日本水産学会誌掲載報文要旨

魚類の呼吸と血液循環(総説)

板沢靖男(九大名誉教授)

 魚は呼吸媒質の流量が大きく,呼吸器の酸素摂取効率が高い。単位体重当たり代謝量の成長に伴う低下現象は,成長に伴い,代謝活性の低い組織の重量比が大きくなることと,各組織の代謝活性が低くなることの組み合わせで,定性的にも定量的にも説明される。酸素消費量を基本とする生理生態現象に,群れの効果が見られる。カムルチーは,O2は主に空気から摂取し,CO2はほとんど水に排出する。そして,呼吸器循環と体循環の複式循環系をもつ。大型アジ科魚類では,各筋節が4副筋節に分節し,各筋節に動静脈が複線式に配列する。これは体の大型化と遊泳力増大のためと考えられる。運動時および酸素欠乏時には,脾臓から赤血球が補給される。

日水誌, 67 (4), 634-639 (2001)

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曳航式深海用ビデオカメラによるズワイガニの生息密度の推定

渡部俊広(水工研),廣瀬太郎(日水研)

 曳航式深海用ビデオカメラを用いて,隠岐諸島北方から西方の水深約200mから340mの7箇所の海域で,1998年8月下旬にズワイガニの個体数を観察して生息密度を推定した。合計8回の観察を行い,延べ375分の映像記録を得た。観察距離は延べ15,600m,観察面積は25,900m2,観察個体数は合計104個体であった。観察面積は本装置の曳航距離とソリ型曳航台の幅(1.66m)から求めた。1,000m2当たりの観察個体数は,各回で1, 3, 3, 3.1, 4.0, 5.6, 6.4, 10個体であった。映像から小型個体の雌雄を判別することは困難であった。ズワイガニの行動観察から,照明光がズワイガニの行動におよぼす影響は少ないと推察した。ズワイガニの定量的調査手法として本装置を利用するには,生息密度の推定精度を上げる必要がある。

日水誌, 67 (4), 640-646 (2001)

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石微量元素分析による広島県太田川サツキマスの回遊履歴の推定

海野徹也,清家 暁(広大生物生産),大竹二雄(三重大生資),西山文隆(広大工),
柴田恭宏(広大理),中川平介(広大生物生産)

 広島県太田川で捕獲されたサツキマス27個体の回遊履歴を耳石Sr/Ca比を用いて推定した。調査に用いた27個体中26尾が降海型サツキマスであり,そのうち2尾が汽水域を主な生活領域にしていた。太田川の大部分のサツキマスは1月中旬に汽水域に移動し,2月中旬から6月中旬まで沿岸域を回遊することが判明した。

日水誌, 67 (4), 647-657 (2001)

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有毒渦鞭毛藻Alexandrium catenellaの増殖に及ぼすB群ビタミンの影響

松田篤志,西島敏隆,深見公雄,足立真佐雄(高知大農)

 A. catenellaの増殖に及ぼすB群ビタミンの影響をバッチ培養系において調べた。本藻はB群ビタミンのうちビタミンB12を増殖に必須に要求し,増殖のB12半飽和定数(Kμ)は0.22ng/L,最大比増殖速度(μ′m)は0.55day−1,最小細胞内B12含量(q0)は0.65fg/cell,単位細胞体積当たりのB12含量は27分子/μm3と算出された。本藻は,他の栄養物質が充足されている場合,富栄養化の進んだ沿岸.内湾域のようにB12供給量が多い海域では最大に近い比増殖速度で増殖できると考えられた。また,Kμ,μ′mを他の赤潮プランクトンと比較した結果,本藻は低B12濃度下で一部の赤潮プランクトンよりも優位に増殖できると推察された。

日水誌, 67 (4), 658-663 (2001)

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ムラサキイガイおよびコウロエンカワヒバリガイの個体群動態と過栄養海域における環境との関係

小濱 剛,門谷 茂(香川大.農),梶原葉子,山田真知子(北九州市)

