日本水産学会誌掲載報文要旨

日本における湖沼の富栄養度と水産生物(総説)

吉田陽一(水産環微研),堀家健司(国土環境)

 日本の湖沼に関する資料を参照して,各湖沼の富栄養度(TN×TP)と他の水質諸要因,TN,TP,透明度,クロロフィル−a,またはTN:TP比との関係を総合的に比較,検討した。つぎにTN×TPの値を基準として各湖沼を極貧栄養湖,貧栄養湖,弱富栄養湖,富栄養湖,弱過栄養湖,過栄養湖,および強過栄養湖の7段階の富栄養階級に区分し,また各富栄養階級における透明度,クロロフィル−a,およびTN:TP比のおおよその範囲,または近似的な値を推定した。異常発生植物プランクトンや主要漁業生物種の出現に好適な富栄養度ついても調べ,そのおおよその範囲を推察した。

日水誌, 67 (3), 422-428 (2001)

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高知県太平洋海域におけるマルソウダの年齢,成長,成熟および寿命

新谷淑生(高知水試)

1993年〜1998年に高知県太平洋海域で漁獲された124,485尾のマルソウダを用いて年齢,成長,成熟および寿命を推定した。尾叉長モードの月変化によれば0.5歳で25cm,1歳で29cm,1.5歳で32cm,2歳で35cmに成長する。日本近海には夏季発生群と熱帯域で発生した冬季発生群が存在する。成熟年齢は夏季発生群で1歳,冬季発生群は冬季には成熟せず1.5歳の夏季に成熟する。夏季発生群は2歳,冬季発生群は1.5歳の産卵後にほとんどが死滅する。

日水誌, 67 (3), 429-437 (2001)

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島原湾コウイカかご漁場の流動環境と漁獲の関係について

山口恭弘,西ノ首英之(長大水),山根 猛(近大農)

 島原湾深江沖コウイカかご漁場での流動環境とかご漁具の漁獲量変動について検討した。資料には当該漁場で操業する1経営体の1997年度漁期(2月20日〜5月28日)の日別漁獲量を用いた。流速は海底上20cmで流速計により10分間隔で連続測定した(測定期間:4月25日から5月22日)。流動環境は太陰半月周期で大きく変動し,大潮時に流速は増大,小潮時に減少する。コウイカの漁獲量は月齢と密接に関係し,流速の増大時にそれは減少し,流速の減少時に増加する傾向を示した。潮流の強さはコウイカのかごへの進入行動に強く影響する物理要因の一つである。

日水誌, 67 (3), 438-443 (2001)

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ズワイガニとカレイ類を分離漁獲するかけまわし式底びき網の開発

堀江 充(福井県水試),安田政一,橋本 寛(福井県農林水産部)

 ズワイガニを保護しながらカレイ類を漁獲するために,2層式トロール網を用いた。中網前端部に選別網として目合約60cmの網を取り付け,上網でカレイ類を漁獲しながら下網へズワイガニを逃がした。選別網の大きさと取付け角度を変えて操業を行った結果,ズワイガニはいずれの条件でも90%が下網に逃げたが,カレイ類は上網に残る割合が条件により26〜87%と変動した。本網の下網後端部の開放で,禁漁期間中のズワイガニを逃がしながらカレイ類を漁獲でき,ズワイガニ資源の保護に有用である。

日水誌, 67 (3), 444-448 (2001)

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異なる背景色におけるスズキのルアー色の選択

岡本 一,川村軍蔵,田中淑人(鹿大水)

 魚の摂餌行動に及ぼす背景色の影響をみることを目的とした水槽行動実験を行った。供試魚にはスズキを用い,白,赤,緑,青を背景色として擬餌5種類(白,赤,緑,青および透明)を同時に投入し,擬餌に対する魚の行動記録を水中ビデオカメラで撮影記録し,解析した。背景が白では,緑の擬餌に対する食付き頻度が顕著に高かった。また,背景が赤および青では,透明および白の擬餌に高い食付き頻度を示した。高頻度で選択される擬餌の色は背景色によって異なり,背景色とルアー色の普遍的な組み合わせは見出せなかった。

