日本水産学会誌掲載報文要旨

鹿児島湾産オオメハタの胃内容物組成の季節変化

岩川敬樹(鹿大連合農),小澤貴和(鹿大水)

 鹿児島湾産オオメハタ 151 個体(体長 66〜178 mm)の胃内容物を調査した。餌生物は 3 綱 10 目 22 科に同定され,カラヌス目かいあし類が多様で多数出現した。全ての餌生物種あるいは属のサイズはオオメハタの成長に伴い増大した。四季にわたり採集された体長階級 101-120 mm における摂餌量には 4 つの季節間で統計的有意差はなかった。餌生物として春季にはベントスに次いで動物プランクトンが,他の季節では動物プランクトンが優占した。魚類が春季から季節を経るにつれ増加した。

日水誌, 67 (1) , 3-9(2001)

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高知県足摺岬周辺海域におけるマルソウダの成熟周期と産卵数

新谷淑生(土佐清水漁指)

  1997 年 6 月 12〜14 日の日中に,足摺岬周辺海域でマルソウダを 2 時間毎に採集し,成熟周期と産卵数を推定した。卵母細胞の直径と GSI の変化から,1100〜1300 時に成熟し,1300〜1500 時に排卵と産卵が起きることが明らかとなった。0.29〜0.3 mm モードの卵群は 24 時間後には 0.41〜0.42 mm に発達し,48 時間後には 0.6〜0.81 mm の吸水卵(成熟卵)となることが推定された。1 回当たりの産卵数(BF)と卵巣および胃内容物重量を除いた体重(RBW, g)との関係は BF=222 RBW+672 で表された。

日水誌, 67 (1) , 10-16(2001)

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ミトコンドリア・シトクローム b 遺伝子によるマサバおよびゴマサバの種判別とホルマリン固定浮遊卵同定への応用

瀬崎啓次郎(日本 NUS),久保島康子 (神奈川県横須賀三浦地区農政事務所),
三谷 勇(神奈川水総研),福井 篤(東海大海洋),渡部終五(東大院農)

 マサバおよびゴマサバのシトクローム b 遺伝子を成魚の筋肉から調製した全 DNA を鋳型に PCR で増幅し,その塩基配列を決定した。1,140 塩基のうち 16 塩基に種間変異がみられた。マサバおよびゴマサバのシトクローム b 遺伝子を種特異的に 2 断片に消化する制限酵素として,それぞれ MvaI および MboI を検索した。さらに,この消化パターンを指標に用いて,形態による手法では困難なサバ属浮遊卵の種判別を可能にした。

日水誌, 67 (1) , 17-22(2001)

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Coded Wire Tag を用いたキタムラサキウニへの標識技術

佐野 稔(東北大院農),關 哲夫(養殖研),大森迪夫,谷口和也(東北大院農)

 キタムラサキウニに対して,ステンレス製 Coded Wire Tag を用いて標識装置としての実用性を飼育下で検討した。標識挿入による成長阻害,死亡は生じなかった。7 日間あたり脱落率は標識時から 14 日目までは急激に上昇し,殻径による標識脱落率の違いが見られた。しかし,21 日目以降の脱落率は急激に低下した後安定し,殻径による違いは見られなくなった。この結果に基づき,標識装着後 21 日目を基点とした積算脱落率と経過日数の関係を用いて脱落率の推定が可能であることを示した。

日水誌, 67 (1) , 23-29 (2001)

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千曲川における DeLury 法によるアユの資源尾数推定

山本 聡(長野水試),松宮義晴(東大海洋研)

 千曲川で DeLury 法によりアユの資源尾数を推定し種苗の放流効果等を検討した。目視観察で得た友釣りによる CPUE と累積釣獲尾数を基に,解禁日の資源尾数と漁具能率を推定した。放流尾数は既知なので,解禁日までの生残率(1 日あたり死亡率)は,1997 年が 13.0%(3.48%),1998 年が 36.9%(2.98%)と推定された。アユの資源調査に友釣りの釣獲情報を用いた DeLury 法は適用できる。

日水誌, 67 (1) , 30-34 (2001)

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スナダコとマダコの色弁別学習実験

川村軍蔵,信時一夫,安樂和彦,田中淑人,岡本 一(鹿大水)

 感光色素を一種類しかもたないタコ類は色盲とされる。これを行動実験で検証するために,スナダコ 5 個体とマダコ 7 個体を用いて色覚を確かめる学習実験を行った。供試個体を負刺激球(白球あるいは灰色球)と同時呈示した青球(直径 25 mm,反射スペクトルの λmax=460 nm)に触れてから餌を摂るよう条件付けた後,負刺激球を明度が段階的に異なる灰色球に換えて移調試験を行った。移調試験では,スナダコは灰色球の明度にかかわらず有意に高頻度で青球を選択し,色覚をもつ可能性が示された。マダコは灰色球の明度によって選択球が変わり,色盲であると結論された。

