日本水産学会誌掲載報文要旨

海産魚の L 型 S 電位の UV 反応と UV 錐体

宮城美加代(東水大),川村軍蔵(鹿大水)

S 電位の L 型反応を指標にした海産魚の UV 感覚と,錐体細胞の種類との関係を調べた。15 魚種の供試魚の内 11 種から安定した L 型反応が得られた。ホウボウ等 5 種で 337 nm と 368 nm 両方の UV 刺激に対して UV 応答が得られ(A グループ),マダイとヘダイでは 368 nm のみに UV 応答があり(B グループ),コノシロ等 4 種で UV 応答がなかった(C グループ)。いずれのグループでも錐体モザイクには small accessory corner cone を欠き,A, B グループでは錐体モザイクに central single cone が規則的に存在し,C グループでは central single cone が全体的に低密度でまばらに存在した。このことより,本研究の供試魚の UV 錐体は central single cone であると推定された。

日水誌, 66(2), 195-199(2000)

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大阪湾北東域における Skeletonema costatum の高密度発生と水質,気象要因等との関係

吉田陽一(新日気),
山本圭吾,中嶋昌紀,辻野耕実(大阪水試),
小玉一哉,酒井康彦(新日気)

大阪湾北東域におけるスケレトネマ(Skeletonema costatum) は殆ど周年にわたりかなり高密度(2,000-30,000 cells/ml 程度)で出現したが,毎年 7 または 8 月に急減がみられた。水質諸要因年の経月的変化は,4-8 月期(前期)は 9-2 月期(後期)に比し,DIN : DIP 比が非常に高い,他の諸要因もかなり変動が大きい等,水質諸要因にかなりの差異がみられた。また,S. costatum の高密度出現水域の水質諸要因の特徴は,前期では DIN : DIP 比が約 900,後期では約 50 等と,前期と後期でかなりの差異がみられ,同種は春型および秋型の 2 型に大別された。また 7 または 8 月頃における同種の急減期は海水中の DIN : DIP 比等が急変する時期に相当していた。したがって,この急減期は同種の春型および秋型の交代期または転換期であることが示唆された。

日水誌, 66(2), 200-206(2000)

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かご入口内でのフグの遊泳行動に基づくフグかごの漁獲モデル

平山 完(ニチモウ),
不破 茂,石崎宗周(鹿大水)

かご入口内でのサバフグ(以下,フグとする)の遊泳行動を考慮したかご入口内にフグが進入し漁獲される漁獲モデルを提示し,フグかごの漁獲機構について検討した。本漁獲モデルでは,かご入口内の任意の位置にフグが存在する確率,およびその位置でのフグが後退できない確率を求め,それらの確率の積を進入位置ごとに積算することにより,かご入口幅別に体長毎の漁獲の確率を求めることができる。
かご入口内に進入したフグが漁獲される確率は,0.5 BL/EW 以下の体長範囲では 0 となり,2.3 BL/EW 以上の体長範囲では 1.0 であった。

日水誌, 66(2), 207-211(2000)

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伊豆半島・岩地湾におけるアマモ群落の垂直分布と季節変動について

林田文郎(東海大・海洋)

岩地湾のアマモは,水深 3〜11 m の範囲に生育し,生育下限の水深 12 m での相対照度は 11% であった。現存量および葉面積指数は,7 月に最大となり,それぞれ 888 g. 生重量/m2 (水深 7 m),約 3 (水深 10 m) を示した。生殖株の出現率は 6 月で最も高く,水深 7 m では 36% であった。岩地湾のアマモは,7〜10 m の深所で生育が良く,その主な理由としては,透明度が極めて高く,また日照時間と日射量のいずれも,他府県とくらべて高い値を示すという,自然環境特性によるものと推察される。

日水誌, 66(2), 212-220(2000)

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日本海西部ズワイガニ漁業における適正性比を実現するための水ガニの漁獲方法

山崎 淳(京都海洋セ)

現在の漁業の下では本種の性比(経産卵雌に対する形態的成熟雄の割合)は 0.35 と計算されており,未開発時の 0.49 よりも低い。形態的成熟雄の“たてガニ”に対する漁獲強度は現状のままとし,形態的未成熟雄の“水ガニ”の現状の漁獲開始サイズと漁期とを調整することにより,低下した性比をもとに戻す方法を検討した。“水ガニ”の単価は解禁直後や小型個体ほど低いことから,性比の引上げおよび経済的な有効利用という点では,漁獲開始サイズは現状よりも大きく,解禁日は遅くすることが効果的と考えられた。本種の資源管理では雌に対する現状の漁獲強度を軽減することが指摘されている。雌の漁獲係数を半減したときには,未開発時性比は“水ガニ”の漁獲制限だけでは得られず,“たてガニ”を含めた漁獲制限を検討する必要がある。

日水誌, 66(2), 221-227(2000)

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採集努力量が不定な比較操業実験におけるマアナゴに対するかご網漁獲選択性