日水誌, 67 (3), 449-454 (2001)

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ブリの視力の成長にともなう変化

宮城美加代,秋山清二,有元貴文(東水大)

 ブリの視力の成長にともなう変化を調べるため,体長15−392mmの43個体の網膜組織の観察を行った。水晶体直径は成長にともない0.5mmから7.1mmまで増加した。錐体密度は指数関数的な減少曲線を示し,体長15−73mmの範囲では1620−550cells/0.01 mm2と急激に減少し,体長179mm以上では650−304cells/0.01 mm2と緩やかな減少に転じた。こられの結果より算出された視力は,体長15mmでは0.04,390mmでは0.23となり,成長にともない視力の向上することが明らかとなった。視力の向上は錐体密度の影響よりも水晶体直径の増加によるものと考えられた。なお,視力(V.A.)と体長(BL)の関係はV.A.=0.0051BL0.6223の式で示された。

日水誌, 67 (3), 455-459 (2001)

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鮮魚用刃物の切れ味計測のシステム開発

葉 紅偉,矢田貞美(東水大)

 切れ味を示す切断抵抗を理論的に検討し,鮮魚用刃物の切断抵抗を計測するシステムを開発して切断抵抗を計測した。垂直方向の切断速度の増大に伴う切断抵抗は,両刃が片刃より大きく,水平方向に対する垂直方向の切断速度の比に反比例した。切断抵抗に対する寄与率は,片刃では垂直より水平方向の切断速度が極めて高く,両刃ではほぼ同程度であった。刺し身の作りでは,片刃は魚肉繊維の圧砕が少なく,両刃より好適である。本計測システムは人手による包丁捌きをシミュレートし,切れ味を高精度に計測できた。

日水誌, 67 (3), 460-468 (2001)

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開放型の受精裹を有するナミクダヒゲエビの卵巣成熟と関連した交尾のタイミング

大富 潤,山本掌子(鹿大水)

 開放型の受精裹を有するナミクダヒゲエビについて,卵巣成熟と関連した交尾のタイミングを野外で推定した。受精裹に精包が付着した雌の交尾個体は産卵期にのみ出現した。本種では,表層桿状体の出現した前成熟期の卵巣卵を持った雌が交尾を行い,交尾後に胚胞崩壊が起きて成熟期の卵になり,産卵直後に精包は受精裹から脱落すると考えられた。本種は日出直前から正午にかけて盛んに交尾を行い,交尾後の雌は遅くとも翌日の日出までには産卵を終えると思われた。

日水誌, 67 (3), 469-474 (2001)

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入巣前のシロウオ Leucopsarionpetersi 卵巣卵における外部生殖腺刺激ホルモン投与によるinvitroでのエストラジオール−17β産生

波多野順,朝比奈潔(日大生物資源),秋山信彦(東海大海洋),小橋二夫(日大生物資源)

 シロウオの卵巣発達には遡上から入巣して産卵するまでの間に,卵黄蓄積の進行,一時停止,急速な進行,といった特色あるリズムが存在する。そのリズムの成立機構を解明する一環として,遡上直後の個体を用い,卵巣におけるinvitroでのエストラジオール産生能を指標として,各種生殖腺刺激ホルモンおよび核酸合成またはタンパク質合成阻害剤を添加し効果を調べた。その効果,GTHによるアロマターゼの活性または発現量の調節が,本種における特色ある成熟リズムの成立に関与することが示唆された。
日水誌, 67 (3), 475-480 (2001)

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自動いか釣機の巻上げドラム形状と釣針速度の制御

見上隆克,山下成治,菅木清治(北大院水)

