日本水産学会誌掲載報文要旨

北海道厚岸湾に放流されたマツカワ人工生産魚の食性

渡辺研一(日栽協),南 卓志(日水研)

 厚岸湾に放流し,再捕された人工生産マツカワの胃内容物を調査した。餌料生物はアミ類,コツブムシ類,エビジャコ類,エビジャコ類以外の十脚類,魚類およびその他に分類した。出現頻度法,個体数法,重量法,餌料重要度指数,栄養段階指数を用いて,食性と食地位について分析した。主な餌料はアミ類(全長≦150 mm),アミ類とエビジャコ類(全長 150〜250 mm),エビジャコ類とコツブムシ類(全長 250〜300 mm),エビジャコ類(全長 300〜400 mm),エビジャコ類と魚類(全長>400 mm)であった。栄養段階指数は成長に伴って増加し,食地位は大型個体ほど高かった。また,春期に栄養段階は低く,夏期・秋期に高かった。

日水誌,69 (1), 3-9 (2003)

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ブチルスズ化合物による宇和海沿岸堆積物および養殖魚介類の汚染

酒井大樹,笠井梨恵,高橋 真,田辺信介(愛媛大沿環研セ)

 宇和海沿岸で採取した表層堆積物,堆積物コアおよび養殖魚介類のブチルスズ化合物濃度を測定した。表層堆積物の TBT 濃度は 2.8〜930 ng/g(乾重当り)であり,都市域の東京湾,大阪湾,洞海湾などと同程度の汚染レベルであった。魚類養殖海域における表層堆積物の総ブチルスズ化合物濃度(MBT+DBT+TBT)は,アコヤガイ養殖海域の濃度より有意に高値であった。堆積物コアのブチルスズ化合物濃度は表層で最も高く,下層に向けて減少する傾向を示した。養殖魚介類中の TBT 残留濃度は,厚生省の定めた暫定 ADI 値より算出した許容濃度を下回っていたが,周辺生態系を保全するための汚染低減策が必要と考えられた。

日水誌,69 (1), 10-22 (2003)

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黒潮親潮移行域周辺におけるスルメイカ幼体の分布

森  賢(北水研),中村好和(水産総研セ)

 1994〜1996 年に黒潮親潮移行域におけるスルメイカ幼体の分布様式を調査した。調査は各年 4 月に実施し,海域は房総〜常磐沖合域に設定した。水温を用いた水塊区分により,調査海域を親潮水域,冷水域,暖水域,黒潮水域に区分し,スルメイカの分布を比較した。口径 2 m,目合い 3 mm のリングネットによる採集で,外套背長 5〜35 mm(7〜15 mm 主体)の幼体が採集された。幼体が多く分布していたのは,各年とも暖水域であり,その他の水域では分布密度は低くかった。また,冷水域と暖水域の水温フロント周辺では高密度に分布する点も見られた。しかし,外套背長の違いによる分布の差は認められず,スルメイカ幼体の分布は海流による受動的な輸送の結果と考えられた。幼体の分布が集中した暖水域は,黒潮水域に隣接した 100 m 深水温 10°C 以上の暖水域であり,餌料となる動物プランクトンも豊富な海域とされている。この水域にスルメイカ幼体が移送されることは,その後の成長・生残に好適な影響を及ぼすと考えられた。

日水誌,69 (1), 23-29 (2003)

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主枝重量の変動からみた九州北岸志賀島におけるヒジキの季節的消長

長門祐子,川口栄男(九大院生資環,九大院農)

 九州北岸の志賀島に生育するヒジキ個体群の季節的消長を,重量で区分した 5 階級の主枝の出現頻度により検討した。5,6 月,重量の大きい階級の主枝の出現頻度が増し,8 月以降急激に減少した。この変動に伴い,個体の重量も変動した。調査期間中,個体重量の最大値は 6 月の平均 15.9 g で,最小値は 9 月の平均 1.5 g であった。成熟時期は 6 月から 8 月に限られた。7,8 月では全ての個体が成熟し,大きい重量階級の主枝の大半が生殖器床を有すると同時に,小さい重量階級の主枝の一部にも生殖器床の形成がみられた。一方,最小の重量階級の主枝の形成は 7 月から始まり,その出現頻度は 9 月に最大であった。雌雄の個体の出現比率はほぼ 1:1 であった。