日水誌, 67 (1) , 35-39 (2001)

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ホシガレイの仔稚魚期における消化系の発達と変態関連ホルモンの動態

堀田又治(京大院農),有瀧真人,太田健吾(日栽協),田川正朋,田中 克(京大院農)

 ホシガレイの仔稚魚期における消化系の発達および変態関連ホルモンの動態を調べた。消化系は開口時と変態開始期に大きく変化した。開口時には腸管が回転し,胃・腸・直腸が区分された。着底が観察された変態開始期には胃腺と幽門垂が分化した。腸上皮細胞の高さは摂餌開始から増加し,変態中期からは停滞した。甲状腺ホルモンとコルチゾルは卵中にも存在したが,ふ化数日後には低い値に減少した。コルチゾルは変態期直前にピークを示したのに対し,甲状腺ホルモンの T4 は変態最盛期にピークを示した。一方,T3 は仔魚期を通じて低い値で推移した。

日水誌, 67 (1) , 40-48 (2001)

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リップ付きハードルアーのボディ形状と潜行運動

三木智宏,臺田 望,稲田博史,酒井拓宏,兼廣春之(東水大)

 リップ付きハードルアーのボディ形状と潜行運動との関係を解明するために,楕円形に設定したボディ側面の高さを変化させ,他の形状要素を一定とした供試ルアーを製作して,回流水槽とフィールドで実験を行った。その結果,ボディ側面の長短軸比 k=Lh / Lb(ボディの全長:Lb=65 mm,高さ:Lh)をルアーボディの体高のパラメータとすると,k の増大に伴ってルアーの左右への振れ角が大きくなり潜行深度は浅くなるなどの一定の傾向が認められ,ボディの側面形状によってルアーの潜行中の振動,深度を制御できることが示唆された。

日水誌, 67 (1) , 49-57 (2001)

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ホシガレイ飼育仔稚魚の形態発育と成長

有瀧真人,太田健吾(日栽協宮古),堀田又治,田中 克(京大院農)

 飼育したホシガレイ仔稚魚の発育に伴う形態変化の過程を観察し, A〜I のステージに区分するとともに,相対成長の変化を調べた。相対成長の変曲点は開口直前,脊索末端の上屈期,変態初期〜中期に集中し,これらは生態や行動上の変化が起こる時期と対応した。上記項目を近縁種のマツカワ飼育仔稚魚と比較したところ,黒色素胞の分布や発育ステージごとのプロポーションには差が認められたが,相対成長の変曲点や行動の変化が発現する時期は類似した。さらに,両種とも他の異体類より早い段階で底棲生活に移行することが確認された。

日水誌, 67 (1) , 58-66 (2001)

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東北地方および北海道太平洋側海域におけるマダラの系群構造

菅野泰次,上田祐司,松石 隆(北大院水)

 底曳漁獲量からみたマダラの濃密な分布は,太平洋では北海道の襟裳岬以東の海域,北海道恵山沖および三陸沖の 3 つの海域にみられ,日本海では,青森・秋田県沖および山形県沖の 2 つの海域にみられた。月別 1 曳網当り漁獲量を用いて因子分析を行った結果,襟裳岬以東海域,北海道恵山沖および三陸沖の魚群はそれぞれ異なる変動傾向を示す魚群であった。また脊椎骨数の解析から,襟裳以東海域は他海域より脊椎骨数が有意に多いことが分った。これらの結果と産卵場の知見を考慮すると,太平洋側海域には襟裳岬以東群,陸奥湾・恵山沖群および三陸沖群の 3 つの系群が存在すると結論された。

日水誌, 67 (1) , 67-77 (2001)

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テラピア腸管リパーゼの精製ならびに性状

谷口(山田)亜樹子,高野克己,鴨居郁三(東京農大)

 テラピア腸管からリパーゼを抽出し,各種クロマトグラフィーを用いて精製を行い,得られた精製酵素の性状について検討した。精製酵素は分子量 46,000,等電点 4.9 で,pH 7.5, 35°C で最大活性を示し,その活性は pH 6.5〜8.5 および 40°C で 30 分間まで安定であった。 Cu2+, Cd2+, Ni2+, Hg2+, PCMB および CH2 ICOOH で活性が阻害された。精製酵素は短鎖から長鎖脂肪酸のトリアシルグリセロールに作用し,特に短鎖脂肪酸トリアシルグリセロールに対する分解作用が大きかった。また,トリアシルグリセロールに比べ,1,2-ジアシルグリセロールおよび 1-モノアシルグリセロールに対する分解作用が大きかった。

