日本水産学会誌掲載報文要旨

徳島県牟岐大島周辺におけるイサキの成熟および産卵期

渡辺健一(徳島水試),岡崎孝博(徳島県水産課)

徳島県太平洋岸牟岐大島周辺のイサキの成熟と産卵について調べた。雄雌の成熟は,それぞれ 5 月上旬と 4 月中旬に始まり,産卵期は雌が 5 月下旬から 7 月上旬,雄の 2 歳魚が 同時期,3 歳魚が 4 月下旬から 7 月中旬と考えられた。産卵期は,他県のイサキに比べて早い傾向が認められ,産卵回遊の早期化とともに,最近の高水温が影響しているものと考えられた。年齢別成熟率は,雄が 1 歳魚 0%, 2 歳以上で 100% となり,雌が 1 歳魚 0%, 3 歳魚 100% で,2 歳魚は組織学的には 76.7% が成熟と判定されたが,繁殖に大きく関与する卵巣の発達度(GSI) から見れば 58.3% と考えられた。

日水誌, 66 (4) , 631-638(2000)

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ミトコンドリア DNA の制限酵素切断型多型解析から見た北海道内におけるサクラマスの遺伝的変異性

鈴木研一(道孵化場),小林敬典(養殖研),松石 隆(北大水),沼知健一(東海大海洋)

北海道産サクラマス集団の遺伝的特性把握を目的に 6 河川,8 集団 180 個体について mtDNA の RFLP 解析を行い,20 のハプロタイプを検出した。ハプロタイプ間及び集団間の塩基置換率はそれぞれ 0.14〜2.41%, 0.49〜0.70% であった。各河川集団間にはハプロタイプ頻度に有意差が認められる場合が多かった。本種の種苗放流を行う場合,集団間の遺伝的差異を充分考慮するべきであると考えられた。

日水誌, 66 (4) , 639-646(2000)

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藻場造成用基質としての炭酸固化体の評価

磯尾典男,高橋達人(NKK 福山製鉄所),岡田光正(広大工)

本研究は炭酸固化体の人工藻場への適用を目的として,瀬戸内海の広島県瀬戸田町高根地先において,1998 年 4 月から 1999 年 1 月の間,炭酸固化体に対する海藻の着生状態を花崗岩およびコンクリートと比較した。
 炭酸固化体に対するホンダワラ類の着生数は,花崗岩とは有意差がなかったが,コンクリートより多い結果となった。人工藻礁材として,海藻の着生から発芽までの性能は十分あると推察された。
 また,試料上に着生し生長したホンダワラ類の最大藻長は,炭酸固化体と従来材には有意差がなく,海藻と藻礁基質との接着性に関しても,炭酸固化体は同様あった。

日水誌, 66 (4) , 647-650(2000)

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流動環境に適応して発達する養殖マコンブの流失に対する耐性

川俣 茂(水工研)

波の弱い湾奥でロープ養殖したマコンブを 2〜5 月の間,1 ヶ月毎に適度の波がある湾央に移す実験を行い,その流動耐性の発達過程を調べた。湾奥の藻体の付着力は藻体重量に比例して増加したが,同じ藻体重量を有する移植藻体のそれより明らかに小さかった。移植から 6 月下旬までの移植藻体の付着力・藻体重量比は移植後の養成日数と共に直線的に増加し,移植場所での流動によって付着力が増加することが示された。また 2 地点間の 2 乗平均平方根流速の比較により,藻体の流動耐性の発達に流速の閾値が存在し,それが 2 乗平均平方根流速で 15〜20 cm/s 程であることが示唆された。

日水誌, 66 (4) , 651-657(2000)

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スルメイカ Todarodes pacificus における有機塩素系化合物(OCs) の蓄積特性

佐藤憲一郎(東水大),梶原夏子(東大海),橋本伸哉(東水大),
木所英昭(日水研),柴田康行(国環研),大槻 晃(東水大)

