日本水産学会誌掲載報文要旨

シオミズツボワムシ複相単性生殖卵の消毒

渡辺研一(水研セ能登島),篠崎大祐(北大院水),小磯雅彦,桑田 博(水研セ能登島),吉水 守(北大院水)

 シオミズツボワムシ複相単性生殖卵の消毒法に関して,塩素・オゾン含有海水および各種消毒剤の消毒率およびふ化率に及ぼす影響を検討した。オゾン処理海水,電解海水および Triton-X では消毒効果が認められなかった。ポビドンヨード,低 pH および過酸化水素では消毒効果が認められたが,ふ化率を低下させた。グルタールアルデヒドでは高い消毒率が得られ,ふ化率も高かったことから,ワムシ単性生殖卵をグルタールアルデヒドで消毒することが有効と考えられた。

日水誌,71(3), 294-298 (2005)

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成体マナマコのメントール麻酔に関する研究

山名裕介,浜野龍夫,山元憲一(水大校)

 伸縮する成体マナマコの体長を正確に測定するために,麻酔方法を検討した。未変性エタノールの 10% 海水希釈液にメントールを飽和溶解させ,これを濾過して基準液を作成した。基準液の 40% 海水希釈液が,成体マナマコに対して効果的な麻酔剤であった。この麻酔液に浸漬したナマコは,体色型,体サイズ,水温に関係なく,体長変化が止み,口縁触手が弛緩して伸び,かつピンセットで体表を突付いても無反応な状態となった。麻酔時の体長は変動幅が小さく,新測定基準として有効と考える。

日水誌,71(3), 299-306 (2005)

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アリザリンコンプレクソン並びにテトラサイクリンによるトラフグ Takifugu rubripes 卵及び仔稚魚の耳石標識

松村靖治(長崎水試)

 トラフグ受精卵,ふ化仔魚及び稚魚をアリザリンコンプレクソン(5〜100 mg/L)とテトラサイクリン(50〜1000 mg/L)の溶液に 6-24 時間浸漬し,有効な処理条件を明らかにした。何れも稚魚期初期に有効処理条件の範囲が狭まる傾向がみられたが,処理不能な発育段階は認められなかった。標識処理に伴う成長や生残への影響はなく,標識は耳石研磨の必要もなく 5 年後も明瞭に確認できた。テトラサイクリンについては経口投与による標識法も浸漬法と同様に有効性が確認された。これら両物質を用いた多重標識により,複数の標識群の判別が可能となった。

日水誌,71(3), 307-317 (2005)

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伊勢湾内の小型機船底びき網漁業で使用されるトロール漁具の設計と曳網中の形状

松下吉樹(水研セ水工研),熊沢泰生(ニチモウ),冨山 実(愛知水試),藤田 薫,山崎慎太郎(水研セ水工研)

 伊勢湾の機船小型底びき網漁業で使用される 2 つのトロール網とオッターボードの構造を明らかにした。トロール網はいずれも長方形の網地を多用した構造で,製作と修理のし易さおよび網地の合理的な使用に配慮した設計であった。これらの漁具の曳網実験を実施したところ,シャコ対象の網とスズキ対象の網の網高さと漁具抵抗はそれぞれ,1.47〜1.79 m と 11.47〜16.74 kN および 1.61〜1.84 m と 11.56〜16.10 kN で,大きな相違は無かった。漁具抵抗の最大値は漁船の曳網能力の上限を反映していると考えられ,漁具改良を行う場合には,漁具抵抗を最大 16.74 kN 程度に抑える必要がある。

日水誌,71(3), 318-327 (2005)

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高密度ナンノクロロプシスを用いた連続培養 L 型ワムシ Brachionus plicatilis の脂肪酸組成

小林孝幸,長瀬俊哉(荏原実業中研),藏野憲秀(海洋バイオ),日野明徳(東大院農)

 高密度培養したナンノクロロプシス(ナンノ)を用いて L 型ワムシの連続培養を行い,濃縮淡水クロレラを用いた場合と脂肪酸組成を比較した。その結果,ナンノとクロレラともにほぼ同密度でワムシ培養が可能であり,餌料効率もほぼ同じであった。クロレラとそれを給餌したワムシには極性脂質が多く,ナンノとそれを給餌したワムシには中性脂質が多く含まれていた。またクロレラ給餌ワムシではパルミチン酸やリノール酸が多いのに対して,ナンノ給餌ワムシではイコサペンタエン酸が多く,ナンノには無いドコサペンタエン酸も少量含まれていた。

日水誌,71(3), 328-334 (2005)

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伊豆諸島周辺海域におけるキンメダイ Beryx splendens 雌の成熟

秋元清治(神奈川水総研),久保島康子(神奈川県環境農政),三谷 勇(神奈川水総研),斎藤真美(日本 NUS)

 産卵期のキンメダイ雌の性成熟について生殖腺の組織学的観察および生殖腺指数(GI)から検討した。1993 年 7〜8 月に伊豆諸島周辺海域において採集した 281 試料(尾叉長 23.3〜49.0 cm)の成熟度は 7 段階に分けられた。GI は成熟度のよい指標値となっていた。生物学的最小形および FL50 は尾叉長でそれぞれ 31.8 cm および 32.5 cm であった。また,7 月に採集された伊豆半島沖試料は八丈島沖試料と比べて成熟が進んでおり,海域間の成熟度に違いがあることが示唆された。

日水誌,71(3), 335-341 (2005)

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ヒラメ仔魚の成長に及ぼすタウリン強化ワムシの効果

陳 昭能,竹内俊郎(海洋大),高橋隆行(日清丸紅),友田 努,小磯雅彦,桑田 博(水研セ能登島)

