日本水産学会誌掲載報文要旨

水産脂質(総説)

鹿山 光(広島大名誉教授・福山大名誉教授)

 新しい世紀の初頭に当り,前世紀において行われた魚類および他の水生生物の脂質に関する研究を著者らの研究を中心にして総説した。魚類における高度不飽和脂肪酸の起源に関し,リノール酸からアラキドン酸へ,またα-リノレン酸からエイコサペンタエン酸を経てドコサヘキサエン酸への代謝経路を明らかにし,さらに水界食物連鎖のモデル実験を行った。それらの結果をもとに,魚類での血液栓球におけるプロスタグランジン生合成と血液凝集,鯉の鰓でのリポキシゲナーゼ産生物等についても研究した。また水産脂質の不けん化物および非グリセリド脂質に関する研究として,炭化水素スクアレン,キミルアルコール等のグリセリルエーテルおよびワックスエステルについても総述した。

日水誌,67 (6), 1039-1050 (2001)

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若狭湾西部海域産ヒラメの背鰭および臀鰭鰭条数にみられる未成魚と成魚間の差異

竹野功璽,葭矢 護,宮嶋俊明(京都海洋セ)

 若狭湾西部海域のヒラメの資源構造を解明するため,1994〜2000年に漁獲された未成魚と成魚の背鰭・臀鰭鰭条数の差異を調べた。両鰭条数とも2者間で異なり,成魚の鰭条数組成のモードと平均値は未成魚より有意に小さかった。この形質上の差異は,未成魚期まで鰭条数の多い個体群と鰭条数の少ない個体群の2群から構成されていた集団のうち,鰭条数の多い個体群が1, 2歳時に西方海域へ移出することにより,成魚期には鰭条数の少ない個体群のみから成る集団へと構造が変わることにより生じるものと考えられた。

日水誌,67 (6), 1051-1055 (2001)

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判別関数式によるニホンウナギとヨーロッパウナギの識別

岡村明浩,張  寰,山田祥朗,宇藤朋子,三河直美,
堀江則行,田中 悟,故元信堯(いらご研)

 ニホンウナギおよびヨーロッパウナギを迅速かつ簡便に判別する方法として,4つの計量化した外部形態形質を用いた判別関数式を作成した。この式の有効性を検討するため,宍道湖,神西湖,池田湖及び観音寺市内の河川で捕獲された天然ウナギ計162尾に対してこの式を適用し,その結果を遺伝子解析による判別結果と比較した。その結果,判別関数式による判別正答率は最大96.3%であった。遺伝子解析による種判別の結果,ヨーロッパウナギは,宍道湖15%,神西湖27%,池田湖94%及び観音寺市内河川10%の割合で出現しており,これらの水域におけるヨーロッパウナギの生息が確認された。

日水誌,67 (6), 1056-1060 (2001)

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若狭湾西部海域産ヒラメの耳石初輪径にみられる未成魚と成魚間の差異

竹野功璽,葭矢 護,宮嶋俊明(京都海洋セ)

 若狭湾西部海域のヒラメの資源構造を解明するため,1994年〜2000年に漁獲されたヒラメ未成魚と成魚の耳石初輪径を調査した。耳石初輪径は未成魚と成魚間で有意に異なり,雌雄とも成魚の輪径組成のモードと平均値は未成魚より小さかった。この現象には当海域に着底する2つの個体群の着底後の成長と分布・移動様式が関係しており,前期に着底した大きい耳石初輪径を持つ個体群のみが1, 2歳時に西方海域へ移出し,成魚期には後期に着底した小さい耳石初輪径を持つ個体群のみが海域内に残ることにより起こるものと考えられた。

日水誌,67 (6), 1061-1064 (2001)

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伊豆半島南部,下田市鍋田湾における海水の硝酸態窒素濃度と褐藻カジメの光合成活性の季節変化

芹澤如比古(東水大),高木裕行(中国塗料),
倉島 彰(三重大生資),横浜康継(志津川自然セ)

