日本水産学会誌掲載報文要旨

魚類の感染症―我が国の現状と課題―(総説)

若林久嗣(フィッシュヘルス研)

 魚類の感染症(伝染病)は,養殖生産や種苗生産の発展と表裏して増加を続けている。実態把握の難しい天然水域における魚類感染症についても,環境汚染や種苗放流など人間生活に伴う悪影響が懸念されている。予防接種(ワクチネーション)は魚類にも有効であり,数種の魚類感染症に対するワクチンが実用に供されている。また,最近,「水産資源保護法」の改正と「持続的養殖生産確保法」の制定によって,日本では初めて魚類防疫制度が発足した。しかし,予防接種にも防疫制度にも多くの課題が残されており,魚類感染症の防除対策に関する幅広い研究と技術開発が期待される。

日水誌,68 (6), 815-824 (2002)

[戻る][水産学会HP]


加入量当たり産卵資源量解析による徳島県伊島周辺のマダイ資源管理

渡辺健一(徳島総技セ),保正竜哉(日本エヌ・ユー・エス)

 徳島県伊島周辺のマダイ資源管理のために加入量当たり産卵資源量(Spawning Per Recruit)解析による検討を行った。現状の資源の %SPR は,11.97% と計算され,乱獲との境界である資源管理上の下限を下回っているものと考えられた。今後,漁獲圧を強めている伊島近辺で操業する小型底曳網主体に漁獲係数の 20% 程度の削減(減船を含む)とともに,小型魚の保護として小型底曳網の 0 歳魚,漁業と遊漁釣および小型定置網の 1 歳魚漁獲物の再放流が必要と考えられ,資源管理下限の 20%SPR には 60% の 0 歳魚の保護(全長 14 cm 以下の保護で可能)のみ,理想的な利用形態に近いと考えられる 30%SPR 管理の達成には 0 歳魚とともに 1 歳魚の 20 cm 以下の保護で可能になると考えられた。

日水誌,68 (6), 825-834 (2002)

[戻る][水産学会HP]


瀬戸内海中央部の燧灘において採集された仔稚魚

小路 淳(京大院農),前原 務,武智昭彦,谷川貴之,
村田憲之(愛媛中予水試),田中 克(京大院農)

 瀬戸内海中央部の燧灘において 1997 年 11 月から 1998 年 10 月に稚魚ネットによる採集を毎月 1 回行い,49 科 97 分類群に属する 51,322 尾の仔稚魚を採集した。採集種数は 7 月(47 種)に最大,4 月(7 種)に最小となり,密度は 5 月に最大(5492.4 尾/1000 m3),11 月に最小(75.9 尾/1000 m3)となった。種ごとの個体数割合はコノシロ(15.7%),マイワシ(12.4%),アカウオ(11.6%),イカナゴ(10.4%),マルアジ(10.1%)の順に多かった。内湾・浅海性種の割合が多く外洋性種の出現がきわめて少ないことと,冬季の種数が極めて少ないことが特徴的であった。1960 年代の調査結果に比べてイカナゴ,アミメハギの割合が減少し,コノシロ,マイワシの割合が増加した。

日水誌,68 (6), 835-842 (2002)

[戻る][水産学会HP]


クランクベイトルアーの流体力特性に及ぼすリップ縦横比の影響

臺田 望,稲田博史,胡 夫祥,酒井拓宏(東水大)

 クランクベイトルアーのリップ形状と潜行力,抗力および圧力中心との関係を解明するために回流水槽実験を行った。形状を縦横比によって変化させた等面積の方形リップ 5 種と一定形状のボディを組み合わせたルアーを製作し,6 分力計で潜行力,抗力およびモーメントを計測した。その結果,抗力係数に及ぼすリップ縦横比 λL の影響は小さいが,リップの幅を拡げ λL を 0.3 から 2.0 にすると,最大潜行力係数は 0.55 から 0.82 に増大した。また,ルアーの迎角が等しい場合の圧力中心係数は減少し,圧力中心がルアーの前方へ移動した。これらの結果から,等面積のリップでも,その縦横比を一定の範囲で大きくすることによって最大潜行抗力比を増し,潜行深度を深めるという設計指針が得られた。