 北九州市洞海湾におけるムラサキイガイおよびコウロエンカワヒバリガイの個体群動態と水質環境等との関係について調査を行った。ムラサキイガイ現存量は存酸素濃度と有意な正の相関を示し,コウロエンカワヒバリガイは,付着生物の出現種数との間に有意ではないが,最も高い負の相関(γ2=0.48)が得られた。すなわち,洞海湾奥部に進入したムラサキイガイは夏期の貧酸素化によって死滅していることが推察され,湾口部に存在する個体群が母集団として機能し,湾奥側の個体群を維持していることが解った。一方,コウロエンカワヒバリガイは,種間の競争には弱く,環境悪化による種間の競争が緩和された状態で急激に増殖する種であると推察された。

日水誌, 67 (4), 664-671 (2001)

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異なる背景色におけるタコの隠れ場の色選択

岡本 一,安樂和彦,川村軍蔵,田中淑人(鹿大水)

 タコが何色の隠れ場を好んで選択するか,また選択する色は背景色の違いによって変化するかを調べることを目的とし,供試個体にマダコおよびスナダコを用いて水槽内行動実験を行った。高照度下で黒,赤,橙,黄,緑,青,白の7色,低照度下で黒,黄,青の3色を背景色とし,円筒形の隠れ場8色(黒,赤,橙,黄,緑,青,白および透明)を設置し,30分おきのタコの状態を目視観察,記録した。背景色にかかわらず黒,赤,橙の隠れ場が両種のタコに共通して高頻度で選択された。マダコとスナダコで異なる行動結果も得られたが,スペクトル感度の違いによるものと考えられ,両種とも,暗さを好む傾向があると結論された。

日水誌, 67 (4), 672-677 (2001)

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宍道湖のヤマトシジミ個体群の成長および着底稚貝

高田芳博(秋田水振セ),園田 武(北大院水),
中村幹雄(島根内水試),中尾 繁(北大院水)

 島根県宍道湖の2水域(斐川,玉湯)で,ヤマトシジミCorbicula japonicaの成長と着底稚貝出現状況を検討した。殻表のリングは年齢形質と認められ,リング数は玉湯で6本,斐川では3本であり,斐川では0本群が卓越していた。殻長は1本目のリング形成時に斐川側が大きく,その後の平均殻長にも差が認められた。殻成長は春から秋にかけて大きく冬期間は停滞した。一方,軟体部成長はリング数2本.3本群で6月から9月にかけて大幅な減少を示した。着底稚貝は周年出現したが,特に4月から9月にかけて多く,冬は少なかった。着底量に水域間で明瞭な差は認められなかったが,斐川では着底後の減耗が著しいことが示唆された。

日水誌, 67 (4), 678-686 (2001)

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北海道島牧村沿岸のバカガイ漁場における底質環境とマクロベントス群集

櫻井 泉(道中央水試),林 浩之(釧路東部水指),桑原久実(水工研)

 北海道島牧村のバカガイ漁場において,底質性状,底質攪乱の程度およびマクロベントスの群集構造を調べた。底質性状は,水深の増加に伴って粒径が細かく,有機物含量が増加したが,季節変化は認められなかった。底質攪乱は,水深の増加に伴って緩やかになったが,各地点の攪乱の程度は,波浪の季節変化を受けて大きく変動した。水深10m以浅は,年間を通してハイイロハスノハカシパンが優占する群集に覆われていたが,水深10m以深は,構成種の新規加入によって群集の分布パターンが変化した。バカガイの分布域の底質環境は,キサゴが優占する群集と一致しており,本種の生息環境が特徴付けられた。

日水誌, 67 (4), 687-695 (2001)

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アセチルコリンエステラーゼ活性阻害による水質評価

衣笠治子(園田学園女子大),山口之彦(大阪市環科研),宮崎信之(東大海洋研),
奥村昌美,山本義和(神戸女学院大)