化学物質による外洋汚染の監視手法としてイカ類を指標生物とする Squid Watch が提唱されている。しかし,イカ類の成長に伴う濃縮特性など生物学的側面からの検討が為されていない。本研究では,主として日本海産スルメイカを用いて,PCBs と α-HCH の蓄積特性を検討した。その結果,スルメイカによるこれらの蓄積器官は肝臓であり,同一採取地点における個体の成熟の違いによる肝臓中の PCBs と α-HCH 濃度に有意な差がないことが明かとなった。更に,肝臓中に蓄積した α-HCH や PCBs (Cl5-Cl9) の同族体蓄積濃度は,表層海水中濃度との間に有意な相関関係を示し,採取海域の汚染程度の推定が可能であることが明らかとなった。

日水誌, 66 (4) , 658-665(2000)

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英虞湾から分離された海洋細菌 AA8-2 株の Heterocapsa circularisquama に対する殺藻性に関する検討

長崎慶三,山口峰生(瀬戸内海水研),今井一郎(京大農)

有害赤潮渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama に対して殺藻性を持つ海洋細菌 Cytophaga sp. AA8-2 株の殺藻性は,藻体側の増殖段階,培養温度,環境中の有機栄養源の有無ならびに混在する細菌の作用によって影響を受けた。Cytophaga sp. AA8-2 株の接種を受けた H. circularisquama 細胞の一部はテンポラリーシストとして生残したが,その際,透過型電子顕微鏡観察により明瞭な細胞表層の肥厚現象が確認され,これがテンポラリーシストの耐久性と関与している可能性が示唆された。

日水誌, 66 (4) , 666-673(2000)

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鮮魚用刃物の刃先角度の計測システム

葉 紅偉,矢田貞美,陳  作字(東水大)

刃物の刃先角度は切れ味を決める重要な要素であり,刃物の切れ味を把握するためには,刃先角度を正確に計測する必要がある。本論文では,光の反射原理を応用した刃先角度を計測するシステムを開発し,その計測精度について検討した。結果の概要は次のとおりである。

  1. 3 種類 7 本の片刃の刃先角度を計測したところ,刃物各部の刃先角度は不均一であった。手仕上げ作業が原因と考えられる。
  2. レーザ光のビーム拡がりによる計測精度への影響は小さく,実測の誤差は 0.1 度であった。
  3. 本計測システムの使用により,刃物の加工工程での抜取り検査が可能となり,出荷品の均一化に寄与できる。

日水誌, 66 (4) , 674-681(2000)

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理論モデルによるオキアミのターゲットストレングス推定に必要な密度比と音速比の測定

三上尚之,向井 徹,飯田浩二(北大水)

理論モデルを用いたツノナシオキアミのターゲットストレングス(TS) 推定に必要な生体密度を density bottle 法で,また体内音速を time of flight 法で測定した。その結果,噴火湾で採集された生きているツノナシオキアミの生体密度は季節的に約 1 % 変化し,音速比は約 3 % 変化した。
 測定された密度比,音速比を用いて理論モデルから TS を推定したところ,季節により最大約 5 dB の差が生じた。以上の解析から密度比,音速比の季節的変化の幅と,その変化が TS 推定に及ぼす影響を明らかにした。

日水誌, 66 (4) , 682-689(2000)

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加入量あたり産卵資源量解析による徳島県牟岐大島周辺のイサキ資源管理

渡辺健一(徳島水試),
保正竜哉(日本エヌ・ユー・エス),
斎浦耕二(徳島水試),
岡崎孝博(徳島県水産課),
松宮義晴(東大海洋研)

徳島県牟岐大島周辺のイサキ資源管理のために多くの資源特性値を調べ,加入量あたり産卵資源量解析による検討を行った。数年にわたる多くの供試魚を用い,年齢,成長,成熟,産卵数および寿命などの知見を得て,VPA によって資源尾数や漁獲係数などを求めた。現状の資源の%SPR は,18.6% と計算され,乱獲との境界である資源管理上の下限に近い状況であった。現在,資源管理の一貫として一本釣による 20 cm 未満の主として 1 歳魚の再放流が実施されており,この状況を維持しているものと考えられる。将来的には 2 歳魚の保護が重要課題で,23 cm あるいは 24 cm 未満に再放流基準を引上げ,適正な 30 あるいは 35%SPR 管理に向けた努力が必要である。

