新井健一(全国すり身協会技研) |
筋原繊維 Ca-ATPase 活性の熱安定性が魚類の棲息温度に強く相関するのは,本酵素が機能的に環境に適応した結果であるとされている。最近ミオシンのロッド部位の熱安定性が魚種によって異なる事実が見出されたが,これからミオシンのもう一つの魚種特性があることが示唆される。必然的に魚肉を食品素材として長期貯蔵する際には変性を抑制する対策が必要となり,冷凍すり身の製法にそれが見られる。水産加工食品の典型はねり製品であるが,塩ずり後の熱ゲル化は筋原繊維タンパク質と食塩との間に起こる変性反応に相当する。そこでこの反応に関して動力学的な研究が必要になっている。
田子泰彦(富山水試) |
富山湾奥部の砂浜海岸の砕波帯では,アユ仔魚は 10〜1 月(盛期は 11 月)に出現し,その平均標準体長は 10 月に 12.1±1.8 mm, 11 月に 18.3±3.0 mm, 12 月に 22.0±4.9 mm および 1 月に 23.3±2.7 mm であった。砕波帯の沖側に隣接する水深 4 m 以浅の浅海域では平均標準体長 36.1±3.8 mm の大型仔魚が 1〜2 月に採集された。水中観察では 11〜3 月にかけて砕波帯およびそれに隣接する浅海域において仔魚の群れが確認された。富山湾では 10〜12 月まで砕波帯を中心に生息していたアユ仔魚は,仔魚の成長や水温の低下などに伴い,2 月頃までにはその沖側に隣接する浅海域へ主な生息場を移すものと考えられた。
淀 太我(科技団),木村清志(三重大水実) |
環境特性の異なる青蓮寺湖(ダム湖)と西の湖(低地沼沢)のオオクチバスについて生殖腺の組織学的観察を行った。両湖ともに晩秋から初夏にかけて発達した卵母細胞を持つ雌が出現し,精子形成の盛期は春秋に認められた。産卵期は青蓮寺湖で 4 月下旬〜6 月下旬,西の湖で 4 月中旬〜5 月中旬と推定された。本種は秋季から成熟を開始するため春〜初夏の産卵期を最大限に利用でき,本邦の多様な環境に容易に定着した一要因となっていると考えられた。
宮本政秀(熊本県玉名地域振興局),吉田雄一(熊本県林務水産部), 河邊 博(熊本水研セ),松山幸彦(瀬戸内水研),高山晴義(広島水試) |
1995 年に九州西部に位置する羊角湾において無殻渦鞭毛藻(不明種)の赤潮が発生した。赤潮発生期に,湾内で現場調査を行い,発生時の環境条件と魚類に対する毒性について知見を得た。原因生物は長さ 25〜32 μm,幅 20〜30 μm の無殻渦鞭毛藻であり,下錐右葉が左葉に比して常に長いのが特徴であった。形態学的特徴から Gyrodinium sp. であると判断された。本種の赤潮が本邦で確認されたのは初めてである。発生時の水温および塩分はそれぞれ 25.4〜30.5°C, 31.22〜33.65 psu の範囲にあった。赤潮発生直前に多量の降雨と陸上からの栄養塩の供給が見られた。赤潮発生海域ではトラフグとアコヤガイの養殖が行われていたが,漁業被害は発生しなかった。赤潮海水(5,370 cells/mL)にマダイの稚魚を暴露したが,60 時間以内に斃死も苦悶も全く観察されなかった。
栗山雄司,小西和美,兼広春之(東水大),大竹千代子,神沼二眞(衛生研), 間藤ゆき枝,高田秀重(東農工大農),小島あずさ(クリーンアップ全国事務局) |
東京湾および相模湾沿岸域の海岸のレジンペレットの集積の実態調査を行った。その結果,ペレットによる汚染が調査海域のほぼ全域にわたっていることが明らかになった。ペレットの材質はポリエチレンとポリプロピレンがほとんどを占めており(全体の 90〜95%),比重の軽いペレットだけが漂着していることが確認された。
河川および海面の調査結果からペレットの流出が主にプラスチック工場から起こっており,海域への流出が工場→河川→海面→海岸の過程で起こっているものと考えられた。また,ペレットの新旧の組成割合を調べた結果,ペレットによる海域汚染が現在も続いていることが示唆された。
王 ![]() |
乾燥ワカメ(Undaria pinnatifida)をスーパーローターで粉砕し超微小粉末試料を調製し,通常の咀嚼と同程度の粒度の試料と共にラットに与え,消化率および脂質代謝に対する効果について調べた。基本食,コレステロール食,ワカメ微粒子食,ワカメ大粒子食の試験食を調製し,ラットを 2 週間飼育した。ワカメ中のアルギン酸の消化率は微粒子のほうが大粒子より有意に高かった。肝臓のコレステロール低下効果は微粒子のほうが大粒子よりを大きく,一方,血清については,大粒子は微粒子より有意にコレステロール改善効果を示した。
坪井潤一,森田健太郎,松石 隆(北大院水) |