 本研究は,水環境における有機リン化合物の毒性を迅速.簡便に測定するために,アセチルコリンエステラーゼ活性阻害を用いたスクリーニング法を確立することを目的とした。河川水を固相抽出カートリッジSep-Pak PS-2で濃縮し,その試料を活性測定系に添加して阻害率を求めた。ついで有機リン化合物をGC-FPDで定量した。下水処理水や河川水を用いて検討した結果,本法は有機リン系農薬,有機リン酸トリエステルなどが混在する都市河川でのスクリーニングに有効なことが認められた。

日水誌, 67 (4), 696-702 (2001)

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小支流におけるイワナ,ヤマメ当歳魚の生息数,移動分散および成長

久保田仁志(栃木水試),中村智幸(中央水研),丸山 隆,渡邊精一(東水大)

 1993年6月〜1995年11月にかけて,利根川水系鬼怒川の小支流において,イワナ,ヤマメの生息数,当歳魚の移動分散,成長の季節変化を調査した。3ヶ年の総採捕個体のうち,イワナは81.4%(1073個体中873個体),ヤマメは98.8%(244個体中241個体)が当歳魚であった。ヤマメ当歳魚は2月から採捕され,8月以降はほとんど採捕されなかった。これに対して,イワナ当歳魚は3月から採捕され,6月以降は1回の調査あたりの採捕数の変化はなかった。一方,1995年に鬼怒川本流で採捕調査を行ったところ,採捕された当歳魚のうちイワナが8.0%,ヤマメが92.0%を占め,ヤマメ当歳魚が優占した。以上の結果から,小支流は特にイワナ当歳魚にとって重要な成育場所であると考えられた。

日水誌, 67 (4), 703-709 (2001)

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改良型混獲防御装置(SURF-BRD)付き小型底曳網の模型実験

梶川和武,胡 夫祥,東海 正,松田 皎(東水大)

 SURF-BRDは小型底曳網の網口下端部に設置され,フロントパネルおよびリヤパネルの2枚の網地と両脇網部分に形成した二つの逃避口から構成される。本研究ではBRDの高さを設計当初の試作網の0.5mより高く保持させるために,BRD上部両端の取り付け位置を脇網高さの1/3から1/2に変更した。このように改良した網の1/10の模型網を製作し実験を行い,BRD上端に取り付ける浮子の浮力とリヤパネルの取り付け角度を変化させて,BRDを最も高くする条件を検討した。模型実験で得た結果を実物に換算すると,通常曳網速度2.0ノットでBRD上端の浮力が6.5kgw,リヤパネルの取り付け角度45°の場合に,漁獲量が40kgw程度に増加しても,BRDの高さが約1.0mに保持できることが分かった。

日水誌, 67 (4), 710-716 (2001)

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生.凍結マアジの近赤外分光法による脂肪量の非破壊測定

嶌本淳司,長谷川薫(静岡水試),井出 圭(東海大海洋),河野澄夫(食総研)

 マアジの生,凍結魚体を用いて,近赤外分光法による脂肪含量の非破壊測定を行った。魚体背部中央部でインタラクタンス方式により測定したスペクトルの2次微分値と魚体全体の脂肪含量を基に重回帰分析を行った結果,第1波長として926nmの脂肪の吸収バンドを含む良好な検量線が得られた。測定精度の比較の指標であるRPD値は生で2.8,凍結で2.7であった。また,生.凍結の統合検量線の精度もRPD値が2.8と高かった。インタラクタンスプローブを用いる近赤外分光法は,生,凍結のいずれでも魚体背部中央部のスペクトルを測定することにより,マアジ(全体)の脂肪含量を測定する可能性を有しているものと結論づけられた。

日水誌, 67 (4), 717-722 (2001)

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養殖マダイの氷蔵中における普通筋 α-アクチニンの限定分解

橘 勝康(長大海研),鈴木秀一(長大水),八木基明,三嶋敏雄,
原 研治,槌本六良(長大海研)

