日本水産学会誌掲載報文要旨

模擬的な堰堤からコンクリートやプールに落下したモクズガニの生残率

浜野龍夫,飯田 健,荒木 晶,竹下直彦(水大校)

 降河中のモクズガニが,堰堤から安全に落下できる条件を明らかにするために実験を行った。甲幅約 5 cm の個体がコンクリートに落下する場合,落差 1 m で歩脚が損傷する個体が出現したが,その後 15 日間の飼育で 10 個体すべて生残した。落差 2 m 以上では死亡する個体が現れ,落差 5 m 以上では全 80 個体が死亡した。落差 11 m から水深 60 cm のプールへ落下した個体は損傷を受けずすべて生残した。甲幅約 8 cm の大型個体も,水深が 50 cm 以上のプールがあれば,落差 10 m から落下しても安全であると結論した。

日水誌,71(2), 131-137 (2005)

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若狭湾西部海域におけるヤナギムシガレイの年齢と成長および年齢組成

柳下直己,大木 繁,山崎 淳(京都海洋セ)

 若狭湾西部海域で採集されたヤナギムシガレイ 1776 個体の耳石を用いて,本種の年齢と成長について明らかにした。輪紋は年 1 回形成されると推察され,von Bertalanffy の成長式は,雄:Lt=206.8(1−exp(−0.335(t+0.129)));雌:Lt=238.5(1−exp(−0.297(t+0.157))) で,雌の成長が雄を上回った。また,年齢群成熟率の推定を行うとともに,年齢―体長相関表を作成して小型底曳網漁業における 2 種類の目合による漁獲物の年齢組成を推定した。

日水誌,71(2), 138-145 (2005)

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オオクチバスフロリダ半島産亜種由来遺伝子の池原貯水池における増加と他湖沼への拡散

北川えみ,北川忠生,能宗斉正,吉谷圭介,細谷和海(近大農)

 1988 年にオオクチバスフロリダ半島産亜種が放流された池原貯水池では,1996, 1997 年の遺伝学的調査においてフロリダ半島産亜種由来のミトコンドリア DNA(mtDNA)をもつ個体の割合は 56.8% であった。今回(2003 年)再調査を行った結果,本亜種由来の mtDNA をもつ個体は全体の 86.7% となり,前回調査より有意な増加がみとめられた。また,近畿地方の池原貯水池とは別水系の湖沼(津風呂湖,宝ヶ池,深泥池)からも本亜種由来の mtDNA をもつ個体が検出された。

日水誌,71(2), 146-150 (2005)

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木曽三川感潮域のヤマトシジミの漁場形成と個体群動態

水野知巳(三重科技セ),南部亮元,関口秀夫(三重大生物資源)

 木曽三川の感潮域において,ヤマトシジミ漁獲個体の時空間分布を調べた結果,揖斐・長良川では主に感潮域の下流側の定点に,木曽川では主に感潮域の上流側の定点に出現し,その密度は春季から夏季に上昇し,秋季から冬季に減少した。漁獲個体を殻長頻度分布を用いてコホートに分離し解析した結果,両河川の漁獲量は春期から夏季に加入した新規加入群によって維持されており,これらの新規加入群が主に漁獲によって順次減耗していき,次の新規加入群が加入する直前の冬季に漁獲量あるいは資源量が極小となった。

日水誌,71(2), 151-160 (2005)

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ズワイガニ幼生の生残と発育日数に及ぼす水温の影響

小金隆之(水研セ小浜),浜崎活幸(水研セ八重山),野上欣也(水研セ本部)

 ズワイガニ幼生の適正飼育水温を明らかにする目的で,ふ化幼生を 1L ビーカーに収容し,水温 10, 12, 14, 16°C で飼育した。第 2 齢ゾエアまでの生残率は各水温区とも 90% 程度の値を示したが,16°C 区ではそれ以降に大量減耗がみられた。第 1 齢稚ガニまでの生残率は 14°C で最も高い値を示した。各齢期までの発育日数は水温の上昇にともない指数関数的に減少し,発育日数の変動係数は 14°C 区で小さい傾向があった。以上のことから,ズワイガニ幼生の適正飼育水温を 14°C 程度と結論付けた。

日水誌,71(2), 161-164 (2005)

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ブラジル産アルテミアノープリウスの給餌時期が飼育したカレイ科魚類 2 種の白化出現に及ぼす影響

有瀧真人(水研セ宮古),青海忠久(福井県大生物資源)

 マガレイとホシガレイでブラジル産アルテミアノープリウス(BA)の給餌開始時期を変えた飼育を行い,白化魚の出現状況を観察した。その結果,上記両種はごく初期から BA を給餌した場合,90〜100% の個体が白化魚となった。また,BA 給餌の影響を受ける発育段階は両種ともステージ E(上屈仔魚期)までで,ステージ E 以前が白化出現にとって重要であると判断された。これらのことから,ステージ F 以降の仔魚では変態後の体色にかかわる形質は決定している可能性が高いと考えられる。

日水誌,71(2), 165-171 (2005)

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エビジャコとマコガレイ稚魚に対する小型ソリネットの採集効率

吉田直人,高津哲也,中屋光裕,城 幹昌(北大院水),木村 修(北大水うしお丸),清水 晋(北大院水)

 コドラート調査の一種であるドロップトラップ(底面積0.5 m2)採集の採集効率を 100% と仮定した場合,広田式ソリネット(網口幅 0.6 m)によるエビジャコ(小型のエビの一種)の採集効率は 36〜68% と推定され,小型エビジャコほど向上した。一方,マコガレイ稚魚の採集効率はエビジャコに比べて低くて変動が大きく,8〜38% と推定され,その原因として大型稚魚の逃避能力が高いことが考えられた。