日水誌,69 (1), 30-35 (2003)

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マダイ Pagrus major 仔稚魚の発育に伴う各種環境ストレス耐性の変化

石橋泰典,小澤 勝,平田八郎(近大農),熊井英水(近大水研)

 マダイ仔稚魚に 24 時間の高水温,低水温,高塩分,低塩分およびアンモニアストレスをそれぞれ負荷し,半数致死レベルを求めて魚の発育に伴う各種環境ストレス耐性の変動様式を調べた。ストレス耐性は,どのストレスでもふ化直後は高く,ふ化後 14 から 21 日目の脊索屈曲期前後に有意に低下した。稚魚期(28 日令)以降は,水温およびアンモニア耐性に明らかな回復がみられ,塩分耐性にも緩やかな回復が示された。以上の結果,マダイ仔稚魚のストレス耐性は,いずれも変態期に低下する様相を示し,この時期にみられる活動余地の低下が,各種環境ストレス耐性の低下原因の一つであることを示唆した。また,各種ストレスの 24 時間半数致死レベルが,ストレステストの負荷条件として利用できることを示唆した。

日水誌,68 (1), 36-43 (2003)

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線光源モデルを用いた小型イカ釣り漁船集魚灯の水中照度分布解析

崔 淅珍(水工研),荒川久幸,有元貴文,中村善彦(東水大)

 小型イカ釣り漁船の甲板上に船首尾方向に配列されている集魚灯について,線光源モデルによる水中照度計算の理論式を作成し,計算条件として 150, 200, 240 kW の集魚灯総光源出力に対して漁船中央横断面方向の水中照度分布を計算によって求めるとともに,漁場での水中照度分布実測値と比較した。その結果,従来の点光源モデルによる水中照度計算理論に比べて,線光源モデルによる計算結果が実測値に近く,実用的であった。さらに,現場観測で使用した集魚灯光源の使用時間による光束低下を考慮した補正計算を行うことによって,水中照度分布形状を実測値に近似させることができ,線光源モデルは集魚灯光源の光束維持率および発光効率について検討するためにも実用的であると判断された。

日水誌,69 (1), 44-51 (2003)

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異なる環境浸透圧で飼育したカマキリ Cottus kazika の成長と生残率

岩谷芳自,渡 智美(福井内総セ),井上広滋,竹井祥郎(東大海洋研)

 0 才および 1 才魚のカマキリを海水,1/3 海水および淡水で飼育し,生残率と成長を比較した。0 才魚の生残率は,海水飼育群が 50 日後までに約 60% に減少したが,110 日後には淡水飼育群とほぼ同じになった。また 1/3 海水飼育群では海水飼育群より高かった。1 才魚の生残率は海水および淡水飼育群で差がなかった。成長は,0 才および 1 才魚とも淡水より海水飼育群の方が良かったが,0 才魚において海水および 1/3 海水飼育群で差がなかった。従って,カマキリは海水または希釈海水飼育により,養殖効率が向上すると考えられた。

日水誌,69 (1), 52-56 (2003)

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野外放流実験による二種類のキジハタ幼魚保護実験礁の比較

奥村重信,津村誠一,丸山敬悟(日栽協)

 放流したキジハタ 0 歳魚を 1 歳魚まで育成する保護育成礁の可能性の検討,及び 2 種類の実験礁の比較を目的に本研究を行った。主に植毛材またはホタテガイ貝殻から成る実験礁を 1 基ずつ製作し,1999 年 11 月にキジハタ 0 歳魚を 1,000 尾ずつ両礁に放流した。その後はダイバーによる観察と計数を 9 回行った。2000 年 4 月に実験礁の一部を引き揚げてキジハタを再捕した。植毛材礁からは合計 103 尾,ホタテガイ貝殻礁からは 204 尾の放流魚が回収された。再捕魚の 65% は実験礁に付着した甲殻類を摂餌していた。キジハタの保護育成礁という発想は有効であり,実験に供した 2 種類の実験礁では植毛材礁よりホタテガイ貝殻礁が効果的であった。

