日本水産学会誌掲載報文要旨

マダカアワビ稚貝の殻表に形成される日周期的成長線の検証

對木英幹(東大院農),滝口直之(神奈川水総研),
山川 卓,青木一郎(東大院農)

 マダカアワビ Haliotis madaka の殻表に日周期的に形成される成長線の存在を証明する実験を行った。種苗生産した稚貝を alizarin complexone (ALC) 溶液へ 14 日間の間隔を空けて 2 回浸漬した。蛍光顕微鏡による観察の結果,殻の断面に認められた 2 重蛍光標識間の平均成長線数は 13.7 本(観察個体数 21,標準偏差 1.7 本)で,標識間の経過日数と一致した。天然海域への放流再捕個体の成長線の計数から逆算推定した放流時の殻長は,実測値とほぼ一致した。以上から,マダカアワビ殻表の成長線は日周期的に形成されると結論した。

日水誌,70(5), 682-686 (2004)

[戻る][水産学会HP]


東京湾海水より単離したピレン分解酵母

任 恵峰,残間 聡,浦野直人,遠藤英明(海洋大),
峯木 茂(東理大),林 哲仁(海洋大)

 海洋環境中の多環芳香族化合物の生物修復を目的に,ピレン[Pyr]分解微生物を東京湾海水中から探索した。生理学的試験から,分解菌は酵母 Dekkera bruxellensis, Candida sp. と同定された。Pyr 過飽和[4 μg/mL,飽和濃度の 50 倍液,開放系]人工海水に酵母を添加したところ,5 週間で Pyr 濃度が約 38% に減少した。一方,滅菌処理酵母の添加では Pyr が開放系で約 68%,閉鎖系で 100% 残存した。開放系では Pyr の揮発を差引いた約 30% が酵母によって分解された。両酵母の Pyr 分解速度は 1.4〜4.0×10−9 μg/CFU・h−1 であった。

日水誌,70(5), 687-692 (2004)

[戻る][水産学会HP]


水槽内で観察されたシラウオの産卵行動

山口幹人(道中央水試),藤岡崇(道中央水試),
猿渡敏郎(東大海洋研),大森迪夫(東北大院農)

 水槽に 50 個体のシラウオ成魚を収容し,その産卵行動を VTR に記録,分析した。シラウオは雄の吸盤状の尻鰭鱗で雌雄が互いの体を密着させ,体を震動させつつ放卵放精を行うというユニークな産卵行動を示した。その配偶行動は,底層に降下した雌に雄が群がって争い,ペアが形成されるというものであった。その後,ペアは上昇して放卵放精に至るが,ペア形成が必ず放卵放精に至る訳ではないことから,雌による配偶者選択も示唆された。さらに配偶過程の繰り返しから,雌が少数ずつ産卵を繰り返していたことが示唆された。

日水誌,70(5), 693-698 (2004)

[戻る][水産学会HP]


成長解析のための補助的手法としての Bayes 型モデルの応用

大西修平(東海大海洋),
木曾克裕(水研セ西海水研石垣)

 成長速度の変動を表すモデルを探索するための補助的手法について展開した。成長係数の時間変化は一般に特定の周期関数でモデル化されるが,成長係数の 1 次階差を確率的に記述する方法を用いた。パラメータ推定とモデル選択は,Bayes の定理と周辺尤度に基づいた。従来の手法との比較のため,サクラマスの体長データを解析した。成長メカニズムの情報が不十分なとき,データに基づくモデルの探索が必要である。Bayes 型モデルの補助的利用により,データのもつ特性をより詳細に把握できると思われる。

日水誌,70(5), 699-705 (2004)

[戻る][水産学会HP]


実験池においてキャッチアンドリリースされたイワナ,ヤマメの生残と成長

土居隆秀(栃木水試),中村智幸(水研セ中央水研),
横田賢史,丸山 隆,渡邊精一,野口拓史,
佐野祐介,藤田知文(海洋大)

 イワナ・ヤマメ養殖魚の小型魚と大型魚の釣獲放流後の死亡率と成長を実験池において調査した。餌釣り,毛鈎釣りともに,口腔にかかった鈎を除去した場合,いずれの魚種においても死亡率は低かった。餌釣りで口腔より奥にかかった鈎を除去した場合,イワナ小型魚とヤマメ大型魚では死亡率は高かった。口腔にかかった毛鈎を残留させた場合,イワナ大型魚では死亡率は高かった。死亡のほとんどが釣獲放流後 14 日以内に観察された。釣獲方法,鈎がかりの部位,鈎の処理方法は成長と肥満度に影響しなかった。  

日水誌,70(5), 706-713 (2004)

[戻る][水産学会HP]


耳石横断薄層切片を用いた鹿児島県近海産ヒラメの年齢と成長

厚地 伸(鹿児島水試),
増田育司,赤毛 宏,伊折克生(鹿大水)

 鹿児島県近海で漁獲された計 1,009 個体の耳石横断薄層切片をもとに,本種の年齢と成長を検討した。輪紋(不透明帯内縁)は年 1 回,12〜4 月に形成され,主産卵期の 1〜3 月とほぼ同時期であった。誕生日を 2 月 1 日と仮定し,von Bertalanffy の成長式を当てはめた結果,雄の成長は Lt=547.0{1−exp [−0.524(t+0.742)]},雌は Lt=844.0{1−exp [−0.284(t+0.789)]} で表され,1 歳時を除いて雌は雄よりも大きい体サイズを示した。雌雄共に天然魚と放流魚間では成長に有意差はみられず,観察された雄の最高齢は 18 歳,雌は 13 歳であった。

