日本水産学会誌掲載報文要旨

水生無脊椎動物における遊離 D-アミノ酸の分布,代謝および生理機能(総説)

阿部宏喜(東大院農)

 十脚目甲殻類,異歯亜綱二枚貝等の無脊椎動物諸組織には多量の遊離 D-アラニンの存在が確認されている。高浸透ストレスにより D-, L-アラニンは種によらず増加し, D-アラニンは細胞内等浸透調節のための最も有効なオスモライトとして機能することが確認された。一方,低酸素ストレス下でも D-, L-アラニンは増加し,嫌気代謝の最終産物の可能性が示唆されている。D-, L-アラニンの相互変換を触媒するアラニンラセマーゼがこれらの種に確認され,また分解系酵素も存在することが明らかにされている。これらに加えて,動物における D-アミノ酸研究の現状を紹介する。

日水誌,68 (4), 516-525 (2002)

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プランクトン蝟集ランプを設置した海面網生簀におけるハタハタ仔稚魚の食性

森岡泰三(日栽協)

 ハタハタの種苗生産技術向上のため,夜間電照された網生簀において本種の無給餌飼育を試みた。容量 20 m3 の網生簀内には一晩に 36-393 万個体の餌生物が出現し,のべ 38 種目にのぼった。250 尾/m3 の密度で収容されたハタハタ仔魚は平均 0.5 mm/日の成長を示した。消化管内に出現する主な餌生物は仔稚魚の成長とともに枝角類,かいあし類,モエビ幼生へと変化し,網生簀内における餌生物の出現比率を反映しながら多様化大型化した。天然餌生物は種苗生産下のハタハタに対しても基本餌料としての重要な役割を果たしている可能性がある。

日水誌,68 (4), 526-533 (2002)

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6 種の微細藻類におけるアコヤガイ稚貝の摂餌率,消化率および消化盲嚢中色素量の比較

沼口勝之(中央水研)

 アコヤガイ稚貝を用いて,6 種類の培養微細藻類を摂餌した場合の摂餌率,消化率および消化盲嚢に含まれる植物色素量について比較検討した。稚貝 1 個体,1 時間あたりの摂餌細胞数は T-Iso (Isochrysis a. galbana, clone T-Iso), Pavlova lutheri, Nitzschia closterium, Dunaliella tertiolecta では 10.0×106〜10.6×106 細胞でほぼ同程度の摂餌率であった。しかし,Tetraselmis tetrathele では 6.6×106 細胞でやや摂餌率は低く,Chaetoceros gracilis では 12.8×106 細胞とやや高い摂餌率であった。消化率は D. tertiolecta (75.2%)が最も高く,次いで T-Iso (67.2%), Ch. gracilis (61.5%), P. lutheri (57.9%), Ni. closterium (45.6%)の順であり,T. tetrathele の消化率は最も低く 42.1% であった。各微細藻類の摂餌により稚貝の消化盲嚢に含まれる植物色素量は増加したが,摂餌した培養微細藻の種類によって消化盲嚢に含まれる植物色素量は異なっていた。

日水誌,68 (4), 534-537 (2002)

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刺激般化を用いた非骨鰾類(マダイ,マアジ)の周波数弁別能力の検証

川村軍蔵,安樂和彦,藤本 仁(鹿大水)

 非骨鰾類の周波数弁別能力を検証する目的で,マダイ群とマアジ群を 313 Hz と 700 Hz の純音の合成音に条件刺激として給餌場所に集まることを学習させて,刺激般化を調べた。テスト音として 100 Hz〜2000 Hz の 12 種類の周波数の純音を 100〜157 dB の音圧レベルで放音した。得られた刺激般化勾配には 300 Hz と 700 Hz に明瞭な谷が表れた。これは供試魚が条件刺激合成音の構成音を分析的に聞き分けた結果であると解釈され,非骨鰾類が周波数弁別能力をもつと結論された。

日水誌,68 (4), 538-541 (2002)

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弁別学習実験で確認されたアカウミガメの色覚

川村軍蔵,松永ふうま,田中淑人(鹿大水)

 孵出直後のアカウミガメとアオウミガメは特定の波長の光に走光性を示し,アオウミガメの錐体は 3 種の感光色素をもつことが知られており,これらはウミガメが色覚をもつ可能性を示す。筆者らは弁別学習実験でアカウミガメの色覚を確認した。孵出後 23 日目の稚ガメと 3 才の個体を,それぞれ緑パネルと赤パネル,緑球と黒球の弁別を学習させ,学習完成後に赤パネルと黒球を明度の異なる 3 段階の灰色と置換して移調試験を行った。移調試験で 3 才個体は絶対選択反応(正選択率 80-100%)を,稚ガメは移調色に関わらず一貫性のない絶対選択反応とランダム選択反応(正選択率 40-100%)を示したことより,両者は色覚をもつが稚ガメの色覚は未熟であると結論された。

日水誌,68 (4), 542-546 (2002)

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高速攪拌による魚肉すり身中の魚油の微粒化と加熱ゲル形成能の向上

岡崎惠美子,山下由美子,大村裕治(中央水研)