北海道南部の 4 河川において,天然のイワナ Salvelinus leucomaenis を用いて,キャッチアンドリリース後の成長,生残,釣られやすさを調べた。釣獲直後の死亡率は 6.7% であり,過去の研究結果に近い値であった。一方,キャッチアンドリリースが行われた個体において,成長率や生残率の低下は認められなかった。また,釣られやすさは釣獲経験のある個体と無い個体で同程度であった。よってキャッチアンドリリースを行うことは資源量および釣獲量の増大に有効であることが示唆された。
奥村重信,津村誠一,丸山敬悟(日栽協) |
キジハタ幼魚を対象とした人工保護礁の素材と構造を検討するため,小型魚礁に対するキジハタ人工種苗の蝟集度の違いと食害防止効果を調べた。4 種類の魚礁を用いた水槽内実験の結果,キジハタ幼魚は空隙の大きい構造の魚礁より小さめの空隙を有する構造の魚礁に多く蝟集した。この傾向は本種の天然幼魚の行動と合致し,捕食者からの逃避に有効であると推察された。カサゴによるキジハタ幼魚の捕食は魚礁の設置によって減少し,空隙の小さい魚礁は食害を防ぐ効果が大きかった。以上の結果から,キジハタ幼魚を対象とした保護礁は,幼魚が潜入できる程度の空隙を有する必要があると考えられた。
小野世吾,細川雅史,井上 明,山田大介,高橋是太郎(北大院水) |
北海道において水産廃棄物として多量に排出されているスルメイカ肝膵臓や遡上シロサケを有効に利用するため,アンジオテンシン I 変換酵素(ACE)阻害ペプチドへの変換を試みた。種々のプロテアーゼによる加水分解物は,ACE に対し阻害活性を示した。特に,シロサケ脱脂粉末に対してサーモリシンを 5 % 添加し,37°C で 2 時間反応を行うことにより 86.9% の収率で分解物が得られ,その ACE 阻害活性は終濃度 78.9 μg/mL で 73.0% に達した。
渡辺研一(日栽協),吉水 守(北大院水) |
高感度で迅速な神経壊死症原因ウイルス(NNV)検出法を開発するために,試料を直接 PCR する方法,培養細胞を用いる方法,および両者の併用法のウイルス検出結果を比較した。材料としてシマアジ,マダラ,マガレイおよびヒラメの VNN 罹病仔稚魚を用いた。併用法(7 日間予備培養+PCR)の検出感度は,直接 PCR 法より 2〜5 オーダー,ウイルス分離法より 2〜5 オーダー(観察期間 7 日),あるいは 0〜2 オーダー(観察期間 14 日)高かった。このことから,試料接種後 7 日間予備培養した SSN-1 細胞を PCR 法により検査する方法が,最も高感度に,かつ迅速に感染性を持つ VNN ウイルスを検出できる方法であることが明らかになった。
曽我部陽子,田島研一,田中礼士,澤辺智雄,絵面良男(北大院水) |
16S rRNA 遺伝子塩基配列から低水温期のウニ病害原因菌 Vibrio spp.に特異的な配列を用いた PCR による原因菌の同定について検討した。DA2F-1540R プライマーセットによる PCR で,伊達由来原因菌と知内・鹿部由来原因菌の他,6 株の供試 Vibrio 属細菌にも増幅産物がみられたが,これら菌株とは 30°C の発育の有無で鑑別できた。なお,伊達由来原因菌と知内・鹿部由来原因菌とは SK1F-1540R プライマーセットで区別ができ,両プライマーセットによる PCR と 30°C での発育の有無で,両原因菌の同定が可能と思われた。
長富 潔,金井欣也,原 研治,石原 忠(長大水) |
ヒラメを実験魚とする細菌感染系を用い,Cu, Zn-SOD 活性の変化を比較した。Edwardsiella tarda 感染区(強毒株と弱毒株)において実験魚の肝膵臓の Cu, Zn-SOD 活性が感染初期の段階で顕著な上昇(対照魚の約 6 倍)を示した。しかし,それは一時的なもので,数時間のうちに低下し,対照魚とほぼ同レベルになった。一方,Vibrio anguillarum 感染区と Streptococcus iniae 感染区では,活性の変化がみられなかった。従って,E. tarda 感染区における顕著な SOD 活性の上昇は E. tarda 特有の現象であることが示唆された。
渡辺研一(日栽協),南 卓志(日水研) |
厚岸湾に放流されたマツカワ人工種苗の魚類による被食状況を明らかにするために,種苗を放流した後,放流場所においてソリネットで採集した魚類の胃内容物を調査した。この結果,エゾアイナメ,シモフリカジカおよびギスカジカの 3 種がカレイ類幼稚魚を含む魚類を重要な食物としていることが解り,そのうち前 2 種は,実際に放流したマツカワ稚魚を捕食していた。捕食魚 1 尾のマツカワ捕食数および胃内容物重量の体重に対する割合の高さから,これらの 2 種は,種苗放流されたマツカワの減耗に少なからず影響を及ぼすものと考えられた。