 伊豆半島南部の下田市鍋田湾において,海水中の硝酸態窒素濃度の季節変動とカジメの光合成活性との関係を調べるため,溶存態無機窒素と硝酸態窒素の濃度およびカジメ葉片の純光合成速度を毎月測定した。溶存態無機窒素と硝酸態窒素の濃度,カジメの光合成活性は共に冬に高く夏に低くなるという季節変化を示した。また,硝酸態窒素を添加した海水中で2日間培養したカジメ葉片の純光合成速度を2ヶ月ごとに測定した。硝酸態窒素添加海水で2日間培養したカジメ葉片の最大光合成速度は,いずれの月でも硝酸態窒素無添加の海水で培養した葉片よりもわずかに高い値を示したが,t検定の結果それらの間に有意差は認められなかった。

日水誌,67 (6), 1065-1071 (2001)

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クランクベイトのリップ形状とタイドアイ位置による潜行運動の変化

臺田 望,稲田博史,三木智弘,酒井拓宏,兼廣春之(東水大)

 クランクベイトルアーのタイドアイの位置と潜行姿勢およびライン張力との関係をリップ形状別に把握するために回流水槽実験を行った。リップの形状,タイドアイの位置を可変設定できるルアーを試作し,流速40, 60, 80cm/sにおいてルアーの迎角,ラインにかかる張力およびルアーの振動周波数を測定した。その結果,ルアーの平面図上におけるタイドアイより前方の面積(SF)と全平面投影面積(S)との比CsSF/Sを指標としてタイドアイの位置を表すと,リップの形状が異なる場合でもCsとルアーの迎角およびライン張力とはそれぞれ一定の関係を示した。また,各リップ形状においてCs=0.2〜0.3で安定した潜行運動が得られた。

日水誌,67 (6), 1072-1081 (2001)

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桁曳網試験操業によるヤナギムシガレイの網目選択性

山崎 淳,大木 繁,飯塚 覚(京都海洋セ)

 ヤナギムシガレイの網目選択性を調べるため,目合内径19.4mmの桁曳網コッドエンドの内側に35.8mm, 42.9mmおよび49.4mm目合の実験用袋網を取付けて合計47回の曳網を行った。各目合の網目選択性曲線をlogisticおよびRichards曲線に当てはめ,パラメータを最尤法により推定した。AIC値から,後者の曲線がより適合した。各目合の50%選択体長はそれぞれ97.0mm, 112.4mmおよび129.6mmと推定された。現在の底曳網漁業では20.9mm目合のコッドエンドが使用され,小型未成熟個体が多獲されていた。本研究では未成熟個体を保護するための網目拡大の有効性について検討した。

日水誌,67 (6), 1082-1088 (2001)

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日本海の浅海岩礁域で優占する植食性巻貝3種の日周行動

伊藤祐子,林 育夫(日水研)

 日本海の浅海岩礁域で優占する植食性巻貝3種,サザエ,オオコシダカガンガラ,ウラウズガイの日周行動を,実験室内で超高感度テレビカメラを用いて観察した。前2種は夜行性を示し,それぞれ8〜11cm/minおよび2〜5cm/minの速度で移動し,24時間あたりの移動距離は37〜39m, 5〜13m,移動時間は7および3〜6時間であった。ウラウズガイでは前2種のような顕著な日周リズムはみられず,速度,移動距離,移動時間とも前2種より少なく,不活発であった。このような行動特性を捕食者との関係で論議した。

日水誌,67 (6), 1089-1095 (2001)

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テラピア腸管カルボキシペプチダーゼの精製ならびに性状―テラピアの消化酵素に関する研究-VII―

谷口(山田)亜樹子,高野克己(東京農大)

 テラピア腸管からカルボキシペプチダーゼを抽出し,各種クロマトグラフィーにて精製を行い,3種のカルボキシペプチダーゼ I,II および III を得た。3種とも30°Cで I はpH8.0,II および III はpH8.5で最大活性を示し,I はBz-Gly-Phe,II および III はBz-Gly-Argを最も良く分解した。3種の酵素ともにο-フェナントロリンなどの金属キレート剤により活性が阻害された。

日水誌,67 (6), 1096-1102 (2001)