 市販の六角形および正九角形ドラムを用いて,自動いか釣機における釣針速度の最大と最小速度の差すなわちシャクリ効果を調べた。数値計算と実測による釣針速度はほぼ一致したが,実測釣針速度には低周波のノイズが重畳した。六角形ドラムによるシャクリ運転はモータにかかるトルクを緩和できることが分かったが,シャクリ効果を最大にするには,ガイドローラの設置角に基づく加速開始位置を適切に設定する必要があった。しかし,0.4kW電動モータによるドラム回転速度の大きい加減速運転では,ドラム1回転中に1回のシャクリを生じさせる釣針速度制御は困難であった。

日水誌, 67 (3), 481-488 (2001)

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マルソウダ加工残滓から調製した魚醤油と数種アジア産魚醤油の揮発性成分との比較

舩津保浩,加藤一郎,川崎賢一(富山食品研),小長谷史郎(國学院短大),
臼井一茂(神奈川水総研)

 マルソウダ冷凍すり身を調製する際の加工残滓から調製した魚醤油(WS)と,マルソウダ落し身から同様に調製した魚醤油(MMS)およびアジア産魚醤油の揮発性成分を比較した。その結果,WSおよびMMSは,揮発性有機酸(VA)の種類が少なく,しかも酪酸や吉草酸は検出されなかった。しかし,ナンプラ,ニョクマム,パティスおよび魚露(yui.)は,VAの種類が多く,しかも酪酸や吉草酸が検出され,特にyui.には,他の魚醤油に比べ酪酸や4−メチル吉草酸が多く検出された。官能評価では,yui.はいやで刺激的な香りと評価されたが,WSおよびMMSは,刺激のない好ましい香りと評価された。さらに,VAとpHの間には正の相関が,また,香りの好ましさとpHの間には負の相関が見られた。

日水誌, 67 (3), 489-496 (2001)

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スルメイカ幼生調査用ネットの網目による受精卵・ふ化幼生の保持状態の検討(短報)

山本 潤,明井崇子,JohnR.Bower(北大水),後藤常夫(日水研),
中村好和(北水院研),増田紳哉(鳥取水試),桜井泰憲(北大院水)

 スルメイカの幼生分布調査で使用するNIP#40とNMG52の網目による受精卵およびふ化幼生の保持状況について調べた。NMG52では卵・ふ化幼生のほぼ全てが保持されたが,NIP#40上では卵・ふ化幼生が高い割合で網目を通過することが示唆された。分布調査による幼生を用いてNIP#40上に高い割合で保持される幼生サイズを推定すると,その外套長は1.26mm以上であった。

日水誌, 67 (3), 497-499 (2001)

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放射性同位体法による青森県沖ヒラメの日間摂餌率の推定(短報)

笠松不二男(海生研),中原元和(放医研),中村良一(放医研),
鈴木 譲(海生研),北川大二(東北水研)

 自然条件下における魚類の摂餌率を調べるために,青森県太平洋側で漁獲されたヒラメの胃内容物組成を調べるとともに,ヒラメ筋肉中と胃内容物の放射性セシウム(137Cs)濃度を調べた。これらの情報と既報の代謝パラメータに基づき放射性同位体法によりヒラメの日間摂餌率を推定した。10−12月における青森県太平洋岸ヒラメの日間摂餌率は,3.0−4.0%,平均3.6±0.4%と推定された。

日水誌, 67 (3), 500-502 (2001)

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PCR−RFLP分析によるマゴチとヨシノゴチの種判別(短報)

長富 潔(長大生産科学研),濃添多恵子(長大水),常本和伸(長大生産科学研),
原 研治(長大水),市ノ木 健(長大生産科学研),田北 徹,石原 忠(長大水)

 有明海産コチ属2種(マゴチとヨシノゴチ)を幼魚期でも種判別を可能にする目的で,PCR−RFLP分析を行った。鰭より粗全DNAを抽出し,mtDNAの12SrRNA並びにcytochromebを含んだ領域をPCR法を用いて増幅した。増幅産物は数種の制限酵素を用いて切断し,アガロースゲル電気泳動により切断多型を検出した。12SrRNA断片ではMseI, cytochrome b断片ではMseI, AluIにより種特異的な切断多型が確認され,2種の判別に有効であると考えられた。

日水誌, 67 (3), 503-504 (2001)


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