日本水産学会誌掲載報文要旨

マリントキシン(総説)

野口玉雄(日本冷凍食品検査協会)

 マリントキシン(魚介毒)は,魚介類がもつ自然毒で魚介類の食中毒の原因となっている。主なものとして,フグ毒(テトロドトキシン,TTX),麻痺性貝毒(PSP),シガテラ毒,下痢性貝毒(DSP),“アオブダイ毒”(palytoxin(PTX)またはPTX様物質)などがある。最近のマリントキシン研究の進歩により,これらの毒の動物界における分布が広いことが分かり,それに伴い多くのマリントキシンの来源が微細生物に端を発した食物連鎖により毒化することが明らかとなった。また地球環境の変化に伴い,毒化生物の分布が広くなり,食中毒も広域化しつつある。重要食用貝類の毒化は,水産業の発展を阻止することから,近い将来に,毒化予防対策が打ちたてられる必要があろう。

 この総説では,水産科学および食品衛生の面から,最近のマリントキシン研究のハイライトを中心に紹介したい。

日水誌,69(6), 895-909 (2003)

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超音波バイオテレメトリーを用いたスズキの移動と回遊の記録

平岡修宜,荒井修亮(京大院情報),中村憲司(シャトー海洋),坂本 亘(近大農),
三田村啓理(京大院情報),光永 靖(近大農),米田佳弘(大阪府環境農林水産部)

 関西国際空港護岸域において採捕したスズキに超音波発信機を装着し,2001年8月に9個体,11月に11個体を放流した。護岸域に設置した受信機で行動を連続測定した結果,受信が記録され続ける個体と放流直後から記録されない個体が確認された。記録が続いた個体でも,1日以上記録の途切れる期間があり,受信範囲(約350m)を越える沖合へと移動したと考えられる。産卵期以前は小潮時に,産卵盛期は寒波・低気圧の到来時に多くの個体で記録が途切れた。スズキの沖合への移動はこれら生息環境の変化に対応していると推察された。

日水誌,69(6), 910-916 (2003)

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ホタテガイ貝殻を利用した人工魚礁へのキジハタ幼魚の放流実験

奥村重信(日栽協玉野),萱野泰久(岡山水試),
草加耕司(岡山県農水部),津村誠一,丸山敬悟(日栽協玉野)

 キジハタ放流魚の保護育成機能を持つ魚礁を開発するため,ホタテガイ貝殻を利用した実験魚礁を用いて放流実験を行った。岡山県白石島沖に2種類の実験魚礁を3基ずつ沈設し,キジハタ幼魚を1,000尾ずつ放流した。潜水観察と実験魚礁の一部引き揚げにより,滞留尾数や再捕魚の胃内容物等を1年間調査した。2種類の実験魚礁はキジハタを一定期間滞留させるとともに餌料生物の培養機能を有していた。このうちキジハタの潜入可能な空間を増やした実験魚礁の滞留尾数が多く,放流魚の保護育成に適していると判断された。
日水誌,69(6), 917-925 (2003)

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サクラマスのスモルトサイズと関連した海洋生活期の生残および成長

下田和孝,内藤一明,中島美由紀,佐々木義隆,
三坂尚行,今田和史(道孵化場)

 個体標識したサクラマスのスモルトを北海道南部の海域に放流し,漁獲による回収結果をもとに放流時のスモルトサイズと回収率および瞬間成長係数との関係を求めた。回収率はスモルトサイズと正の相関を示し,大型のスモルトほど生残率が高いことが示された。一方,スモルトサイズは瞬間成長係数とは負の相関を示し,大型のスモルトほど成長率が低いことが示された。これらの結果から,スモルトサイズの大型化は回帰率の向上には寄与するものの,漁獲サイズの大型化には繋がらないと考えられた。
日水誌,69(6), 926-932 (2003)

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シイラの遠近調節系と網膜視神経細胞の分布

百瀬 修(三重大生物資源),武井史郎(名大院生命農),
前川陽一,内田 誠(三重大生物資源),宗宮弘明(名大院生命農)

 表層性の魚食魚であるシイラの遠近調節系と視神経細胞の分布を調べた。シイラは発達した水晶体筋を持ち,水晶体筋はバンド状の筋成分で虹彩に結び付けられていた。水晶体筋は約240本の有髄神経線維によって支配されていた。中心野は網膜側頭部,視軸は前方,視精度は約8.3cycles/degreeであった。視精度の優れた視野は水平方向に広がっていた。シイラは表層で広く水平方向を見渡し,発達した遠近調節能力を駆使して餌生物をねらう視覚捕食者であることが裏付けられた。
日水誌,69(6), 933-939 (2003)

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陸奥湾におけるヒラメ仔魚の摂餌生態

長谷川藍,高津哲也,
伊村一雄,南條暢聡,高橋豊美(北大院水)

 陸奥湾で1999年と2001年の5-6月にプランクトンネットで採集されたヒラメ仔魚は,摂餌開始期には主に有鐘繊毛虫類とかいあし類ノープリウス(主にParacalanus属),尾虫類を摂餌し,大型仔魚は尾虫類とコペポダイトを摂餌した。摂餌開始仔魚のノープリウス摂餌率は1999年(16%)よりも2001年(55%)に高かった。環境中のParacalanus属ノープリウスの体積豊度は1999年よりも2001年の方が1.2-2.0倍高く,仔魚も相対的に太っていた。摂餌開始期のヒラメ仔魚の摂餌強度や栄養状態は,環境中のノープリウス豊度の変動に影響を受けやすい。
日水誌,69(6), 940-947 (2003)