日水誌, 67 (1) , 78-84 (2001)

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海洋細菌由来プロテアーゼインヒビター添加によるマイワシかまぼこのゲル強度増強効果

今田千秋(東水大),西本真一郎(マルハ中研),原 三郎(京都工繊大)

 海洋細菌 Alteromonas sp. B-10-31 株が生産するプロテアーゼインヒビター(PI)の魚肉粗プロテアーゼに対する阻害効果を調べた。その結果,マイワシ由来のすり身に高い阻害効果が認められたがスルメイカには認められなかった。他の市販 PI をマイワシ由来のものに添加しその併用効果を調べた結果,放線菌由来のロイペプチンが最も効果的であった。海洋細菌由来の PI を DEAE-cellulofine カラムクロマトグラフィーで分画し,二つの活性画分を得,その各々をマイワシすり身に添加してその効果を調べたところ,後から溶出する画分(糖タンパク質)にすり身のゼリー強度と弾力性を増加させる効果があったことから魚肉すり身への応用が期待される。

日水誌, 67 (1) , 85-89 (2001)

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アコヤガイ・グリコーゲンの化粧品素材としての利用可能性

加納 哲,青山真弓,渡辺美絵(三重大生物資源),前 真紀,
高木啓二,下村健次(御木本製薬),丹羽栄二(三重大生物資源)

 正常ヒト皮膚繊維芽細胞 NHDF (NB) にアコヤガイ・グリコーゲン粗精製標品を 0.01-0.2% 投与したところ,細胞増殖率は 11-13% 上昇し,コラーゲン合成能も 29-61% 増大した。次に,同 b 粒子を 0.1% 投与したところ,NHDF (NB) の細胞増殖率は 15%,コラーゲン合成能は 38% 増加した。さらに粗精製標品を,紫外線損傷した正常ヒト表皮角化細胞 NHEK (B) に 0.05-0.2% 投与したところ 15-21% の回復増強効果が得られ,本標品が化粧品素材として有用であることが示唆された。

日水誌, 67 (1) , 90-95 (2001)

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テラピア胃リパーゼの精製ならびに性状

谷口(山田)亜樹子,高野克己,鴨居郁三(東京農大)

 テラピア胃からリパーゼを抽出し,各種クロマトグラフィーにて精製を行い精製酵素の性状を検討した。精製酵素は M.W.54,000, pI 6.2 で,pH 6.5, 40°C で最大活性を示し,その活性は pH 5.0〜7.0 および 50°C で 30 分間まで安定であった。 Cu2+, Cd2+, Ni2+, Hg2+, PCMB および EDTA で活性が阻害された。精製酵素はトリカプロインに作用し,特に短鎖脂肪酸トリアシルグリセロールに対する分解作用が大きかった。また,ジアシルグリセロールおよびモノアシルグリセロールに比べ,トリアシルグリセロールに対する分解作用が大きかった。本酵素は,大豆油に対し高い分解性を示した。

日水誌, 67 (1) , 96-101 (2001)

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卵径によるさば属卵の種判別の可能性(短報)

西田 宏(中央水研),和田時夫(水産庁),大関芳沖(中央水研),
瀬崎啓次郎,斉藤真美(日本 NUS)

 1998 年及び 1999 年の 4 月に伊豆諸島海域で採集されたさば属卵を対象に,ミトコンドリア DNA を用いた種判別を行い,卵径との対応関係を検討した。マサバ卵 116 個,ゴマサバ卵 76 個について,卵径が 1.000 mm 以下のものはすべてマサバ,また 1.150 mm 以上のものはすべてゴマサバであると判別されたので,卵径に基づくさば属卵の両種への種判別が可能であると判断された。両種で卵径の重複する範囲を考慮し,実用上,卵径 1.025 mm と 1.050 mm の間を両種の境界とした。

日水誌, 67 (1) , 102-104 (2001)

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禁漁後の河川型イワナ個体群の増大(短報)

中村智幸(栃木水試那珂川分場),丸山 隆,渡邊精一(東水大)

  1983 年 4 月に禁漁にされた石川県手取川水系尾添川支流蛇谷において,1984 年から 1989 年にかけてイワナ自然個体群の個体数変化を追跡調査した。個体識別した標識再捕調査の記録を Jolly<0173>Seber 法にあてはめて個体数を推定した。禁漁区上流部(流程約 1.4 km)における 1 歳以上の個体数は 1984 年 11 月から 1986 年 8 月まで 48〜310 尾と少なかったが,1986 年 11 月以降 487〜1516 尾に増加し,イワナの増殖に対して禁漁が有効であることが示唆された。

日水誌, 67 (1) , 105-107 (2001)

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