日本水産学会誌掲載報文要旨

魚介類の含窒素低分子成分とおいしさ(総説)

坂口守彦(京大院農)

 魚介類にはさまざまな成分が含まれているが,なかでも含窒素低分子成分はおいしさの発現に最も重要である。ここでは,まず主要な含窒素低分子成分を遊離アミノ酸,有機塩基,グアニジノ化合物とオピン類,ヌクレオチドとその関連物質,ペプチドなどに分けて,その組成,分布について解説した。ついで,これらの中でどのような成分がおいしさを構成する基本味に影響を及ぼし,また風味質として作用するかについて述べ,さらに高分子成分(グリコーゲン,タンパク質,脂質など)の呈味に及ぼす影響についても触れた。

日水誌, 67 (5) , 787-793 (2001)

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飼育および天然ブリ稚魚の一般成分および無機質含量の比較

荒川敏久(長崎水試),石崎靖朗(東水大),中田 久(長崎水試),
清水 健,有元 操(日栽協),竹内俊郎(東水大)

 近年,養殖や放流用種苗の供給を目的として多数のブリ稚魚が生産されるようになった。人工生産魚の利用に当たっては,稚魚の質が重要であるが,ブリに対する検討例は少ない。そこで,長崎水試で生産したブリ飼育稚魚(日令 58, 70)の一般および無機質成分を分析し,鹿児島県および長崎県沿岸採捕の天然稚魚と比較した。その結果,飼育稚魚は天然稚魚に比べて粗脂肪含量が高く粗タンパク質含量が低いこと,また両者の Ca, Mg, Fe, Zn,および Cu 含量に差のあることが明らかになった。

日水誌, 67 (5) , 794-800 (2001)

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シロギス卵の卵質評価に関する研究

近藤茂則,吉岡 基,柏木正章(三重大学生物資源)

 卵質評価指標としての浮上卵率,中立浮力塩分(NBS),および全卵の浸透圧の有効性を検討するために,シロギス卵における各指標と正常ふ化率の間の相関関係を明らかにした。浮上卵率とふ化率の間には相関関係が認められなかった(r=−0.03)。NBSと浸透圧は,それぞれ28PSUと480 mOsm/kgを超えた卵においてふ化率が低くなり,ともにふ化率との間に強い負の相関関係が認められた(r=−0.86およびr=−0.94)。NBSと浸透圧は卵質が不良と思われる高NBSおよび高浸透圧の卵を選別できる有効な指標と考えられた。

日水誌, 67 (5) , 801-806 (2001)

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標識放流結果からみた若狭湾西部海域産ヒラメの分布・移動

竹野功璽,葭矢 護,宮嶋俊明(京都海洋セ)

 若狭湾西部海域産ヒラメの分布・移動の知見を得るため,1993〜1998年に天然ヒラメの未成魚599尾と成魚278尾を標識放流した。標識魚の再捕結果から,未成魚は春季から夏季には当海域内に滞留し,水温が降下する秋季から冬季にかけて一部が西方へ長距離移動すると推察された。一方,成魚では一部が夏季に北上,冬季に南下する長距離移動を行う可能性があるものの,多くは周年当海域からほとんど移動しないと推察された。

日水誌, 67 (5) , 807-813 (2001)

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福山港富栄養域におけるスピオ科多毛類 Polydora cornuta の着底と生残に及ぼす貧酸素水の影響

山田 寛(日本総合科学),今林博道(広大生物生産),高田詔民(日本総合科学)

 広島県福山港の泥質底において,多毛類 Polydora cornuta の着底と生残に及ぼす貧酸素水の影響を,周年の野外調査から明らかにした。福山港では夏季に底層の酸素が減少し,特に富栄養化が著しい奥部では無酸素状態になった。奥部のみに生息する優占種 P. cornuta の底生個体は,夏季に消失した。一方,浮遊幼生は,ほぼ周年奥部に偏在するが,夏季には一時的に分布の中心を港中央部に移していた。このように,本種の着底と生残は貧酸素に対する底生個体の死亡レベル(酸素飽和度:50%)および浮遊幼生の逃避レベル(10%)によって,それぞれが大きく影響されることが判明した。

