日本水産学会誌掲載報文要旨

21 世紀の水産資源管理(総説)

田中昌一(東大名誉教授・東水大名誉教授)

 100 年の歴史の中で,水産資源学は乱獲現象を説明し,MSY などの最適漁獲を論じて来た。それらの成果は多くの資源の管理に応用された。20 世紀の後半には,電算機の発達もあって,新しい理論や解析方法が展開され,より実際的な管理目標が提案された。それにもかかわらず,世界の多くの資源は乱獲の危機にある。資源研究は確定的な答えを出せず,資源やその研究方法に内在する不確実性に悩まされている。世界の人口増加に対処するために,漁業に対する大きな期待に答えられるような 21 世紀の資源管理が必要だ。フィードバックを組み入れた管理方式の実用化や,不確実性を克服するためのキーデータ入手の努力が要求される。

日水誌,68 (3), 313-319 (2002)

[戻る][水産学会HP]


網地の形状と運動に関する数値シミュレーション手法の開発

高木 力(近大農),鈴木勝也,平石智徳(北大院水)

 本研究は網漁具の水中での形状や運動を推定できる汎用的な数値シミュレーション手法を開発しようとするものである。網地は複数の質点とバネで構成されているものとしてモデル化する。各質点に関する運動方程式を導出し,これらを数値的に連立して解くことで網地の各時間ステップの変位が算定される。網地の形状は 3 次元的に視覚化できるようにし,脚に作用する張力分布はその強度に応じて色彩を変化させる。
 定常流中に設置した長方形の平面網地について試算した結果,その形状は実物と良く一致した。3 次元に描画された網地の画像は任意視点から観察することができ,張力の分布特性と併せてその形状を詳細に把握することができた。

日水誌,68 (3), 320-326 (2002)

[戻る][水産学会HP]


アユ仔魚用配合飼料のタンパク質源の検討および水溶性窒素成分の効果

栗山本章造(岡山水試),酒本秀一(オリエンタル酵母工業),竹内昌昭(東農大)

 仔魚用飼料として,マイワシのシラスとシオミズツボワムシの真空凍結乾燥物(非加熱素材)および北洋魚粉(加熱素材)をタンパク質源とした配合飼料を 5 種類試作し,それらのアユ仔魚(平均全長 12.0 mm)に対する効果を比較した。
 アユ仔魚の生残,成長および絶食耐性に対し,シラス主体飼料は魚粉主体飼料より優れ,レシチンを添加すると生物餌料と遜色のない飼料効果を示した。シラス主体飼料は水溶性窒素成分を魚粉主体飼料の 2 倍以上含み,仔魚の消化吸収に適していると推察された。この結果は,組織化学的な手法を用いて明らかにされた仔魚のタンパク質吸収機構を実証するものと考えられた。

日水誌,68 (3), 327-333 (2002)

[戻る][水産学会HP]


超音波バイオテレメトリの音響系の評価および設計方法

朴 柱三,古澤昌彦(東水大)

 海洋生物に音波標識(ピンガ)を装着し,それを追跡して,主に行動生態を調べるための,超音波バイオテレメトリの音響系の評価および設計方法を開発した。信号対雑音比(SN 比)を大きくし,広い検知範囲に対して,確実にピンガ音を受信できることを目標とした。SN 比を基にして新たな概念として検知ビーム幅を導入し,最大検知距離や検知ビーム幅などの検知範囲を示す指標を求めた。また,検知距離,受波器の直径,検知ビーム幅をパラメータとして,周波数に対して SN 比を示した設計の汎用図を作成した。これにより,周波数,受波器の直径,検知ビーム幅,受波のビーム数を適切かつ容易に選べるようにした。

日水誌,68 (3), 334-344 (2002)

[戻る][水産学会HP]


七尾湾北湾とその沖におけるマダラ稚魚の生息上限水温と食性

森岡泰三,桑田 博(日栽協)