 養殖マダイ普通筋α-アクチニン抗体を作成し,これを用いて養殖マダイ氷蔵中における普通筋中α-アクチニンの分解をSDS-PAGEとイムノブロッティングで解析した。作成したα-アクチニン抗体はマダイ普通筋中のα-アクチニンのみならず,そのパパイン分解物とも反応性を示した。本抗体は免疫電顕による観察で,筋原線維のZ線に特異的に反応し,他の細胞内小器官等には反応を認めなかった。普通筋中α-アクチニンは氷蔵1日目から自己消化され,5日目以降ではすべて分子量90kDa〜100kDaの成分に限定分解されていた。

日水誌, 67 (4), 723-727 (2001)

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ヤツデヒトデ幽門盲のうホスホリパーゼA2の部分精製と性質

小山法希,岸村栄毅,林 賢治(北大院水),藤田大介(富山水試)

 ヤツデヒトデの幽門盲のうから,ゲルろ過および陰イオン交換クロマトグラフィーにより部分精製したPLA2を得た(CA-PLA2)。CA-PLA2は,1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンから主にオレイン酸を遊離させた。ホスファチジルコリンに対するCA-PLA2の活性の最適pHおよび最適温度はそれぞれpH10-11および50-60°C範囲にあり,また,CA-PLA2は1mM以上のCa2+により賦活された。CA-PLA2は基質の脂肪酸特異性を示さなかったが,ホスファチジルエタノールアミンよりもホスファチジルコリンをよく分解し,基質の極性基特異性を示した。

日水誌, 67 (4), 728-734 (2001)

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コイ.アクトミオシンの加熱ゲル形成における非酵素的戻りに及ぼすアルコールとピロリン酸塩の影響

倪 少偉,埜澤尚範,関 伸夫(北大院水)

 アクトミオシン.ゾルの加熱ゲル形成時に起きる非プロテアーゼ型戻りに及ぼすアルコールとピロリン酸Mg塩(PPi-Mg)の添加の影響を調べた。53°Cで起きる非酵素的戻りはエタノールとn-ブタノールの添加で51°Cと42°Cにそれぞれ低下したが,戻り自体は抑制しなかった。PPi-Mgの添加は加熱ゲル形成パターンをアクトミオシン型からミオシン類似型に変えた。このため非酵素的戻り自体が起きなくなったが,最終加熱ゲルの貯蔵弾性率(G′)および破断強度にはほとんど影響しなかった。また,微生物トランスグルタミナーゼ添加による坐りにも影響しなかった。

日水誌, 67 (4), 735-742 (2001)

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シロギス卵の発生に伴う比重および浸透圧の変化(短報)

近藤茂則,吉岡 基,柏木正章(三重大生物資源)

 シロギス卵の1細胞期からふ化直前期までの9ステージの中立浮力塩分(NBS:単位PSU)および全卵の浸透圧を測定した。NBSは1細胞期では平均26.9であったが,卵割の進行に伴って上昇し,胞胚中期には27.8になった。その後は低下して色素沈着期に26.6になり,ふ化直前期には再び上昇して28.3になった。浸透圧の変化も同様で,1細胞期の438mOsm/kgに対し,胞胚中期には502mOsm/kgとなり,胚体出現期には435mOsm/kgになった。その後,ふ化直前期には再び上昇して480mOsm/kgになった。これらNBSすなわち比重と浸透圧の変化の間には高度に有意な正の相関関係が認められた(γ=0.85, n=9, p<0.01)。

日水誌, 67 (4), 743-744 (2001)

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シロイルカによるだ円と円の弁別(短報)

村山 司(東海大海洋),庵地彩子(東水大),鳥羽山照夫(鴨川シーワールド)

 イルカ類の視覚による認知特性を考察するため,シロイルカによるだ円と円の弁別を調べ,同じ方法を用いて得られたヒトの結果と比較した。予め円を選択するよう条件付けしたシロイルカとヒトに,だ円(長径に対する短径の割合が0.44,0.67, 0.78, 0.83, 0.89, 0.92, 0.94, 0.97の8種類)と円(直径18cm)を対にして呈示し,円を選択する割合と反応時間を求めた。その結果,全体としてシロイルカもヒトもだ円の短径が長径に近くなるほど円と混同し,判断に時間を要するという共通の特性が認められた。

日水誌, 67 (4), 745-746 (2001)


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