日本水産学会誌掲載報文要旨

有明海小型底曳網漁業における混獲物の投棄の実態

平井良夫(長大院生産),西ノ首英之(長大水)

 当漁業の漁獲実態および混獲物の投棄の実態を定量的に把握するために,14回の試験曳網が実施された。漁獲物は種ごとに体長・重量測定を行い,投棄尾数・重量を算出した。漁獲量は夏季に多く,冬季に少ない傾向にあった。漁獲量に対する投棄量は36〜67%の間にあり,平均53%であった。投棄物の類別組成では硬骨魚類と板鰓類とで総投棄量の平均93%を占めていた。投棄種の上位は未利用種ではウチワザメやゲンコで,有用種ではメイタガレイであった。

日水誌,69(3), 330-336 (2003)

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マアナゴの催熟および排卵誘発のための効果的なホルモン投与方法の検討

堀江則行,山田祥朗,岡村明浩,田中 悟,宇藤朋子,三河直美,
赤澤敦司,岡 英夫(いらご研)

 マアナゴ雌魚を効果的に催熟・排卵させるホルモン投与方法について検討した。ヒト絨毛性生殖腺刺激ホルモン100IU/kg体重/隔週と卵成熟誘起ステロイド3種(各2mg/kg体重)との組合せはいずれも有効であった。このうち17α,20β,21-トリヒドロキシ-4-プレグネン-3-オンを組合せた群では,生残した個体(生残率79%)の全てにおいて核移動期に達した卵母細胞が認められ,排卵を誘発した魚の42%から浮上卵が得られた。

日水誌,69(3), 337-346 (2003)

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相模湾および遠州灘の海底堆積物から分離した好圧細菌の諸性状について

今田千秋,小林武志,濱田(佐藤)奈保子,渡辺悦生(東水大)

 東京湾,相模湾,遠州灘から採集した海底堆積物サンプル合計16について1〜600atm下で加圧培養したところ,相模湾(採集深度1,400m)および遠州灘(300m)から常圧より加圧下においてよく増殖する好圧細菌が得られ,それぞれをSA-6およびEN-16株と命名した。これらの微生物は生育に海水を要求する海洋細菌であり,分類学的性状を調べた結果,SA-6株はKurthia属,またEN-16株はAcinetobacter属に属することが判明した。これらの細菌の生産するプロテアーゼおよびアミラーゼの活性を加圧下で調べた結果,EN-16株の生産する両酵素の活性は加圧下の方が常圧よりも高かった。

日水誌,69(3), 347-351 (2003)

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降下仔アユの海域への分散に及ぼす降水量の影響

東 健作,平賀洋之(西日本科技研),木下 泉(高知大海セ)

 高知県の下ノ加江川河口域および河口外側の砂浜海岸において,1996-1999年に集魚燈を用いてアユ仔魚を採集した。3年間の採集結果を比較すると,1996年群および1997年群では,河口域と海域の両水域においてアユ仔魚が多数採集された。しかし,1998年群では河口域における単位時間当たりの採集尾数が3年間で最も多かったのに対して,海域における採集尾数はごくわずかであった。孵化仔魚の主な降下期間である11-12月の降水量は,1996年および1997年に比べて1998年には著しく少なかった。以上から,孵化仔魚の降下期における河川流量は,仔魚の河口内での残留および河口外への分散に影響を及ぼす可能性が示唆された。

日水誌,69(3), 352-358 (2003)

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砂浜海岸砕波帯におけるシロギスの初期生活史

荒山和則,今井 仁,河野 博,藤田 清(東水大)

 1999年4月〜2001年3月に館山湾の砂浜海岸砕波帯の汀線域と沖浜で小型地曳網によりシロギス仔稚魚を採集し,出現や食性等を明らかにした。出現は主に7〜9月で,とくに沖浜で多かった(沖浜,14,106個体;汀線域,302個体)。しかし両者で体長差はなかった(沖浜,12.9±4.3mm;汀線域,13.2±6.8mm)。主な餌生物は,体長13.9mmまではカラヌス目であり,14.0mmで多毛綱が,17.0mmではアミ目が加わった。出現状況や食性等から,砕波帯,とくに沖浜は,シロギス仔稚魚の重要な成育場と考えられた。

日水誌,69(3), 359-367 (2003)

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日本の水産資源管理理念の沿革と国際的特徴

牧野光琢(京大院人・環),坂本 亘(京大院農)

 日本の水産資源管理制度には大宝律令以来1300年間にわたり「資源利用者による資源の保護・培養」という理念が貫かれている。また近年の資源管理協定やTAC法の協定制度等の,漁民の自主協定による資源管理制度は,行政費用の低さや柔軟性,政治理念から言っても推進していく価値がある。一方で米国は「政府による資源管理と市民による資源利用」という二元的制度であり,資源利用者は専ら自己の利潤最大化に専念する。こうした理念的特徴を有する日本における水産学には「日々の漁業操業の中での資源管理」という視点が重要である。

日水誌,69(3), 368-375 (2003)

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飼育下でのサクラエビの脱皮について

福井 篤,土屋崇生,神戸祐一,喜多賢治,魚谷逸朗(東海大海洋)

 飼育下においてサクラエビ成体の脱皮について調べた。脱皮率は水温10°Cで13.0%, 14°Cで47.3%, 22°Cで77.2%であり,水温の上昇にともない高くなった。1日の水温を昼12°C-夜18°C,および昼18°C-夜12°Cに変化させると,昼夜を問わず,水温12°Cより18°Cでの脱皮が多かった。脱皮間隔は7〜12日で,1回の脱皮で0.4〜1.9%の頭胸甲長が増大した。脱皮は20〜40秒間で終了した。脱皮の前の20〜30分間と後の60〜100分間では横倒しで着底していた。

