日本水産学会誌掲載報文要旨

カキのノロウイルス汚染(総説)

室賀清邦,高橋計介(東北大院農)

 カキの生食などによって起こるノロウイルス食中毒は重要な非細菌性急性胃腸炎の一つであり,これまでに医学や食品・環境衛生学分野で多くの研究がなされてきたが,水産学分野での研究は乏しい。しかし,衛生的なカキ養殖システムを構築するためには水産学領域における研究が必要である。本総説では,内外の研究論文に基づき,ノロウイルスおよびその感染症の概要,感染経路,カキにおけるノロウイルス汚染,および浄化処理法について紹介した。最後に,カキにおけるウイルス取り込み機構などの基礎的研究の必要性を論じた。

日水誌,71(4), 535-541 (2005)

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曳航式深海用ビデオカメラで撮影したベニズワイガニの甲幅推定法

橋秀行,渡部俊広(水研セ水工研),北川大二(水研セ西海水研)

 曳航式深海用ビデオカメラで撮影した画像からベニズワイガニの甲幅を推定するために,水中でグリッド平面を撮影し,その画像上の位置を海底面上の位置に変換する関係式を求めた。ベニズワイガニには甲殻の厚みや歩脚があり,甲幅を推定するとき計測点が海底面から離れることによって誤差が生じる。この誤差を補正することによって,曳航式深海用ビデオカメラからの距離が約 500 mm より近い範囲における甲幅の測定誤差は±10 mm 以内に収まり,実用的な精度で甲幅を推定できた。

日水誌,71(4), 542-548 (2005)

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ベニズワイガニ籠の餌料として同種を用いた時の漁獲について

渡部俊広,本多直人(水研セ水工研)

 ベニズワイガニ籠のゴーストフィッシングの実態を解明するために,餌料としてベニズワイガニを用いた籠による漁獲試験を行った。ベニズワイガニを餌料にした時,雄の漁獲は皆無になり,雄に対して強い忌避効果があった。雌は,漁業で使われている籠から脱出できるので,籠内に保持されたベニズワイガニが死亡して,それらが餌料となり新たにベニズワイガニを漁獲する可能性が無いことが判明した。しかしながら,餌料の無い籠でも僅かに漁獲があったことから,ゴーストフィッシングが生じる可能性が残されている。

日水誌,71(4), 549-554 (2005)

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増殖ステージが異なるシオミズツボワムシのヒラメ仔魚に対する餌料価値

友田 努,小磯雅彦,桑田 博(水研セ能登島),陳 昭能,竹内俊郎(海洋大)

 ワムシの植え継ぎ培養において,増殖ステージの進行に伴う餌料価値の質的変化について検討した。増殖初期から停滞期にかけてのワムシを同一条件で栄養強化したところ,停滞期直前のワムシは栄養強化前の低い生理活性を反映し,ワムシ個体数が減少した。そのようなワムシを摂餌したヒラメ仔魚の成長と発育は他の実験区より有意に劣った。マダイと同様,ヒラメ仔魚についても飼育に用いるワムシの生理活性が大きく反映され,対数増殖期を過ぎたワムシを栄養強化しても餌料としての質は劣ることが明らかになった。

日水誌,71(4), 555-562 (2005)

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ケガニ幼生の生残,発育および摂餌に及ぼすアルテミア給餌密度の影響

神保忠雄(水研セ厚岸),浜崎活幸(海洋大),芦立昌一(水研セ玉野)

 アルテミアの給餌密度(0, 0.25, 0.5, 1, 2, 4 個体/mL)がケガニ幼生の生残,各齢期へ脱皮するまでの所要日数,成長および摂餌量に及ぼす影響を調べた。生残率およびメガロパの甲長は,2〜4 個体/mL が 0〜0.5 個体/mL に対し有意に高く,各齢期までの所要日数は 2〜4 個体/mL が 0.25〜1 個体/mL に対し有意に短かった。また,摂餌量は給餌密度および齢期の進行にともなって増加し,2 個体/mL 以上で飽食する傾向を示した。以上の結果から,アルテミアの適正給餌密度は 2 個体/mL 程度であると考えられる。

日水誌,71(4), 563-570 (2005)

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懸垂法によるエチゼンクラゲ Nemopilema nomurai のターゲットストレングス測定

広瀬美由紀,向井 徹(北大院水),黄 斗泰(韓国麗水大),飯田浩二(北大院水)

 この論文の目的は,生きたエチゼンクラゲのターゲットストレングス(TS)を推定することである。実験は韓国南岸で SCUBA および定置網で採集した 7 個体について行った。海水水槽の中央に生きた個体をつるし,周波数 38 kHz と 200 kHz で TS 測定を行った。また,その行動を水中カメラで観察した。平均 TS は 38 kHz で−79.0〜−47.5 dB, 200 kHz で−72.2 dB〜−46.0 dB となり,200 kHz の方が 1.5〜10.6 dB 大きかった。ほぼ同サイズの個体の TS で比べると,SCUBA で採集した個体の方が定置網採集のそれより約 20 dB 小さかった。また,傘の形状変化に伴い TS も変化した。

日水誌,71(4), 571-577 (2005)

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イタセンパラ精子の凍結保存

上原一彦(大阪総技セ),太田博巳(近大農)

 絶滅危惧種イタセンパラの精液を保存液(10% メタノール+90% コイ用人工精漿)で 40 倍希釈し,80 μL をアクリル製チューブに封入後,冷却速度と到達温度を変えて冷却し,直ちに液体窒素に浸漬して凍結した。解凍後に buered solution (pH 7.5) で希釈した場合,運動精子比は,冷却速度 14°C/分,到達温度−50°C の時に最高値 30.6% を示した。この方法で凍結・解凍した精液を用いて人工受精を行ったところ,500 倍希釈で 88.7% の受精率が得られた。この結果から,凍結保存精子は高い受精能を有しているものと考えられた。