 真空高速攪拌機を用いてすり身に 10% の魚油を乳化させ,至適攪拌条件を魚油粒子の分布状態,乳化物の粘度,および加熱ゲル形成能を考慮して調べた。低速度(900 rpm)で攪拌した場合,攪拌時間に伴って魚油粒子は小さくなり加熱ゲル形成能は上昇したが,10 分以上攪拌しても乳化状態は安定しなかった。一方,低速度(300 rpm)から高速度(3000 rpm)までの段階的攪拌により,乳化物の粘度の増加,魚油粒子の均質な微粒化が達成されるとともに高い加熱ゲル形成能が得られ,安定した乳化状態が達成された。以上の結果により,強い攪拌力による油球の微小化がゲル形成能の向上効果をもたらすことが示唆された。

日水誌,68 (4), 547-553 (2002)

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富山湾の湾奥部で成育したアユ稚魚の河川への回遊遡上

田子泰彦(富山水試)

 富山湾湾奥部におけるアユ仔稚魚の主な分布範囲は,距岸 3 km 以内の浅海域であった。庄川および神通川へのアユ稚魚の遡上期間は,河川水温が 10°C を越えた 4〜5 月にあった。海域で大型個体の出現が認められたのは,河口付近の水温が 10°C に達しない 3 月下旬〜4 月中旬迄であった。アユの初期遡上群が大きい理由は,河川水が遡上可能な水温条件になるまで河口付近の海域に滞留を余儀なくされるためと考えられた。河川産の個体は海産よりも同じ体長では体重がより重い傾向を示したことから,特に体長 6 cm 以上の個体は河川へ遡上した方が成長がよくなると推定された。

日水誌,68 (4), 554-563 (2002)

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シラスの音響周波数特性の昼夜変動に関する考察

宮下和士(北大院水)

 シラスの音響周波数特性の昼夜変動について考察した。音響散乱モデルは,昼間は鰾に空気が無いと仮定してストレートシリンダーモデル,夜間は鰾に空気が充満していると仮定して鰾共振モデルを使用した。周波数の組み合わせは,シラス漁業で用いられる周波数 50 kHz と 200 kHz,計量魚群探知機で用いられる周波数 38 kHz と 120 kHz の 2 組を採用した。結果,両組合せ(特に 38 kHz と 120 kHz)においてシラスの 2 周波間ターゲットストレングス(TS)の差は,昼間で大きく夜間でほとんど無いことが示された。従って,シラスの判別および音響調査は,明確な周波数差が現われかつ魚群が濃密である昼間が適していると判断された。

日水誌,68 (4), 564-568 (2002)

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ホシゴマシズから抽出したジアシルグリセリルエーテルのリパーゼ加水分解性とマウス急性経口毒性

佐藤 剛,徐 還淑,遠藤泰志,藤本健四郎(東北大院農)

 下痢性を主症状とする食中毒を引き起こした南大西洋産イボダイ科魚類ホシゴマシズの筋肉にはトリアシルグリセロール(TAG)とほぼ等量のジアシルグリセリルエーテル(DAGE)が含まれていた。DAGE は単独ではワックスエステル(WE)と同様すい臓リパーゼによりほとんど加水分解されなかったが,TAG が共存すると加水分解が進行した。マウス経口急性毒性は GE>モノアシル GE>DAGE/TAG>DAGE>WE の順となり,DAGE 関連物質の毒性は WE より強く,また,加水分解物はアシル化物より毒性が強かった。

日水誌,68 (4), 569-575 (2002)

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尾鰭骨格による琵琶湖産アユおよびワカサギの種判別と体長の推定(短報)

高橋鉄美(科技団),亀田佳代子(琵琶湖博物館),川村めぐみ(近大農)

 琵琶湖産アユとワカサギをカワウの胃内容物から種判別できるようにする目的で尾鰭骨格の観察を行った。両種は尾部棒状骨に下尾骨が癒合せず,2-5 個の尾鰭椎前椎体に神経棘が関節することから他の琵琶湖に生息する魚類と区別できた。またアユは尾鰭椎前第 3 および第 4 椎体の神経棘が筒状の構造を持ち,先端に軟骨を有すること,そして上尾骨が 2 本で後方の下端が 2 叉するか,もしくは 3 本であることにより,ワカサギと明瞭に識別することが出来た。また両種の尾鰭骨格と体長の関係式も求めた。

日水誌,68 (4), 576-578 (2002)

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海藻中の水溶性および不溶性食物繊維による抱合型胆汁酸塩の吸着(短報)

王  ,吉江由美子,鈴木 健(東水大)

 本研究ではワカメ,ヒジキ,マコンブ,スサビノリの水溶性および不溶性食物繊維によるコール酸,ケノデオキシコール酸,デオキシコール酸のグリシンまたはタウリン抱合型の吸着について調べた。海藻中の不溶性食物繊維による抱合型胆汁酸塩の吸着量は水溶性食物繊維のそれより多かったが,これは海藻中に不溶性食物繊維が多く含まれていたためである。一方,コンブの水溶性食物繊維による吸着力は不溶性食物繊維より高いことが示された。海藻中の水溶性および不溶性食物繊維による抱合型胆汁酸塩の吸着量は非抱合型より少なかった。

日水誌,68 (4), 579-581 (2002)


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