 異なるタウリン濃度で栄養強化した L 型ワムシのヒラメ仔魚の成長に及ぼす影響を調べた。ヒラメ仔魚の体長は,16 日齢で対照区に対してタウリン 400 および 800 mg/L 強化区では有意に増加していた。ステージ別においても対照区は D ステージ 13.3%,E ステージ 86.7% であったのに対してタウリン 400 および 800 mg/L 強化区では 96% 以上が E ステージとなり,F ステージも若干見られた。また,ヒラメ仔魚中のタウリン含量は対照区の 53.3±9.0 mg/100 g に対して,タウリン 400,800 mg/L 強化区でそれぞれ 205.2±26.2,453.5±23.5 mg/100 g と顕著な差が認められた。ヒラメ仔魚期の L 型ワムシ強化濃度は 400 mg/L(ワムシ中 165.0〜303.5 mg/100 g 乾物当り)で有効であることが明らかとなった。

日水誌,71(3), 342-347 (2005)

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イワナとヤマメにおける体内に残留させた釣り鈎の動向

土居隆秀(栃木水試),中村智幸(水研セ中央水研),横田賢史,丸山 隆,渡邊精一,野口拓史,佐野祐介,藤田知文(海洋大)

 実験池において,イワナとヤマメの体内に残留させた釣り鈎の動向を調査した。両種ともに,口腔に残留させた餌釣り用と毛鈎釣り用の鈎はいずれも 21 日以内にその多く(70.0〜100%)が脱落した。口腔より奥に残留させた餌釣り用の鈎の体外への排出率は 21 日後に 0〜16.7% であり,81 日後でも 15.0〜50.0% であった。口腔より奥に残留させた鈎の多くは 81 日後には錆びていたが,崩壊したものは少なかった。以上の結果から,口腔に残留させた鈎は比較的短期間で脱落するが,口腔より奥に残留させた鈎は体外に排出されにくいことが明らかになった。

日水誌,71(3), 348-353 (2005)

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広島県生野島のアマモ場に放流した人工種苗メバルの放流サイズと初期生残について

村上倫哉(広島水試),吉岡孝治(広大院生物圏科),相田 聡(広島水試),海野徹也,中川平介(広大院生物圏科)

 全長 2 cm, 3 cm, 5 cm の人工生産メバル種苗をアマモ場に放流し,再捕調査よる放流サイズと初期生残の関係,放流後の被食とトリグリセリド(TG)量について検討した。その結果,3 cm 以上では放流点付近の定着率は高かった。放流点の優占種かつ被食が確認されたハオコゼの室内実験における被食率は,2 cm 種苗が 3 cm 種苗より高く,2 cm 群の放流後の再捕数減少は,被食が一因であることが示唆された。TG 量の推移より,放流魚は 1 ヶ月程度で順応したと考えられた。さらに放流サイズとして 3 cm 以上が適当であると考えられた。

日水誌,71(3), 354-362 (2005)

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秋田県戸賀湾,秋田県金浦町地先,鳥取県泊村地先および島根県隠岐島島前湾におけるイワガキのグリコーゲン含量の季節変化

奥村卓二(水研セ養殖研),三浦信昭(秋田水振セ),勢村 均(島根水試),岸本好博(鳥取水試)

 イワガキにおけるグリコーゲン蓄積と生態との関連を明らかにするため,秋田県戸賀湾と金浦町地先,鳥取県泊村地先および島根県隠岐島島前湾からイワガキを採集して軟体部全体のグリコーゲン含量を測定した。グリコーゲン含量は 3〜7 月に高く,産卵期末期の 9〜10 月に低くなった。マガキと同様に産卵期にグリコーゲン含量が減少したが,イワガキでは産卵期が遅いためグリコーゲン含量の減少時期も遅かった。また,地域間および天然と養殖イワガキの間に差が見られ,生息環境がグリコーゲン含量に影響すると考えられた。

日水誌,71(3), 363-368 (2005)

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サケいずしの化学的,微生物学的性状に及ぼす原料サケの酢漬処理の影響

佐々木政則(釧路水試),川合祐史,吉水 守(北大院水),信濃晴雄(道工技セ)

 サケいずしの低温(5°C 前後)熟成過程における化学的,微生物学的性状に及ぼす原料サケ肉の仮酢漬(瞬間,10 分間)の影響について検討した。瞬間的にでも仮酢漬すると,熟成中に細菌,酵母の著しい増加はなく,いずしの有機酸は酢酸が主体で,熟成中の pH は 5.3 以下を維持した。無処理区では,熟成中に一般細菌,乳酸菌,酵母とも増加し,乳酸が増加して主要有機酸となり,魚肉の pH は 6.4 から熟成 36 日以降 5.0 以下に低下し,遊離アミノ酸も熟成中に増加した。仮酢漬・無処理区とも 36 日後には食用可能となり,微生物相は類似していた。

日水誌,71(3), 369-377 (2005)

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駿河湾で採集されたマアナゴ葉形仔魚の変態にともなう行動の変化(短報)

福井 篤,渡辺哲理,魚谷逸朗(東海大海洋)

 飼育下でマアナゴ葉形仔魚の変態にともなう行動の変化について検討した。変態I・II期のマアナゴは,昼間では水槽の下層に,夜間では水槽の上層に多く分布し,明瞭な日周鉛直性を有していた。しかし,変態III期からは,夜間の上層への出現率は減少した。変態IV期と稚魚期では終日,水槽下層に分布した。変態II期までは水槽底面に設置したパイプ内に潜入しなかったが,III期になると一部の個体が潜入した。稚魚期に達すると,ほとんどの個体が昼間ではパイプ内に潜入していたが,夜間になるとパイプ外で活発に遊泳した。

日水誌,71(3), 378-380 (2005)

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