 4〜5 月におけるマダラ稚魚の時空間分布と食性を調べた。七尾湾北湾の底曳き網調査では全長 24〜56 mm の稚魚を 5 月上旬まで 12°C 以下の水域で採集し,湾外の定置網調査では 5 月上中旬に全長 39〜64 mm の稚魚を水温 11〜13°C で認めた。稚魚の生息上限水温は約 12°C であり,5 月中旬までに全長 40〜50 mm に成長してほぼ湾外に移動すると考えられた。湾内稚魚の主食はかいあし類であり十脚類幼生等も摂餌していた。全長 45 mm 以上では端脚類や十脚類稚仔などの割合が増加し,浮遊生物から底生生物への食性転換が認められた。

日水誌,68 (3), 345-350 (2002)

[戻る][水産学会HP]


スルメイカ Todarodes pacificus の平衡石における研磨度合による日齢査定のバイアス

高木香織,北原 武(東水大)

 平衡石の研磨度合による輪紋計数値の差について検討した。外套長 236-292 mm のスルメイカ 15 個体の平衡石の後部面を研磨し,2 人の検鏡者が研磨度合ごとに輪紋を計数した。研磨完了は平衡石を半分の厚さに研磨した状態,研磨途中はそれより平均 0.04 mm 厚い状態と定義した。研磨途中では,検鏡者は研磨完了と較べて輪紋数を多く計数する場合と少なく計数する場合があり,検鏡者間の差の平均は 43 本であった。一方,研磨完了では,輪紋数の平均値はそれぞれ 188 本と 192 本であり,検鏡者間の差は 4 本に減少した。

日水誌,68 (3), 351-355 (2002)

[戻る][水産学会HP]


ノリの色落ち原因藻 Eucampia zodiacus の増殖に及ぼす水温,塩分および光強度の影響

西川哲也(兵庫水技セ)

 ノリに色落ちを発生させる有害珪藻 Eucampia zodiacus について,増殖に及ぼす水温,塩分および光強度の影響を調べた。本種は温度 5 °Cでは 10〜35 の塩分条件下で増殖できなかった。増殖は温度 7 °C,塩分 15 以上の条件下から見られ,最大比増殖速度は温度 25°C,塩分 25 で 3.00 d−1であった。播磨灘で E. zodiacus が出現する時期は,本種の増殖にとって最適な水温条件ではなかった。一方,光強度(I)と比増殖速度(μm)の関係は μ=3.08(I+7.9)/(I+47.0)と表せ,各パラメーターは最大比増殖速度(μm)が 3.08 d−1,μm/2 を与える光強度(Ks)および光強度の閾値(Io)がそれぞれ 62.8,7.9 μmol m−2s−1 であった。

日水誌,68 (3), 356-361 (2002)

[戻る][水産学会HP]


瀬戸内海中央部の流れ藻に随伴する幼稚魚

山本昌幸,栩野元秀,山賀賢一,藤原宗弘(香川水試)

 1997 年 4 月から 1998 年 9 月に瀬戸内海中央部において,たも網により 1661 塊の流れ藻をすくい,それに随伴していた幼稚魚 22 科 34 種 10816 尾を採集した。流れ藻 1 塊あたりの幼稚魚の採集尾数と採集された魚類の種数は春に増加し,6 月に最高値を示し,秋冬に減少した。春の優占種はクロソイ,メバル,クジメ,夏はアミメハギ,ヨウジウオ,ウマヅラハギ,カワハギ,秋はニジギンポ,アミメハギ,ヨウジウオ,冬はクジメであった。これまでの報告と比較した結果,本海域の幼稚魚相は太平洋より日本海に類似していた。

日水誌,68 (3), 362-367 (2002)

[戻る][水産学会HP]


貝桁網によるチョウセンハマグリの足部損傷について

山崎慎太郎(水工研),日向野純也(養殖研),渡部俊広(水工研)

 貝桁網で漁獲された二枚貝にみられる足部の欠損(舌食い)の発生を低減するため,チョウセンハマグリの舌食いの発生機構について検討した。舌食いの発生率は水温の高い時期に高く水温の低い時期に低くなり,曳網速力の増大と共に高くなった。行動観察から,舌食いは貝が足部を伸張した状態で貝桁網の爪と砂に殻を圧迫されて発生すると考えた。潜砂している貝を引き上げてから底質へ潜入を開始するまでの時間は水温の高い方が短かく,潜砂深度は水温の高い方が大きかった。水温の高い時期には潜砂深度の増大と活発な潜砂行動により舌食いの発生率が高くなると考えた。舌食いの発生を抑えるには,曳網速力の低減が最も有効な方法である。