日水誌,69(3), 376-379 (2003)

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北海道木古内湾におけるアイナメHexagrammos otakii雌の成熟

関河武史,高橋豊美,津哲也,桜井泰憲(北大院水)

 1999年6月から2000年5月の間,木古内湾で採集したアイナメ雌(標準体長170〜460mm)の卵巣を組織学的に観察し,成熟過程と成熟周期を調べた。成熟度は,未成熟期,油球期,卵黄球期,成熟期,産卵期,産卵終了期の6期に区分され,成熟に伴う卵母細胞組成と卵径分布の推移から,本種の卵発達様式は部分同時発生型に属すると判断された。また,成熟度の出現個体数組成の季節変化から,当海域における産卵期は11月から1月で,盛期は11月中旬から12月下旬であると推定された。

日水誌,69(3), 380-386 (2003)

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魚類普通肉水可溶性画分におけるパルブアルブミン結合カルシウムの分布とアイソフォーム

讃岐 斉,秦 正弘,竹内昌昭(東北大院農)

 普通肉水可溶性画分において,パルブアルブミンに結合しているカルシウムの分布を4魚種間で比較した。さらに,部分精製パルブアルブミン(PA)のアイソフォームについて調べた。コイおよびマダラではカルシウムの約65%がパルブアルブミン(PA)画分に存在したが,サンマおよびニジマスではPA画分への存在は約10%であった。これらPAの分子量はSDS-PAGEにおいて10-12.5kDaであった。また,コイ,マダラ,ニジマスPAには3アイソフォームが,サンマPAには2アイソフォームがポリアクリルアミドゲル電気泳動において認められた。PAアイソフォームの移動度,存在比は魚種により大きく異なっていた。

日水誌,69(3), 387-392 (2003)

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トカゲエソ肉の40°C付近でのミオシン重鎖分解に及ぼすかまぼこ製造条件の影響

浅野善啓(高知食検セ),伊藤慶明(高知大農),Pantip Suwansakornkul(タイ水産庁FTDI),
小畠 渥(高知大農)

 トカゲエソ肉塩すり身の40°Cでのミオシン重鎖(HC)分解は肉を晒処理しても抑制されなかった。NaClはHC分解を促進し,糖類やみりんは影響しなかった。弱アルカリ性でHC分解が最も大きかった。塩すり身の40°C付近での加熱時間が長いほどHC分解が進み,同時にかまぼこのゲル強度が低下した。従って,かまぼこ製造工程においてトカゲエソ肉塩すり身はHC分解によるゲルの劣化を生じやすいことが示された。

日水誌,69(3), 393-398 (2003)

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色落ちノリの色調評価と硫酸アンモニウム添加海水への浸漬による色調回復

坂口研一,落合 昇(三重科技セ水),Chan Sun Park,
柿沼 誠,天野秀臣(三重大生物資源)

 ノリ葉体の色落ちの程度を色彩色差計で,LAB表色系を用いて評価した。色落ちの程度が中程度から重度のノリのa*値はマイナスの値を示し,正常ノリのa*値が示す赤色方向から緑色方向に色彩が変化した。色落ちノリの色調を回復させるため硫酸アンモニウム添加海水で浸漬処理を行ったところ,液胞は大きいが細胞内の各器官の形態が明瞭で,細胞質が顆粒状になっていない中程度から重度の色落ちノリを,NH4-N濃度25mg/Lに調整した海水に24時間浸漬したときの色調回復効果が最も高かった。

日水誌,69(3), 399-404 (2003)

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スケトウダラ冷凍すり身のゲル形成能のpH依存性と重合リン酸塩の影響

北上誠一(すり身協会),安永廣作(中央水研),村上由里子(すり身協会),
阿部洋一(阿部十良商店),新井健一(すり身協会)

 ソルビトール(S)と重合リン酸塩(PP), Sのみ,SとNaClを含む冷凍すり身を終濃度3%NaClと塩ずりし,K2CO3を加えpHを6.8〜8.7とした。肉糊を25°Cで予備加熱後90°Cで30分加熱した。予備加熱に伴う加熱ゲルの破断強度(BS)と破断凹み(bs)の変化から冷凍すり身のゲル形成能のpH依存性とPPの影響を調べた。そしてPPを含むすり身のゲル化能はpH7.5〜7.8, PPを含まないすり身のそれはpH7.6〜8.5で最高になることを認めた。また加熱に伴うBSに対するbsの増加の割合も同じpH依存性を示した。この結果はPPの存否で加熱によるゲル形成能の至適pHが異なることを示す。

日水誌,69(3), 405-413 (2003)

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マツカワの卵質劣化に及ぼす残留過熟卵の影響(短報)

萱場隆昭,杉本 卓(道栽漁総セ),足立伸次,山内晧平(北大院水)

 マツカワの卵質が劣化する機構を調べるため,搾出した卵を72時間冷所保管し,受精率および発眼率の変化を解析した。その結果,透明卵の割合が高い搾出卵の場合,受精率は採卵72時間後でも80%以上と高値を示した。しかし,これらに過熟卵を混合して保管すると,受精率は24時間後に急激に低下した。また,発眼率は,透明卵が多い搾出卵でも時間経過に伴って徐々に低下した。以上の結果,マツカワの卵巣腔内で過熟化が進んだ残留卵および卵巣腔液は新たに排卵された正常卵の受精能を加速的に低下させることが示唆された。

日水誌,69(3), 414-416 (2003)

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