日本水産学会誌掲載報文要旨

播磨灘における Coscinodiscus wailesii の発生と水質,気象要因等との関係

西川哲也,堀  豊(兵庫水試),長井 敏(兵庫県但馬水産事務),
宮原一隆(兵庫県水産課),吉田陽一,小玉一哉,酒井康彦(新日気)

播磨灘においてノリ養殖に有害な大型珪藻 Coscinodiscus wailesii について,1995, 1996,および 1997 年の 3 年間における同種の発生と水質,気象要因等との関係を調べた。C. wailesii は,11 月から翌年 2 月頃の比較的低温で日射量が低く,また海水の鉛直安定度の低い時期(鉛直混合期)に出現し,また,DIN (溶存無機態窒素),DIP (溶存無機態リン),DSi (ケイ酸態ケイ素),および DIN×DIP が高く,DIN : DIP 比や TN (全窒素)×TP (全リン):DIN×DIP 比(栄養塩利用強度)の低い水域(年または月)にやや高密度(20-200 cells/l 程度)で出現する傾向が強かった。

日水誌, 66(3), 388-394(2000)

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渥美半島太平洋岸におけるマアナゴ成熟度の季節変化

岡村明浩,宇藤朋子,張  寰,山田祥朗,堀江則行,三河直美,田中 悟,
故元信 堯,岡 英夫(いらご研究所)

渥美半島の太平洋岸に設定した定点において,1996 年 11 月から 1998 年 9 月にかけてマアナゴの採集を行った。毎年春から夏に採集された個体は,卵母細胞が染色仁期あるいは周辺仁期で GSI 1 未満の未熟なものであったが,秋から冬にかけて採集された個体は油球期,第一次卵黄球期で GSI 2-4 の比較的成熟が進んだものが多かった。2 月以降,成熟の進んだ個体は採集されなくなった。これらのことから定点に出現する雌マアナゴは夏から秋にかけて成長し,翌早春,大型個体は成熟の進行とともに他の場所へ移動することが推測される。

日水誌, 66(3), 412-416(2000)

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マダイ飼料におけるコーングルテンミールの利用

高木修作(愛媛水試),細川秀毅,示野貞夫(高知大農),宇川正治(丸紅飼料)

マダイ飼料におけるコーングルテンミール(CGM) の配合許容量を,0 歳魚(初期平均体重 53 g) および 1 歳魚(初期平均体重 280 g) を用いて調べた。0 歳魚では 15% の,1 歳魚では 36% 以下の CGM 配合区は,無配合区と同等の平均増重量および飼料効率であった。しかし,0 歳魚では 26% 以上の,1 歳魚では 47% 以上の CGM 高配合区の平均増重量および飼料効率は劣った。試験飼料の見かけのタンパク質消化率は CGM 配合率と無関係に 90〜95% と優れていた。マダイ飼料における CGM 配合許容量は 0 歳魚で 15%,1 歳魚で 36%,魚粉代替率としてそれぞれ 30% および 70% と判断された。

日水誌, 66(3), 417-427(2000)

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マダイ飼料におけるチキンミールの利用

高木修作(愛媛水試),細川秀毅,示野貞夫(高知大農),宇川正治(丸紅飼料)

マダイ飼料へのチキンミール(PBM) の配合許容量を,0 歳魚(初期平均体重 54 g) および 1 歳魚(初期平均体重 280 g) を用いて調べた。0 歳魚では 41% 以下の PBM 配合区は無配合区とほぼ同等の平均増重量であったが,53% 以上の高配合区の平均増重量は劣った。1 歳魚では 18〜59%PBM 配合区の飼育成績は無配合区のそれと同等かむしろ優れていた。したがって,マダイ飼料における PBM 配合許容量は,0 歳魚では 41% (魚粉代替率は 70%) であり,1 歳魚では PBM を 59% 配合することにより無魚粉化が可能と判断された。

日水誌, 66(3), 428-438(2000)

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縮結が刺網のサイズ選択性に及ぼす影響

Martasuganda Sulaeman (鹿大連合農),松岡達郎,川村軍蔵(鹿大水)