内田圭一,東海 正,三橋廷央,
胡 夫祥,松田 皎(東水大)

5 種類の目合(網目内径 21.0, 18.1, 15.5, 13.6, 11.6 mm) のかご網によるマアナゴ漁獲データに,カバーネット付きのかご網の漁獲を対照実験として SELECT モデルを適用し,そのサイズ選択性を求めた。1995 と 1996 年各々 10 月から 11 月始めに年 10 回,計 20 回の操業を行った。この解析で各操業回のデータを合算できる条件は,体長組成が同じ,もしくは試験漁具と対象漁具の漁具数の比が一定である。この条件を満たさない場合では異なる分割率パラメータを設定した。本研究で求めた選択性は,カバーネット法の結果とほぼ等しかったことから,網目の効果と考えられる。

日水誌, 66(2), 228-235(2000)

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鹿児島湾海岸における発泡プラスチック製漁業資材の漂着状況

藤枝 繁,藤 秀人,濱田芳暢(鹿大水)

鹿児島湾周辺海岸における発泡プラスチック製漁業資材の漂着状況について海上から目視調査を行った。フロートは湾全域に漂着しており,総数 3,043 個,平均漂着密度 10.3 個/km で,牛根地区における漂着密度が 38.9 個/km で最も高かった。また海上フロート 4,856 個,陸上フロート 1,344 個を確認したが,海上フロートの 80.2% は港内等において係留ブイや防舷物に利用されていた。さらに漂着生簀 127 基,生簀フレーム 223 本も確認したが,これらは主に養殖場周辺の海岸に漂着していた。

日水誌, 66(2), 236-242(2000)

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ブリ若齢魚の配合飼料および生餌主体餌料のタンパク質消化率に及ぼす水温の影響

佐藤公一,日高悦久,木本圭輔(大分海水研)

各季節におけるブリ 0 才魚の EP 飼料(EP),粉末飼料(SMP) および生餌主体餌料(OMP) のタンパク質消化率を,胃食塊量とタンパク質消化率の食後変化から算出した累積タンパク質消化率により評価した。OMP の累積タンパク質消化率は,季節を問わず 85% 前後であったが,EP のそれは 8 月の 83% から,11 月に 81%, 3 月には 77% に低下し,SMP では同様に 82% から,70%, 68% に低下し,これら配合飼料のタンパク質消化率が水温の下降に伴い低下することが明らかになった。

日水誌, 66(2), 243-248(2000)

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マコンブ穴あき症藻体からの Pseudoalteromonas elyakovii 菌株の分離

澤辺智雄,成田幹夫,田中礼士,生地 暢,
田島研一,絵面良男(北大水)

コンブの穴あき症は北海道沿岸域でしばしば認められるコンブ類の病害である。1998 年夏に,北海道渡島半島東部沿岸域の海中養殖施設で養殖中のマコンブに,重篤な穴あき症状を呈する個体が数多く認められ,穴あき症被害の甚大さから大きな問題となった。この時の症状は海洋動物による食害とは異なるものであったため,細菌学的調査を行った結果,3 株のコンブ葉体分解性細菌が分離された。いずれの菌株も細菌学的性状から Alteromonas 属細菌に簡易的に同定されたが,このうちの 2 株は 1985 年に利尻島の養殖利尻コンブの穴あき症班部から分離された海洋細菌 Pseudoalteromonas elyakovii と同種であることが明らかとなった。

日水誌, 66(2), 249-254(2000)

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マコガレイの周波数弁別能力について

張 国勝,梨本勝昭(北大水)

周波数が 1 オクターブ異なる二つの純音を 0.2 秒間隔で組み合わせた刺激音と電気刺激を用いて条件付けを行った。基本周波数(F1) に対して変換周波数(F2) を変化させた時の心拍抑制反応からマコガレイの周波数弁別能力について調べた。マコガレイは周波数 100〜300 Hz において周波数弁別ができ,周波数弁別閾((|F2F1|/F1)×100(%)) は 100〜200 Hz では基本周波数の約 30%, 300 Hz では基本周波数の約 35% となった。しかし,400 Hz 以上の周波数では弁別不能であることが示唆された。

日水誌, 66(2), 255-260(2000)

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ミトコンドリア DNA の制限酵素切断型多型解析から見たシシャモの遺伝的変異性

鈴木研一(道孵化場),小林敬典(養殖研),
松石 隆(北大水),沼知健一(東海大海洋)

シシャモ集団の遺伝的特性把握を目的に 4 河川集団,91 個体の mtDNA について 9 種の制限酵素による RFLP 解析を行い,17 のハプロタイプを検出した。ハプロタイプ間および集団間の塩基置換率はそれぞれ 0.27〜2.33%, 0.37〜0.54%。形態形質から唱えられていた系群間において本研究でハプロタイプ頻度に有意差が観察された。

日水誌, 66(2), 269-274(2000)

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ヤマトシジミ・リゾチームの精製と性質

宮内浩二,松宮政弘,望月 篤(日大生物資源)