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異なる温度に保存したコイの筋原線維の小片化に及ぼす順応温度の影響

三嶋敏雄,藤井 潤,橘 勝康,槌本六良(長大水)

 10°C(L群)と30°C(H群)に飼育したコイを用い,各保存温度下(0, 15, 30°C)の筋原線維の小片化を検討したところ,いずれの保存温度でもH>Lの傾向にあった。この差異に影響する要因を次に検討した。筋収縮率は30°C保存ではH<L, 15°C保存ではH≒L, 0°C保存ではH>Lであった。カルパイン活性は25°Cと30°C反応ではH>L, 20°Cから0°C反応ではH≦Lであった。筋小胞体のCa-ATPase活性は30°Cから0°C反応までH<Lであった。両群の筋原線維小片化の差異には,これらの要因の関与が推察された。
日水誌,69(6), 948-954 (2003)

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海水電解装置による漁港内海水の殺菌と漁獲物の衛生管理への応用

笠井久会,吉水 守(北大院水)

 港内海水を電気分解し有効塩素濃度を約1mg/Lに調整した際の生菌数の消長について検討した。港内海水中の生菌数は104-105CFU/mLであったが,処理後は100-101CFU/mLまで低下し,漁獲物保管用1tタンクではそのレベルが3時間持続した。電解海水に氷を投入し断熱シートで覆った場合,タンク中の塩素は長く残留し,魚を投入すると有効塩素濃度は0.12mg/Lまで低下した。船倉の場合も氷の存在下で上記レベルの生菌数が60分間以上持続した。また電解海水で用具の洗浄を行った場合,99.9%以上の消毒効果が得られた。
日水誌,69(6), 955-959 (2003)

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日本太平洋岸の上りカツオおよび下りカツオの各部位における脂質変化

守田麻由子,関 陽平,
後藤直宏(海洋大),藤田孝夫(共立女子大),和田 俊(海洋大)

 上りカツオおよび下りカツオの腹肉,背肉,血合肉,皮,心房,心室,動脈球,肝臓,腸管,幽門垂,眼窩の脂質を分析し,質的,量的変化を明らかにした。結果,上りカツオと比較して下りカツオではトリグリセリド(TG)含量が増加した。特に,背肉,血合肉,心房,幽門垂,腸管で変化が大きく,これら部位のTGは,上りカツオではエネルギーとして使用されたものと考えられた。一方眼窩脂質では,これらカツオの間で質的,量的変化は認められなかった。また下りカツオは上りカツオに比べ相対的なDHA含有量の低下が認められた。
日水誌,69(6), 960-967 (2003)

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イトマキヒトデホスホリパーゼA2変異体の基質極性基特異性

岸村栄毅,尾島孝男,林 賢治,西田清義(北大院水)

 イトマキヒトデ幽門盲のう由来のホスホリパーゼA2(PLA2)の基質極性基特異性とpancreatic loop部位の構造との関係を明らかにすることを目的とした。イトマキヒトデ幽門盲のうPLA2をコードするcDNAの塩基配列はODA-LA PCR法により変異させ,ワイルドタイプPLA2(WT PLA2)のpancreatic loop部位のCys62-Gly63間にLys残基を導入した。本PLA2変異体はWT PLA2と比較してホスファチジルエタノールアミン(PE)をよく加水分解することから,pancreatic loop部位の構造がPE極性基への反応性に関与していることが示唆された。
日水誌,69(6), 968-974 (2003)

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アコヤガイ貝肉アルカリプロテアーゼ分解物の降圧効果とアンジオテンシン I 変換酵素阻害ペプチドの単離・同定

片野静次(東亜大院生命),沖 智之(九大院生物資源),松尾由佳(カタノ物産),
義平邦利(東亜大院食品),奈良安雄(東亜大院生命),三木知博(WHO循環器疾患予防),松井利郎,松本 清(九大院生物資源)

 アコヤガイ貝肉タンパク質をアルカリプロテアーゼ分解し,その分解液による血圧降下作用を高血圧自然発症ラット(SHR/Izm)を用いて,投与後6時間の収縮期血圧により調べた。分解液の低分子溶出画分側からACE阻害活性の高い画分を得たので,これを逆相クロマトグラフィーに供し,ACE阻害活性の高い生理活性ペプチドを,ACE阻害ペプチド(Ala-Trp)を含めて4種類分離・同定した。さらにこれらのペプチドのACE阻害への寄与率は4.5%であった。アコヤガイ貝肉の機能性食素材としての可能性を検討したので報告をする。
日水誌,69(6), 975-980 (2003)

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ウナギ催熟過程におけるサケ生殖腺刺激ホルモン投与後の体重変動(短報)

金丸明希子,佐藤成美,川添一郎,鈴木 譲,会田勝美(東大院農)

ウナギにサケ生殖腺刺激ホルモン(sGTH)を毎週繰り返し投与し,sGTH投与後の体重変動の詳細および生殖腺水分含量,卵径の変化を調べた。雌では,体重はsGTH投与後増加した後,減少するという変動を繰り返した。雄では,明確な体重変動はみられなかった。生殖腺の水分含量は雌,雄ともにsGTH投与により増加し減少した。卵径は増加したままであった。以上の結果から,sGTHの投与が体重の変動や生殖腺の水分含量の変化を引き起こしていることがわかった。
日水誌,69(6), 981-983 (2003)

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