日水誌, 67 (5) , 814-820 (2001)

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標識再捕に基づくオホーツク海南部におけるキチジの資源量推定

夏目雅史(網走水試),北田修一(東水大),
國廣靖志(道中央水試),木下貴裕(北水研)

 オホーツク海南部で漁獲されたキチジ3,025尾を標識放流し,7年間で490尾再捕された.死亡係数一定を仮定した解析から,1993年から1999年の資源尾数は,2,400万尾〜800万尾に急激に減少していると推定された.標識脱落と標識死亡の影響をみるため,様々なモデルをAICによって検討した結果,漁獲係数は一定で,自然死亡係数のみが放流後2年で変化するモデルが選択された.標識脱落と標識死亡の影響が無視できると考えられた3年目以降の漁獲率は,0.1421±0.0106と推定され,上の資源尾数は約30%の過大推定となった.さらに,キチジ全漁業者へのアンケート調査の結果から,再捕報告率は94.3%と非常に高かったが,標識の発見漏れが強く示唆され,これを考慮した感度解析によって資源量は最大4.3倍程度まで過大推定の可能性があることが示された.

日水誌, 67 (5) , 821-828 (2001)

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マダイおよびチダイ間交雑魚の外部形態と筋線維直径―交雑による新タイ科養殖魚種の作出-I―

中村元二,坂上憲晃,滝井健二,浦川敬一,熊井英水(近大水研)

 マダイ(RSB)♀×チダイ(CSB)♂ (F1), RSB♀×F1♂ (RF1)の新タイ科養殖魚種としての可能性を明らかにするために,体長が比較的類似するRSBおよびCSBの形態や白筋の筋線維直径と比較検討した。RSB, RF1および F1の比頭長,比尾柄長,比体高,比眼径などはCSBより有意に低かったが,比吻長,比頭高,側線鱗数,鰓耙数などは,RSB, RF1, F1およびCSBの順に増加する傾向にあった。白筋の筋線維直径もRSB, RF1, F1およびCSBの順に増加する傾向にあったことから,戻し交雑魚 RF1の形態形質と筋肉線維直径は,交雑魚 F1よりさらにRSBに近似することが示唆された。

日水誌, 67 (5) , 829-832 (2001)

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戻し交雑種マダイ♀× F1(マダイ♀×チダイ♂)♂の成長と栄養素代謝 ―交雑による新タイ科養殖魚種の作出-II―

滝井健二,坂上憲晃,中村元二,白川雅仁,熊井英水(近大水研)

 同一のマダイ雌親魚から得た卵を用いて,人工受精した本交雑種 (RF1)とマダイの成長および栄養素代謝を比較検討した。 RF1はマダイに比べて成長率,飼料効率,タンパク効率,タンパク質蓄積率,比消化管重値などが低く,逆に脂質蓄積率,比肝膵臓重値,体・肝膵臓・腹腔内脂質含量,アミノ基転移,糖新生,脂質合成系の酵素活性は高かったことから, RF1における栄養素要求や代謝にマダイと種間差のあることが示唆された。

日水誌, 67 (5) , 833-837 (2001)

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戻し交雑魚マダイ♀× F1(マダイ♀×チダイ♂)♂ の表皮 carotenoid および astaxanthin 含量―交雑による新タイ科養殖魚種の作出-III―

熊井英水,中村元二,坂上憲晃,高岡 治(近大水研),
古田晋一(近大種苗センター),瀬岡 学,滝井健二(近大水研)

 養殖マダイ体表の色調黒化を改善するために作出した戻し交雑魚 (RF1)およびマダイにおける,astaxanthin(Ast)を用いた色調改善効果について検討した。Astを0, 1.5および3mg/100g 添加した飼料を30日間給与して飼育したところ,無添加飼料を摂取した RF1ではマダイに比べて表皮 carotenoid(CaR)含量は常に多く,終了時の表皮Ast含量も多かった。一方,1.5mg 添加飼料を摂取した RF1でも終了時におけるCaRおよびAst含量が高い傾向にあったが,3mg 添加飼料を摂取した RF1では中間時の両色素含量はマダイより有意に高く,すでに終了時の高レベルに達していたことから, RF1のAstによる色調の改善はマダイより優れていることが示された。