日水誌,68 (6), 843-851 (2002)

[戻る][水産学会HP]


耳石 Sr/Ca 比による高知県伊尾木川および物部川産アユの由来判別

藤清家 暁(広大生物生産),岡部正也,佐伯 昭(高知内水セ),
海野徹也(広大生物生産),大竹 二雄(三重大生物資源),中川平介(広大生物生産)

 高知県伊尾木川および物部川で捕獲されたアユの由来判別を耳石 Sr/Ca 比を用いて行った。両河川に放流された人工海産アユは発育初期の飼育水の塩分濃度が低く,かつ,淡水への馴致期間も天然魚に比べて短いことから耳石 Sr/Ca 比により天然,人工海産および湖産アユの判別が可能であった。1998 年および 1999 年の伊尾木川の 29 個体,1999 年度の物部川の 56 個体について耳石 Sr/Ca 比と標識痕による由来判別を行った結果,両者の結果が一致しなかったのは全体の 12%,わずか 10 個体であった。この結果は耳石 Sr/Ca 比によるアユの由来判別が従来の標識方法と同等に有効であることを示唆するものである。

日水誌,68 (6), 852-858 (2002)

[戻る][水産学会HP]


和歌山県串本におけるメジナの年齢と成長

前田充穂(京大院農),木村清志(三重大水実),中坊徹次(京大総博)

 和歌山県串本産のメジナの年齢と成長および産卵期を推定した。研究材料は 1999 年 1 月から 2000 年 12 月までに主として磯釣りによって採集した 367 個体を用いた。年齢の推定は鱗を用いて行い,鱗の縁辺成長率の推移から輪紋は年に 1 回,2 月から 4 月に形成されると推察された。本種の成長には雌雄差は見られず,von Bertalany の成長式をあてはめた結果,Lt=380(1−exp(−0.244(t+0.887)))が得られた。生殖腺指数の年変化より,産卵期は 4 月と推定された。

日水誌,68 (6), 859-865 (2002)

[戻る][水産学会HP]


日本海北部海域におけるスケトウダラの漁獲量変動と水温の関係

呉 泰棋,桜本和美(東水大),長谷川誠三(北水研)

 日本海北部 11 海域のスケトウダラの漁獲量変動と表面水温との関係について検討した。30 年間の漁獲量と月別水温を用いた相関分析,因子分析を行うことにより,以下の結果を得た。1北海道日本海側北部海域の表面水温は日本海北部海域の漁獲量変動と極めて強い負の相関を示した。2上記 t 年の漁獲量は特に,t−τ 年(τ=3, 4, 5)の 1 月,2 月,9 月の表面水温と強い負の相関を示した。以上の結果から,水温がスケトウダラの再生産,資源変動などに強く影響している可能性が示唆された。

日水誌,68 (6), 866-873 (2002)

[戻る][水産学会HP]


2 種の網状構造物で作製した人工生息場所に対する天然マダイ稚魚の蝟集

工藤孝也(愛媛大連合農),澤 一雅,山岡耕作(高知大農)

 砂底域に,2 種類の人工生息場所を設置し,天然マダイ稚魚の蝟集状況を潜水調査した。マダイは主に人工生息場所を設置した場所に出現した。特に小型個体(30 mm 以下)は人工生息場所の 0.5 m 以内で見られた。人工生息場所 β(水平+垂直構造物)の方が,α(水平構造物のみ)に比べて有意に多くの個体が蝟集した。人工生息場所の近辺と藻場周辺で採捕された個体の胃内容物組成と肥満度に有意差は認められなかった。人工生息場所はマダイ稚魚を蝟集させる効果を持ち,食物面では天然の藻場とほぼ同等の機能を持つことが推測された。

日水誌,68 (6), 874-880 (2002)

[戻る][水産学会HP]


魚体が網抜けするために必要な遊泳力と網の締め付けによる魚体のくびれ

夏目雅史(道中央水試),松石 隆(北大院水)