縮結 0.3, 0.5, 0.7 の 3 種の刺網を用いてコイとニジマスを対象に行った水槽実験から得た体長階級別漁獲率より,体長に関係しない漁獲効率成分を除去した残余成分である選択性を求め,これらを比較した。両魚種ともに,刺し漁獲による漁獲率から得た最大選択体長,選択体長範囲,グラフの傾斜などは縮結間で差はなかった。絡み漁獲は縮結の増加とともに選択体長範囲を片側に拡大するように働いた。縮結は,単位網地面積当たりの目数を変化させ,網全体の漁獲効率に影響を与えたが,刺しによる選択性には変化を与えなかったと考えた。

日水誌, 66(3), 439-445(2000)

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飼育したマツカワ仔稚魚の形態発育と成長

有瀧真人(日栽協宮古),鈴木重則,渡辺 研一(日栽協厚岸)

飼育したマツカワ仔稚魚を用いて発育に伴う外部形態の観察を行うとともに,体各部の相対成長の変化を調べた。その結果,本種は外部形態変化から 9 の発育段階(A〜I) に区分できた。相対成長の変曲点は開口時,脊索末端の上屈期,及び変態前後に集中した。これらの時期は,いずれも遊泳や摂餌等行動面で大きな変化が起こる時期に相当した。また,天然で採集された変態期仔魚と飼育仔魚を比較したところ,無眼側の色素退行時期に若干の遅速が認められたものの,色素分布や体型に大きな差はなかった。

日水誌, 66(3), 446-453(2000)

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オリゴ糖アルコールの筋原繊維タンパク質の熱変性に対する抑制作用と甘味強度の関係

形浦宏一,木内秀和,金子由公,畑山静夫,
南部正一(東和化成)

単糖からオリゴ糖までに相当する各種糖アルコールの,マアジ筋原繊維タンパク質(Mf) の Ca-ATPase の熱変性に対する抑制効果(E 値)及び甘味強度(S) を調べ,分子量(OH 基数)との関わりを検討した。その結果,E 値又は S と分子量(OH 基数)の対数値との間には,良い相関があることが明らかになった。また,検討したオリゴ糖アルコール類に関しては,その Mf の熱変性に対する抑制と,甘味の付与という二つの機能が,良く相関することが示された。

日水誌, 66(3), 454-461(2000)

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メバチ筋肉の成分組成とその呈味におよぼす脂質の役割

郡山 剛,木幡知子(日水中央研),渡辺勝子,阿部宏喜(東大農)

メバチマグロの赤身とトロの呈味の違いを明らかにするために,一般成分,エキス成分,脂質および脂肪酸組成を分析,比較した。また,80% エタノールエキスの味の差およびエキスにマグロ油を加えた時の味の変化を官能的に調べた。一般成分では,脂質は赤身に少なく(0.5%),トロに多かった(6.6〜7.2%)。エキス成分ではいずれの部位もアンセリンとヒスチジンが著量認められたが,赤身にアンセリン,トロにヒスチジンが多かった。官能試験の結果,赤身とトロの間に味の強さや味質に差異はなかったが,エキスにマグロ油を加えると,酸味が明瞭に減少し,甘味の増加と苦味の減少傾向が認められた。パターン類似要因の解析から,この味の変化に最も寄与した項目は甘味であることが判明した。

日水誌, 66(3), 462-468(2000)

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熱変性したコイのアクトミオシンに対する内在性トランスグルタミナーゼの影響

塚正泰之,三宅康賀,安藤正史,牧之段保夫(近大農)

筋肉内在性トランスグルタミナーゼ(TGase) が触媒する魚肉の坐りとアクトミオシンの熱安定性の関係を明らかにするため,坐りにくいコイのアクトミオシン(AM) を 40℃ で 90 分間まで熱処理後,同じコイから抽出した TGase を添加して,25℃ で反応させた。熱処理時間が長いほどミオシン重鎖(HC) 単量体の減少速度が速くなり,HC 二量体以上の高分子成分がより多く形成された。また,変性抑制剤として 5 % ショ糖を添加して AM と熱処理した場合には,HC の多量化速度が抑制されていた。AM が熱変性することによって HC の多量化速度が促進されることから,AM の熱安定性が TGase による坐りに関係していることが示唆された。