日水誌,71(2), 172-177 (2005)

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魚礁に纏絡した逸失底刺網によるゴーストフィッシング死亡数と魚の蝟集に対する影響

仲島淑子,松岡達郎(鹿大水)

 魚礁 2 基をあい離して設置し,1 基に刺網を纏絡させた。纏絡網への罹網魚と各魚礁近傍の蝟集魚を 1,149 日間調べた。罹網魚が目撃可能な日数を別途調べた。罹網個体を目撃する確率を基にした二項分布モデルを考案し,罹網目撃数から死亡数を推定した。タイ,カワハギなどの罹網数が減少する傾向は見られなかった。供試網による年間ゴーストフィッシング死亡数を 191 尾と推定した。蝟集魚は刺網纏絡魚礁に多かったが,ゴーストフィッシング魚種の蝟集は 2 魚礁間に差がなく刺網纏絡魚礁に蝟集しながら死亡している可能性を考えた。

日水誌,71(2), 178-187 (2005)

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LED 点滅光によるマダイの侵入抑制効果

松本太朗,川村軍蔵,西 隆昭(鹿大水),高田吉雄(エクセルキョート),杉村暢昭,山下佑介,栗原 梢(鹿大水)

 発光波長が異なる 4 種(赤,緑,青,UV)の光拡散型 LED の点滅光を利用した魚類侵入抑制装置を製作し,マダイ稚魚に対する侵入抑制効果を水槽実験で調べた。5 分間の最高侵入抑制率は赤 88%,緑 96.7%,青 99.7% で顕著な侵入抑制効果があり,点滅 UV の侵入抑制効果は低かった。青の点滅光で点滅周期と放射照度を変化させたとき,1〜10 Hz の点滅周期で侵入抑制効果が高く,0.3 Hz では侵入抑制効果が顕著に低く,実験条件下では放射照度を増大しても侵入抑制効果は必ずしも増加しなかった。

日水誌,71(2), 188-197 (2005)

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即殺および解凍スルメイカを原料としたイカ乾製品の褐変速度の違い

大村裕治,岡崎恵美子,山下由美子(水研セ中央水研),山澤正勝(名古屋文理短大),渡部終五(東大院農)

 即殺および解凍スルメイカを原料として乾製品の褐変速度を比較した。即殺スルメイカは,リボース,グルコース 6-リン酸(G6P),フルクトース 6-リン酸(F6P)とも含量が低く,35°C 貯蔵試験中に褐変は進行しなかった。解凍スルメイカは,リボース,G6P 含量とも高く,リボース含量と褐変指標 β値との間に高い直線相関(R2=0.724)が認められたが,G6P 含量との間には認められなかった。従って,イカ乾製品の褐変は死後変化で生成するリボースが主要因で,G6P と F6P の関与は小さいと考えられた。

日水誌,71(2), 198-204 (2005)

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ミトコンドリア 16S rRNA 遺伝子判別法によるキンメダイ卵および仔魚の同定と伊豆諸島周辺海域における分布様式

秋元清治(神奈川水総研),瀬崎啓次郎(日冷検),三谷 勇(神奈川水総研),渡部終五(東大院農)

 八丈島北方の伊豆諸島海域,黒瀬海穴付近においてノルパックネットの表層曳きおよび鉛直曳き(水深 0-200 m)で採集したキンメダイ属の形態的特徴をもつ卵 63 個,仔魚 17 尾につき,ミトコンドリア 16S rRNA 遺伝子一部領域の RFLP および塩基配列分析により種同定を試みた。卵 10 個,仔魚 6 尾については DNA を抽出できなかったが,残りの卵 53 個および仔魚 11 尾は全てキンメダイと同定された。発生段階の異なる卵の分布様式からキンメダイは海底付近で産卵し,卵発生に伴い海面近くまで浮上するものと考えられた。

日水誌,71(2), 205-211 (2005)

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ハタハタの卵塊 Arctoscopus japonicus が多色化する要因(短報)

森岡泰三(水研セ厚岸),堀田和夫(富山水試),友田 努(水研セ能登島),中村弘二(国際農研セ)

 ハタハタの卵色の決定に関与する要因を把握するため,異なる餌料で半年間飼育した 2 群から得た成熟卵や餌料の抽出液の吸光度を比較した。オキアミとイカナゴを混合した餌料で育成した群は配合飼料の群に比べて卵,餌料とも吸光度が大きく,群の間に有意差が認められた。前者の卵色は濃い赤や黄色,後者は淡い緑が基調となっており,餌料成分は卵色の決定に関与する要因の一つと推定された。

日水誌,71(2), 212-214 (2005)

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パージ・トラップ法による煮干イワシの臭気成分の分析(短報)

谷本昌太,坂本宏司,守本京三(広島食工技セ)

 パージ・トラップ法で捕集した煮干イワシの臭気を GC および GC/MS により分析した。アルコール(14),アルデヒド(20),ケトン(13),炭化水素(22),他の化合物(8)の計 77 成分を同定し,アルコール(1),ケトン(1)の計 2 成分を推定した。総揮発性成分量は 1.8〜8.4 mg/g であった。炭素数 3 から 6 のアルデヒド,1-penten-3-ol,エタノールが主要成分であった。これらの中で炭素数 3 から 6 の直鎖のアルデヒド,1-penten-3-ol が煮干イワシの臭気に関与していると考えられた。

日水誌,71(2), 215-217 (2005)

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