日水誌, 66 (4) , 690-696(2000)

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ヒラメ稚魚の成長に対するアミ粉末中の残留塩類および遊離アミノ酸の影響

朴 光植,竹内俊郎(東水大),青海忠久(京大水実),良永知義(中央水研)

市販飼料およびタンパク質源にアミ粉末,脱塩アミ粉末および沿岸魚粉で作製した試験飼料(アミ粉末含量 82.0%,脱塩処理アミ粉末含量 77.5%, 37.5%, 0%) を用いて,0.16 g および 1.35 g のヒラメ稚魚を 14 日間飼育しアミの栄養価を検討した。その結果,脱塩処理アミ粉末含量 77.5% 飼料区の飼育成績は未処理アミ粉末 82.0% 区に比較し著しく改善され,飼料中の過剰な塩類(主に NaCl) は稚魚の成長を低下させることが明らかになった。なお,1.35 g の稚魚は,アミ粉末添加により市販飼料より優れた飼育成績を示したことから,アミに多量に含まれる遊離アミノ酸(FAA) の有効性が示唆された。

日水誌, 66 (4) , 697-704(2000)

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三陸沿岸へ回帰したサケの遡上に至るまでの行動と海象・気象との関係

乙部弘隆,都木靖彰(東大海洋研),安保綾子(東水大)

大槌湾をモデル海域とし,1996 年と 1997 年の日々の漁況と海象・気象変動データから,三陸沿岸へ回帰したサケの行動と海象や気象変動との関係を論じた。漁獲ピーク時の水温は両年とも 13℃ 台であった。5 mm 以上の降雨や 10 m/s 以上の西風が吹いた日の直後には,前日の 1.5 倍以上の漁獲がみられた日が両年とも 8 割あった。特に漁期で最大降雨日あるいは最大強風日の直後には一,二の好漁であった。以上の結果はサケの遡上行動に海象・気象変動が大きく関与していることを示す。

日水誌, 66 (4) , 705-712(2000)

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大阪湾におけるイカナゴ Ammodytes personatus 仔魚の鉛直分布と摂餌に対する水中照度の影響

日下部敬之,中嶋昌紀,佐野雅基(大阪水試),渡辺和夫(三洋テクノマリン大阪支社)

大阪湾において,イカナゴ仔魚の日中の鉛直分布を調査したところ,5 m 層を極大として,10 m 以浅の水深に集中的に分布していた。また,浅い層の仔魚ほど多く摂餌していた。しかし水温,塩分,および主餌料であるカイアシ類幼生の鉛直分布からは,これらの事象を説明できなかった。一方,飼育実験の結果,平均全長 6.8 mm のイカナゴ仔魚のワムシ摂餌数は明るいほど多く,特に 10 lx と 102 lx の間で約 3 倍の差があった。現場海域で水中照度が 102 lx を下回る水深は 15〜20 m であったことから,イカナゴ仔魚が日中この水深帯に分布するのは,摂餌に適した明るさを得るためであろうと考えられた。

日水誌, 66 (4) , 713-718(2000)

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内在性エンドペプチダーゼ(EP) およびトランスグルタミナーゼ(TGase) の制御がコイ肉の坐り特性に及ぼす影響

塚正泰之,三宅康賀,安藤正史,牧之段保夫(近大農)

坐りにくいコイ肉に CaCl2 (TGase 活性化剤,I),EGTA (TGase およびメタロ EP 阻害剤,II),E-64 (システイン EP 阻害剤,III)を添加した。30℃ では肉は坐らなかったが,Iにより 85℃ 2 段加熱ゲルの弾力は増加した。40℃ での坐りはI+IIIで強く,II+IIIでやや強かった。50℃ ではII,I+III,II+IIIで強く坐った。ゲルの物性は 40℃, 50℃ では EP の,30℃, 40℃ では TGase の影響を受けた。