ヤマトシジミむき身の水抽出液から,硫安塩析,アフィニティー,吸着およびイオン交換カラムクロマトグラフィーによりリゾチームを精製した。精製品は PAGE において単一なバンドを示し,SDS-PAGE により分子量 12,000 と見積もられた。本酵素の最適 pH は 4.8,最適温度は 70”, pH 3.0-6.8 で安定であり,pH 4.8 では 90”, 30 分の加熱後も 80% の活性を保持した。また,本酵素は Micrococcus lysodeikticus を基質とした場合,ニワトリ卵白リゾチームより 256 倍高い比活性を示した。本酵素とニワトリ卵白リゾチームのアミノ酸組成は異なり,また N-末端アミノ酸配列の相同性は非常に低かった。

日水誌, 66(2), 275-281(2000)

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魚類筋肉および内臓組織の一般成分と含窒素エキス成分

宋 興安,平田 孝,坂口守彦(京大農)

4 種の魚類の筋肉と内臓に含まれる一般成分と含窒素エキス成分を分析し比較した。筋肉と内臓の間ではタンパク質と灰分の含量は大きな差異がなく,脂質の含量は普通肉よりも肝臓,血合肉の方に比較的高い傾向がみられた。エキス成分中の IMP は魚種を問わず,普通肉に多く,その他の組織に少なかったが,内臓には GMP が比較的多いことがわかった。含窒素エキス成分の含量は魚種,組織ごとに違うが,内臓では不明の部分が多いことがわかった。Glu, IMP および GMP の含量から算出したエキスの旨味の強さは普通肉の方が必ずしも大きいとは言えなかった。また魚種を問わず,Glu は内臓の旨味に,IMP と GMP は普通肉のそれへの寄与度が大きかった。

日水誌, 66(2), 282-290(2000)

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スケトウダラすり身の二段加熱ゲルの物性に及ぼすグルコン酸ナトリウムの影響

竹下瑞恵,大泉 徹,赤羽義章(福井県大生物資源),
阿部洋一(阿部十良商店),
北上誠一,村上由里子(全国すり身協会),
竹縄誠之(藤沢薬品工業)

グルコン酸ナトリウム(Na-G) を添加したスケトウダラすり身から調製した二段加熱ゲルの物性上の特徴を検討した。その結果 Na-G は,二段加熱ゲルの破断強度をほとんど変化させずに,破断凹みを低下させた。また,Na-G の添加によるゲル物性の変化は二段加熱ゲル中のミオシン重鎖の多量化反応の進行度と関連しなかった。このことから,Na-G はゲル形成中にタンパク質間の非共有結合に影響を及ぼして,独特の物性を有する加熱ゲルの形成に寄与していることが示唆された。

日水誌, 66(2), 291-297(2000)

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高アスコルビン酸飼料給与によるブリの細菌性溶血性黄疸軽減の試み(短報)

伊東尚史(鹿大連農研),
村田 寿(宮崎大農),大山 剛(宮崎水試),
吉田照豊,境  正,山内 清(宮崎大農),
山口登喜夫(東京医科歯科大),
宇川正治(丸紅飼料)

ブリの細菌性溶血性黄疸の症状を,アスコルビン酸(AsA) 給与により軽減できることを明らかにするた め,AsA カルシウム塩を 94 mg/100 g 配合されたシングルモイスト飼料(1 区)を対照とし,これに外割で 2 %L(+)-アスコルビン酸を加えた高 AsA 飼料(2 区)を 5 日間ブリに給与後,黄疸原因菌を接種した。原因菌の接種によりすべてのブリで黄疸が発症したが,高 AsA 飼料給与区の肝臓および血漿の AsA 含量は,対照区の値と比べ著しく減少した。黄疸発症魚の血液ヘモグロビン含量の減少,比肝重値および比脾臓重値の増加および血漿ビリルビン含量の増加は,それぞれ 1 区に比べ 2 区の方が抑制された。すなわち,高 AsA 飼料の短期間給与により,ブリの細菌性溶血性黄疸の症状を軽減できた。

日水誌, 66(2), 298-299(2000)

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アロマターゼ mRNA の検出によるヒラメ人工種苗の早期性判別について(短報)

北野 健(熊本水研セ),山本栄一(鳥取水試),
高宗和史(熊本大),安部眞一(熊本大)

最近,著者らは,アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素であるアロマターゼの mRNA の発現が,卵巣へ分化した生殖腺では多く検出され,精巣へ分化した生殖腺ではほとんど検出されないことを明らかにした。そこで,雌雄におけるアロマターゼ mRNA の発現パターンの違いを利用して,ヒラメ放流用種苗の放流前の性判別に適用できるかどうかを検討した。その結果,検討した全ての群において,雌の割合とアロマターゼ mRNA の検出できた個体の割合との間に有意差は認められなかった。このことから,この方法は放流前の人工種苗(全長 45-73 mm) の性判別に極めて有効であることが明らかになった。

日水誌, 66(2), 300-301(2000)

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