日水誌, 66(3), 469-474(2000)

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ガス置換包装によるホタテガイ生鮮貝柱の高品質保持

木村 稔,成田正直,今村琢磨(網走水試),潮 秀樹,山中英明(東水大)

ホタテガイ貝柱を 100%O2, 80%O2+20%CO2, 60%O2+40%CO2,および含気でガス置換包装し 5℃ に貯蔵した。貯蔵中の硬化発生率,生菌数,ATP 関連物質,オクトピン,L-アルギニンおよび D-乳酸について調べた。その結果,20%CO2 と 40%CO2 では,細菌の増殖は抑制されたが,硬化の発生が速く生鮮貝柱の品質保持には不適当であった。一方,100%O2 包装は含気包装に比べて ATP や pH の低下,硬化発生,オクトピンの蓄積,生菌数の増加が 2 日程度遅延した。以上の結果より,生鮮貝柱の流通にはシェルフライフが 2 日程度延長される酸素ガス置換包装が有効であると思われた。

日水誌, 66(3), 475-480(2000)

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凍結貯蔵中のスケトウダラ冷凍すり身のゲル形成能に及ぼす重合リン酸塩の効果

山口敦子(酪農大),阿部洋一(阿部十良商店),石下真人,
鮫島邦彦,新井健一(酪農大)

重合リン酸塩(P) とソルビトール(S) を単独または混合して加え,8 ヵ月間凍結貯蔵したすり身から調製した二段加熱ゲルの物性を検討し,P の影響を検討した。その結果,S と P の両方を添加した冷凍すり身からのゲルの物性は S のみを含むすり身からのものより優れ,特に破断凹みが高かった。また,S のみの冷凍すり身に塩ずり時に P を添加すると,同様の優れたゲル物性となることを認めた。ただし,貯蔵が長期になると P の添加効果は弱くなった。これらは,冷凍すり身に対する P の添加効果が主に二段加熱ゲルの品質向上にあることを示している。

日水誌, 66(3), 481-488(2000)

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冷凍貯蔵中にイカ外套筋表面に生じた白色析出物の主要成分

谷本昌太,岡崎 尚,守本京三,米田達雄(広島食工技)

冷凍貯蔵中の生イカ外套筋表面に斑点状の白色析出物を生じた。この析出物の生成原因を調べるため,成分分析を行った。本析出物にはオクトピンが最も多く含まれ 42.7% であった。タンパク質およびペプチドは 25.4% であった。水分および灰分はそれぞれ 7.0%, 5.4% であった。なお,顕微鏡観察から本析出物は針状の結晶物質であった。

日水誌, 66(3), 489-492(2000)

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追い回しストレスによるヒラメ稚魚耳石の元素組成変化(短報)

角田 出(石巻専修)

ヒラメ稚魚に追い回し刺激を負荷し,血漿中のコルチゾル濃度と耳石(扁平石)の表面元素組成を調べた。追い回しにより,コルチゾル濃度は著しく上昇した。また,耳石の Sr/Ca 比が上昇し,Zn/Ca 比は低下した。この結果は,耳石の元素組成から魚の生息環境履歴を推測する際には,その生理状態を把握しておく必要のあることを暗示している。

日水誌, 66(3), 493-494(2000)

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摂餌条件の違いがヒラメ稚魚耳石の元素組成に及ぼす影響(短報)

角田 出(石巻専修)

ヒラメ稚魚を異なる餌条件で 3 週間飼育し,耳石表面の元素組成を調べた。対照群(市販餌給餌,2 % 体重/日)に比べて,大食群(同 4 % 体重/日)では Sr/Ca と Zn/Ca 比が,各々,僅かに低下および上昇した。Sr 強化群(Sr 含有量を 5 倍にした餌で飼育)および無給餌群(最後の 1 週間のみ無給餌)では,Sr/Ca 比が有意に上昇し,Zn/Ca 比は有意に低下した。これらの結果は,餌条件の違いも,魚類耳石の元素組成に影響することを示唆する。

日水誌, 66(3), 495-496(2000)

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