日水誌, 67 (5) , 838-841 (2001)

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ホルモン投与によるマアナゴの催熟と排卵誘発

堀江則行,宇藤朋子,山田祥朗,岡村明浩,張 寰,
三河直美,田中 悟,岡 英夫(いらご研)

 三河湾内で採集し1年半陸上池で養成したマアナゴを催熟し排卵させた。催熟前の卵母細胞は第二次卵黄球期であった。水温10℃とし,計48尾にヒト絨毛性生殖腺刺激ホルモン(100IU/kg体重)を隔週投与した。投与5〜10回で卵母細胞は核移動期に達した。続いて17α, 20β, 21-トリヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(2m/kg体重)を投与したところ12尾が排卵し,卵径874〜1126 μmで十数個の油球を含む分離浮性卵を得た。1尾の卵が受精し,卵径は平均1010 μmであった。

日水誌, 67 (5) , 842-849 (2001)

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有毒渦鞭毛藻 Alexandrium 属増殖期の広島湾における本属シストの分布とベントス群集および底質環境の変化との関係

辻野 睦(瀬戸内海水研),Olivier Decamp(The Oceanic Institute),
有馬郷司,小谷祐一(瀬戸内海水研),神山孝史(東北水研),内田卓志(瀬戸内海水研)

 アレキサンドリウム属シストの分布とマクロベントス,メイオベントスおよび底質環境の変化との関係を明らかにするため,1998年3月〜5月,Alexandrium tamarense のブルーム形成時期に広島湾湾奥部5定点で調査を行った。各定点の平均シスト密度は60〜1,116 cysts/g wet sedimentで,沿岸に近くかつ底泥中の有機物含量の高い定点でシスト密度が高かった。3月ではシスト密度とマクロベントス密度の間に関係は認められなかったが,4月には汚染度が高くマクロベントス密度の低い定点でシスト密度は増加し,5月にはマクロベントスの密度が高い定点でシスト密度は減少した。シスト密度に及ぼすメイオベントスの影響は見られなかった。

日水誌, 67 (5) , 850-857 (2001)

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磯焼け域におけるポーラスコンクリート製海藻礁によるアラメ海中林の造成

谷口和也(東北大院農),山根英人,佐々木國隆( (株)ホクエツ),
吾妻行雄(東北大院農),荒川久幸(東水大)

 磯焼け域における海中造林のため,海藻の多量の生殖細胞を集める新しいポーラス型海藻礁の開発を行った。海藻群落の遷移をポーラス型海藻礁と普通型海藻礁上とで1997年8月から1999年12月まで牡鹿半島沿岸水深5 mの磯焼け域で観察した。粒径20-13 mmの起伏のあるポーラス礁では,10ヶ月後からアラメが優占し,粒径13 mm以下のポーラス礁と普通型礁では,無節サンゴモ優占の状態が持続した。海中林の形成は,化学的防御物質を生産する小形多年生海藻の先行入植によってキタムラサキウニが排除されたためである。大粒径の起伏のあるポーラス礁は,磯焼け域における海中造林に効果的である。

日水誌, 67 (5) , 858-865 (2001)

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コクチバスによって捕食されるウグイの最大体長

片野 修,青沼佳方(中央水研)

 コクチバスに捕食されるウグイの最大体長を,水槽実験によって調べた。コクチバスはウグイの群れに突進することもあれば,単独のウグイを襲うこともあった。捕食実験の結果から,コクチバスによって食べられるウグイの最大体長は,バスの体長の47-66%であると推定された。コクチバスの口径とウグイの体高,体幅を計測した結果,実際に捕食されるウグイの最大体長は,コクチバスの口径から推定される限界サイズに比べて小さいことが明らかになった。コクチバスはしばしば一度くわえた大型のウグイを,逃がしたり吐き出したりした。コクチバスの口径は,ウグイのような細長い体型をもつ魚を食べる場合には,制限要因にはならないと考えられる。