日水誌,68 (3), 368-373 (2002)

[戻る][水産学会HP]


飼育および天然ブリ稚魚の脂質組成および脂肪酸組成の比較

荒川敏久(長崎水試),石崎靖朗(東水大),中田 久(長崎水試),
清水 健,有元 操(日栽協),竹内俊郎(東水大)

 飼育環境下で種苗生産されたブリ稚魚の質を栄養成分から検討するため,長崎県水試で生産した飼育稚魚と九州沿岸で採捕した天然稚魚の脂質成分を比較した。分析の結果,前者は後者に比べてトリグリセリドが多く,n-3HUFA 特に 22:6n-3 の少ないことが分かった。高いトリグリセリド含量は飼育稚魚の飢餓耐性向上に寄与すると期待させる。しかし,n-3HUFA や 22:6n-3 含量が少ないことから,飼育稚魚の成長,生残および活力には懸念のあることが示唆された。

日水誌,68 (3), 374-381 (2002)

[戻る][水産学会HP]


テラピア腸管アミノペプチダーゼの精製ならびに性状―テラピアの消化酵素に関する研究-IX―

谷口(山田)亜樹子,高野克己(東京農大)

 テラピア腸管からアミノペプチダーゼを抽出し,各種クロマトグラフィーにて精製し,アミノペプチダーゼIおよびIIを得た。IおよびIIの最適 pH は 7.0 および 6.5,最適温度は 45°C および 50°C であり,活性はそれぞれ pH 6.5〜9.0, pH 6.5〜8.5 および 45°C, 50°C 以下で安定であった。両酵素ともに,EDTA, o-フェナントロリンによって阻害され,Zn2+, Co2+, Mg2+ により活性の回復が認められ,金属酵素の性質を示した。Iは Ala-pNA,IIは Leu-pNA に良く作用した。

日水誌,68 (3), 382-388 (2002)

[戻る][水産学会HP]


鹿児島湾産ワキヤハタの年齢と成長,およびオオメハタとの比較(短報)

岩川敬樹(鹿大連合農),小澤貴和(鹿大水)

 鹿児島湾産ワキヤハタで卵巣を用い産卵期を,そして耳石を用い年齢と成長を調べ,同湾産同属種オオメハタと比較した。産卵期は 9〜11 月であった。輪紋は 9〜11 月に形成された。年齢に対する実測体長の平均値から求められた von Bertalanffy 成長式は Lt=380.192[1−exp {−0.066(t+2.003)}](Lt, t 歳時の体長;t,年齢;最高年齢,6+)で表された。体長と体重の成長式にはワキヤハタとオオメハタでは統計的に有意な差は認められないが,体長では全ての年齢で,体重では 1 歳と 4 歳以上でワキヤハタがオオメハタよりも大きかった(最大差は 6 歳で,体長16.7 mm,体重27.8 g)。

日水誌,68 (3), 389-391 (2002)

[戻る][水産学会HP]


貝類のリゾチーム分布 II(短報)

宮内浩二,松宮政弘,望月 篤(日大生物資源)

 神奈川県近郊の海岸および市場より入手した 19 科 36 種の貝類についてリゾチーム活性の分布を検討した。試料貝類より殻を取り除いたむき身全体を,5 倍容量のリン酸塩緩衝液と共にホモジナイズし,遠心分離して得られた上澄液を粗酵素液とした。これら粗酵素液のリゾチーム活性を,Micrococcus lysodeikticus の乾燥菌体を基質として測定したところ,27 種にリゾチーム活性が確認され,そのうち 5 種では,リゾチーム含有量が高いことで知られるニワトリ卵白に準ずる著しく高い活性が認められた。一方,リゾチーム活性を欠く貝の存在も示唆された。

日水誌,68 (3), 392-394 (2002)


[戻る][水産学会HPへ]