日水誌, 66 (4) , 719-725(2000)

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魚肉すり身中の筋原繊維タンパク質の変性と限界含水率との関係

進藤 穣,上新 学,御木英昌(鹿大水)

魚肉すり身の低温脱水過程で,魚肉タンパク質の変性による魚肉の平衡含水率の低下が想定される。そこで,脱水特性曲線より得られる限界含水率(Wc) を指標に,低温貯蔵中(0℃) の筋原繊維(Mf) タンパク質の変性と Wc との関係を検討した。減率脱水期間内に変曲点を示す第二限界含水率(Wc2) が得られた。Wc2 は貯蔵日数の経過とともに低下した。また,Wc2 は MfCa2+-ATPase 全活性および Mf 溶解度に対して,それぞれ高い正の相関(r=0.94, 0.88) を示した。
 以上より,Wc2 はタンパク質の変性状態を知る指標になり得ると考えられた。

日水誌, 66 (4) , 726-730(2000)

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魚肉水溶性タンパク質画分中のミオシン重鎖分解抑制因子の性質並びに単離精製

野村 明(高知工技セ),伊藤慶明,八幡光一,谷脇成幸(高知大農),小畠 渥(愛媛大院農)

本研究で用いた魚肉水溶性画分中のミオシン重鎖(HC) 分解抑制因子(MDI) は市販トリプシンおよびキモトリプシン活性を阻害したことから,セリンプロテアーゼインヒビターと考えられた。一方,水晒しによって戻りが誘発される魚種の晒肉塩ずり身の 40℃ 付近での HC の分解は市販セリンプロテアーゼインヒビターで阻害された。従って,MDI は戻りを誘発する晒肉中のセリンプロテアーゼのインヒビターとして作用するものと推察した。単離した MDI は分子量 80 K の単量体であった。

日水誌, 66 (4) , 731-736(2000)

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海洋深層水と表層海水を用いたオフシーズンのワカメの屋内タンク培養(短報)

大野正夫(高知大海生センター),團 昭紀(徳島水試),平岡雅規(海藻研究所),
鍋島 浩(高知深層水研)

高知県海洋深層水研究所で取水している海洋深層水を用いて,オフシーズンにワカメ屋内タンク培養を行なった。6 月下旬に約 1 cm の幼葉をロープに差し込み培養タンクに吊したところ,葉体は順調に成長し,11 月には胞子葉を形成した。11 月中旬には平均葉長は 153±18 cm になり,胞子葉は成熟し遊走子を放出した。深層水培養ワカメの形態は,茎が長く裂葉数/葉長の比が 0.1-0.3 と低い,薄い葉体であった。

日水誌, 66 (4) , 737-738(2000)

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低温保存したアカモク幼胚の発芽率と成長(短報)

吉田吾郎,吉川浩二,寺脇利信(瀬戸内海水研)

1 年生のホンダワラ類アカモクの幼胚を遮光下で低温(5℃) 保存した。保存した幼胚を 1 年後及び 2 年後に 20℃, 100 μEm−2s−1, 12 hr 明期 −12 hr 暗期の条件下で培養し,発芽率と 4 週間後の成長を調べた。保存期間 1 年及び 2 年の幼胚の発芽率はそれぞれ 80.9, 10.9% であった。発芽した幼胚の培養 4 週間後の成長の結果は,保存期間 1 年及び 2 年の幼胚も,母藻から分離してすぐに同条件で培養した幼胚の成長の結果とほとんど同じであり,葉状部全長 8-9 mm で,6 枚前後の葉と最大長 1 mm 前後の正常な仮根を形成した。本研究より,遮光・低温条件下に置くことにより,発芽・成長の活性を維持したアカモク幼胚の長期保存が可能であることが示唆された。

日水誌, 66 (4) , 739-740(2000)

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