日水誌, 67 (5) , 866-873 (2001)

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ブリの人工授精における排卵後経過時間と受精率との関係

中田 久(長崎水試),中尾貴尋(九大院生資環),
荒川敏久(長崎水試),松山倫也(九大院生資環)

 ブリの人工授精を行う際の媒精適期を検討するため,排卵後経過時間と受精率との関係を調べた。卵黄形成がほぼ終了した雌親魚11個体にHCG (500 IU/kg)を投与し,最終成熟および排卵を誘導した。排卵は,HCG投与後36〜54時間に起こり,排卵直後の平均受精率は92.5%と高く,その後時間の経過と共に受精率は低下し,排卵48時間後に16.7%となった.このように,受精率は,排卵された卵の卵巣腔内滞留時間に依存しており,ブリの人工授精で高い受精率の卵を得るためには,排卵の的確な予測を行い,排卵後短時間のうちに媒精する必要があることが明らかとなった。

日水誌, 67 (5) , 874-880 (2001)

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スケトウダラ肉糊の坐りに及ぼす糊化でん粉添加の影響

山下民治(広島食工技セ),関 伸夫(北大院水)

 スケトウダラ冷凍すり身に糊化でん粉を添加した肉糊を,10℃で0〜3日間坐らせた後,90℃で30分間加熱した。糊化でん粉の添加は坐り中の魚肉タンパク質のミオシン重鎖の多量体形成を抑制した。また,坐りゲルと加熱ゲルの両方の破断強度の増大を抑制した。さらに,糊化でん粉添加による坐り効果の低下は,それに含まれるアミロースによるのではなく,アミロペクチンによることが分かった。

日水誌, 67 (5) , 881-886 (2001)

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季節,サイズおよび生息深度によるムラサキイガイ中有機塩素化合物蓄積濃度の変動

上野大介,高橋 真,田辺信介(愛媛大沿環研センター),
池田久美子,小山次朗,山田 久(瀬戸内水研)

 ムラサキイガイを用いて,季節や個体サイズおよび潮間帯生息深度が,脂肪重当たりの残留性有機塩素化合物(OCs)蓄積濃度におよぼす影響ついて検討した。ムラサキイガイでみられた OCs 濃度の季節変動は生理的な変化によるものではなく,海水中の OCs 濃度を反映していると解釈された。またサイズや潮間帯生息深度による変化もみられなかった。よってムラサキイガイは,脂肪重当たりの OCs 濃度に換算することで,汚染監視のための生物指標として季節に関わりなく,潮間帯のどの生息深度のものでも利用できると結論された。

日水誌, 67 (5) , 887-893 (2001)

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マイワシ卵のふ化率および摂餌開始期生残率に及ぼす低水温の影響(短報)

松岡正信(瀬戸内水研)

 低水温がマイワシ卵のふ化率や摂餌開始期生残率に及ぼす影響について検討した。7.3℃ 区ではふ化率は平均21%と低く,ふ化仔魚は全て尾部が収縮・湾曲した異常魚であり,摂餌開始期までに死亡した。10.8℃ 区では正常ふ化率がやや低く,異常ふ化仔魚が少数出現した。摂餌開始期までの生残率は65〜89%とかなり低かった。13.8℃ 区および17.1℃ 区ではふ化率,正常ふ化率および摂餌開始期生残率とも95%以上の高率であった。

日水誌, 67 (5) , 894-895 (2001)

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天然マダイ仔稚魚の鼻孔隔皮形成過程(短報)

松岡正信(瀬戸内水研)

 人工採苗マダイの鼻孔隔皮の形成過程はすでに明らかにされているが,天然仔稚魚についてはまだ知見がないため,鼻孔隔皮形成過程と魚体サイズの関係について検討した。A-Bステージへの移行サイズは全長約8 mm, B・C-Dステージへの移行は約12 mmであった。Dステージへの移行サイズ(すなわち鼻孔隔皮の完成サイズ)は人工採苗魚では13 mmと報告されており,天然魚の方がやや小さかった。

日水誌, 67 (5) , 896-897 (2001)


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