日水誌,71(4), 578-583 (2005)

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夏季の北海道太平洋沖陸棚斜面域におけるキチジの食性

大村敏昭(北大院水),濱津友紀(水研セ北水研),高橋豊美(北大院水)

 北海道太平洋沖(水深 300〜1,000 m)で 7〜8 月にキチジとベントスを採集した。空胃率からみて,夏季はキチジの摂餌が活発な時期であると判断された。食物組成は水域や水深帯により大きく変化していたが,成長に伴ってヨコエビ類・クーマ類から十脚甲殻類,クモヒトデ類へと向かう食性の変化が認められた。キチジは多様な餌を摂食していたが,成長とともに豊富に存在するクモヒトデ類(主に小型種のホソクシノハクモヒトデ)への捕食割合を高める結果,餌をめぐる強い種内・種間競争が回避されている可能性があると推察された。

日水誌,71(4), 584-593 (2005)

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関西国際空港島人工傾斜護岸と自然岩礁海岸におけるカサゴ成魚の摂餌生態の比較

日下部敬之,有山啓之,大美博昭(大阪水試),天野玉雄(国土環境)

 関西空港島人工傾斜護岸の生物育成機能を明らかにするため,優占種であるカサゴの摂餌生態と餌料環境を自然岩礁海岸と比較した。空港島の石積み傾斜護岸では,自然海岸に比べカサゴ成魚の摂餌量が少なく,その餌生物組成は端脚類に偏っていた。また,空港島護岸の底生動物相は自然海岸より貧弱で,特にカサゴ成魚の主餌料である十脚類の個体数が少なかった。これらから,空港島護岸のカサゴ成魚の摂餌量の少なさは,好適な餌料生物が少ないことに起因していると考えられた。その理由について,空港島護岸の形状との関係を考察した。

日水誌,71(4), 594-600 (2005)

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マダイ稚魚の天然海域における個体数密度となわばりサイズの関係

阿部文彦(愛媛大連農),山岡耕作(高知大院黒潮圏)

 マダイ稚魚の個体数密度と採食なわばりサイズの関係を調べた。最高個体数密度は年間差が見られ 2001 年は高密度(0.201 個体/m2),2002 年は低密度(0.051 個体/m2),2003 年は中間密度(0.096 個体/m2)であった。体長毎のなわばりサイズは,高密度年では体長 8 cm クラスまでは体長に応じ拡大した。中間密度年では 9 cm クラスまで拡大し,低密度年では 14 cm クラスまで体長の増大により拡大した。マダイ稚魚のなわばりサイズは個体数密度に影響され,低密度のとき拡大し,高密度のとき縮小した。

日水誌,71(4), 601-610 (2005)

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マルソウダ魚醤油のもろみから分離した Staphylococcus nepalensis による黒作りイカ塩辛の臭気の改良

舩津保浩(酪農大),深見克哉(九大産学連セ),近藤秀裕,渡部終五(東大院農)

 醤油麹を用いて調製したマルソウダ魚醤油のもろみから分離した Staphyrococcus nepalensis を黒作りイカ塩辛に添加し,4°C で 30 日間貯蔵後の呈味成分と揮発性成分を HPLC および GC/MS 分析した。その結果,本菌を添加した黒作りと無添加の黒作りの呈味成分含量には差異がみられなかったが,揮発性有機酸類,アルデヒド類,含硫化合物,アルコール類およびエステル類の組成は両者で異なり,二硫化ジメチルは前者からは検出されなかった。官能評価では,前者の魚臭さや不快なイカの臭いは後者のそれよりも弱かった。

日水誌,71(4), 611-617 (2005)

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サケいずしの化学的,微生物学的性状に及ぼす原料サケの塩蔵の影響

佐々木政則(釧路水試),川合祐史,吉水 守(北大院水),信濃晴雄(道工技セ)

 生と塩蔵したシロサケ肉を主原料としていずしを製造し,原料の前処理(水晒し,酢漬け)過程と樽漬け込み後,低温熟成過程における化学成分と微生物相に対する原料塩蔵の影響を調べた。塩蔵とその後の水晒しで低分子成分は減少し,塩蔵サケ使用のいずしは熟成中に遊離アミノ酸は生サケ区と同等に増加したが,VB-N の増加は抑えられ,また,熟成後の魚肉には脆さが認められた。塩蔵処理によって魚肉の一般細菌,乳酸菌,酵母の生菌数は減少したが,いずしの熟成中においては各微生物群の生菌数と菌相に対する原料魚の塩蔵の影響は明白に認められなかった。

日水誌,71(4), 618-627 (2005)

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イシガニ Charybdis japonica の感知し得る明るさの下限値(短報)

眞鍋美智子,守屋和昭,小池 隆(三重大生物資源)

 イシガニ Charybdis japonica の雄 3 個体の日周行動を 122 日間連続計測した。水槽内は明暗周期 12L12D で照明の点滅をした。明期の下方向照度は 1.4×10−7〜3.0×102 lx の 8 段階とし,暗期は 0 lx に設定した。イシガニは明期の下方向照度が 5.7×10−3 lx 以上の場合,明期に活動が少なく暗期に多い明暗変化に同調した行動の周期性を示した。明暗変化に同調した行動の周期性は 3 個体とも明期の下方向照度が 3.4×10−4 lx 以下で消失した。イシガニが感知し得る下方向照度の下限値は 5.7×10−3 lx 付近と判断された。

日水誌,71(4), 628-630 (2005)

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