 魚体が網地に締め付けられながらも網抜けできる目合を検討するために,締め付けによるくびれた状態での最大胴周長,その締め付けを突破させることのできる引き抜き力を測定する装置を作製した。これを用いて,締め力を 0.49 N から 2.94 N まで 4 段階に変化させたときの,ホッケの最大胴周長および引き抜き力を測定した。また,ホッケの遊泳力も測定した。引き抜き力とホッケの遊泳力を比較すると,体長 30 cm 前後のホッケの遊泳力では網目から 1.96 N 程度の締め付けがかかれば網目を突破できないが,0.98 N 程度の締め付けならば突破できると考えられた。そのときの魚体くびれ率の平均値は 97.3% であった。

日水誌,68 (6), 881-886 (2002)

[戻る][水産学会HP]


微小重力および近赤外光照射下におけるティラピアの姿勢保持

遠藤雅人,小林龍太郎,有賀恭子,吉崎悟朗,竹内俊郎(東水大)

 航空機を用いた微小重力環境下におけるティラピア稚魚(TL:3-4 cm)の行動観察を行い,近赤外光(発光波長 880±40 nm)照射時に正常遊泳する個体について,その姿勢保持機構の解明を試みた。近赤外光照射時に正常遊泳した個体は 55 個体中,6 個体(10.9%)であった。これら正常遊泳個体の腹部側に近赤外光を照射した結果,全ての個体が反転し,背光反射を示した。また,微小重力暴露中の正常遊泳時間に対する背光反射行動を示した時間の割合は 74.4±22.5%(n=6)であった。以上の結果から,一部のティラピアは近赤外光を感知し,微小重力下で姿勢保持をしていることが明らかとなった。

日水誌,68 (6), 887-892 (2002)

[戻る][水産学会HP]


mtDNA シトクローム b 遺伝子による北海道周辺のタラ科 3 種の種判別

柳本 卓(北水研),北村 徹(日本 NUS)

 タラ科 3 種(スケトウダラ,マダラ,コマイ)の成魚の筋肉から抽出した粗 DNA を用い PCR 法にて増幅したシトクローム b 領域の塩基配列を決定した。塩基配列から Dpn II,Hae III,Rsa I および Taq I の 4 種類の制限酵素により,タラ科 3 種の種判別ができることが明らかになった。また,種特異的なプライマーを設計して,増幅した断片の長さの違いで 3 種を識別する方法を確立した。これらの手法により,形態的な差異だけでは困難なタラ科仔稚魚の種判別が可能になった。

日水誌,68 (6), 893-899 (2002)

[戻る][水産学会HP]


間歇気泡幕によるマダイ群進路阻止(短報)

川村軍蔵,安樂和彦,田中榮嗣(鹿大水)

 マダイ稚魚(体長 95-115 mm)200 尾の連続気泡幕(1 分当り空気排出量 72.9 L)と間歇気泡幕に対する反応行動を水槽観察した。連続気泡幕に 72 時間慣れた供試魚は間歇気泡幕に対して顕著な回避反応を示し,5 セットの観察で,連続気泡幕に較べて気泡幕通過累積日数が 50 尾に達するまでの時間が平均 3 倍に延び,完全阻止時間が最大 7 倍に延びた。魚群を排除する手段として,間歇気泡幕は連続気泡幕より高い効果があると判断された。

日水誌,68 (6), 900-902 (2002)

[戻る][水産学会HP]


空気・炭酸ガス混合気泡幕による遮断効果向上(短報)

川村軍蔵,* 安樂和彦,井田 圭(鹿大水)

 魚にとって嫌忌味覚刺激である炭酸ガスと空気との混合気体の気泡幕と炭酸ガスのみの気泡幕を用いて,マダイ稚魚に対する遮断効果を空気気泡幕と比較した。屋外生簀実験では,生簀の開放パネル部から気泡幕を通過して逸出する個体数は,混合気体気泡幕の場合の方が少なく,生簀内の供試魚は混合気体気泡幕から離れて分布した。水槽実験生簀の試験区の魚は,空気気泡幕より混合気体気泡幕を低頻度で通過した。これらの結果より,炭酸ガスはマダイに嫌忌刺激であり,混合気体気泡幕は空気気泡幕より遮断効果が高いと結論された。

日水誌,68 (6), 903-905 (2002)


[戻る][水産学会HPへ]