6), 917-922 (2005)

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ソウジソコミジンコ(新称)Amphiascus sp.(カイアシ亜綱,ソコミジンコ目)によるノリ糸状体培養カキ殻の付着珪藻除去効果

三根崇幸,川村嘉応(佐賀有明水振セ),上田拓史(愛媛大沿岸研セ)

 ノリのカキ殻糸状体培養槽で繁殖するソコミジンコの 1 種 Amphiascus sp. によるカキ殻の付着珪藻除去効果を実験培養槽で 6 週間調べた。本種未添加の対照区では付着珪藻量は指数関数的に増え,殻全体が茶色に着色した。本種を添加した実験区ではカキ殻上の本種個体密度は 5.3 個体/cm2 まで増え,付着珪藻量は対照区の約 1/6 に抑えられ,着色はほとんどなかった。糸状体の生長は 6 週目で有意に実験区が良かった。カキ殻糸状体培養槽に本種を添加することで,付着珪藻を取り除くカキ殻洗浄作業の軽減が期待できる。

日水誌,71(6), 923-927 (2005)

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ERG で示されるツキヒガイ外套眼の光受容特性

上水樽豊己,安樂和彦,豊田将治(鹿大水)

 ツキヒガイ外套眼の光受容特性の解明を目的として大小 2 種の外套眼を組織解剖学的に調べ,更に網膜電図(ERG)によって分光応答特性と臨界融合周波数(cff)を調べた。外套眼は細胞レンズや視細胞をもち,その構造はホタテガイのものと類似した。分光応答特性は,大小 2 種の外套眼ともに 470〜520 nm の波長にピークがみられた。cff は 1.3 Hz〜1.5 Hz の間にあり,魚類の cff と比較して極めて低かった。この cff から,ツキヒガイ外套眼はゆっくり動く物体や陰影の認識に関係すると推察された。

日水誌,71(6), 928-934 (2005)

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北海道噴火湾におけるケガニの甲長に基づく資源評価と資源管理

三原栄次(函館水試室蘭支場),山口宏史(道中央水試),上田祐司(東北水研八戸支所),松石 隆(北大院水)

 許容漁獲量制度が導入されている北海道噴火湾のケガニ資源について,資源管理方策を検討するため,甲長コホート解析(LPA)を適用し資源量推定を行うとともに,甲長に基づく YPR(YPRL)モデルを開発し,資源診断を行った。推定した資源量は回復傾向にはないものの,近年比較的安定していた。YPRL モデルにより資源診断した結果,当資源の許容漁獲量設定に用いている漁獲死亡係数は,F0.1 の 6 割程度で充分安全な値であった。以上のことから,当面は現状の管理基準に基づいた資源管理を継続すべきであると判断された。

日水誌,71(6), 935-941 (2005)

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ブリの成熟・排卵誘導における HCG 投与時の卵径と排卵時間,卵量および卵質との関係

中田 久(長崎水試),中尾貴尋(九大院農),荒川敏久(長崎水試),松山倫也(九大院農)

 ブリの人工授精による採卵技術の向上を目的として,HCG 投与時の卵径と排卵時間,卵量および卵質との関係を調べた。卵径 650〜800 μm の卵を持つ養成 3 歳雌魚 33 尾に HCG(500 IU/kg)を投与して排卵を誘導した。その結果,HCG 投与時の卵径(D, μm)と排卵までの時間(T, hr)には,T=−0.082D+105.99(R2=0.51)の式で表わされる負の相関関係が認められた。卵径 700〜800 μm の個体からは約 53 万粒/尾の卵が得られ,卵径 650〜700 μm の個体ではその半数であった。ふ化率は HCG 投与時の卵径が大きい個体ほど高かった。

日水誌,71(6), 942-946 (2005)

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計量魚群探知機を用いた日本海隠岐諸島周辺海域におけるキュウリエソの音響散乱層の識別

藤野忠敬,宮下和士(北大院水),青木一郎(東大院農),増田紳哉,氏 良介,志村 健(鳥取水試)

 計量魚群探知機により観察されるキュウリエソの音響散乱層を識別することを目的として,日本海隠岐諸島周辺海域において,従来推奨されてきた方法と季節毎に変化する SV の下限閾値を利用した方法を比較検討した。この結果,信号毎に深度 10 m より海底までのデータの水柱中の最大 SV を抽出し,各最大 SV(体積後方散乱強度)を調査ラインに沿って平均した値から 10 dB 差し引いた値を下限閾値に設定して,散乱層を識別する方法がトロールによるキュウリエソの採集結果と良く一致した。この方法はキュウリエソの集群密度の変化に対応し,散乱層の輪郭を的確に捉えている。

日水誌,71(6), 947-956 (2005)

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スケトウダラ冷凍すり身タンパク質のゲル形成能とその濃度依存性

北上誠一,村上由里子(すり身協会),安永廣作(水研セ中央水研),加藤 登(東海大海洋),新井健一(すり身協会)

 解凍したすり身に 10〜150% の水を加え,3%NaCl と塩ずりし,25°C で予備加熱後 90°C で 30 分加熱した。加熱ゲルの破断強度(BS)と破断凹み(bs)を測り,Gs=BS/bs を求め,予備加熱時間との関わりを調べた。結果は(1) BS と Gs の最大値はタンパク質濃度の増加に伴い指数関数的に増加するが,bs の増加は同じでなかった。しかしこれらの値は 2 級<2 級(特)<A 級<SA 級からのゲルの順に高かった。(2)濃度が 7〜17% の間の二段加熱ゲルでは BS と Gs の最大値の間に高い正の相関があり,その関係直線と勾配はすり身の等級で異なった。

日水誌,71(6), 957-964 (2005)

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曳網漁具に装着する大型クラゲ混獲防除装置 JET (Jellyfish Excluder for Towed fishing gear) の試作と操業実験(短報)

松下吉樹,本多直人(水研セ水工研),河村智志(新潟水海研)

 新潟県の小型底びき網漁業を対象に,対象種の漁獲を維持しながら大型クラゲの混獲を防除する装置(JET)を他の混獲防除装置の知見を参考にしながら試作し,現用の網に装着して曳網実験を行った。JET は死亡したエチゼンクラゲの破片の混獲を重量比で 89% 減少させた。一方,漁獲対象となる大型の魚類はすべて袋網で保持された。小型の生物の漁獲は種によって重量比で 0〜39% 減少した。ただし,これらの値には袋網とカバーネットの網目選択性の違いが影響し,種によっては過大推定であると考えられた。

日水誌,71(6), 965-967 (2005)

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