日水誌,70(5), 714-721 (2004)

[戻る][水産学会HP]


人工中層海底を用いたカキ養殖場底質への有機物負荷軽減策の検討

川口 修,山本民次,松田 治,
橋本俊也(広大院生物圏),高山晴義(広島水試)

 近年,カキ養殖場の底質悪化が問題となっている。そこで,カキ養殖から海底への有機物負荷を軽減するために養殖施設下の酸素条件の良い中層に人工的に分解層(人工中層海底)を設け,そこで好気的な分解を促進することを試みた。人工中層海底の材料は,カキ殻,竹炭,懸濁物吸着マットの 3 種類とした。その結果,いずれの人工中層海底でも好気的分解が行われていることが確認され,最も効果の高かったカキ殻製では設置から 69 日間に,カキ筏から底質への沈降有機物負荷の約 6.6% を軽減する効果があった。

日水誌,70(5), 722-727 (2004)

[戻る][水産学会HP]


逸失底刺網のゴーストフィッシング能力の経時的変化と死亡数推定

仲島淑子,松岡達郎(鹿大水)

 逸失底刺網のゴーストフィッシング(GF)の経時的変化と死亡数の定量的評価を試みた。模擬逸失網の連続 2 日の潜水観察で罹網魚/日を調べる実験を当初は毎日,以後は間隔をおいて最長 1,689 日間,計 3 回行った。網周辺の魚類相の定常性を確認し,罹網数の変化は網の GF 能力の変化を代表すると考えた。GF 能力低下をその短期・長期的要因による 2 項の和で近似し,GF 継続期間(GF 能力が当初の 5 % になるまで)を 142 日,総死亡数を 455 尾と推定した。マダイ,ムロアジはおもに初期の短期間,カワハギは長期間罹網が生じた。

日水誌,70(5), 728-737 (2004)

[戻る][水産学会HP]


有明海小型底曳網漁業における有用種の混獲投棄の実態

平井良夫(長大院生産),西ノ首英之(長大水)

 当漁業の混獲による有用種の投棄の実態を定量的に把握するために 14 回の試験曳網が実施された。漁獲物は種ごとに体長・重量測定を行い,投棄尾数・重量を算出した。有用種の漁獲量は総漁獲量の平均 67.4% であり,そのうちの約 30% が投棄対象サイズであった。総投棄量に占める有用種の投棄割合は平均で 39.3% であった。その中でも特にメイタガレイの投棄が顕著であり,有用種全投棄量の平均で 38.5% を占めていた。メイタガレイの漁獲尾数に占める投棄尾数の割合は夏季に高く冬季に低い傾向にあり,平均 76.1% であった。

日水誌,70(5), 738-744 (2004)

[戻る][水産学会HP]


コクチバスとオオクチバスの成長における流水と水温の影響

中村智幸,片野 修,山本祥一郎(水研セ中央水研)

 コクチバスとオオクチバスの成長に対する流水と水温の影響を実験的に検討した。給餌下では,両種ともに流水池と止水池との間で成長率に有意差は認められなかった。しかし,オオクチバスに対するコクチバスの成長比は,水温の低い時期に大きかった。無給餌下では,オオクチバスの体重の減少率は止水池に比べて流水池において大きかったが,コクチバスでは両池の間で体重の減少率に有意差は認められなかった。以上の結果は,コクチバスのほうがオオクチバスに比べて,流水と低水温に対する適応能力において優れていることを示している。

日水誌,70(5), 745-749 (2004)

[戻る][水産学会HP]


夏季のオホーツク海南西部におけるズワイガニの分布と形態学的成熟サイズ

柳本 卓(水研セ北水研),養松郁子(水研セ日本水研),
渡辺一俊(水研セ水工研)

 1997〜2000 年の夏季にオホーツク海南西部でトロールによりズワイガニ採集調査を行い,分布と成熟サイズを検討した。水深 100〜300 m で主に採集され,分布の中心は 150〜200 m で,300 m 以深ではほとんど採集されなかった。ズワイガニが採集された調査点の底層水温は−0.96〜6.00°C で,500 個体/km2 以上採集された調査点では−0.96〜5.77°C の範囲に限定されていた。水深別甲幅組成から,雌雄とも深所ほど大型の個体が多かった。50% 成熟率甲幅は,雄 106.0 mm,雌 63.4 mm であった。

日水誌,70(5), 750-757 (2004)

[戻る][水産学会HP]


ブリ 2 年魚の配合飼料および生餌主体モイストペレットのタンパク質消化吸収率に及ぼす水温の影響

佐藤公一,木本圭輔,日高悦久(大分海水研セ)

 ブリ 2 年魚の各季節におけるエクストルーダーペレット(EP),シングルモイストペレット(SMP)および生餌主体モイストペレット(OMP)のタンパク質消化性を,胃食塊量とタンパク質消化吸収率の食後変化から算出した累積タンパク質消化率により評価した。OMP の累積タンパク質消化率は,季節を問わず 86-89% と一定して高かったが,SMP のそれは 9 月の 84% から 3 月の 69% へと水温低下に伴い著しく低下した。一方,EP の同消化率は 12 月や 3 月の低水温期でも 83-84% であり,ブリ成魚の EP のタンパク質消化吸収率は比較的高いことが推察された。

日水誌,70(5), 758-763 (2004)

[戻る][水産学会HP]