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穀醤油醸造技術を応用した新規魚醤油の開発

堂本信彦,王 鏗智,森  徹,木村郁夫,郡山 剛(日水中央研),阿部宏喜(東大院農)

 ホキ,ミナミマグロ,ヤリイカをミンチし,加熱殺菌後,麹菌,食塩,水,乳酸菌を添加しもろみを調製した。発酵中に酵母を添加し,発酵調味料(魚醤油)を製造し,6ヵ月間の熟成中の成分変化および最終品の品質について検討した。新規発酵調味料のpHは4.8〜5.0と穀醤油に近く,全窒素分は1.78〜1.86%と従来の魚醤油(ニョク・マム)に近い値となった。また,遊離アミノ酸ではグルタミン酸,アラニン,ロイシン,リシンの量が多かった。官能評価の結果,ニョク・マムを対照とした不快臭の強さは3種の試料すべてで低く,従来の魚醤油の臭いが軽減された発酵調味料が得られた。また,味の面では塩かどがなく,まろやかなことが特徴であった。

日水誌,67 (6), 1103-1109 (2001)

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醤油麹を用いて製造したマルソウダ魚醤油と国内産魚醤油および大豆こいくち醤油との揮発性成分の比較,とくに匂いとの関係

舩津保浩,川崎賢一(富山食品研),小長谷史郎(國学院短大)

 マルソウダから製造した魚醤油(FMS)の揮発性成分と,国内産魚醤油(しょっつる(S),いわしいしる(IS),いかいしる(IJCS))および大豆こいくち醤油(SS)のそれを比較し,揮発性成分と各魚醤油の匂いとの関係を検討した。FMSとSSでは揮発性の酸類(VA)が比較的少なく,アルコール類が多いが,SやISではVAが多かった。また,IJCSはVAが少なく酢酸のみが検出され,アルデヒド類が多かった。FMS, SSおよびIJCSに酪酸や吉草酸は検出されなかったが,SやISには検出された。官能評価では,FMSは,SSと同様に刺激のない好ましい香りをもつと評価されたが,S, ISおよびIJCSはやや刺激的でいやな香りをもつと評価された。さらに,IJCS以外の試料でVAとpHの間には強い正の相関が,また,香りについての好ましさとpHの間には強い負の相関がみられた。

日水誌,67 (6), 1110-1119 (2001)

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水温を変えて飼育したマガレイの変態期における甲状腺ホルモンの動態(短報)

堀田又治(京大院農),有瀧真人(日栽協),田川正朋,田中 克(京大院農)

 マガレイ仔稚魚を9°C, 12°C, 15°C, 18°C,および20°Cの5つの水温区で飼育し,変態期における甲状腺ホルモンの動態をラジオイムノアッセイ法を用いて調べた。各水温とも体組織中のT4濃度は変態中に最大となった。ピーク時のT4濃度は12°Cで最も高く,高水温ほど低くなる傾向を示した。一方,T3には水温との関係は見られなかった。本種では飼育水温を適水温に調節することにより形態異常の出現を抑制できることが報告されていることから,変態中のT4濃度と形態異常との間に何らかの関連がある可能性がある。

日水誌,67 (6), 1120-1121 (2001)

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ナノクロロプシスの培養初期の培地のpHと溶存態無機炭素濃度に及ぼすアンモニウム態および硝酸態窒素の影響(短報)

山崎繁久,川井田新(鹿大水)

 ナノクロロプシスの培地の窒素源として,アンモニウム態窒素あるいは硝酸態窒素を添加して,ナノクロロプシスの培養初期における増殖およびそれらの培地の水質,特に,pHおよび溶存態無機炭素濃度(DIC)の比較を行った。ナノクロロプシス密度は各態窒素源間での大きな相違は見られなかったが,pHおよびDICで大きな差が認められた。すなはち,pHおよびDICともに硝酸態窒素の方が高い値を示した。特にDICの差は大きく,硝酸態窒素の培地での変化が少なかったのに対し,アンモニウム態窒素の培地で培養開始後急減して3日後には0ppmに近い値となった。

日水誌,67 (6), 1122-1123 (2001)


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