日水誌,69 (1), 57-64 (2003)

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飼育環境下におけるホッコクアカエビ幼生の相対成長

有瀧真人,浜崎活幸,早乙女浩一(日栽協)

 飼育したホッコクアカエビ幼生は 7 回脱皮し,ポストラーバ 1 期へと変態した。各齢期の外部形態と遊泳行動の観察,および相対成長の変曲点の検討から,ゾエア 1〜2 期は受動的浮遊期から能動的遊泳期への移行期,ゾエア 3〜4 期は全付属肢が出現し,能動的遊泳が完成する時期,ゾエア 5 期を経てゾエア 6〜7 期は底棲生活への移行期,ポストラーバ 1 期は底棲生活の完成期と位置付けられた。ゾエア期の相対成長の変曲点はゾエア 2 期から 3 期とゾエア 4 期から 5 期への脱皮時に集中し,幼生の大量死発生の時期とよく一致した。

日水誌,69 (1), 65-71 (2003)

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ラットに投与した粘度の異なるアルギン酸塩の消化率およびその脂質代謝への影響

Wei Wang,吉江由美子,鈴木 健(東水大)

 前報のワカメ微小化による肝臓における脂質上昇抑制は,水溶性食物繊維によると考えられたため,粘度の異なるアルギン酸塩の脂質代謝への影響を検討した。基本食,コレステロール食,コレステロール食に高粘度又は低粘度アルギン酸塩を添加した食を調製し,ラットを 20 日間飼育した。アルギン酸の消化率では高粘度食が低粘度食より有意に低かった。アルギン酸添加食はコレステロール食より有意に血清中のコレステロール濃度を低下させた。肝臓での高粘度アルギン酸による脂質上昇抑制効果は見られたが,低粘度アルギン酸ではなかった。

日水誌,69 (1), 72-79 (2003)

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2-プロパノールを溶剤に用いたカルボニル価測定による水産加工食品製造におけるフライ油劣化の評価(短報)

遠藤泰志,李 昌模,藤本健四郎(東北大院農),遠藤美砂子(宮城産技総セ),
遠山かおり,薄木理一郎(尚絅女短大)

 著者らが開発した 2-プロパノールを溶剤に用いたカルボニル価測定法を水産加工食品の現場で使用されるフライ油に応用可能か,従来法と比較した。その結果,フライ油の種類,脂肪酸組成の違い,揚げ種の違い,差し油の有無に関係なく,本法は従来法と同様の値を示した。以上より,本法は水産加工現場におけるフライ油の劣化評価に応用できることを認めた。

日水誌,69 (1), 80-81 (2003)

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エソ類の低温貯蔵中に起こるホルムアルデヒドの生成とゲル形成能の低下に及ぼす酸素の影響(短報)

王 錫昌(上海水大),成田公義,平岡芳信,逢阪江理,岡 弘康(愛媛工技セ)

 トカゲエソをねり製品原料として有効利用するため,冷蔵中におけるホルムアルデヒド(FA)の生成とゲル形成能の変化に及ぼすガス置換包装(N2 及び O2)の影響を検討した.N2 置換包装したトカゲエソ肉中の FA は O2 置換包装した場合に比べ冷蔵初期において顕著に増加した。また,N2 置換包装したトカゲエソのゲル形成能では冷蔵 6 日目には明らかに低下したが,O2 置換包装したトカゲエソのゲル形成能が高く保持されており,FA の生成がゲル形成能の低下に強くかかわることが推定された。以上のことから,O2 置換包装は FA の生成を抑制することを通じてトカゲエソのゲル形成能の保持に寄与することが示された。

日水誌,69 (1), 82-84 (2003)


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